ある日、久しぶりに巨人討伐隊である男3人組で酒を酌み交わしていた。場所は天魔直属の部下専用宿舎。メンツは俺、ヒビキ、ヒビキの元部下である将輝。お酌をするのはヒビキの嫁である椛、将輝の彼女で椛の妹の楓。
椛と俺は不倫関係である為、椛が俺に酒を注ぐ時尻尾をブンブン振っているのがバレないかと、酷くヒヤヒヤしてしまう……。
家庭もあるし、天魔の直属の部下というのは並の天狗よりも忙しいらしく、俺らが集まって飲むのは年に一度あるか無いかくらいの頻度である。
「そういやよぉ、俺は英雄なんて呼ばれてんのに、どうして妖忌は冥王扱いなんだ?名前も禁句扱い。まるで
「どうした兄貴、藪から棒に」
「ヒビキのクセに『藪から棒に』とか言うな」
「んだとぉ?」
「まーまー、お2人共……。あぁ、ヒビキ隊ちょ……いやヒビキさんは幻想入りしてきたから、冥王って呼び名の由来は知らないんスよね」
「いや一応知ってんぞ。500年くらい前なんだっけ?腕試しとか称して山に攻め込んできたんだろ?」
「そっすけど呼び名の由来としてはアレなんすよ、なんつーかなー……ほら楓、アレだよなアレ」
「もー……将輝ってば、ホンットにお酒が入ると口が回らないよね。シンプルに『殺しまくったから』、みたいなそんな理由なんですけどね」
やはり殺したかどうかという事か。とはいえもしそんな事を言えば俺もそれなりに殺したはずだし、疑問に思わずにはいられない。
「俺も……けっこー殺した気がすっけどなぁ……」
「けどエスカルゴさんの場合はアレっしょ。まずは文さんの救出でしょ?そんでぇ、次は河童と山童の救出でしょ?色々あったっスけど、主目的は誰かの救出で、倒すこと自体は手段であり……えっと……」
「目的じゃない、ね」
「そーそーそー!さっすが楓ぇ♡」
「全くもう……」
「ほーん……でもよぉ、昔っから言ってると思うが、英雄だなんて呼ばれるのァちっとムズ痒いよなぁ。ま、今でこそ受け入れてるというか、アレコレ利用させてもらってるけどよ、そのネームバリュー」
「なはははっ、強欲な兄貴らしーぜ!」
「オメーも英雄の弟に恥じねェ活躍しろよォ?」
「どーかなァ、クックック……」
「英雄の弟としての活躍は期待してねェよ、だけど男として不甲斐ない活躍してたら……寝取るぜ?」
椛の尻尾と耳がビクンと震える。将輝と楓は軽く顔をヒクつかせながらも「それはマズイっスよ〜」
「お姉ちゃんはヒビキさんの嫁ですからねっ!」と軽く流してくれる。酒の勢いという事で、そこまで重く捉えていないらしい。椛だけが、緊張しているようだ。
「ヘッ、だとしたら絶縁だよクソヤロウ」
舌を出し、ビッと中指を立てるヒビキ。とっくに寝取られているなど夢にも思っていないのだろう。今日の昼間もヤリ小屋で、しかも愉于奈も混じえて何時間も生ハメセックスに耽っていたなんて……。
「フン。じゃあ俺に見限られない事だ。あぁ、あともしも俺が次に妖怪の山で暴れる事になれば……俺の関係者以外は皆殺しにする。非公式なこの場だから敢えて宣言しておく。覚えておけよヒビキ、将輝。椛も、楓もな」
「「「「…………ッ!!」」」」
「再三言っておくぜ。俺は英雄でもなんでもねェ。周りが俺をそう呼んでるだけの事。文を助けたのも河童や山童を助けたのも、全ては俺がそうしたいと決めたからやり通しただけの事だ。もし別な方向に俺が『そうしたい』と決めたら、悪い事でもきっと俺は最後までやり通すだろうな。俺は『ケツイ』が固い。自分で言うのも変だけど。ま、言わば、俺が第二の『山の冥王』になる可能性があるってのは、忘れないでくれよな」
ヒビキの表情は固い。コイツはこの場の誰よりもよく知っているはずだ。俺は昔から有言実行を体現してきたという事を。
それに加えて大天狗共を殺してきた実績もある。脅しでも何でもないというのを、頭は酔っていても肌で理解しているはずだ。
「……兄貴ならやりかねないな」
「そう思っててくれると有難い。山の皆にも、注意喚起をしといてくれよ。エスカルゴファミリーには手を出すなとね。……いや、昔っから天魔がそういうお触れを出してるのは知ってるぜ?けどよ、実際に俺の子供達とバトっちゃう馬鹿天狗が居るのも事実だろ?それ俺めっちゃイラついてるからさ、マジでそういう馬鹿天狗の事は止めてくれよ?」
「そだな、俺らも下への縛りは強化すっか。なぁ、椛、将輝、楓」
「そう、ね……」
「そっスね、部下のせいで俺らまでとばっちりとかごめんっスもんね」
「同じく〜」
それから暫くは彼らの部下の愚痴を聞かされて、俺はそれに生返事を返す。話の途中、机の下で足で椛の太ももを撫でたり、互いに足を絡めたりなどは当然の如くやっている。
椛は不倫を隠す気が無いのか、それともポーカーフェイスが苦手なのか、足が触れ合う度に熱っぽい視線を向けてくるのだが……肝が冷える。
やがて話題は移り、互いの子供の話へ。
「そういやヒビキと椛の息子……寿くん、だったか。俺の甥っ子は元気かよ?」
「まぁな。兄貴んトコはどーなんだよ?」
「24人姉弟、仲良しだぜ。……まあ、孤立しかけてる子供は居るけどよ」
「24人は流石にヤベェだろ、田舎の学校で言うなら1クラス分だぞ」
「少し前はベビーブームだったからな」
「24人かぁ……。あれ、兄貴の小学生ん時のクラスの人数は?確かそれくらいだったよな?」
「22人。2人違いだな」
「兄貴個人の子供の数の方が多いとかもはや世界のバグだろ。俺達なんて育児の暇が無いから、1人で手一杯だぜ」
「吸血鬼の子でなくとも妖怪の子なら、ある程度は成長は早い。育児は、人間に比べりゃ楽なもんだ。妖怪の子の2週間は人間の2年分に値するからな」
「下手したら3年分まであるよな」
「まぁそうだな、個人差はあるけど」
「そんなにあるか?」
「あぁ。……椛は確か、何回か子供達んことは見た事あるよな?地底のコロシアムとかでさ」
「な、え、気付いてたんですか!?」
「天狗の気配には嫌でも敏感になっててな」
「あうぅ……」
「そーそー、椛は天魔様からのお使いでさ。ほら、地底のコロシアムは河童の管轄だろ?そんで、その河童は山の妖怪。だから、そのお目付け役として、あそこで催し物がある場合には椛が代表して会場に行ってるんだよ」
「そんな裏話があったのか。天狗社会も大変だな」
「大変だぜ?河童って変に行動範囲も広いからよ、その分、俺らが見張る手間も増えちまうんだよな。縁日の出店もそうだしな」
「大変だなぁ……」
河童の行動範囲イコール天狗による監視の範囲。これは良い事を聞いてしまった。この情報を有益に使わない手はない。
上手くいけば、そう遠くない内に、不倫旅行的な事ができるかもしれない。
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