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久しぶりに博麗神社でのんびりダラダラと漫画を読み耽っていたある日。すっかり自分の世界に心を沈めきっていた俺は、娘の声で意識を強引に現実に引き戻される。
「────さん!お父さんってば!」
「っ!……おぉ、ビックリした。何だ?」
「だーかーらー、これまでの人生の中で割と本気で危なかった事って、なぁに?……って!霊麗も霊魔も大した経験ないからさぁ!」
((それはお姉ちゃんも変わらない気が……))
「ホント霊魔とお父さんって似てるよね……。夢中になると周りが見えなくなるって言うかさぁ」
「うぅ……」
「ハハッ、霊魔もそうなの?……おぉい霊子、霊子も来なさい」
「はぁ?何なの?」
「ちっと昔話をしてやる。強くなるのにも、参考になるかもしれないけどなぁ?どうだ、聞くかい?」
「………………分かったよ」
前回の四天王決定戦にて「知識は力なり」を実感したからか、今の霊子はとにかく知識を集めようとしている。あの戦いのお陰か、霊子の中では、俺も強者側に入っているようで、そう呼び掛けるだけで素直に来てくれた。
素直なのは良い事だ。毒を吐かず最初から素直に来てくれれば、尚嬉しいのだが。
「よしよし、集まったな。霊夢も聞くかい?」
「興味無い。どうせ私でしょ」
「んーと、じゃあまずは1つ目な」
「無視するな!!」
霊夢の言葉はスルーして、俺は昔話を始める。
「俺が本気で危ないと感じたのは、主に3つある。まず1つ目は────お空が暴走した時だ。これは、マジで命の危険を感じたね。あ、時系列順じゃなく危険だと思った順で話すからね」
あの時の俺は不老不死ではなかった。腕や足など何らかの大きい肉片をどこかに残して、それを元に再生していた。つまりそれが失敗していれば、実はその時点で死んでいたのだ。
全く、今の俺では想像もつかない程の賭けだなと溜め息が出る。
「暴走したお空かぁ。今の私なら勝てる?」
「今の霊愛なら……いや、どうだろうな。夢想天生を長時間維持できるなら、競り勝つんじゃないかね。これは俺の予想だが『余裕』では勝てないだろう」
「えー。私だって、すんごい強くなったよ?いや、お姉ちゃんには負けるけどさ」
「そうだな。霊愛は強くなってる。それはもう全く間違いないよ。だけど暴走お空は皆で組んでやっと勝てたんだ。レイドバトルみたいだな。逆に聞くが霊愛はフランに単独で勝てるかい?」
「うっ……が、頑張れば……かな?」
「フランとレミリアがタッグを組んだ場合、1人で勝てるか?」
「多分……無理だね。いや無理、絶対無理だわそれ。夢想天生を連発しなきゃダメだと思う」
「……そういう事だ。少なくともフラン、レミリアに同時に勝てないと話にならない。妖怪としての力も強くはなりつつあるんだろうが、純血吸血鬼には、まだ及ばないだろう?」
「そう、だね……うん。でもやっぱさ、それは『昔』ならではだよねぇ。今のお父さんだったらさ、特に危機だとは感じないんじゃない?」
「
「じゃあさ、お父さん。耐久力も攻撃力も速度も、それら全て兼ね備えてやっと同じ土俵に立てるって話なんでしょ?それならお姉ちゃんは難しくても、私や霊魔とか、霊子ならどうなの?」
純血じゃないから無理、もしそうであるなら純血である自分達はどうなのか。そういう疑問らしい。霊麗のその疑問もご尤もだが、純血だから勝てる、なんて断言出来るはずもなし。
「ハッキリ言わせてもらうが、もし仮にチャンスがあるとしたら、霊魔か霊子だと俺は思うぞ。もし、本当にもしもの話になるが、ギリギリ霊愛もイけるかもしれないがな」
「えー?」
「霊魔の卍解した時の速度は妖舞と同じくらいか、それに勝つレベルに達している。霊子はそこまでの速度は無いにせよ、耐久力だけなら博麗4
「そっか〜」
「僕がお空さんに勝つ…………無理な気がする……」
(私は勝てるね。……姫のお母さんでしょ?甘い人に見えたけど。……勝てる、よね?)
ぶっちゃけ、暴走お空に単独で勝てるとすれば、この4人の中では霊子だけだと思う。根拠はある。
まず霊愛は、対妖怪の攻撃力こそ優れているが、半妖という生来のデバフ故にどうしたって耐久性、スタミナに欠けてしまう。夢想天生を長時間発動、維持できるのなら勝てる。恐らく勝てるとするなら自然と条件はそうなってくるだろう。
次に霊麗は、吸血鬼であるが故に耐久力はあり、攻撃力も速度は勿論、再生力だって子供達の中では優れている方ではある。可能性は高いように思えるだろうが、夢想天生が使えないというのが惜しい。これだけで、評価点をガッツリと落としてしまう。なんせ、フランを庇ったとはいえ、再生力に優れた吸血鬼の俺が死んだのだから。
「なぁ、霊夢はどう思うよ?
「霊愛か霊子じゃない?霊愛は真っ先に夢想天生を発動して維持できれば。霊子は先手必勝できれば、そしてあの熱に耐えられれば、ね」
「概ね同意見ではあるか……霊魔は?」
「霊魔も、先手必勝ができれば、じゃないかしら」
霊魔は、卍解した際の速度の上昇率が凄まじい。そしてこの4人の中では、誰よりも弾幕への対処のバリエーションが豊富なのだ。結界は勿論のこと、弾幕で相殺し、剣で斬り、回避する。霊愛や霊麗と違ってスキマ送りにこそできないが、実戦で使える技術で言えば霊魔がトップクラスだ。更に霊魔には霊愛の夢想天生にも似た
最後に霊子は、再生力がこの4人の中で誰よりも優れていて、吸血鬼の特性が誰よりも強く発現し、誰よりも高次元で扱えるので、そう判断した。特に深い理由なんてない。ただ1つ付け加えるのなら、霊子の再生力は
「それでそれでっ?次にヤバいと思ったのは?」
「紅魔館で、初対面の霊夢……人間だった頃の霊夢に死ぬほどボコられた時だな!」
霊夢がお茶を吹いた。
「え、そんなにボコられたの?」
「あの頃はイージーレベルのスペカしかなかった。だからなのか、霊夢は俺に対して、ロクにスペカを使ってくれなくてな。素手でボコられまくったよ」
「えぇ……」
「中でも一番印象に残ってるのは〜……エントランスから霧の湖まで吹っ飛んで、水に落ちた事だなぁ。俺達は紅魔館のエントランスで出会って、そのままバトルを始めたんだけどな?ブン殴られたのか掌底されたのかは忘れたが、とにかくエントランスから湖まで吹っ飛んだのは覚えてる」
「「「「えぇ〜…………」」」」
流石に4人揃ってドン引きする。霊子でさえも。それもそうだ、今でこそかなり仲睦まじくしている俺達の初対面がそんな殺伐としていたのでは……。
きっと、この話にギャップや驚きを感じない人は俺達の身近には居ないだろう。ましてや、紅魔館の造りを知っている人なら特に。
「紅魔館のエントランスから湖って、ヤバくない?だってあそこ……かけっこ出来るくらいには長いし、広いよね?」
「だね。巫月お姉ちゃんと駆翔が何往復もかけっこしてたからよく覚えてる。あの2人が最高速度まで加速しきるくらいには、距離ある……よね?」
「お父さんをそんな距離吹っ飛ばすって……いや……お母さん……それエゲツナイどころじゃないよ……」
(でもこのお母さんならそれが出来そうだっていう妙な説得力があるのは気のせいかな……。誇張してるようにしか思えないのに……)
意外だった。霊麗と霊魔は兎も角、霊愛や霊子はこの話を「嘘だ」とか「大袈裟すぎ」などと、何か否定すると思っていたのだが。……それなら。
「霊愛。言っとくけどな、人間の頃の霊夢は、半妖である霊愛より強かったぞ。単純なパワーもな」
「ウッソ!?いやいや、流石にそれは無いでしょ!私、半妖だよ?霊力で強化してるったって、人間のお母さんには負けないからね?」
「それが負けるんだよな。今の霊愛が最大限に身体能力を強化したとして、紅魔館のエントランスから湖まで、俺を吹っ飛ばせるか?」
「できるし!!」
「ほう?言ったな?それじゃあやってもらおうか」
それから俺は子供達4人を引き連れ夜の紅魔館へ移動する。美鈴に事情を話して、エントランスから湖まで通じる全ての門及び扉を開けてもらった。
霊夢は留守番すると言って神社に残った。恐らく霊夢には結果が分かっているのだろう。
「じゃあいくよお父さん!」
「来な。せめてもの情けとして、霊夢の時と違って踏ん張らねーでおいてやるから」
結果は予想通り。俺は10mすらも飛ばず、湖など以ての外だった。因みに霊麗、霊魔、霊子もこれを試したいと言うので、その度に俺がサンドバッグになって、吹っ飛ばされてやった。
しかし当時の霊夢に追い付ける者は誰1人として出る事はなかった。
神社に戻ってから事の次第を報告すると、霊夢は鼻で笑って言う。
「当然よ。強化の度合いが違うのよ、度合いがね」
それを聞いて霊麗と霊魔は苦笑いし、霊愛は心底悔しそうに地団駄を踏み、霊子はただ舌打ちする。
「霊魔がその、アレよ。
「「「「はーい……」」」」
全員を言葉でノックアウトするとは流石は霊夢。もし霊夢が卍解するとしたら、純粋に身体強化などされるんだろうか。どちらにせよ、かなり強いのは間違いないな、と確信できる。
「で……3つ目は?」
「3つ目は、この前、地獄に落ちた事かな。あれは肝を冷やしたね、もしかしたら今ここに居なかったかもしれないから」
そう言うと子供達4人はシーンと黙ってしまう。しかも何やら気まずそうな顔だ。霊夢は俺が地獄に落ちたのを知らなかったのか、ポカンと口を開けたままでポトリと煎餅を取り落としてしまった。
「え……アンタ、地獄に落ちたの?」
「諸事情あってね」
「地獄に落ちたのを『諸事情』で済ませるヤツとかこの世にもあの世にもきっとアンタだけよ……?てか地獄に落ちたならどうしてここに居るのよ……」
「なに、つまらない話だよ。とあるヤクザの陰謀に巻き込まれただけさ」
「えー……ヤクザ絡みのトラブルとかやめてよね……妖怪ばっかだけど一応ここ神社なんだからさ」
「だーいじょーぶだって。この俺の家族に手出しをしようモンなら、皆殺しにするだけだからね。つか俺が居なくても各勢力に突出した実力者が居るし、特に問題無い気しかしないけどな」
「それはそう」
「『それはそう』!?もっと俺を必要として!?」
「どっちよ!!」
八千慧は、俺を無間地獄に落としてから幻想郷に侵攻するつもりだった。だがそんな企みが成就するハズは無いのだ。
俺が居なくとも幻想郷の……いや、俺のハーレムの平和は保たれる。博麗神社には霊夢及び子供達が、永遠亭には永琳をはじめとする実力者達が。そして紅魔館にはレミリアやパチュリーなどなど。とてもではないが鬼傑組程度で突破できる相手ではない。
それにしても最近の八千慧は、復讐に囚われて、ロクに頭を使ってこなかったように思える。それもまた、ヤツの────鬼傑組の敗因の1つだろう。
「それ、聞いたよ。リサに助けられたって」
「あれ?もう言ったんだっけか?今度の宴会の時の為に温めておいた
「実は昨日、また集会があって。その時にリサから聞いたの」
「えー。俺の持ち
((((地獄落ちしたのを話のネタにするのなんかそれこそ
そうか、リサがもう子供達に話してしまったか。あまりにも衝撃でガッカリ感が逆に薄い。子供達に話して聞かせて驚かせようと思っていたのに、その楽しみが消えるのはちょっぴり残念だ。
霊夢ももっと「ええええーーーっ!?」……くらい驚いてくれてもいいのに……。
「……コホン。まぁ、とにかく、だ。俺が命の危機を感じたのは以上3つ。大体こんな感じかね。何か、少しでも参考になったのなら幸いだが、どうかな?感想を聞かせてくれたまえよ子供達ィ〜。んじゃ、まず霊夢からドーゾ!」
「何で
「いーじゃねーか細かいコト気にすんなよ。小皺が増えるぜ?」
「あ゙?」
「スッ、スミマセンデシタッ……」
流石は霊夢、第一夫人なだけあって本気で怖い。威圧の為に溢れさせた妖気だけで、パキンと煎餅が割れてしまった。
「ったく……。えーと、感想ねぇ。アンタって、割と気楽に過ごしてるしさ、命の危険とか感じた事とか無さそうに感じたけど……割と考えてるのねぇ」
「何だそりゃ」
「不知火麗葉だっけ。あいつの時は、特にそういう危険は感じなかったわけ?」
「懐かしい名前だな。確か俺の不老不死化の直後に起きた事件だよな。霊愛がまだ赤ん坊だった頃の」
「そうそう」
「不老不死化の直後だったからな、俺は命の危険は感じなかったよ。それよりハーレム……というより、家族の方が心配過ぎたし。鈴仙や巫月に成り代わるなんて、マジで辛かったし」
「あんな異変……いや、事件は二度とゴメンよね」
「マジそれな」
今思い出してもイライラしてくる。瘴気とやらを団子に練り込んで殺してくるなんて本当に恐ろしい敵だった。能力をコピーできると言っても、劣化版でしかないのが救いだった。
「霊愛は?何か感想はあるか?」
「お母さんは人間の頃から人外じみてたんだなって思った」
「は?あんたねぇ、博麗の巫女としてやってくにはそれくらいが標準よ?」
(それは絶対大袈裟すぎ……)
「霊麗は?」
「お父さんは昔から色々と事件に巻き込まれてるんだな〜って思った」
「言われてみりゃ……。なんでだろーな、霊夢?」
「アンタが事件を呼んでるんじゃないの?アンタが幻想入りしてから異変の頻度が上がってるし」
「マジ?」
「淫霧異変とかその代表例でしょ。ここあちゃん、シガレットちゃんが主犯だったんだから」
「それを言うなら、私の試験と称して起こした黒霧異変も含まれそうだけどね〜」
「……」
「おい霊夢、都合の悪いことスルーすんじゃねー。あ、霊魔はどうだ?」
「……お空さんにも勝てるように頑張る」
「うん、それがいい。今のお空は、暴走してた頃のあのパワーを制御できるようになってるから昔よりずっと強いんだろうけど……まぁ頑張れ。霊子は?」
「私も不老不死になりたいなー、とだけ。だって、そうした方が戦術の幅も広がるじゃん」
「そうだな。ま、不老不死になりたいのなら、俺に言うといい。妖怪には蓬莱の薬は効かねえからな。妖怪が不老不死になりたいなら俺に頼るしかない。よく考えて決断しろよ」
霊子には、少し前に蓮子にやったような脅し等は効きそうにない。本人が望んだとして、霊夢が反対しないのであれば、俺としては、是非とも子供達を不老不死化させたいものだ。
「霊愛、霊麗、霊魔も不老不死に
「「「別に」」」
「あのなぁ、お前らなぁ〜。親よりも先に死ぬのは親不孝者だって、昔から言われてるんだぞ?そこ、ちゃんと分かってんのかよ?」
「『不老不死のお父さんより後に死ぬ』って何?」
「不可能な事をサラッと言わないで?」
「もし不老不死になったとして。もしそうなると、お姉ちゃんが僕より先に死ぬのが確定するしね……。やっぱり不老不死にはならないよね……」
思ったよりも不評だった。感性としては、3人はかなり一般寄りらしい。霊子が変なのか、それとも妖怪としては霊子が普通なのか……そこまでは俺にもよく分からないが、とにかく、不評なのは残念だ。
「死にそうになったら俺に助けを求めてくれりゃあすぐ助けてやんよ」
「呼ばなくちゃ来てくれないの?」
「霊愛は鋭いね。……呼ばなくても行くよ」
「「「「だろうね」」」」
「いいか、お前ら。霊夢もだが。どうせ死ぬんなら俺より後に死ね。俺が冥界から地獄に落ちて、地獄からも消え去ってから死ね。俺は、地獄にいる間はいつでも復活可能だと思え。だから俺が地獄からも消え去ってから死ね、分かったな」
「因みに無間地獄の刑罰は349京2413兆4400億年も続くと言われてるわ。魔理沙とエスカルゴによると宇宙が誕生してまだ138億年って話だから────その349京とかいう数字のおかしさがよく分かるわね」
「「「どっちにしろ死ぬなって事じゃん!」」」
「霊夢、ナイス補足。更に付け加えるとだな、その数字は、『地獄に落ちて、刑罰がスタートしてからカウント開始』だとされているんだ。落ちるまで、軽く2000年はかかるから……霊夢の言った数字に加算される事になるな」
「2000年という年月が誤差に感じる日が来るなんて思わなかったよ」
「どんだけ死んでほしくないの、この父親は……」
「でもま……お父さんがそう願うのも無理ないよね」
「……」
「まぁそういう事だ。虫でも殺せば地獄落ちは確定しちまうから、妖怪退治の経験がある俺達は全員、地獄落ちだ。そういう意味でも死ぬんじゃねーぞ?死ななきゃ、基本的に地獄落ちはしねーからな!」
「「「は〜い……」」」
「……」
霊子は、地獄に対して何か思う所があったのか、神妙な顔で何やら考え込んでいる。彼女が一体何を考えているのか聞いてみたかったが、いちいち追求するのも野暮だと思い、そっとしておく事にした。
(────不老不死化して神徳も得ていて。およそ
『吸血鬼』の枠を外れた存在になったお父さんは、一体何なんだろう。実はもう、吸血鬼ですらないんじゃないの────?)