「………………」
「……ニヤニヤしていたかと思えば一転、今度は急に静かになったわね。そんなに何冊も積み上げて……。今度は何を読んでいるの?……って、2冊同時?」
「治癒魔法と月属性の魔導書だよん」
「それは見て分かるけれど。それよりどうして2冊同時なのよ。片方ずつになさい」
「気付けそうなんだ」
「え?」
「俺の治癒魔法を、もっともっと効率化させられるような……そんな改善案にさ」
「あなたは、治癒魔法に限って言うなら既に私より高水準よ。他の誰でもない、私が認める。あなたはそれでも、今よりも更に『上』を目指すの?」
「ああ。詠唱破棄、消費魔力を極限まで削った上で今の威力を発揮したい。なんなら、消費魔力を0にしたいくらいだ。それこそモルモーが時間を止めるようにね。完全な0にできなくても、限りなく0に近付けられるようにはしたい。消費魔力0.01とか、そんなのを求めてるよ」
「……」
「……そこは『コンドームの厚さじゃないんだから』とか何とかツッコンでほしかったな」
「私との行為で使った事ないクセに」
「そう……だったっけ?それを言われると弱いな」
「ったく……」
コホンと一つ咳払いをして、話を軌道修正する。こんな冗談を言うなら小悪魔や鈴仙、巫月、永琳くらいがいいだろうか。どちらにせよ、変わらないような気もするが……。
「……咄嗟に使えなきゃ、一瞬で効果を発揮しなきゃいけない場面ってのは……絶対、これから出てくる。絶対に、そういう機会はある。俺の『領域』だって無敵じゃないと思う。きっといつか、誰かに無効化される。だから、俺は領域に頼るワケにいかねェ。領域対策の対策をしなくちゃダメなんだ」
卓球で例えるのなら、粒高のラバーに特効なのは
「理屈は分かったわ。でも、それならどうしてその魔導書を?それは治癒魔法の魔導書、あと月属性の魔導書よ?全く別じゃないの」
「うん。前に言ったと思うけど、月属性ってのは、二分するなら生と死の魔法だからさ。きっと、俺が
『治癒魔法』と呼んでるこの魔法、もしかしたら、これ自体が
「!?」
「この前、霊夢と合体した時に見せた『領域』ってあるでしょ。アレは、それぞれ俺の
「そりゃあ、治癒魔法と相互作用するように領域の術式を構築したからでしょう?」
「そうだよ。でも、パチュリーなら分かるでしょ。魔法にだって相性はあるって」
「ええ、勿論」
「
「?」
ペラペラと、読み進んでいた治癒魔法の魔導書のページを戻して、さっきまで読んでいた項目を指で示す。それを見るや、パチュリーは目を見開いた。
「その希望っていうのが……さっき俺が言った『治癒魔法の効率アップ』に繋がるワケだ」
「……とんでもない理論を聞いた気がするわ。想像もしたことない。まさか、治癒魔法が月属性だとは、考えた事すら無かったわ」
「月は生と死の象徴。それぞれの効果を持つ魔法の属性を示すのであれば、治癒とは即ち『生』だし、月属性に内包されてても、なんらおかしくはない。つまり過程は違えど結果は同じ。ただし、より良い過程を選ぶ事によって効率化させる事は可能……ってコトだな」
「……その発想力は、素直に私も見習いたいわ」
「へっへっへ……。それにしてもこれ、まるで算数、数学だな」
「どこが数学なの?」
「だってそうだろ?1+1+1+1+1=ってやるよりも、1×5=ってやる方が早い。結果は同じでも過程によって……アプローチの仕方を変えるだけで、効率はこうも段違い。……どう?まるで数学だろ?」
「確かにね。まさかあなたから魔法と数学を同列に扱われると思わなかったけれど」
「はは……」
◆
数時間後。月属性での治癒魔法の術式を構築した俺は、自分の再生力を止めた上で、斬った腕を再生させる事に成功。
名目上は無属性だったとはいえ、過去にこうして治癒魔法を鍛えていたからこそ、月属性治癒魔法の習得はとても早く、自分でも驚いた。しかも魔力の消費が軽減されただけでなく、再生も早かった。
やはり相性がいいと高い効果を発揮するらしい。
「つまり、こうなる。月属性を用いた治癒魔法は、無属性魔法として使用した、単体の治癒魔法よりも効率がいい。そして月属性治癒魔法への理解もまた深めたから、俺の『領域』も強くなった」
「やるわね」
「ヘヘッ。これさえ使えば、きっと誰も死なない……死ななくて済むんだ」
「……そこまでの即効性を求める程の、激しい戦場に向かうつもり?」
「いや?痛い思いはしたくないし、してほしくないでしょ?それだけだよ。すぐ治りさえすれば、多分それがトラウマ……心の傷にもならないと思うし」
「そうね。一瞬であればある程、記憶に残らない。嫌な思いもしないでしょう」
「だよねぇ〜」
────上出来だ。俺の守りたいモノを守るには俺が強くなる必要がある。しかしそれは、敵を討つ
「強さ」だけではなく、味方を守る「強さ」、更に味方を保護、援護する「強さ」も必要。それこそ、オールマイティに強く在らなくてはならない。
「パチュリーから見て、霊夢ってどうだ?あらゆる戦闘方法を修めてるが────オールマイティだと思えるか?」
「……そうね。近距離、中距離、遠距離と、あらゆる方法で対峙できる博麗の巫女は、かなり万能だとは思うわ。でも、オールマイティと呼べるかは、また別だと思うわね」
「っ!そう……か。俺もそうは思う。攻撃とか防御は優れているが、それ以外と言うとな……。妖怪退治に特化しているのが博麗の巫女だから、仕方ないとは思うけどね」
「オールマイティさで言うのであれば、恐らくは、エスカルゴ。あなたの方よ」
「俺はそう在りたいと思ってるから、贔屓目抜きでそう見えてるのなら……嬉しいな」
「贔屓目抜きよ。ダメなら素直にダメだと言うのが私よ。たとえあなたでも、甘やかしはしないわ」
「知ってる。だからこそパチュリーに聞いたんだ。小悪魔は甘々だからねぇ」
「ふふ……悪魔は心に入り込んでこそよね」
「ああ。────さて、と。色々特訓すっか。一応俺はまだまだ強くなれるっぽいし……」
「頑張りなさい」
「おうよ」
あまりこうやってノンビリしてられないだろう。
モシャスの事もあるし、どうやら俺には、今より深く、強烈な更なる特訓が必要らしい。きっと俺はこうなっては止まれないんだろう。止まらない、と言うと語弊がある。満足するまで、俺は
アテならある。特訓場を提供してくれる者なら、いつものあの人が……。
気が付いた瞬間には、俺は既に、スキマを使って紅魔館から飛び出していた。