『いいか、よく聞きやがれ!』
『ニュースで聞いていると思うが!もうすぐ地球は滅ぶ!!』
『しかしこれには対策がある!滅亡は、あくまでも何もしなかった場合の話!!対策はあるんだ!!』
大学のあらゆる箇所に映る男は、一言一句、全く同じ言葉を叫んでいる。 国によっては通じる言語も違うのに、その殆どが日本語らしかった。英語圏のニュースでは英語を使っているが、アメリカ英語に統一されているようだった。しかも、発音が酷い。中高生のカタカナ発音レベルだった。
しかし男の言葉はそれらの言葉が通じない者達の心にも響くものはあったらしい。今、世界がたった1人の声を聞いていた。
『今この時、神による
『魔術の神でもある、ギリシャの「ヘカテー」は!この未曾有の天変地異をどうにかしようと、全力を尽くしている!それでも!彼女の力を以てしても、神は!太陽は止められない!!』
『だから今この星に生きるお前ら!死にたくないと願うお前ら!今すぐに祈れ!ギリシャの人民を同じ神に殺され!今もなお力を失いつつあるヘカテーに祈りを捧げろッ!さもなくば地球は終わるッ!!』
『信仰の自由!思想の自由!ンなモンは百も承知!だがッ!地球が助かるまでの、たった数時間だけで構わない!お前らのその「信仰」に、ヘカテーを!ヘカテーを含めてくれ!その想いが地球を救う!!想いだッ!純粋な想いこそが、地球を救うんだ!!愛などでは地球は救えん!祈りこそが救う!!』
『死にたくなければ今すぐ祈れ!愛する者と未来を誓い合っただろ!また遊ぼうと、友と別れただろ!オイ!オタク共!!萌えコンテンツが消えるぞ!!漫画もアニメもゲームも、全てが消えるんだぞ!!パリピ共!!クラブでバカ騒ぎしたくねえのか!?生きて乱交パーティとかシたくねぇのかよッッ!?オイ、犯罪者共ッ!シャバに出てひと暴れしたいと思ってねえのか!?もしくは、更生した姿を社会に見せたいと思わないのかッ!?それら全て!全て!生きてこそなんだよッ!!死にたくなきゃ祈れ!!死ねば全てが終わる!分かってるか!?』
『終末思想のヤツは祈らなくていい!だがせめて、生きたいと願うヤツは祈ってくれ!!そうでないと地球は────』
BB○ニュースに映っていた男が頭を撃たれた。吹っ飛ばされるように倒れたと思うと、ドタドタと足音うるさく侵入してくる更なる侵入者をカメラが映す。何らかの特殊部隊らしい。しかし……。
『この地球が終わりそうな時に……このッ……このクソカス共があああああああああああッッッ!!!!』
叫びと共に放たれたらしい電気により、カメラは映像がブレ、やがて破壊されて、BB○ニュースは途切れてしまう。しかし他のニュースは相変わらず生きている。
『俺ぁヘカテーの配下をやってる、ただの悪魔だ!人間は嫌いだし、殺したいとすら思った事もある!だが、そんな俺にも守りたいモノはあるッ!家族、そして家族!1に家族、2に家族!3に家族ッ!!笑うか?だが家族が大事なのはお前ら人間だろうが変わらねえだろう!守りたいモノがあるお前!何か少しやり残した事があるお前!具体的に言えなくて構わない、何かモヤモヤするお前!ただ、祈れッ!それさえしてくれれば、後は全てどうにかなる!』
『大悪魔たるこの俺が、今を生きる全人類を対象に契約してやる!悪魔の契約は絶対だッ!守らなくばどちらも命を失う事になるだろう!!手を合わせる必要は無い!目を瞑る必要は無い!ただ頭の中で!頭の中で祈るだけでいいんだ!「ヘカテー助けて」
「ヘカテー俺はまだ死にたくない」、そう祈れ!!祈りは必ず、神に届くからッ!!そう心から祈った者は、自動的に俺と契約を結んだ事になる!契約を結んだ者は、この事件が終焉を迎えるまで、世界中どこに居ても助けてやる!』
まだまだ演説は続く。しかし、日本中で、彼への大批判が噴出していた────!!
「ざっけんじゃねぇ!何が『悪魔』だ、クソがッ!ふざけやがって!」
「お前が逃げ回ったせいで俺の地元がどっかの国の軍隊に壊滅させられたんだよ!!」
「俺の地元なんて原○を落とされたんだぞ!!」
「ふざけてんのはお前だ!今更ノコノコテレビ局に出てきやがって!!」
「皆!コイツブッ殺しに局に乗り込むぞ!!」
「おう!『消えた破壊者』を殺しゃあ、この騒動は収まるぜ!!」
「あっ、コラあんたら……!」
大学を飛び出し、最も近くのテレビ局へと集団で乗り込もうとする集団を止めようとする蓮子だが、茜はそんな蓮子の肩を掴み、彼女を止める。そんな茜の表情を見て、蓮子は察した。
「……お父さんが批判されるのは仕方ないわ。その、
『消えた破壊者』と瓜二つなんだもの」
今も尚、蓮子と茜の2人は破壊者とエスカルゴは同一人物ではないと信じていた。しかし現実は非情であり、実際は同一人物である。
「でもっ!エスカルゴは世界を救おうと……」
「いいんだよ。……お父さんなら、どうにか……」
その時、飛び出して行った連中が、身を焦がして屋内に戻ってきた。火に直接焼かれたかのように、凄まじく日焼けしている。太陽は、予想よりも早く迫ってきていた。
「…………おばあちゃん……!」
「!」
「メリー!今すぐおばあちゃん家にスキマ繋げて!お願い!この暑さ……おばあちゃん、一人暮らしだし下手したら死んじゃうかも……ッ!!」
「……ついてきて!」
流石に衆人の目がある場所でスキマは使えない。蓮子もそれが分かっているからこそ、メリーに手を引かれ、女子トイレに一緒に入った。
「蓮子のおばあちゃん……宇佐見菫子さんの家なら、覚えてるわ。大丈夫よ蓮子。……今、繋げるから」
言うやいなや、スキマを開く茜。蓮子はすぐさま飛び込み、続いて茜もスキマへ身を投じる。菫子の現在の家は木造ゆえか、木材に含まれる水分が蒸発しているように見えた。
「おばあちゃんッ!おばあちゃん、どこ!?」
どこにも居ない。居間、台所、お手洗い、風呂場など、居そうな場所は探した。蔵なんか、真っ先に探したが居なかった。いつか見た、巨大な業務用の3Dプリンターが置いてあるだけ。
菫子は寝ていた。寝室の真ん中に敷かれた布団の上で、苦しげな顔をして、横たわっていた。
「おばあちゃん!おばあちゃんっ!」
「落ち着いて蓮子。菫子さんは生きてるわ。心臓の音が聞こえる」
「でも寝てるなんておかしいよ……もう、真夏の暑さなのに!」
「そうだけど……」
2人がそんな話をしていると、枕元がガヤガヤとうるさいからか、菫子が、ゆっくりと目を開けた。
「れ、ん…………こ……かい………………?」
「そうだよおばあちゃん、蓮子!蓮子だよ!」
「よか……た…………さい、ごに…………まご……の…………かお、が………………み……れ………………て…………」
「最期にって何よ……何言ってんのおばあちゃん!?ねぇってば!!」
「蓮子ッ!!」
菫子の肩を揺すろうとする蓮子を止める茜。もう菫子は、眠りたいと思っている。それも、永遠に。病気ではなく、老衰だった。
「おばあちゃん……幻想郷にまた行きたいって、前に言ってたじゃん……!行かないで死ぬの!?」
「そぉ…………ねぇ………………めぇ……かい……から………しゅっ……ぱつ………………してみ、る……のも………………わ……る……く…………ない…………わ…………ね……」
「ヤダよ!おばあちゃん、死なないで!」
「かわ……いい…………れん、こ…………かな……しま……ない、で……いつか……また………………あえる……わ」
それきり、菫子は目を瞑って、動かなくなった。蓮子は掴みかかるようにして泣きじゃくるが、茜はまだ冷静だった。蓮子の手を少々乱暴に引き剥がし菫子を抱え上げ、スキマを開く。
「何を……してんの、メリー……!おばあちゃんを……何処に連れてくのよ……!?」
「幻想郷」
「!」
「多分、だけどさ……菫子さんは……幻想郷で最期を迎えるのが、幸せなんじゃないかな……?」
「だって……おばあちゃんは、もう……ッ!」
「まだ辛うじて息はあるよ。大丈夫。ついてきて」
「ッ……!うん゙っ……あり゙がど、メリ゙ィ……!!」
スキマの向こうは、茜の言う通り幻想郷だった。それも、よく菫子が遊びに来ていた博麗神社……。
子供達は紅魔館へ出掛けていたが、霊夢だけは、博麗神社に残っていた。だからだろう、茜の抱える老婆と、傍に泣きながら佇む「宇佐見」の姓を持つ少女を見て霊夢は目を見開くと────彼女達を、黙って縁側に誘導した。
「……ああ…………心地いい……風、ね………………」
「あら菫子、起きたの?」
「……あれ……ぇ……レイムっち……?」
「ふふ……その呼び方、懐かしいわね。あなたってば大人になってからめっきり来なくなっちゃって……」
「…………わた、し…………私、また……」
「ええ。ここは幻想郷、博麗神社よ」
「……あ……あぁっ…………ああああぁぁっっ……!!」
声にならない声を上げて、菫子は泣いた。縁側に座る霊夢の膝の上に寝かされ、声を上げて泣いた。すっかり白くなってしまった菫子の髪を、愛おしむように優しく撫でる。
「おかえり、菫子」
「……ただいま……レイムっち…………」
宇佐見菫子、博麗神社にて天寿をまっとうする。幻想郷が混乱に陥る前に幸せに往生できた、唯一の人間である。近年の人間の中で、誰より飛び抜けて波乱に満ちた人生を生き抜いた超能力者であった。
外の世界で演説するのは絶対逆効果なんですよね。
エスカルゴの悪魔のカリスマ性は、幻想郷内でこそ発揮されるものですから。
おかしい連中に目を付けられないといいですが。