「ククッ、ククク……ほざくなよ小僧、小娘が……。ヘカテーの助力も無しに我に勝てると思うてか?」
レミリアはクスクス笑い返し、フランは頭の横で指を回してパッと手を開く。「くるくるぱー」と、手で表している。ゼウスがそんな表現を知るはずもないので、それに対しては特に無反応なのが余計に可笑しくて、ついつい笑ってしまう。
「あー、腹痛てぇ……。つか、勝てるだろーよ。今のゼウス、あの頃と較べて雑魚じゃねーか」
「……本当にそうか……試してみるがよいぞッ!!」
ゼウスは持参していた槍を投げる。どうやら奴が持参していたモノは、兄・ハデスの得物、
「こんなモン、例え心臓に当たった所で致命傷にもなりやしねえ。雷霆やアダマスの鎌が無きゃロクに戦えねえだろ、ゼウスさんよぅ。だってお前神話の中でもいつも『ゼウスは雷を投げた』ばっかだろ。そりゃ主力武器を失えばこうもならァ。ククク……」
妖刀「陣風丸」にて二又槍を斬り裂く。そして、そのまま陣風丸の切っ先をゼウスに向け────。
「……
刀を向けただけで、二又槍の突きが飛び出した。
これこそ「陣風丸」の能力。極彩組幹部・白戸の能力を、伊弉諾物質を通してこの刀に吸わせた。
「な……この、突きは……ッ」
「ゼウスの威力
「流石は神との交友関係が広いエスカルゴ。さぁ、北欧の主神の得物の名を冠する技を喰らいなさい。神槍『スピア・ザ・グングニル』ッ!!」
「ギリシャ神って、斬っても燃やしても死なないんでしょう?エスカルゴ以上のバケモノねっ!燃やし尽くしてあげる!禁忌『レーヴァテイン』ッ!!」
「サラッと俺をバケモノっつったなフラン……」
レミリアの槍はゼウスの心の臓を貫き抉り取り、フランのレーヴァテインの火炎がゼウスを焦がす。
心臓を取られた所でゼウスは死なない。こんなんだからギリシャ神はバケモノだというのだ。しかし弱体具合が凄まじい。息が上がるのも大概にしろと言いたいが、こうでないと、俺らだけでゼウスには勝てないので、良かったと言わざるを得ない。
「ハァッ!全身、穴だらけにッ!してあげるッ!」
「ぐぅおおああああぁぁぁっっ……!!」
レミリア、身体を燃やすゼウスによるタイマンが始まった。彼女はとにかく攻めまくり、ゼウスは、全身刺されまくる。俺とフランはそれを眺めながら雑談中だ。
「……にしてもゼウス、弱すぎじゃない?神話の中のゼウスって、山も投げる怪力もそうだし、それこそテュポーン以外には無双してたじゃない」
「ああ。ゼウスの弱体化……これは、ゼウスの作戦が悪かった。いや『悪かった』ってのは違うかもな。ゼウスは────自分達が凄まじく弱くなってる事まで織り込み済みで、幻想郷に攻めてきたんだよ」
「え……?」
「ヘカーティア────ヘカテーはそれこそ多くのモノを司るギリシャ神だ。司るモノだけで言うならゼウスと変わらないか、ゼウスより多いくらいだ。そんなヘカーティアを弱体化させる為には、彼女を信仰する奴らを殺さなくちゃならないだろ?」
「……まさか」
「今、ギリシャでは神による人間の殺戮が起きてる最中なんだ。下手したらその被害は一国に留まらず周辺諸国、ひいては世界中にまで広がるだろうね。ヘカーティアは人間を守りながら神々と戦ってる。けど初っ端からギリシャの民を殺戮してるせいで、ヘカーティアと敵対してる神々までもがこれまでに無いくらい弱体化してるんだ」
「そのギリシャ神達の長のゼウスがここまで弱体化してるのも、その弊害ってワケね。主神なら人々の信仰心もとびきりあるワケだしね」
「そーそー。ヘカーティアも弱まってはいるけど、ヘカーティアの敵も弱まってるワケだ。だからこそゼウスは、たとえ弱体化しようと数で圧倒しようとしてる。確かに数は厄介だからな。そして幻想郷の地獄を自分の手で破壊して、ヘカーティアを完全に殺すつもりだった」
「……」
「だけど、それには、幻想郷の有力者を幻想郷から追い出す必要があるワケだ。こんな状態で攻めても同じように『数』で負けるのは明白だしな。だから有力者を追いやる為に太陽をぶつけようとした」
「太陽をぶつけるのは陽動作戦だった……?」
「そう。『太陽にも対処出来るくらい強いヤツ』を幻想郷から追い出す為のな」
「……もしかしてエスカルゴが霊夢や魔理沙を地上に残したのって……」
「ゼウスの相手をさせる為ってこと。だからさっき言ったろ?『お留守番部隊とは────』ってさ。ゼウスと戦うのは地上のヤツら。そして宇宙にまで吹っ飛ばされたとしても、見ての通りだ。ゼウスは酷く消耗してるだろ。もう俺達が本気で戦うまでもないんだよ」
「……でもそれって、少し寂しいね」
「……ああ。長年の安寧を覆され、叛逆されたんだ。ゼウスがヘカーティアを完全に殺したいって考える気持ちも、正直、よく分かるよ。でも、ゼウスには悪いけど、俺はヘカーティア派だからな。ゼウスに同情、共感はしても、賛成しないし手も貸さない」
「それが……いいと思うよ。あのオジサンも、少しは救われると思う」
「オジサン……」
それにしてもだ。予め予知夢を見ておいたのに、ここまで俺の
二又槍を持つ腕を建御雷か誰かに斬り落とされる
↓
二又槍、腕を霊夢により封印される
↓
建御雷による酷い撹乱を受けた上で、霊夢によるデバフにて更に弱体化する
↓
魔理沙がマスパ系の技で宇宙まで追放
↓
俺、フラン、レミリアで更にボコり、細切れに
↓
その細切れにした破片を持ち帰りそれぞれ封印
↓
完勝
────という流れだったはず。しかし現実は、ゼウスは五体満足で宇宙まで追放されている。何か俺の計算を、予知夢を狂わせる
不確定要素は排除したいからこそ、霊夢と魔理沙という幻想郷でも指折りの実力者を配置したのだ。しかも、ここまでの作戦を全て説明済みの紫さんも地上に残してきている。それなのに、
「────っていう計算だったんだけど。フラン、この中に何か不確定要素があると思うか?」
「んー、ヘラも来るかもしれないってことかな?」
「ヘラが来るのは計算済み。そんでもって、ヘラを緋月が倒すのも計算済み。その為に、鈴仙と一緒に玉兎部隊に編成しないで幻想郷に残してきたんだ」
「ん?……
「
「え……あの子、戦えるの?」
「戦うより遊ぶのが好きってだけで戦えはするよ。でもその為に、玉兎部隊と鈴仙と一緒に能力を覚醒させた。だから、霊夢も魔理沙も建御雷も、緋月の接近には気付けなかったはずさ」
「とんだダークホースだねぇ」
「緋月も俺の子だ。弱いはずがねェんだ」
「フフッ、そうだね♪」
目の前では、レミリアが相変わらずゼウスを圧倒している。やはりレミリアは美しく、そして強い。連れてきて良かったと、心から思う。
「けど、あんまりこうして観戦してられないな」
「そうね。想定外の事が起きている以上、さっさと切り上げて幻想郷に帰った方がイイのかも?」
「フラン、トドメを頼めるか?」
「美味しいとこ取りしていいの?」
「美味しいとこも何も……。ゼウスのヤツ、もう瀕死なんだぜ?フランに焦がされ、レミリアに貫かれ、もうボロボロだ。心臓も失ってるみたいだしな」
「アハッ、それじゃあもう楽にしてあげないとね。死は救済ってヤツ?」
「ハハハッ、違いねぇ。死なねえけど」
「じゃ────『スカーレットニヒリティ』ッ!」
全てを破壊するスペルカードが、ゼウスを襲う……そしてこの神との戦いに終止符が打たれた。