永琳「終わったわ」
天子を預けて約1時間。
中々に大変だったのか、少しホッとした様な顔で治療室から出てきた永琳と鈴仙。
鈴仙の耳がヘナヘナと萎れているので、大変だったのが伺える。
カルゴ「あの…アイツは大丈夫なんですか?」
永琳「ええ、もちろん。瀕死だったけど、何とかなったわ。抜糸後は傷跡も残らないでしょう」
てことは、まだ糸が残ってるワケね。
所々大きな傷もあったし、仕方ないが…。
永琳「でも、なぜあんなに多くの切り傷が…」
カルゴ「あいつは、死神とか言ってましたが…。なんか、鎌持った奴に襲われてたんですよ」
永琳「鎌…?あんな感じのやつ?」
俺の背後を指さす永琳。
つられて振り返るとそこには、気絶させたはずの死神が、窓の外からこちらを覗いていた。
カルゴ「うわぁ!何でアイツが!?」
心臓に悪いわボケナス!!
永琳「あれが死神?」
カルゴ「さっきちゃんと気絶させたんだけど…。ちょっとぶっ飛ばしてきます」
鈴仙「えっ、ちょっと……」
鈴仙が止めるのも聞かず、外に飛び出し、死神の前に立つ。
カルゴ「よォ。何でここがわかった」
死神「魂が何処に移動しようとも、我々はそれを感知できる」
ほー…魂自体が発信機ってわけか。
で、生きてる限りどこまでも追い掛けてくると。
聞きたいことは色々あるけど、こいつが囮だった場合、無防備な天子が危ない。
早急に決着をつけねばな。
カルゴ「『魔力遷移』」
背中の剣をスラリと抜き、紫のオーラを纏わせ、魔力のみを引き出す。一撃でカタをつける為に。
カルゴ「獄雷『Deadly Thunder』!!!」
素早く呪文の詠唱を済ませ、剣を勢いよく地面に突き立てる。すると、地面を割って赤黒い雷が噴出し、目の前の死神に降り注ぐ。
これは、俺の出す雷よりも殺傷能力が高い雷なので、まともに喰らえばただでは済まない。
死神「なん、だ……この、力は……っ」
え、あんまり効いてない!?
…そうか、鎌に雷が集中しちまうのか!
カルゴ「乙。お前なんかじゃ俺には勝てねぇよ。フンヌァッ!!」
膝をついている死神の腹を蹴飛ばし、昔の漫画のように彼方に吹き飛ばす。蹴るというより、足を当てて強く押し出したという感じだ。
こうすれば、腹に大穴が空くことも無い。
この様子を漫画で表すとしたら、「キラーン☆」という文字が書いてあることだろう。
カルゴ「どこまで行ったんだろ…。ま、いっか」
彼方へ消えていった死神を探すこと無く、屋内に戻る。
永琳「お疲れ様。なんか、一方的だったわね」
カルゴ「さっきの方が手応えありました。まぁ、相手が力を出す前に倒すのが俺のやり方ですからね、これでいいんです。こればっかりは、楽しむつもりもありませんしね」
永琳「…?そうそう、あなたが戦ってる間にね、あの天人が目覚めたわよ。ウドンゲが介助してるけど」
あぁ、だから鈴仙居ないのか。
ちょっと事情聞いてみようかな。
ほんの少しだけ…何となくは察せたけどね。
カルゴ「アイツは何処にいるんです?」
永琳「あなたが入院してた部屋よ」
カルゴ「了解です」
場所を聞いた俺は病室へ向かい、ノックしてから入室する。そこでは、病院ならではの病衣を着た天子が横たわっていた。何やら、鈴仙と話し込んでいたようだ。
天子「ご主人様ぁっ!」
カルゴ「うわぁっ!?」
横たわっていた天子は、ヒョイと跳ね起きて入口に立っていた俺に飛びついてきた。
カルゴ「そんなに動いて大丈夫なのかよ?」
怪我のことを考慮して、いつものように突き飛ばしたりはしない。だが、鈴仙からの視線が痛い。
天子「少し身体が軋むけど大丈夫!」
カルゴ「軋む!?!?」
身体が軋むってどゆこと!?!?
鈴仙「ご主人様って…あなたねぇ…」
天子「だって、ご主人様だも〜ん♪」
カルゴ「いいから寝てろバカタレ」
天子「あぁん辛辣ぅ♪」
殺されかけたっつーのにいつもと変わんねぇや。相変わらず、ある意味で凄いよこいつは。
いつまでも引っ付いて離れない天子を、半ば無理矢理引き剥がし、再び横になった天子に、死神に襲われた経緯を訊ねた。
天子「あのね…私たち天人や仙人にはね、たまに死神が襲ってくるの。魂の回収?とかよくわかんないけど、アイツらに負けたら殺されるの」
カルゴ「んで、お前は負けた…と」
天子「ううん、負けた訳じゃないわ。ご主人様が助けてくれたから♪」
カルゴ「あ、そっか」
つまり、負けそうになっていた所に俺が来たと。
あの時、紅魔館を出るのが少しでも遅かったり早かったりしたらコイツは今頃…って事か。
カルゴ「なんで天人や仙人には死神が襲いかかるんだ?」
天子「天人や仙人は不老長寿…。ほんの少しずつは老いるけどさ、ほぼ不老なのね」
カルゴ「ふむ」
吸血鬼とあんまり変わらないんだな。
いや、それを言うなら妖怪全般か。
天子「老いることがないのに死ぬのは、病気とか色々あるけど…一番多いのが、死神による殺害。でも私達は、死神を撃退する力がある。だから、たまに襲ってくるアイツらを殺して撃退するの。それは天人も仙人も同じよ」
カルゴ「なんで殺すんだ?」
天子「殺さない限りいつまでも来るからよ」
それを聞いて、先程俺が退治した死神の事を思い出す。おそらく、殺して無いはずだ。
カルゴ「待てよ…?俺、あの死神殺してないぞ」
天子「なら…また、私を殺しに来るk…」
その時、病室の襖が勢いよく開き、てゐが血相を変えて飛び込んできた。
てゐ「大変ウサぁぁぁっ!!」
天子「!」
鈴仙「うるさいわよ」
カルゴ「どうした」
てゐ「変なヤツらに囲まれてるウサぁぁぁぁ!」
まさか…と思って横たわっている天子を見ると、小さく頷いて見せた天子。死神たちだ。この部屋は窓ではなく障子張りなので、外を見たら死神たちが見える事だろう。
カルゴ「噂をすれば…か。仕方ない、俺が殺る」
鈴仙「待って、私も…」
カルゴ「いや、鈴仙はここで天子を守ってくれ。あと、てゐも。巫月は…まだ寺子屋かな?」
鈴仙「ええ、帰りまではまだ時間があるわ」
カルゴ「よし、さっさと片付けてくる。永琳先生はまぁ…言わなくてもわかると思う」
天子「お願い、ご主人様…」
カルゴ「…おう」
剣を引っ掴んで、その部屋の縁側に出る。
確かに、大勢の死神が永遠亭を取り囲んでいる。
永遠亭までおよそ4mほどだ。
先程殺しておけば、こうはならなかった。
靴も履かずに、死神達の前に進み出る。
俺と死神の距離、およそ2m。近い。
どいつもこいつも、同じ様な格好しやがって…。
ローブを纏って鎌ですか、華がないね。
カルゴ「『霊力遷移』」
剣を天に掲げ、白のオーラを纏わせる。
それを見ても、死神達は微動だにしない。
俺が霊力を出したということは…そう、あれだ。
カルゴ「霊符『二重結界』」
死神達「!!」
永遠亭と俺の間に、強固な結界を作成する。
こうすれば、何人たりとも侵入は不可能だ。
剣を抜くか破壊すれば通行は可能だが、麗葉との戦いの時と同じく、剣にも強力な結界を掛けているため、解除は俺にしか出来ないと言っても過言では無い。
死神達「しまった!」
カルゴ「さぁ、これで天子は殺せない。そちらの犠牲が出る前に、大人しく帰ったらどうだ?」
死神「余計な殺生は行なうべきではないが…」
死神「仕事の為だ、お前にも死んでもらうぞ!」
統率の取れていない部隊のように、バラバラと襲いかかって来る死神達。
一斉ならもっと楽に片付けられたんだけどな…。
仕方ない…自分の結界を信じて、永遠亭ごと滅しちゃおう。それが一番楽で、確実だ。
…いや、その前に幾つか試してみよう。
カルゴ「雷装備『翼竜の舞』」
鎌を振り上げて襲ってくる死神達の間を縫って、永遠亭上空へと飛び上がる。高いとこからならば狙い撃ちが可能になる。
つまり、行動の選択肢が増えるのだ。
丸ごと滅するという強行手段をとる前に、まずは別な方法を試すべきだろう。
死神「クソッ、さっさと終わらせるぞ!」
予想通り、結界の元凶が俺だと思っている死神達は、上空の俺を追い掛けてくる。
カルゴ「『雷神拳』!!」
四肢の先端に雷を纏わせて補強し、上がってきた死神達の顔面を踏みつけ、踵落としで地面に叩きつける。空中戦では、本当に踵落としが得意だ。
カルゴ「一閃『Mishap of Thunder』!!」
竹林を覆い尽くす程の巨大な魔法陣を出し、死神たちを一掃する。
死神達「ぐあああああああっっ!!」
おかしい。威力を上げたのをまともに喰らってるから、本当ならもう死んでるはずだ。
でもコイツらはまだ活動してる。
めんどくせぇ…一撃で殺さなきゃダメなのか?
死神達「うおぉぉぉっ!!」
カルゴ「っ!」
またもやバラバラと襲いかかってきた死神達。
次のスペルの準備のため、距離を取りたい俺は、さらに上空に飛び上がる。
カルゴ「禁弾『降り注ぐ厄雷』!!」
素早く距離をとった俺は、エネルギー弾を上空に放ってチャージを開始する。このチャージの為に距離を取りたかったのだ。
カルゴ「降り注げッ!!」
合図を送り、心臓の位置を串刺しにする。
死神達「ごはっ……」
ボシュンッ
心臓を破壊された死神達は、血を吐いたかと思ったら煙となって消えた。
カルゴ「おっ…?」
よし、こんな感じかな。
カルゴ「ほい、倒してきたぜぃ」
鈴仙「お疲れ様!」
天子「ありがとう…。ごめんね、私が殺らなきゃいけないのに…」
いつものうるさい天子とは違って、少しばかりしゅんとしている。本当に、申し訳ないと思っているようだ。
カルゴ「気にするな。ところで、ずっと気になってたんだが…。アイツら、殺していいのか?」
天子「うん…。一度殺せば、その時はもう襲ってこないから、そこは大丈夫よ。次はいつ襲ってくるのかな…」
障子越しに外を眺め、大きなため息をついた。
死神に負ける=死 であり、今回はたまたま俺が居たからいいものの、次はこうは行かない。
恐らく、それを憂いてのため息だろう。
カルゴ「そういや、お前にゃ刃物通じねぇのに、なんで斬られてたんだ?」
雷刀が全く効かず、逆に折れてしまった時のことを思い出す俺。あの時は本当に驚いた。
天子「あーゆー奴らが持つのは、魔の力が込められてるっていうか…普通の刃物じゃないからよ。天人に効かないのは、銀だとか鉄や鋼といった、普通の刃物なの」
カルゴ「そ、そうなのか。んじゃ、俺の剣は?」
鞘から抜き、漆黒の刀身をチラつかせる。
天子「その剣でも斬られちゃうわね」
カルゴ「はーん…なるほど…」
少しはわかってきたぞ。天子…天人の事が。
あの口振りからして、俺の雷刀も普通の刃物扱いなんだろうな。そりゃ、雷のエネルギーを具現化させただけだから、魔の力なんてものは無いし、不思議では無い。矛盾はしていない。
カルゴ「っと…そろそろ帰らなきゃかな」
天子&鈴仙「もう帰るの?」
見事にハモった彼女とペット。
言い方は悪いが、それは同意の上だ。
カルゴ「次女が心配でさ…。霊夢はほら…ガサツだし」
鈴仙「ならせめて、巫月が帰ってくるまでは居てあげて?あの子、あなたに会いたがってたから…」
カルゴ「…そうか…。巫月にも寂しい思いをさせてるしな…。了解した」
その時、玄関が開く音がした。
巫月「ただいまー!」
ははっ、ほんとナイスタイミングだな。
カルゴ「おかえり〜」
廊下へ、顔をひょっこり出して手を振る。
巫月「あ!!えすかるごきてる!!!」
俺を見つけるなり猛ダッシュで突進してくる娘。
それを見て俺も廊下へ出て、娘を受け止めようと腰を落として両手を広げる。
カルゴ「ほれ、飛び込んでこいっ!」
巫月「どぉーんっ!!」
カルゴ「おげっ……」
ガバッと抱きついてくる。
すると、フワリと甘い香りが漂ってくる。
幼い女子特有の匂いだ。
巫月「なんかひさしぶり!」
カルゴ「おう、何か久しぶりだな。この前だってこうして会ったはずなのにな」
巫月「まいにちあってないからだよ!」
カルゴ「そうかー、毎日会ってないからかー…。多分そうかもな」
その後、滅茶苦茶娘とイチャイチャした俺は、外が真っ暗になるまで永遠亭に留まってしまった。
天子(天人)設定
普通の刃物では傷付けられないが、魔剣や妖刀といった普通ではない刃物では殺傷が可能。
雷刀は、魔剣や妖刀とは違って魔の力が込められていないので、効かない。
天子は現在、200歳を越えているとかいないとか。
天人、仙人の共通の設定
数10年〜100年ほどに一度、死神からの襲撃を受ける。それに負ければ魂を取られ、死に至る。
しかし、天人や仙人は死神に対抗する術があるので、彼らを撃退し、寿命を伸ばす。
撃退法は、死神の殺害以外に無い。
ほぼ、不老長寿。
吸血鬼等と同じく、完全な不老ではない。
仙人と天人の違い
どちらも、厳しい修行を積めば成る事が出来る。
天界での豊かな暮らしを求めて修行をする場合が多いらしいが、大抵は天人になり損ねて仙人となる場合が殆どだそう。
華扇は、自ら望んで仙人となったのか、はたまた天人を目指して仙人となってしまったのかは不明であるが、恐らくは前者だろう。