間違ってお団子を食べてしまった俺は、にとりの仕事場へ光学迷彩スーツを取りに行くついでに、幻想郷中を逃げ回っていた。それでも、食べ物の恨みというものは恐ろしく、僅かな妖気を辿り、妖怪の山にまでも追ってきた。
光学迷彩スーツを手に入れた俺は再び魔法の森へ入るが、そこにも霊夢の魔の手が忍び寄る。
姿は隠せても妖気は隠せない…そう悟った俺は、魔法の森のそばにある建物に逃げ込んだ───。
カルゴ「こーりん!こーりん!助けてこーりん!Help me, KORINNNNNN!! 」
俺が逃げ込んだ建物…それは、森近霖之助が経営する道具屋、香霖堂だ。恐らくここまでは霊夢も来ないはず…だ。自信は全く無いが。
霖之助「…何だ騒がしい」
文々。新聞を読みながら苦情を口にする。
それを聞いて、自分がそんな煩かったのかと内心ガッカリする。
カルゴ「いや、何でも。道具見に来たんだぜ」
霖之助「…ん?あぁ、エスカルゴか。また魔理沙かと思ったよ」
さすがに声の違いに気付いたのか、新聞から目を離して苦笑する。
カルゴ「こっち見てから返事してくれ」
霖之助「以後気をつけよう。で、そんな急いで、何かあったのかい?飛び込んで来るくらいだし」
カルゴ「へへっ、バレた?」
霖之助「丸わかりだ。飛び込んでくるのは魔理沙だけだからね。今回はそれで魔理沙と勘違いしたわけだが」
なるほど、やはり魔理沙はどこでも魔理沙だな。
飛び込むのは魔理沙だけって思ってたら、そりゃ勘違いもしますわな。
カルゴ「…実はなー、棚の上にほっぽってあった団子、間違って食っちまってよ…。にとりのとこ行くついでに霊夢達から逃げ回ってたんだ」
霖之助「間違ったのなら謝ればいいじゃないか、君らしくもない」
カルゴ「追っかけてくるアイツらの形相が…ね。まさに鬼って感じで…つい逃げちまった」
霖之助「はははっ、吸血鬼の君が、霊夢を“鬼”と恐れるとはねぇ。こりゃあ傑作だ」
カルゴ「笑い事じゃねぇよ、マジで怖かったんだぜ?食べ物の恨みってやつを、身をもって味わったぜ…」
すると、笑い顔から一変、真顔になる霖之助。
霖之助「…待て、それじゃあ霊夢も、君を追ってここに来るんじゃ…。そして、また何かを盗んでいくんじゃ…」
カルゴ「来るかなぁ?来ないと思うが」
霖之助「甘いよ…。霊夢は、ここにもズカズカと平気で入ってくるんだ。そして、さりげなく懐に書物を忍ばせ、脱兎の如く逃走…」
カルゴ「アイツ本当に巫女かよ」
霖之助「霊愛を身篭った時もそうだ。育児関連の本を平気で持っていくし…。それより前だって、18禁や20禁の本を全て盗んでいくし…」
そーいやぁ、霊夢はエロ知識をここで仕入れたんだったな。でもどこに隠してるんだろう…。
霖之助「君からも何か言ってくれ、店の物が尽く盗まれるのはもうコリゴリなんだ。これでは商売にならないよ。…そもそもあんな本は、売る相手が居なさそうだがね」
うむ、よく言っておこう。
カルゴ「香霖はあーゆーの拾って読むのか?」
霖之助「読まないね。君と違って、性欲は人並みにも無いからね。女体にも興味無いし」
カルゴ「あぁ、そう…」
霖之助「君みたいに、大勢の女性を囲っているのを、ハーレム…またはヤリチンというそうだね。全く、君の性欲には感心するよ」
サラッと何言ってんだ霖之助ぇぇぇぇ!!!
カルゴ「すげー不愉快だからヤリチンはやめて」
霖之助「あれ、そうなのかい?この前読んだ本の中だと、そう言われた男は『それほどでも〜』…とか言って照れていたが」
カルゴ「ヤリチンって言い方は…うん、あんまり良くない意味で使われてるんだぜ。侮辱の言葉に等しいよ」
霖之助「ふむ…。やはり外から来た者に聞くのが一番だな。書物の情報全てが正しいワケでは無さそうだ」
カルゴ「それもしかして漫画じゃないか?それは鵜呑みにしちゃダメだぜ?」
霖之助「ご名答、漫画本だよ。どうして外の世界では、嘘の情報を垂れ流しているんだい?」
カルゴ「漫画は楽しむ為のものだ。新聞とは違い情報を発信する為のものじゃないからね、誇張されてたり色々おかしかったりするものなんだよ」
霖之助「なるほど、あれは娯楽品なのか」
カルゴ「うん」
霖之助「…じゃあ、これなんかはどうなんだい?本によって作り方が違うようなんだが…。どれが正しいんだい?」
そう言って霖之助が取り出した本は、ラーメンの本だった。著者は違うし、表紙のラーメンの種類も違うし、調理法が違うのは仕方ないだろう。
カルゴ「それらは、どれも正しいよ」
霖之助「??…わからないな。書いてあることも材料も全然違うのに全部正しいのかい?」
カルゴ「塩、味噌、醤油、豚骨、中華…。他にもあるけどさ、ラーメンっていう括りでは同じでも完成品が違う。種類が色々あるんだ。弾幕でも、霊力弾や妖力弾、魔力弾とかあるじゃん?」
霖之助「ふむ…こんなにあるのか。しかし、同じ醤油ラーメンでも、本によって作り方が違うようだが?」
カルゴ「そりゃ、作り手によっても違うよ。料理には個性が出るからな。ほら、俺のサラダと咲夜さんのサラダは結構違うだろ?」
霖之助「そういう事か…。ラーメン、一度でいいから食べてみたいな」
本を置き、うっとりした表情で宙を見る。
焼き鳥やウナギなどの店はあっても、ラーメン屋は見た事が無い。ラーメンとは、幻想郷には無い文化なのかもしれない。
カルゴ「因みに、何味が気になってんだ?」
霖之助「全部だ。全部食べてみたい。君は何味が好きなんだい?」
カルゴ「俺は……魚介系醤油ラーメンだな」
霖之助「魚介系?またよくわからないものを…」
カルゴ「詳しくはわからないが、魚とかでダシを取るんじゃなかったかな」
霖之助「生臭くないのかい?」
カルゴ「大丈夫大丈夫」
霖之助「なら、それも候補に入れておこう」
んじゃ、また今度作ってやりますかね。
俺も食べたいし。その時は早苗も誘おうかな。
簡単じゃないけど、本があるならクックパッドの代わりにはなるし。材料もあんだろ。細い素麺があるなら、ラーメン位の太さの麺もあるだろう。
霖之助「期待してるよ」
カルゴ「何に?」
霖之助「君の事だ、いつか作るつもりだろう?」
カルゴ「いつから読心術身に付けたんだ?」
霖之助「ふっ、君の思考くらい、手に取るようにわかるよ。何年の付き合いだと思ってるんだ?」
カルゴ「6年か」
霖之助「あれ、そんなものだったっけ。10年ほど経ってると思ったが」
カルゴ「幻想入りしてもう10年…初めて香霖堂に来たのが4年目…だから6年くらいだな」
霖之助「うーん、感覚狂ってるな…。まぁいい。その時を楽しみにしてるよ」
カルゴ「おう」
その時、俺の鼻がある女の匂いを感知した。
それとほぼ同時に、霖之助は顔を引き攣らせた。
霖之助「あ、あのシルエットは…!」
カルゴ「やべぇっ、隠れるから誤魔化してくれ!光学迷彩、オン!」
霖之助「おい!?き、消えた…」
蝙蝠になっても見つかったらオワリなので、丁度手に入れたばかりの光学迷彩スーツを使用した。
姿を隠した後は、触れられないように空中浮遊をしている。これで見つかりはしないはずだ。
もしガサ入れするようなら、開いてる扉から飛び出せばいいだけだ。霊夢の事だから、律儀に扉を閉めたりはしないと思う。
霊夢「霖之助さん、エスカルゴ居るかしら?」
扉を開けるなり、声を張り上げる霊夢。
入口にいる為、どうにもこうにも抜け出せない。
霖之助「唐突になんだい?今日は見てないよ」
霊夢「アイツの妖気がここで途切れてるのよね。匿ってないでしょうね?」
霖之助「さぁ、何の事だか」
霊夢「ふーん…?」
扉を閉めてツカツカと霖之助に歩み寄り、彼のそばにある、さっきまで俺が使っていた椅子に手を伸ばす霊夢。
霊夢「温かいわ。誰かここに居たわね?」
霖之助「…参った」
オイィィィ!?
霊夢「白状なさい!アイツはどこに居るの!?」
霖之助「エスカルゴなら、ついさっきここに来て僕が協力しないとわかると竹林の方角へ行った。ここで途切れてるっていうのは、飛んで移動したからじゃないかな?空中だと、風に流されて残りにくいらしいし」
霊夢「アイツ…中途半端に妖気残して撹乱させに来てるわね…!アイツの逃げ足は幻想郷で5本の指に入るくらいだし…捕まえるのは厄介ねぇ…。情報、感謝するわ」
バッと身を翻し、香霖堂から飛び立った。霊愛とは別行動らしく、娘の匂い、気配はしなかった。
カルゴ「サンキュ、香霖…」
光学迷彩をオフにし、先程の椅子に座る。
カルゴ「でも、嘘は嫌いじゃなかったか?」
霖之助「フン、いつも店の物を勝手に持っていく報いさ。僕もたまには、一矢報いねば」
そう言って、ニヤリと笑った霖之助。
カルゴ「そっか。何はともあれ、サンキューな」
霖之助「ああ。ところで、逃げるくらいだったら弁償して謝ればそれで済むと思うんだが。霊夢達の性格的に」
カルゴ「それな!…でも、この光学迷彩スーツに全財産使っちまって…。無一文なうwww」
霖之助「全く、君ってやつは…。しょうがない、少しくらいは僕が工面してあげよう」
カルゴ「ふぁっ!?」
地獄に仏とはまさにこの事…!
霖之助「商品が並べてある棚、見えるね。あれを整理してくれ。そうしたら給料をあげよう」
カルゴ「なるほど、アルバイトね」
霖之助「そういう事だ。じゃ、よろしく頼むよ」
カルゴ「おうよ!」
その晩
霊夢「はぁ〜……あのバカ、何処にいるのよ…。鈴仙や巫月の所には行ってないみたいだし…」
霊愛「お腹空いたー…」
霊夢「ご飯作るのはアイツの役割なんだけど…。居ないんじゃしょうがないわね。久しぶりに私が作るわ」
霊愛「……」
カルゴ「…よし、夕飯完成っと。あとはアイツらの帰りを待つだけだな。……ん、噂をすれば…。この匂い、2人共居るな?」
霊夢「あ」
霊愛「ちょっとお父さん!私のお団子!」
霊夢は驚いたような表情をして、霊愛はこちらに向かってきた。それを見、俺は体を90°に折り、頭を下げる。
カルゴ「すまない2人共!わざとじゃなかったんだ!誰も食べる様子も無く、棚の上にほっぽってあったからつい食べちまったんだ…!弁償はしたから、許してくれ…!」
霊愛「ならいーんだけど」
霊夢「ううん、もういいの。食べて欲しくないんなら、食べないでって言えばよかったんだもの」
カルゴ「10本も置いてあって、それが2人分だと気付けなかった俺の落ち度だ。買ってきた団子は冷暗所にある、食後のデザートにでもしてくれ」
霊夢「わかったわ、ありがと。でもアンタ、一体どこに居たの?妖気辿っても全く姿見えなかったんだけど?」
霊夢も霊愛も、怒りは忘れてくれたらしく、姿が見えなかった理由を尋ねてくる。光学迷彩スーツの事は言えない。悪用されるかもしれない。(悪用する為に買ったのだが。)
カルゴ「俺の逃げ足が速かった。ただそれだけ」
霊夢「ムカつくわねぇ…」
カルゴ「はは…。夕飯出来てるよ、食べようぜ」
霊夢「まだ食べれるのね、食いしん坊さん?」
カルゴ「逃げ回ったら疲れて腹減ったんだよ…。ほら、食べよーぜ」
霊夢「そうね」
こうして、丸々1日にも及ぶ長い長い逃走劇は幕を下ろした───。