さぁぁっと心地よい風が吹く真夏。
目が覚めかけるが、まぶたが重く、開けない。
身体も重く、思うように動けない。
生き残った…のかな?
巫月が手加減したか、はたまた打ち所が良かったのか…どちらかはわからんが、悪運が強いねぇ俺も…。あークソ、ふざけんな……どーして俺がこんな目に遭わにゃならんのよ…。
???「おーい」
空から女の声が降ってきた。
この声もよく聞き覚えがある声で、俺は、それに恐怖した。今は知り合いに会いたくはない。
事情を話しても信用してもらえず、心がズタボロになるだけだ。
なら事情を話さなきゃいい…とは思うが、それはやらない。何故なら、手伝って貰える可能性だって無きにしも非ず、だからだ。
カルゴ「ぁ……う……」
クソ、口もロクに動かねぇ…。
???「こんな所で寝てると風邪ひくぞ?いや、そもそもなんでこんな人里離れたところに人間が倒れてんだ?もしかしてもう死んでる?」
生死すら疑い始めたらしいので、俺は焦って説明を試みる。
カルゴ「……んで、ねぇ…よ…!」
???「おっ、生きてた生きてた。立てるか?」
箒から華麗に降りてきたのは、霧雨魔理沙だ。
誰にでも変わらないその態度に、なんとも言えぬ安心感を覚えた。
カルゴ「手、貸してくれ…」
魔理沙「おう、いいぜ!よい…しょっと!」
フワリと浮き上がる俺の身体。
立ち上がった事で、ようやく倦怠感も晴れた。
カルゴ「サンキュ、魔理沙…助かったよ」
魔理沙「いやいやー、それほどでも……え?お前なんで、私の名前を…。お前のような人間とは、知り合いになった覚えは無いんだが」
カルゴ「俺だよ俺…エスカルゴだ…」
魔理沙「…?あぁ、お前のそっくりさんか。残念だなぁ、アイツに化けるならもっと二枚目に化けないと。いや、顔はそっくりだから…翼と、目だな。アイツの彼女たちでも騙すつもりか?悪い事は言わん、辞めておけ。殺されて終わりだぜ?」
カルゴ「違うよ魔理沙、本人だ。朝起きたら何故か人間に戻ってたんだ。それで、永琳に事情を話そうと永遠亭に向かってて…巫月に攻撃されて、ぶっ倒れてたんだよ」
魔理沙「ははっ、こりゃたまげたな。そんな話でアイツらを騙せるとは思えんな、もっとストーリーを練らにゃ」
ダメだ…全く信じてもらえない。
魔理沙なら、と少しでも思った俺が馬鹿だった。
魔理沙「とりあえず箒に乗れ、里まで連れてってやる。夕方になれば、妖怪共がわんさと出てくるぞ?」
カルゴ「もういい…俺1人で行く!!」
魔理沙に背を向け、永遠亭を目指して走り出す。
魔理沙「あっ、おい……なんだアイツ。…それにしても、里で私の事知ってる奴がいるとはなぁ…魔理ちゃん照れちゃうぜ」
やっぱり、所詮、対人関係なんてそんなもんだ。
見た目が違えば全く信用してもらえない。
さっきは殺されるかと思ってレミリアに言えなかったけど、運命を見てもらえれば俺だと証明出来たはずなんだ。
誰かの運命の中で、誰かと話す人間の俺。そして俺目線から見た運命。そこで辻褄が合えば、俺が俺だと証明出来たはずだったんだ。
何せ、紅魔館の連中と人間の男とは関わりが無いから、そこに人間が絡めば、なにかしらの異変があったからだと結論付けると仮定できるからだ。
…いや、単なる甘えかもしれない。
でも、そう願わざるを得ないんだ。
それしか俺に道が残されていないんだとしたら。
誰とも話すこと無く永遠亭に辿り着いた。
道中、妹紅と会い同じように話した。
しかし結果は、言わずもがな。
両手に出した炎を見、炭にされると確信した俺はその場から逃げ出し、竹林に飛び込んだ。
しばらく迷った挙句、永遠亭に辿り着いた。
診療所が閉まる、直前だった。
カルゴ「あのー…」
鈴仙「あっ、あなたはさっきの…。なんですか、ついてきたんですか?」
嫌悪感を前面に出して警戒する鈴仙。
もう、まともに会話すら出来ないらしい。
こうなったら、他人を装うしかないのだろう。
カルゴ「……………いえ。手を怪我をして…」
とっくに血が固まった右手を見せる。
鈴仙「でしたらもう診療室にどうぞ、お師匠様はそこにいらっしゃいます」
手で部屋を示す鈴仙。
警戒心は解いてくれないようだ。
カルゴ「…ありがとう」
軽く頭を下げ、診療室に入る。
カルゴ「こんばんは…」
永琳「あら?まだカルテ貰ってないんだけど…。ウドンゲー、この人のカルテくれるー?」
鈴仙「手を怪我しただけらしいですー」
部屋の外の鈴仙に声をかけると、すぐに返事が返ってきた。まさに、打てば響くような感じだ。
永琳「それでもカルテ欲しいんだけど…ま、その話は後ででいいわ。…ごめんなさいね、私の助手が…。さて、消毒しましょうか」
カルゴ「永琳先生。俺です、エスカルゴです」
永琳「……あなたね?エスカルゴを名乗って巫月ちゃんとウドンゲの前に現れた変質者は」
綿に消毒液をつけ、ペタペタと血を落としながら話し始めた永琳。話は既に聞いているらしい。
カルゴ「違います、聞いて下さい。今朝起きたら何故か人間に戻ってたんです。目は見えないし、怪我も治らない。ただの人間に戻っていた」
永琳「ガーゼ貼りますねー」
カルゴ「咲夜さんと弦月姫には殺されかけるし、美鈴、レミリアにまでも、殺されかけた。事情を話しても、魔理沙にも信用してもらえなかった。妹紅にもだ。みんなみんなみんな、嘘だと言って全く信じてくれなかった」
永琳「包帯巻きますねー」
カルゴ「弦月姫が作ってくれたポケット内の空間で証明しようとしても証明すらさせてくれない。それじゃあ、どうやって俺を俺だって証明すりゃ良いんですか!!!」
永琳「…あなたねぇ、そんな夢物語みたいな話、信じる方がどうかしてると思うわよ?人間が薬を飲んで吸血鬼になったという話でも信ぴょう性に欠けるというのに。そんな薬を作れるのは私だけだと思うんだけどねぇ」
カルゴ「…そうだ。薬、作って下さい!吸血鬼になれる薬を!」
永琳「もちろん答えは、ノー!!」
カルゴ「っ…!」
永琳「なんで私が、成りすましのための幇助をしなくてはならないの?はっきり言って迷惑です、代金は結構なので、今すぐお帰り下さい」
カルゴ「嫌だ……嫌だ!今すぐ…」
永琳「ウドンゲ、この男をつまみ出して」
鈴仙「はい」
カルゴ「ゔっ……」
永琳に呼ばれ、俺の襟を掴みズルズルと引きずる鈴仙。女とは言っても妖怪だ、その力は人間とは比べ物にならず、俺は為す術もなく、ただただ引きずられるしか無かった。
鈴仙「二度と私達の前に現れないで下さい。次に現れたらストーカーとして自警団に通報します。では、お気を付けて」
扉を開け、ポイッと俺を投げ捨てて、冷たい目で見下ろしながら上記の言葉を発する鈴仙。
とても受け入れ難い事実で、これまでに無い程の喪失感を味わった。
カルゴ「くっそおおおおおおおおおおおお!!!なんで!!なんで誰も信用してくれないんだ!!みんな死んじまええええええええええええ!!!うわあああああああああ!!!」
悔しさのあまり、地を殴って大声で叫ぶ。
もう夜だ。朝飯すら食べていない人間の俺には、耐え難い空腹が襲いかかってきた。
しかしそれと同時に、今の俺以上に腹を空かせたヤツらが、俺の声を聞いて集まってきた。
妖怪「ニンゲン……ウマソウ…」
妖怪達だ。
人間達の天敵であり、今俺が最も恐れていた事。
能力も持たない人間は、食われて終わりだ。
言葉を発せる者は何かブツブツと呟きながらで、発せない者はただ唾液を垂らしながら、ジリジリとこちらに歩いてくる。
もういっその事…死んで楽になろうかな。
人間なら、一回死ねばそれで全てが終わりだ。
死体の処理は、この妖怪がやってくれるだろう。
カルゴ「……いいよ、お前ら。食えよ、俺の事。腹減ってんだろ?」
全方位を囲まれ、逃げられないと確信した俺は、地べたに寝転がり、四肢を投げ出した。