妖怪「コイツ……クッテモダイジョブ?」
妖怪「ダイジョーブ…ジャナイ……」
横になって身じろぎ1つしないのに、妖怪共は、俺を襲ってこない。あまりにも堂々としているので、逆に怪しんでいるらしい。
カルゴ「来いって。遠慮すんなよ」
妖怪「コイツ、アヤシイ…」
妖怪「ハラニ、ドク、シコンデルカモシレナイ」
挙句の果てには、妖怪共が集まり円を作り、人間らしく話し合いを始めた。それを見た俺は、次第にイライラが募ってきた。
カルゴ「テメーらよぉ……!」
妖怪共「?」
カルゴ「襲う勇気が無いなら現れんじゃねぇ!!俺の前から消え去れ!!うぉおおおおお!!」
ポケットから折りたたみナイフを取り出し、妖怪の群れに突進した。
この折りたたみナイフは、人間の頃に使っていたもの。けれど幻想入りした際に湖に落ちて、刃が錆び付いてしまった。
記念だから、と数年間はそのままにしていたが、数年前にふと思い立って、小傘に改良してもらった。その際には、俺の全エネルギーを打ち込んで妖魔雷霊剣と同レベルの得物に仕立てあげた。
今の俺には、十分すぎる武器だ。
だが今の俺にその力は引き出せない。
人間が使うとただのナイフと同じなのだ。
それでも俺は、この武器で戦う。
カルゴ「死にさらせ、下衆共がァァァァ!!!」
突き刺し、切り裂き、抉り、掻き乱す。
蛮性が解き放たれたかのように暴れ、それを見た妖怪共は後ずさる。
妖怪「コイツ、ヤバイ!」
妖怪「キレテヤガル!」
獣のような妖怪を10体ほど殺したところで、残りの妖怪共が一斉に逃げ出した。短刀を片手に殺しまくった俺は、大量の返り血を浴びていた。
青い血、赤い血、緑の血。
様々な色が混ざり、気色悪い色を作っていた。
カルゴ「はぁ…腹減った…」
動いた事で余計に腹が減った俺は、フラフラと、竹林を出た。もう、行くアテもない。
博麗神社には、行きたくない。
話したところで信じてくれないのは目に見えてるし、仮に…万が一にも信じてくれたとして、霊夢はどう感じるだろうか?
俺のために…そして、娘のために人であることを捨てたのだ。それに伴って、親友の魔理沙も人間を辞めたのだ。
この時点で2人の運命を狂わせている。
ただの人間に戻ってしまった俺が、顔を合わせる資格があるのか?否、ある訳が無い。
誰からも信用されず、妖怪にも殺されずに、生き残ってしまった人間。もう全てを終わらせたいと切に願う人間。
絶望、失望、絶念、銷魂、悲観、自棄、失意。
自暴、やけくそ、自暴自棄、捨鉢。
頭に浮かぶのは、「絶望」に類似した言葉だけ。
こんな人間は、何を望むだろうか?
そう、自殺だ。
カルゴ「…クソ…足痛いな…」
竹林から出てしばらく歩いた俺は、おぼつかない足取りで山へ向かっていた。
何の山か…勿論、幻想郷で山といえば、妖怪の山を指している。ここで、26年の短い命を絶とうと思う。
白狼天狗か鴉天狗の宿舎に襲撃して殺されるか?
天魔の屋敷に行って八つ裂きにされるか?
などの方法も考えたが、やめた。
出来るだけ、迷惑をかけたくはない。
カルゴ「行くか…」
死ぬ気の人間は、何だってできると思う。
妖怪の巣窟だろうが鬼の巣窟だろうが、どこでも行ける気がするのだ。
だから俺は、妖怪の山の登山を始めた。
無論、正面からでは無い。
馬鹿正直に警備の厚いところから侵入する阿呆が何処にいるだろうか。警備の薄いところから侵入して、登山を開始したのだ。
俺は、かくれんぼは昔から得意だった。
山の中なら、隠れられる場所は無限にある。
哨戒任務中の白狼天狗から逃れる為、休み休み、アチコチ隠れながら進む。
明日の朝には、頂上に辿り着けるだろうか?
そこから幻想郷を一望した後、火山に身を投げるつもりだ。幻想郷を目に焼き付け、一瞬で死ぬ。これ以上無い幸せな死に方だと思う。
妖怪の山は、激しく活動する火山だ。常に黒い噴煙を上げ、その猛々しさを幻想郷中に知らしめている。それが噴火しないのは諏訪子様の力が関係しているらしい。
光学迷彩スーツは、オンにしている。
だが、白狼天狗は鼻が利く。見えるか見えないかは、妖怪の山では大した問題では無いのだ。
天狗「…人間の匂い?…」
ジージーと虫の鳴く自然の中。
ボソッと呟く天狗の声すらも、人間の耳に入る。
その呟きに内心焦りながら、なおも歩を進める。
すると、ズルッと葉っぱで滑り、転倒する。
カルゴ「いててて…」
そんな中、不意にある人物と出会ってしまう。
雛「あら…こんな真夜中に、人間?」
鍵山雛…近くにいるだけでも不幸になるという、厄神様だ。俺は過去に、彼女に会って、酷い目に遭ったことがある。こことは違う、別な幻想郷で彼女と戦い、接近戦を挑んだがコケたり等して、パートナーの弾幕を喰らい…などだ。
カルゴ「こ、こんばんは…」
なんで見えるの!?
そうか、コケた拍子にボタンが押されたのか!
雛「こんばんは。挨拶は良いけれど、早く立ち去りなさい。ここは人間の来ていい所ではないわ」
カルゴ「は、はい…すぐ行きます」
光学迷彩を再びオンにし、山頂へ駆ける。
雛「消えた!?…どんな能力なのかしら…」
しかし、不幸はそれだけでは終わらなかった。
山頂へ直行する俺の前に白狼天狗の一隊が現れ、壁のように横並びになった。
天狗「ここに人間がいる、と厄神様から聞いた」
天狗「大人しく縄にかかれ!」
天狗「匂いで何処にいるのかわかるぞ!」
天狗「従わなければ生命の保証は無い」
少しでも動けば、それに伴い草がガサリと動き、俺の存在がバレてしまう。耐えるしか、無い。
空も飛べない、能力も使えない。
ただの短刀で、天狗の群れを倒せるはずも無い。
俺と白狼天狗達の睨み合いはしばらく続き、とうとう向こうが折れた。
天狗「…居ないのか?」
天狗「いや、匂いはある。…どこかで嗅いだことあるような匂いだが…」
天狗「それは俺も思った。…仕方ない、移動することにしよう。それでも見つからなかったなら、上に報告しよう」
天狗「だな」
ホッと安堵する俺。
だがそんな俺に、更なる不幸が襲いかかった。
ヌルッ……
カルゴ「…へ?」
足になにかが這う感覚がした。
恐る恐る目を落とすとそこには────。
蛇「シャアアアアアッ!!」
カルゴ「ぎゃああああああ!!!」
俺の叫び声を聞いた天狗たちは、何事だと駆け戻ってきた。だが、声はすれども姿は見えず。
狐につままれるような感覚に襲われた。
一方俺は、蛇を振り払おうと足をブンブン振る。
幸い、噛まれることなく、蛇を遠くに飛ばす事に成功したが、自分がいつの間にか白狼天狗に取り囲まれていることに気が付いた。
天狗「隙間無く、この周辺を包囲!アリの子一匹たりとも逃がすな!!」
リーダー格の者が声を上げると、俺の周りを天狗が囲んでしまう。直径7mほどの円を描いて。
ヤバイ、囲まれた…どうしよう…。
この包囲、突破出来るか?いいから、俺を静かに死なせてくれよ…頼むから…。
一か八か…やるしかない。
包囲を突破する策を思いついた俺は、助走しようと後方の白狼天狗にソロリソロリと近付く。
天狗「なんか匂いが強くなったような」
ヤバイ、これ以上の接近は無理か…!
後方の白狼天狗に触れるまで、あと1mはある。あと30cmは近付きたかったが、仕方が無い。
助走を開始し、走り高跳びの要領で、前方の白狼天狗の頭上を飛び越えた。
カルゴ「あいてっ…」
俺は、背面跳びしか出来ない。
だから、着地はいつもと同じ、背中だった。
天狗「なにか落ちたぞ!…何も、無い…?」
キョトンとしている天狗たちを放っておいて、俺は再び走り出した。足音も隠さず。
かけっこで天狗に勝てるなんて思ってはいない。
でも、かくれんぼは得意だ。追い付かれそうになったら隠れればいい。そう思っていた。
数時間後。
太陽が登り、人々が活動を開始し始めた頃。
俺は、妖怪の山の頂上に立っていた。
吸血鬼の頃は暑くて近寄れなかったこの山に。
カルゴ「幻想郷…やっぱ広いな…」
結局、昨日願ったばかりの、「幽香さんを倒す」という願いは未来永劫叶わなくなってしまった。
でももう、どうでもいいと思う。
幻想郷は美しく、そして…何よりも残酷だった。
物事には何事も、裏と表がある。
幸と不幸、善と悪、光と影、美と醜。
己の正義は誰かにとっての悪。
俺はこの一日で、彼女たちの裏の部分を垣間見たのだ。それに気付いた時、残酷だな、と感じた。
これまでの幸せが、すべて不幸となって、1日で俺1人の身に降り注いだように感じられた。
カルゴ「ごめん…勝手な俺を許してくれ、霊夢」
最後にもう一度幻想郷を一望し、博麗神社の方角に手を合わせて、霊夢に謝る。そして、マグマが煮え滾る火山に、その身を投じた。