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小鳥がチュンチュンとさえずる気持ちのいい朝。
視界不良になるほどの濃い朝靄に包まれる、妖怪の山の自然。妖夢が夜通し警戒してくれた中で、俺たちは平和に身体を休ませていた。
白狼天狗の警備が最も手薄になる、午前5時頃。
交代するため、夜勤班は昼勤班を起こしに行く。
その際、ダラケている天狗達の行動は遅く、警備が手薄になってしまうのだ。
そんな時間帯を突き、一匹の兎の妖獣が、2人の少女を抱えて、山を登らずに飛んできた。
妖夢「何者だ!」
てゐ「ひぃっ!?」
てゐは、まさか仕事場の入口に妖夢が居るとは思わず、堂々と入口から来てしまったために、見つかってしまった。
妖夢「霊愛ちゃんに穹ちゃん!お前が犯人か!」
犯人を逃がすまいと楼観剣に手をかける妖夢。
てゐ「タンマタンマ!!2人を返しに来たウサ!手紙読んで無いウサ!?」
妖夢「手紙は読んでたし私もそれは聞いていた!しかし、少しばかり話を聞きたい!逃げられては困るのだ!」
てゐ「わ、わかったウサ!というかこちらも話があるから、元よりそのつもりだったウサ!」
怪しい、と言わんばかりにしばしてゐをジト目で見る妖夢だが、今回ばかりは嘘でも無いだろうと判断し、てゐを仕事場の中に誘導した。
それから、てゐを客間で待たせ、妖夢はみんなを起こすためにそれぞれの寝床へ向かった。
しばらくして、全員が揃った。
俺と霊夢は手を繋いでいる。もちろん、右手だ。
カルゴ「おはよう、てゐ。昨日は、よくもやってくれたな?」
てゐ「そう威圧しなくても…。2人はただ寝てるだけだから、安心してほしいウサ」
カルゴ「なら、いいんだがな」
現在、穹と霊愛は布団で寝かせてある。
誰が見てもわかる様に、ただ眠っているだけで、目立った外傷もなく、何のために誘拐したのかを忘れてしまいそうになるほど、無傷だった。
カルゴ「それで、話って?」
てゐ「完全な吸血鬼になれる薬が完成したから、それを持ってきたウサ。このカプセルを飲めウサ」
そう言って懐から出したのは、透明なケースに入っている、黒いカプセルだった。外の世界で言う所の、ヘム鉄のサプリメントに酷似している。
カルゴ「カプセル…?液体じゃあ無いのか?」
てゐ「液体じゃ染み渡る前に排泄される可能性が云々かんぬん言ってたウサ」
カルゴ「ふむ…薬の事はよくわからんから…ま、永琳先生に任せるのが無難だろう。ほかに効能はあったりする?」
てゐ「丁度言おうとしてたウサ。その薬を飲むと物凄く眠くなるウサ。だから、それに身を任せて素直に眠ってほしいウサ。だけど、その時はうつ伏せで寝て欲しいウサ。仰向けだと、自重で翼の成長が妨げられるウサ」
それを聞き、自分が幻想入りした際にうつ伏せで寝ていた事を思い出した。ゲーム中に寝落ちしたから、あの時はうつ伏せで寝ていたのだ。
カルゴ「了解。じゃあ…飲むか」
カプセルを手に乗せ、コップに水を入れて準備を整える。飲んでも大丈夫なのか?不完全じゃ無いだろうか、と次第に不安になってくる。
霊夢「なんか寂しくなるわね」
るみゃ「そうかしら?エスカルゴのこと食べれるから、私としては嬉しい限りだけど」
霊夢「たっ、食べる!?そ、それってその…せ…セッ……」
さとり「『セックスするって事?』」
霊夢「なんでモロに言うのよ!?」
さとり「言い難いことを代弁してあげたんですが不要でしたか?」
霊夢「………助かった」
るみゃ「あいにくだけど、そっちはあんまり興味無いの。性器どうしの触れ合いが何になるのか、何をもたらしてくれるのか…。そこに興味はあるけどね。……ヤッてみる?」
ペロッと舌を出し、妖しげに微笑むルーミア。
以前までの俺ならば…もしかしたら、襲っていたかもしれない。しかし今の俺は、性欲はとびきり減退しているらしく、霊夢に抱きつかれたり手を繋いでいても、全く(性的には)興奮しなかった。
尤も、こんな状況で興奮したら「なんだコイツ」という事になりかねないのだが。
カルゴ「いや、いいよ。そういう仲じゃないし」
るみゃ「あら残念ね。なら、そういう仲になる?私はイイわよ?あなたなら」
カルゴ「…笑えない冗談だ」
文「あや…や……や……」
徹夜の文は、いつもの口癖を呟きながら眠りそうになっている。それを見て、早急に吸血鬼にならねばと思い、なんの前触れも無く、薬を飲み込んだ。
霊夢「えっ、ちょ…せめて一言言ってよ…」
カルゴ「ごめんごめ……Zzz……」
言葉途中で意識を失った俺は、テーブルに前のめりに倒れ、深い深い眠りについてしまった。
霊夢「早っ!!」
てゐ「あーあ…。霊夢、エスカルゴのこと、うつ伏せにして、寝かせてやってウサ」
霊夢「はいはい」
マットを敷いてあるところにうつ伏せに寝かせ、彼の変化を見守る。予想よりもずっと早く、その変化は訪れた。
さとり「あ…背中が盛り上がって…」
妖夢「大丈夫でしょうか…。ちゃんと元ある穴に通せますかね?」
妖夢のその心配も杞憂に終わり、元からある翼を通す穴に、新たに生えてきた翼も通された。
見る見るうちに大きくなっていく翼。
元通りの見た目で、元通りのサイズだった。
文「おお…!凄いですねこれは!あっ、牙はどうなったのか見てみましょうかね!てゐさん、翼の成長が終わったら、エスカルゴさん仰向けにしても良いですよね?」
てゐ「大丈夫ウサ」
文「なら…!」
霊夢「ちょ、文…念の為にやめときなさいよ…」
霊夢が止めるのも聞かず、寝ている本人の身体を仰向けにして、患者の歯を見る歯医者のように、口元を引っ張る。歯も吸血鬼の歯に生え変わっていて、吸血用の長めの牙も生えていた。
文「目の色!目の色は気になりますよぉ!!」
霊夢「もう勝手にしなさい…」
眠ったままの本人の瞼を強引に開けると、そこには元通り、紅に輝く瞳があった。これで、完全に吸血鬼へと戻ったことになる。……あくまでも、見た目は。
てゐ「変化が完全に済んだら勝手に起きるウサ。今は多分、内臓とかが吸血鬼のそれと変わってる途中だから、下手に起こすと今まで以上に不完全になってしまうウサ、気をつけろウサ」
霊夢「…だってさ、文」
文「はい?なぜ私?」
霊夢「あんたが邪魔しまくるからでしょ」
文「酷いですねぇ…否定はしませんが」
霊夢「しないのか」
そんな会話をすることおよそ30分。
ワイワイガヤガヤと何やら凄く盛り上がっている彼女らの声に起こされた俺は、目を開ける。
テーブル突っ伏して寝ていたはずだが、何故だか仰向けに寝ている。目の前には、俺の顔をのぞき込む、てゐ以外の皆の顔がある。天井を見上げてみると、視界がクリアで、白くぼやけていない。
左腕の痛みも完全に消えている。
霊夢「あ、起きた。おはよ」
カルゴ「…おはよう。目、よく見えるぜ」
霊夢「そう…なら良かった。私の顔も見える?」
カルゴ「ああ、よく見える。霊夢の可愛い顔が。さっきまではよく見えなかったが、肌綺麗だな。あとで、ほっぺ触らせて?」
霊夢「バカ…///」
カルゴ「そーやって照れるのが、また可愛いぜ」
霊夢「もう…///」
さとり「なんだか、すっかり元通りですね。心の闇はまだ、深く強く残ってますが…」
カルゴ「そう…か。まぁ、元通り…なのかなぁ?雷武器『雷刀』」
試しに刀を出してみるが。
文「あやややややややや!?」
カルゴ「うっそん…」
刀は生成出来ず、ちょっとした電撃が手から出ただけであった。つまり、鍛え直しという事だ。
10年分の努力が全て水の泡になってしまったが、吸血鬼に戻れたので、まずはそこに感謝するべきだろう。
カルゴ「…てゐ。今から手紙書くから、永琳先生に頼むよ」
てゐ「はいウサ!」
カルゴ「文、紙と封筒もらうね」
文「はいはーい、どーぞどーぞ!」
文から便箋を1枚と封筒を1袋もらい、作業机で手紙をしたためる。もちろん、感謝の気持ちは、忘れてはいない。
さとり「(やっぱり優しいですね…。いや、甘いと言うべきでしょうか?……どちらにせよ、この人らしいと言えばらしいですね…。心に光が戻るのも、そう遠い未来では無いかも…ですね)」
カルゴ「封筒には…んー…いや、何でもいいや」
霊夢「何て書いたの?」
カルゴ「さぁね。てゐ、頼んだぞ」
てゐ「しかと承ったウサ!」
今度は俺の手紙を懐に入れて、開いている窓から元気に飛び立った。
警備が濃くなった妖怪の山は飛んで移動するのが安全。それを分かっているてゐは、空を猛スピードで飛んで移動し、永遠亭へと帰還した。
てゐ「ただいまウサー!」
鈴仙「おかえり」
永琳「おかえり、結構早かったわね。もう少し、向こうで喋ってくるものと思っていたけど」
てゐ「エスカルゴから、手紙を受け取ったウサ!お師匠様宛に!」
永琳「私宛?わかったわ、見せて」
てゐから封筒を受け取った永琳は、丁寧に封を切り、中の便箋を1枚、取り出した。
八意永琳殿
あなたのおかげで元の姿に戻る事が出来ました。
今回の件はさておいて、まずはそこに、厚く御礼申し上げます。
娘達はまだ眠っていますが、じきに目覚めることでしょう。力を使ってみましたが、刀すら出せず何も出来ませんでした。10年分の努力は消えましたが、これから元の力が戻るまで修行します。
もし修行を終えた暁には、こうして誰かに手紙を託し、また連絡致します。
それでは、また。
アマルガムの吸血鬼、エスカルゴ・スカーレット
永琳「…ふふっ…。最後の最後に、ドデカい皮肉混ぜてきたわねぇ…」
感謝を述べつつ、隠された皮肉に気付いた永琳は思わず苦笑する。それが読み取れなかったウサギ2人は顔を見合わせて首を傾げる。
鈴仙「どこに皮肉が込められてたんですか?」
永琳「1番最後の、『アマルガムの吸血鬼』っていうところね。アマルガムっていうのは、主に、水銀と他の金属との合金をそう呼ぶんだけどね、『混ざりもの』っていうニュアンスもあるのよ」
鈴仙「混ざりもの………はっ!」
永琳「娘達や、本人は知らないけどスカーレット姉妹から遺伝子等を抜き取り、それをエスカルゴが取り込んだ。…混ざりものね」
鈴仙「なるほど…よく思いつきますね…」
永琳「外の奴らは皆こんなの思いつくのかしら?だとしたら、可愛げが無いわねぇ」
これには思わず鈴仙も苦笑する。
てゐ「10年分の修行とか可哀想すぎウサ。いつも修行しててのあの強さだったのに…」
永琳「私たちへの憎しみを糧に、さらに腕を磨く事でしょう。次に来る連絡がどんな連絡なのか、とても興味を惹かれるわ」
永琳は、自分らが憎まれる事に対して、なんとも思って無いかのような発言をする。
実際、何とも思っていないのだろう。
永琳から見てエスカルゴは、助手の彼。
直接的には、なんの関係もないのだから。
憎まれることに対して恐怖するのは、永遠亭では鈴仙、巫月の2人だけだろう。
今回の件には、輝夜とてゐは無関係なのだから。
てゐが帰ってからしばらくし、文は二度寝をし、妖夢は白玉楼へと帰っていった。
仕事場に居て現在起きているのは、ルーミアと、俺と、霊夢とさとりの4人だけだ。そこで俺は、意を決して口を開いた。
カルゴ「霊夢」
霊夢「なによ」
カルゴ「1回、キスさせてくれる?」
霊夢「は…はぁ!?急に何よ!?」
カルゴ「今のを見てわかったよ。このままじゃ、アイツらに復讐出来ない。だから、修行に出る」
霊夢「復讐……なんで?」
カルゴ「殺されかけ、信用されず…。俺がどんな思いをしたと思う?情けないから自分で言いたくないが、自殺するほどに追い詰められたんだぞ。…それを、何もせずに許せと?」
霊夢「許さなきゃ良いのよ。私は別に、それでもいいと思うけど。関わらなければそれで済むし」
カルゴ「…永遠亭には巫月、紅魔館には弦月姫。娘もいるのに、未来永劫関わるなと?多分、どこかでバッタリ出会う機会も出てくることだろう。けど、このままケジメつけないまま会ったら…。激情に駆られた自分が何するかわからない。けど力を戻してケジメつければ、何とか克服出来ると思うんだ。トラウマと同じだよ。だから、修行の旅に出たいんだ…頼む」
霊夢「はぁ……しょうがないわね。ま、あんたが強くならないと、私にとっても手応えのある奴が少なくなって退屈だし……特別に許してあげる」
カルゴ「ありがとう…霊夢」
霊夢「ほら、さっさと腰低くしなさいよ。あんた背高いんだから。さっさと済ませるわよ」
カルゴ「ん」
霊夢「絶対に、強くなって帰ってきなさいよね。じゃなきゃ往復ビンタ8901016回はやるわよ」
カルゴ「ひぇっ」
霊夢「頑張ってよね。…んっ…///」
久々の誰かとのキス。
彼女の唇はとても柔らかく、とても温かかった。
これだけで、今まで以上に頑張れると強く思う。
霊夢「…あ。二度目の吸血鬼化後で、今の初めてのキスね」
カルゴ「そうだね。霊夢が初めてだ」
霊夢「ふふっ…博麗の巫女のキスは、金がいくらあっても買えないわよ?死ぬほど頑張らないと、承知しないわ♪…でも、死んだら絶対許さない」
カルゴ「ああ、わかってる。…じゃ、行ってくr」
?「ちょ〜っと待って〜?」
一同「!?」
突然現れた、胡散臭くも呑気な声。
折角の見送りムードも1発でぶっ壊され、霊夢と俺は内心でイラッとする。
しかしその妖怪が持ってきた情報は、俺にとってかなり有益な情報であった。
時間が足りないよ!!!