それぞれの空間の、時間の流れの境界を弄れば、こんなことだって出来るんですよ…(震え声)
藍「紫様、大変です!」
次に現れた藍は、かなり焦っていた。
いつものように腕を組んで現れるわけでも無く、スキマが開くなり走って現れてきた時点で、もう何かがあったことは明白だった。
藍の服には、赤黒い血が付着している。
かといって、藍が怪我したわけではないらしく、その部位を押さえたり、痛がったりする様子などは全く無い。
紫「どうしたの?」
藍「ヤツが、暴走し始めました…!」
紫「あら…?確か、4年目で狂気を克服したって報告しなかった?」
永琳が思っていた通り、俺の中には再び、狂気が芽生えていた。とはいえ、スキマ空間には破壊するものが無いので、ただ叫んだり、やたらめったらに武器を振り回したりするだけだった。
藍さんの協力もあり、今回は4年目で狂気を克服出来たのだが、今回の暴走は狂気が原因ではなかった。
藍「ええ、克服しました。しかし今回の暴走は、狂気によるものではありません。勿論、吸血鬼の本能によるものでもありません」
紫「どういう事?」
藍「これも今回の件の影響なのでしょう、やたらネガティブな発言ばかりをし始めたと思ったら、急に自分の身体を切り刻み始めて…」
霊夢「はぁ!?」
藍「剣を浮かせて自分を串刺しにしたり、四肢を切り飛ばしたり…」
紫「ちょ、その報告はいらないわ」
藍「あれはもはや、リストカットという次元ではありません。いや、あれこそ、狂っている感じがして…私の服まで血が飛んできました」
紫「大変な事になったわね…」
藍「泣きながら大笑いしたり、誰に言うでもなく死ねだの恨むだのと叫んだと思ったら落ち着く。もうワケが分かりません」
さとり「心が壊れかけてる…?」
紫「まずいわね…心は、一度でも壊れたら修復は不可能…。たまに落ち着くってことは、なんとか大丈夫ということだけど…」
藍「はい。ここに戻せばなんとかなるでしょうが非常に危険です。もう少し、己を保てる様になるまで待つのが良いでしょう」
文「待って下さい。ルーミアさんは…?」
藍「ヤツが切り飛ばした四肢を美味そうに食べていたよ。彼女によれば、“心が闇に呑まれてるから不安定”だそうだが…」
さとり「心の闇…か。それさえも克服すれば…。狂気の時のように、闇をも操れるようになれれば大丈夫かと思うんですが…」
藍「…今の奴の様子を見るに、それは難しいな。何と言うんだろうか…喜怒哀楽が激しい?狂気の発展したのが今の状態の様な感じで…。とにかく酷く不安定なのは間違いない」
さとり「闇の力に手を伸ばしたのでしょうか…。もしそうだとしたら、安定しないのも無理ない」
藍「そうだな、私もそう思う。スキマ内で、ルーミアと似た力を感じた」
霊夢「死にはしない…でしょ?」
藍「それは大丈夫だろう。何より奴は、再生力がズバ抜けている。傷付けるより再生が勝っている今は、その心配は無い。心臓を刺そうともな」
霊夢「良かった…」
藍「いわゆる、闇堕ちというやつでしょうか?」
紫「そうね…。でも、自らの意思なのかしら?」
藍「意思…とは違うかもしれませんが、心の中の叫びが表に漏れてきたという感じがしました…。非常に辛そうで、苦しそうで…見てるこっちまで寂しくなるような感じです」
紫「彼、ああ見えて酷く傷つきやすいからね…。もう少し、様子を見ましょうか。狂気を克服した彼なら、闇も克服するかもしれない。…藍、よく気を付けて観察してちょうだいね」
藍「はい」
その頃、スキマ内。
叫び、武器を振り回し、荒れに荒れ狂った俺は、やっと心が落ち着いて、一息ついていた。
心の闇も具現化して操れるところまでは来たが、長時間使うとその闇に心が呑まれ、しばらくの間暴れ回るという副作用がある。(ルーミア談)
闇の力を使い果たせば、暴走…闇堕ちは解ける。
一応、闇の力でも分身を作れるようになった。
見た目から名付けるに、『影分身』か。
雷のエネルギーでの分身と、大元は変わらない。
カルゴ「……はぁ…やっと落ち着いた」
るみゃ「大丈夫?喉痛くない?」
頭が冷えた俺は、地面に手をついて座り込む。
トコトコとそばにきたルーミアが、何かを食べながら俺を見下ろす。意外なことに、パンツの色は黒ではなく薄ピンクらしい。
カルゴ「言われてみれば…。痛いわ。ルーミアはさっきからなに食ってんだ?」
るみゃ「あなたの左腕。前までより美味しいわ。闇の力が充満してる感じ。食べれば食べるほど、私の中にあなたが溜まる…♪」
カルゴ「あ、そ。…とりあえず、ここを出る前にワームホール作れるよーにしときてぇ…。いや、次に藍さんが来る前までに、だな」
るみゃ「さっきの“歪み”ね。そういえばあの狐、あれを見るなり血相変えて飛び出してったけど、止められたりしない?」
カルゴ「この俺が、やめろと言われて、はいそうですかってやめると思うかよ?」
るみゃ「いいえ、全く」
カルゴ「フン。…まだ小さい歪みしか作れない、そこをなんとかしねぇと」
るみゃ「頭1個分じゃあねぇ…。通るには心もとないものね」
カルゴ「蝙蝠になりゃ通れるけどな…霊夢とか、その他みんなが通れん。後でさとりのこと地霊殿に送る時とかにさ、上手く開けられたらなぁ」
そう言って溜め息をつき、エネルギーを凝縮し、空間を歪める。力を入れすぎると脳の血管がブチ切れそうになるので、力み過ぎない方が良い。
カルゴ「………ほら、見ろよ。こんだけ凝縮してんのにこんなんだぞ」
やっと出来た“歪み”は、直径1m程の穴。
向こうに見える景色は、煙のように胞子が立ち上っている、草木生い茂る森だ。無意識のうちに、魔法の森にでも繋いでしまったか。
胞子がこっちまで来てはたまらないので、景色を確認してすぐに歪みを閉じた。
るみゃ「でも、おっきくなってきてるじゃない」
カルゴ「使う度に凝縮するコツを掴んできたからかな?多分もっと練習すりゃ同じ量のエネルギーで大きい歪み作れると思うんだ。でも今は、闇の力の方を身に付けたい。暴走だけは避けたいし」
るみゃ「闇は無尽蔵…少し休めば満タンになる。私よりもよっぽど、闇の妖怪らしいわ」
カルゴ「そりゃどうも」
るみゃ「(私の場合は普通の闇、エスカルゴのは、心の闇。同じ闇でもその根本が違うけどね)」
カルゴ「暴走したら気絶させてくれよ?藍さんはまだ来ないし、いちいち疲れるのはヤだし」
るみゃ「はいはい、わかったわ」
カルゴ「…スペルカード発動。 ─────」
藍「紫様」
まだ9年経ったわけでは無いのに、先程とは違い落ち着いた様子で仕事場に現れた藍さん。
真顔に見えるその表情からは、いささかの驚きが含まれているようにも読み取れる。
紫「どうしたの?まだ1年と半年分あるけど」
藍「経過報告です。…奴は、ここに来て闇を克服しました」
文「わお!」
霊夢「流石じゃない!」
さとり「エスカルゴさん…!」
紫「まぁ!でも、どうやってそう判断したの?」
藍「奴は、狂気を目覚めさせるのと同様に、自身の中に秘められたる心の闇を解き放つスペルを制作しました。奴は先程、自分で『長時間使うと、副作用として暴走する』とルーミアに話していました。解除も出来るようですし、心が闇に染まり切る前に解除させれば……。これは、克服したも同然でしょう」
紫「そうね。他にはなにか言ってた?」
藍「…さっき話した時に…」
言葉を切って、申し訳なさそうに紫さんから目を逸らす藍さん。心做しか、耳が折れてるように見える。
紫「言い難いことかしら?大丈夫、怒らないから言って?」
藍「…はい。『ここを出る時は、自分で出ます』…と言っていました」
紫「私のスキマから自力で出られると?ふふっ、いくら私の予想を越えるエスカルゴでも、それは流石に無理でしょう」
藍「私は見れていませんが、『完成はもうすぐ』と言っていました。奴め、以前よりも力が遥かに強まっています。紫様の空間からも、脱出出来る恐れが…」
紫「随分と舐められたものねぇ…。呼び戻したらお仕置きしてあげなくちゃ」
カルゴ「ありゃあ…お仕置きですか」
紫「当たり前で……キャアアアアアアッ!?」
背後に、突如として現れた俺とルーミアに驚いた紫さんは、少女の様な甲高い悲鳴を上げた。鼓膜がビリビリと震え、キーンと耳鳴りがした。
藍「おっ、お前…」
カルゴ「狂気も克服し、闇も克服しましたので、帰ってきました。空間の歪みを作り出して、こうして移動も出来ます。…歪みって言い方ヤダな、スキマで良いですか?」
紫「あぅ……え…え、どうやって出てきたの?」
カルゴ「ですから、オリジナルのスキマを開いたんですって。こうして………こう」
大きなスキマは開けるが、紫さんの様にスパッと開く事はまだ出来ない。今回は、迷いの竹林へとスキマを繋いだ。正円のスキマからは、夜の竹林の風景が覗ける。
紫「………」
驚きのあまり、口をパクパクさせる紫さん。
いつものような威厳は感じられなく、見た目通り少女のような反応で、割と可愛い。
文「あやや〜……この穴も気になりますが、その周辺の空間…波打つように歪んでますね?」
正円のふちを指さす文。
穴のふちは、文の言葉通りグニャグニャと波打つように歪んでいる。空間を歪めるとは、それほど大変な作業なのだ。
カルゴ「無理矢理に歪めてるからね。あ、触ると感電死するかもだから気を付けて」
文「あやっ!?」
霊夢「もう…また暴走したって聞いて驚いたわ」
カルゴ「ごめんごめん。でも、もう大丈夫だよ。今までより強くなれたし、自信は戻ったし。闇も操れるようになったけど乱用するつもりは無い」
霊夢「危ないから?」
カルゴ「そゆこと」
霊夢「なるほどね。(目が冷たいように感じるのは気のせい…かしら?温かさ…いや、人懐っこさが消えたような…)」
カルゴ「…?」
それから紫さんや藍さんも交えて色々な話をし、肩を落として帰っていく紫さんを見送った。
さとりに、地霊殿に帰らなくても大丈夫なのかと尋ねたところ、こうなることも見越して、お燐にペットのエサ等を頼んであるそうなので、心配の必要は無いらしい。
その晩。
朝のうちにてゐから運ばれてきた霊愛と穹だが、俺達が寝る準備をしている頃にやっと目が覚めたらしく、軽く夕飯を食べ、風呂に入り、もう一度眠る事にした。
その間も俺達は、早々と寝る準備を進めていた。
文は、昨日はあまり眠っていないということで、今日は早く眠るそうだ。
霊夢「ねっ、今日も一緒に寝ましょ!」
でれでれいむは、今日も健在だ。
文「おっと、それはダメです!」
霊夢「は?なんでよ」
文「ここは私の仕事場ですから主導権は私にありますよ。昨晩は新聞を書いていたので黙認していましたが、今日は許しませんよ。エスカルゴさんと寝るのは、この私です」
霊夢「イヤよ。エスカルゴは私と寝るの。文でもそれは許せないわ」
文「ほう…やりますか?」
霊夢「私とやるっての?」
カルゴ「…サーテ、霊愛ト穹ト寝ルカ〜」
腕を組む霊夢から逃れ、寝る準備を進めている、風呂上がりの娘達の方へと向かう。
霊夢「待って♡」
文「待って下さい♡」
素晴らしく可愛らしい笑顔で俺の腕を掴む2人。
カルゴ「ナ、ナンデスカネー?」
霊夢「2人きりで寝たかったけど…仕方ないわ、諦めてあげるわ」
文「それは私のセリフですよ霊夢さん?」
霊夢「この私が身を引くと言ったのよ?黙って、流れに流されなさい?」
文「酷い言い草ですねぇ……。まぁ、ここは私が折れるとしましょう。さ、寝ますよ。3人で」
霊夢「そーね」
カルゴ「イテテテ…」
この日もまた、強引に霊夢に手を引かれ、子供達とそうするように、俺を真ん中にして両脇に2人を寝かせ、3人で横になった。
さとりはそんな俺を見て苦笑いして布団に入り、ルーミアは妖しげに笑い、床で眠りについた。
諏訪子「あ〜う〜……全然見つかんないよ〜…」
早苗「ほんと、どうしちゃったんでしょう……」
神奈子「流石に心配になってきたぞ…」
この日も、全く手掛かりを掴むことすら適わず、夜を迎えてしまった守矢神社の神々。
早苗は特に、人里にまで足を伸ばして手掛かりを探したがこれと言ってめぼしい情報は得られなかった。それもそうだ、人里には行っていないのだから。
諏訪子「どうしたんだろ…もう3日だよ?」
早苗「おかしいですねぇ…里でも見かけないそうですし…うーん…」
神奈子「そういえば地底で、怪力乱神から情報を得たぞ。なんでも、天狗2人と人間が猛スピードで地霊殿へ向かって、その直後にさとりを連れて地上に向かったそうだ。『人間だから違うだろうが、顔はかなり似ていた』と言っていたぞ」
早苗「人間じゃダメですよ〜…」
諏訪子「そーだよー…河童達も何も知らないっていってたよー…。にとりなら、なにか知ってると思ったんだけどなー…」
三柱「う ────── ん……」
文の仕事場にて、霊夢と穹が目覚めた頃。
永遠亭では巫月が目覚め、紅魔館ではフランとレミリア、弦月姫が目を覚ましていた。
この3人は、朝のうちに鈴仙と永琳が送り届けに来ていたのだ。咲夜さんはナイフを、美鈴は拳を構えたが、永琳にまんまと言いくるめられ、今の今まで付きっきりで看病していたのだ。
咲夜「お嬢様、妹様!」
レミィ「さく…や…?」
フラン「なんで、ここに……?」
咲夜「何でも、エスカルゴさんを探している途中に、お疲れになって眠ってしまった所を、竹林の医者に拾われたそうですよ。朝から何も食べずに居たのですから、行き倒れるのも仕方ありませんが…」
レミィ「そうだっけ…。まぁ、いいわ。今から、軽く夕飯食べたいわ。お願い出来る?」
咲夜「はい!妹様はどうなさいますか?」
フラン「私はこのまま寝る〜……おやすみ…」
咲夜「おやすみなさいませ」
レミィ「おやすみ」
力が戻り、皆が目覚め、困惑する中…。
1人の男は、“夢”を見ていた。
いや、“夢”という形で、回想をしていた。
みんなで楽しく笑いあった、あの日々を───。