ポカポカと心地よい日差しが降り注ぐ夏の日。
文の仕事場では、皆がワイワイガヤガヤと楽しく過ごしていた。霊夢と文は暇潰しに将棋を指し、霊愛と穹は外で弾幕ごっこをしている。
ルーミアはそんな2人を見守っていたり、いつの間にか部屋に戻り、腹を出して寝ていたり。
俺は窓辺に座り、青空に流れる白い雲をボケッと眺めていたりしている。
こんな時に心に浮かぶのは、つい先日までとても憎み、恨んでいたみんなと楽しく過ごした日々。
今も憎み、恨んでいる…はずなのだが、その思いも不確かなものになってしまった。
そればかりか───…。
さとり「やっぱり甘いですね、あなたは…」
カルゴ「ん…。やっぱ甘い?」
突然背後から声をかけられたが、あまり驚かず、自分でもわかっていた“甘い”という事実をさとりに尋ね返す。
さとり「何度も殺されかけて、自殺寸前まで追い込まれたというのになぜ許せるのですか?そこが私には全く理解出来ません」
その答えが心に浮かんだ時、さとりは、心底呆れたという顔をし、大きな大きな溜め息をついた。
さとり「はあぁ〜……良く言えばあなたらしい、悪くいえば甘いとしか言えないですね。しかし、命に関わる事だったんですから、そこら辺のメリハリはつけるべきだと思いますが?ケジメくらいつけましょうよ、いくら相手が愛する者でも」
カルゴ「メリハリねぇ…どーしよね」
再び空を見上げて考え込む。
数秒の間を置いて、さとりが提案する。
さとり「命を懸けるようなギリギリの戦いをし、向こうの誠意を見せてもらうとかはどうですか?倒したら許してやるぞ、みたいなことを言って。許して欲しい、申し訳ないと思っているのなら、あなたを倒そうと全力を尽くす事でしょう」
カルゴ「命を懸けるようなって付ける意味は?」
さとり「命に関わる事だったから、です」
カルゴ「あ〜…なるほど、やり返すのね」
さとり「そうです」
そっかぁ…そうだよなぁ…。
やられたらやり返す、倍返しだ…ってな。
さとり「向こうの方が人数は多いですが、実力はこちらの方が上と考えていいでしょうね。存分に苦しめて上げましょう」
カルゴ「おう。…みんな、ちょっといいか?」
窓辺から降りて、みんなに呼びかけると、バッとこちらを見てくれる。一斉にこちらを振り返ったものだから、一瞬だがビクッとしてしまった。
霊夢「ん?」
文「およよ?なんです?」
るみゃ「…?」
霊愛「なになに?」
穹「なんでしょう!」
作戦を話し終えると、霊愛と穹は不安そうに顔を曇らせるが、その他の面々が俺に同情してくれて俺の代わりに怒っている様子を見ると、やる気になったのか、2人で顔を合わせ、大きく頷いた。
霊夢「フン、あんな奴ら、この私が本気を出せば1人でも十分よ」
るみゃ「多分私だけでもいけるわ」
文「全員を彼方まで吹き飛ばせばいいんですが、どうせなら皆でやりましょう!エスカルゴさんの怒りを共有する、いわば同志ですから!」
やっぱ、優しいなぁ…俺ちゃん泣いちゃうぜ。
さとり「『俺ちゃん』って…あなたそんなキャラでしたっけ」
カルゴ「い、言うな…」
それから、4通の手紙をしたためたのち、影分身に託した。送り先はそれぞれ、紅魔館、永遠亭、妹紅の家、魔理沙の家だ。
俺が人間化したと未だに知らない妹紅と魔理沙は「身に覚えのない逆恨み」として捉えるだろうが別にいい。来ないならスキマで強制的にこちらに連れてくればいいだけの話だ。
俺は、意地でも奴らと戦い、鬱憤を晴らす。自己満足だと言われても、反発、反論はしない。
自覚しているし、実際そのつもりだからだ。
─────永遠亭。
てゐ「ん?真っ黒な妖怪?」
竹林を散歩していたてゐは、永遠亭の玄関前で、ボーッと佇んでいる影分身を発見した。
影分身の見た目は真っ黒な人間。
顔も無ければ、なんにも無い。
意思はあるらしいが操り主に忠実で、余計な事は一切喋ったり行動したりしない。
そういった意味でも、“影”だ。
影分身「……」
すると、影分身はてゐの方を向く。
てゐ「ひぇっ…顔も何も無いウサぁ!?」
ズザッと後ずさるてゐ。
影分身は、近付くと逃げられるとわかっているので、自分が近付くこと無く、操り主から預かった手紙を差し出す。
てゐ「…あ、もしかしてお前、パシリウサ?」
影分身「……」
てゐ「何か言えウサ!」
影分身「……」
表情も気配も何も無いのだが、何故だかイライラしてきたてゐは深呼吸し、心を落ち着かせる。
てゐ「とりあえず手紙は預かったウサ。えーと、エスカルゴからウサね。…エスカルゴぉ!?」
差出人を確認して目を丸くしたてゐは、影分身を見上げるが、そこにはもう誰もいなかった。
てゐ「お師匠様ぁ〜!!」
怖くなった彼女は、永遠亭に飛び込んだ。
─────妹紅の家。
あいにく、妹紅は留守だった。
出来るだけ早く知ってほしいが、本人に直接渡す必要は無い上に、彼女を探すだけ時間の無駄なので、玄関に入り込み、床に置いておいた。
─────紅魔館。
美鈴「おや、真っ黒な妖怪さんですか?」
いつも通り門番をしていた美鈴は、竹林方向から飛んできて、門番をガン無視で門の前に着地した真っ黒な妖怪に話しかける。
美鈴は気を感じられるが、この妖怪からは、その気を感じない。何かがおかしい。美鈴の中の警報が、これは危険だと警鐘を鳴らす。
影分身「……」
無言でペコリと頭を下げる影分身。その行動に、美鈴が目を丸くしたのは言うまでも無い。
美鈴「ども、紅魔館で門番をしています、紅 美鈴と申します。以後お見知り……あれぇ!?」
影分身に倣って、自身も頭を下げるが、次に頭を上げた時には、目の前にいたはずの影分身は忽然と消え失せていた。
妹紅が居なかったおかげで多少は時間がある。
こちらの方が重要で、この事を早く知ってほしいので、出来るだけ主のそばで手紙を落としたい。
咲夜「…今、扉の隙間から黒い何かが通り抜けたかと思ったけど…気のせいかしら?」
影分身「……」
紅魔館は、基本的に紅い内装だ。
黒いものが混じっていればかなり目立つ。
そこで影分身は、たまたま玄関の近くにいた咲夜さんの影に入り込んだ。
こうしていれば自然と主の元へいけると踏んだ。
だが、能力のことを考えていなかった。
レミィ「咲夜ぁー!しゃくやー!Gがぁぁぁ!!きゃあああああああ!!」
どこからか、主の子供っぽい声が聞こえてくる。
次の瞬間には、自分が取り憑いていた咲夜さんは消えていた。時を止めて移動したのだ。
影分身といえども時止めには対応出来ない。
本人の影と同化するのを忘れていた。
仕方なく、堂々と屋敷内を歩く事にした。
ここが最後の目的地ならばゆっくり出来る。だがあと1件の用事が残されている以上は、そこまで呑気に過ごすことは許されないのだ。
エントランスからしばらく歩いて、ようやく主の居るらしい部屋に到着。妹も居るのか、子供の様な話し声が扉の外まで聞こえてくる。
扉と床の隙間から部屋に入り込み、見つからないよう気を配りながらテーブルの陰に入り込む。
幸い、主にも妹にも従者にも見つからずに上手く入り込めた。
ドロワーズは着用しておらず、普通にパンツだ。
レミリアは薄紫、フランはピンク、咲夜さんのは白だった。
しばらくの間それを無心で眺めていたが、目的を思い出し、預かった手紙を咲夜さんの足元に置きその場を離れ、魔法の森へ向かった。
咲夜「あら、手紙?…エスカルゴさんから!?」
レミィ「見せなさい!!」
─────魔理沙の家。
魔法の森にある魔理沙の家。
影なので、胞子の影響は全く受けない。
道順は完全にわかっているので、さっさと目的地へと向かう。
影分身「……」
到着したはいいが、どうやら客人が居るようだ。
その客人とは、同じく魔法の森に棲む七色の人形遣いことアリス・マーガトロイドだ。
紅茶を飲み、クッキーを食べながら談笑しているらしい。何も、窓辺で食べなくても…と溜め息をつきたくなる。
アリスは、いつも自分の周りに多少の人形を展開しているために、影が勝手に動いたら怪しまれてしまうだろう。
どうしたものかと一瞬だけ迷うが、すぐに答えは出た。窓に挟めておけば良いのだ。
すると、すぐに本人は気付いた。
魔理沙「…ん?手紙?」
アリス「さっきまであったかしら?」
魔理沙「知らん。誰からだ?」
アリス「エスカルゴからね」
封筒の裏を確認したアリスが答える。
魔理沙「あいつから手紙?あいつなら分身飛ばすだろう、なんでこんなまどろっこしい事を…」
アリス「ほら、さっき魔理沙言ってたけど、人間に戻ったからじゃない?」
魔理沙「そんな話信じるかって〜……はぁ!?」
手紙を読んだ魔理沙の顔は、蒼白になった。
ちょうどその時、リミットが来た。
影分身はそこら辺の木の影と同化し、消えた。
カルゴ「クククッ…今頃、読んでる頃かな…?」
さとり「悪役の笑い方ですよそれ…」
カルゴ「フン、別にいいさ。あいつらからしたら俺が悪者なんだろう?」
さとり「まぁ…知らない人が聞けばただの逆恨みですからねぇ…」
カルゴ「はは…まぁな」
苦笑いで返事をする俺だが、次の瞬間、おかしな現象が起きた。
さとり「しかし、私たちはあなたの───」
カルゴ「…?」
突然言葉を切ったさとり。
よく見ると、様子がおかしい。
瞬きもせず、呼吸すらせず、全く動かない。
カルゴ「え、ちょ…はぁ!?」
他のみんなに目を向ける。
みんなも同じように全く動かない。
ひっくり返された将棋の駒なんかは、空中で静止しているから気味が悪い。外を見れば、哨戒中の白狼天狗や、悠々と空を飛んでいる鳶も静止しているようだ。
落ち着いてみれば、音すら無いのに気が付いた。
あまりに突然の事で、パニックに陥りかけるが、次の瞬間にはいつも通りの音が戻り、動作が戻ってきた。
さとり「───味方ですから」
カルゴ「あ、あぁ…。ありがとう…」
何だったんだ、今の…。
まるで、時間が停止したみたいな…。
さとり「…?」
霊夢「それで、なんて書いたの?」
カルゴ「え、えーと……」
紅魔館(永遠亭)の皆さん
こんにちは、エスカルゴです。
この度、修行によって力を完全に取り戻したので皆さんに復讐したいと思います。
俺は殺されかけたので、殺し合いがいいかな、と思いましたが、それはやめておきます。
幻想郷の秩序を保つ、博麗の巫女がこちらに居る以上はそんな事は出来ないでしょう。
本当は、もう許してもいいかなと思いましたが、やはりそれだと甘いと思います。
命が消えかけた事案ですから。
本当なら皆殺しにしたい所ですが、誰が死んでも他の誰かが傷つくことでしょう。
それは俺も不本意です。なので、多人数対多人数の勝負を申し込もうと思います。
完全に関わりを絶ちたいとも思いましたが、娘が居る以上はそうもいきません。
これを受けてくだされば、そちらが望むのなら、これまでのような関係に戻りたいと思います。
そちらが望まなければ、一生涯あなた方と関わる事は無いでしょう。あ、俺も不老不死だったな。
ルールはスペルカードルール。
スペルカードの枚数は無制限。
瀕死までなら良しとします。
時間制限は無し。
どちらか片方の陣営が全員戦闘不能となった時点で勝負を終了、決着とします。
こちらのメンバーは以下の通りです。
エスカルゴ・スカーレット
古明地さとり
博麗霊夢
博麗霊愛
射命丸文
射命丸穹
ルーミア
魂魄妖夢
そちら側は何人来ようと構いません。
しかし、今回の件に関わりのある者は強制参加となりますので、ご覚悟を。逃げようとした場合はスキマで迎えに行きますので、ご注意下さい。
場所と時間は、その時にお知らせします。
その方法ですが、紅霧異変の時のように霧を出しますので、その中心に向かって下さい。
それでは。
カルゴ「…こんな感じだったかな?魔理沙と妹紅にも似たような文面さ」
もちろん、まだ不老不死では無い。
しかし今回の件が片付けば、またどうにかして、不老不死になろうと思う。
でなければ、自爆技を使えないからだ。
霊夢「なんで妖夢?」
カルゴ「手紙書いてる時にさとりから聞いてさ。『妖夢さんも、あなたの強い味方になってくれるでしょう』って。…だろ?」
さとり「ええ」
カルゴ「これから、参加してくれるのか、聞きに行くよ。妖夢はこのこと知らないしね」
霊夢「そう、納得した。さとりが言うなら、そうなのかもね。あと、殺し合いがいいとか思ってたわけ?物騒ねぇ」
カルゴ「いいや、それはウソ。少しは、こちらの恨みの一端を見せたっていいだろう?『殺したくなるほど傷付き、恨んでたんだ。許してやるだけ感謝しろよな、クソがー』みたいな感じだよ」
「クソがー」とは思ってないが。
霊夢「なるほどねー。てゆーかあんた、霧なんて出せたっけ?」
カルゴ「いや、それもウソ。霧じゃなくて…」
さとり「“闇”ですか」
カルゴ「そゆこと。その時だけ闇を出して集まり次第すぐ消すから安心しなよ。視界奪うだけで、人体に害はないしさ」
霊夢「場所とかは考えてあるんでしょ?」
カルゴ「ああ。…ま、そこはまた後で、みんなに話すよ。いちいち話すのはメンドイからね」
霊夢「はいはい」
その後、妖夢以外の全員に作戦の確認をし、俺は妖夢の参加の要請に冥界へと向かった。作戦開始の予定時間を伝えると、快く承知してくれた。
それから、妖夢から色々な話を聞き、妖夢もまた俺のために怒ってくれている者の1人だと知り、改めて妖夢に深く感謝した。
キャラ設定
影分身(かげぶんしん)
性別:恐らく男
身長:172.0cm
体重:0kg
エスカルゴの闇のエネルギーの塊。
見た目は、真っ黒な人間。
そんな人間はいないので、妖怪と認識される。
目、鼻、口、耳など、全てが無い。
操り主、つまりエスカルゴに忠実である。
そもそも感情の有無すらあやふや。
妖気も何も無く、気を感じられない。
影らしく、薄っぺらくなって扉などの隙間に入り込む事ができ、物陰に隠れると絶対見つからないなど、隠密行動のスペシャリスト。
……と言えば聞こえはいいが、得た情報を伝える手段が筆談以外に無いので、専らただのパシリや囮に使われるだけらしい。
動作主の影に隠れて移動も出来るし、動作主の影と同化して、完全に憑依する事も出来る。
憑依さえすれば、影からは逃れられないし、時間停止能力も効かない。
なぜなら、本人の影と同化しているからだ。
時間停止能力者が時を止めても、その者の影は、その場からは動くので、同化すればいいのだ。