俺たちが偽の星空を眺めていた時。
紅魔館の方角からはレミリアたちが。竹林の方角からは鈴仙たちが。魔法の森からは、2人の魔法使いが猛スピードでやってきた。
それを見た俺は、プラネタリウムを解除して立ち上がり、今来た皆と50m程挟んで向かい合う。
永琳「(何かしら、あの目…。酷く冷たい…)」
美鈴「(邪悪な気を感じるんですが…)」
妹紅「(なんって濁った目なんだ…。以前のような澄んだ目には戻せないのか…?)」
皆一様に表情が強ばっていて、かなり緊張しているものと思われる。落ち着いた表情をしているのは、永琳、パチュリー、輝夜くらいなものだ。
紅魔館の面々は、小悪魔以外の全員。
永遠亭の面々は、てゐ以外の全員。
妹紅に魔理沙もちゃんと居る。
アリスはいつも通り、魔理沙を守るためについてきたのだろう。
こちらの面々は、手紙での予告通りだ。
魔理沙「よ、よう、エスカルゴ!やっぱり、人に戻ったなんて、冗談だったんだろ…?」
いつも父親にデレデレな娘たちすらも、口を固く閉ざす重苦しい雰囲気。そんな雰囲気に、ついに耐えられなくなったらしい魔理沙は、ちょっぴり吃りながらも口を開いた。
カルゴ「…やぁ、霧雨魔理沙。素直に来てくれてありがとう。でも、悲しいかな…。信じてもらえなくて、凄く寂しいよ」
魔理沙「そりゃ、あんな話そう簡単に信じられるかよ…。あんだけ、ヤバい力を誇っていたのに、それが急に消えて人間になってたとか」
妹紅「……あの後、このクソから話を聞いたよ。『永遠を司る者の存在が消えた』って。私ら以外に永遠を司る者なんてお前くらいしか居ない…。でもこういう事で嘘はつかない奴だから、お前のその話も信じるよ。……悪かった」
輝夜「クソって酷いわねぇ。あ、私は永琳たちの付き添いで助太刀だから、よろしくねー」
パチェ「…レミィのお願いだから来たわ。いつも世話になってるけど、そっちがその気なら本気を出させてもらうわ。…身体がもつ限りは、ね」
永琳「ちゃんと元に戻れたようで、安心したわ。非があったのはこちらだし…あなたのこの判断を甘んじて受け入れるつもりでいるわ。もちろん、ただでは負けないけどね」
それから、咲夜さん、弦月姫、美鈴、レミリア、フラン、鈴仙、巫月達からの色々な謝罪の言葉を聞いたが、どれも俺の耳には入らなかった。
闇を広げた頃に盛り上がっていた気持ちも、彼女たちと顔を合わせると萎んでいってしまったからだ。やはり、弱い人の心が残っていると思う。
カルゴ「御託はどうでもいい。俺は、謝罪の言葉なんか求めちゃいねぇんだよ。言っとくが、俺は本気だ。殺しはしないが、殺す様な勢いでいく。女子供でも、やられたことは、最低限やり返すつもりだ。逃げたければ逃げればいい。その度に、スキマで捕まえる」
魔理沙「スキマ…そういえば手紙にもそんなこと書かれてたな。紫がどこかに潜んでるのか」
ボソッと呟く魔理沙。だが、デビルイヤーの俺の耳にはしっかりと聞き取れた。
カルゴ「紫さんは呼んでいない」
魔理沙「じゃあ、スキマ何てのは脅しか」
カルゴ「仕方ない、見せるか。証拠を見せれば、嫌でも信じてくれるだろ」
そう言って俺は、目の前にスキマを開く。
大きさは直径30cmほどの正円だ。
向こうには黒い服と金髪のロングヘアが見える。
魔理沙「ギャッ!?」
突然に悲鳴を上げる魔理沙。
近くに居たものはギョッとする。
妹紅「どうした!?」
魔理沙「な、何かに髪を引っ張られて……って、何だこの手…エスカルゴの手か…?」
振り返るとそこには、筋肉質な右手が、空中に浮かぶ正円から伸びてきていた。みんながそれを見るや、手は引っ込み、円は閉じた。
カルゴ「…さぁ、これでも逃げられるか?」
魔理沙「嘘だろ…お前…っ」
カルゴ「どんな力も、極限まで高めればどんな事でも出来るんだ」
その言葉に絶望の表情を浮かべる魔理沙。
ちらりと賢者の様子を伺ってみたが、スキマにはあまり興味が無いらしい。
こんなやり取りも、もう飽きてきた。
そろそろ始めよう。
カルゴ「……心に溜まった
魔理沙「な、何の話だ?」
カルゴ「その“目的”が定まった今は…力の解放をガマンする理由が無い。……お前らみんな、ぶっ飛ばしてやんよ!!!」
妖気を全開にし、敵意を剥き出しにする。
それは、この戦いの開始を合図していた。
妹紅は炎の翼を出し、フランは
画して、8vs12の戦いが始まった。
カルゴ「喰らえや、俺の弾幕!はぁぁっ!!」
敵陣へ向けて、紅い妖力弾を放つ。全員が回避の行動を取り、逃げながらも弾幕を発射してくる。
こちらも皆が散らばり、お返しとばかりに弾幕を発射し始めた。穹は弾幕を発射せず、能力で全員のフォローをしている。
レミィ「皆殺しを考えてたとか、物騒…ねっ!」
地面を蹴り、レミリアが突撃してくる。
身体能力を存分に生かした体術が得意だからだ。
カルゴ「そうさせたのはお前だろうが…よォ!」
俺が振るった拳とレミリアの拳がぶつかり、凄まじい圧を放つ。どっかのアニメの世界の話か、と誤認しそうになるが、今自分がアニメの様な事をしているんだという事実を再確認した。
レミィ「だとしても、殺すのはやり過ぎだと思うけどっ!神槍『スピア・ザ・グングニル』!!」
カルゴ「ブーメラン乙だな!そんな槍、俺がへし折ってやる!!」
レミィ「やれるものなら、ねぇ!!」
挑発されたレミリアは、全身の力を使い槍を投擲する。その槍を、避けること無く、また手で掴む訳でもなく、スキマで受け止める。
そのスキマの向こう側は────…。
レミィ「がっ………はぁっ……」
咲夜「お嬢様!!」
レミリアの背中側だ。
深紅のグングニルは、見事にレミリアの胴体を貫いていた。もちろん急所は外してある。そこから溢れ出る彼女の血液が、紅い槍を更に赤く染め上げる。
レミィ「ど……して…?」
膝をついて口から血を吐き、涙目で俺を見る。
カルゴ「言ったよな?本気出すって。裏切られ、殺される側の気持ち、少しはわかったかよ?」
レミィ「……」
カルゴ「まだまだこんなもんじゃねぇけどな?」
槍を抜こうと悪戦苦闘するレミリアに歩み寄り、その槍に手を伸ばす。右下腹部あたりを貫いている槍を、グリグリと動かす。
レミィ「っ…ぐぅ……動か、さないでっ…」
カルゴ「相手が嫌がることをするのが戦闘だよ。甘えんな」
レミィ「あ゙あ゙っ…ぐぁぁぁっ!!やめ、て…」
弦月姫「お嬢様から離れて下さい!やぁっ!」
俺の上半身に飛んできた、娘が放ったナイフ。
圧縮してスキマを作る暇が無かった俺は、渋々、グングニルから手を離し、回避行動を取る。
レミィ「ありがと…弦月姫…」
カルゴ「弦月姫…」
弦月姫「あなたは本当にお父様ですか…?」
レミリアと俺の間に立つようにして、数々のナイフを構える弦月姫。その後ろでは、娘の仕えている主が、槍を少しずつ抜いている。
カルゴ「いかにも、お前の父親だ」
弦月姫「嘘だ…お父様はこんな事…」
カルゴ「恨みや憎しみは、人格をも歪めるのさ。よく覚えておけ。雷武器『雷槍』!」
右手に、バチバチと火花を飛ばしながら輝く槍を装備する。これでも心もとないと思った俺は、それをグングニル大にする。
カルゴ「来い、弦月姫。お前から与えられたこの苦しみ、今度は俺が与えてやる」
弦月姫「…幻象『ルナクロック』!」
時を止め、全方位にナイフを配置する。
あとは、能力を解除するだけで、ナイフが飛ぶ。
だが、弦月姫のその計算は外れた。
カルゴ「甘いわッ!!」
弦月姫「ぐっ……!」
咲夜「!?」
一喝し、弦月姫の右手を狙いグングニルを投擲。
それは彼女の綺麗な手のひらを吹き飛ばし、槍は彼方へ飛んでいった。
もう俺に、時間停止は通用しない。
弦月姫「ゔっ……ど、どうして…時間が…」
カルゴ「さぁ、なんでだろうな」
恐らくこれは、弦月姫の細胞を取り込んだ副作用なんだと思う。するとそこに、咲夜さんが来た。時が止まった世界で動けるのは、この3人だけ。恐怖のためか、手が少々震えている様に見える。
咲夜「もう…こんな事、やめて下さい…。自分の子供に手を出すなんて…」
カルゴ「嫌ですよ?どこの誰がこの俺を殺そうとしてくれたんです?それに、娘から父親にならば手を出しても良いと?」
咲夜「…弦月姫とお嬢様方の分の制裁は私1人で受けます!ですからどうかお許しを…」
カルゴ「咲夜さん1人で受けたってなんの意味も無いんですよ、何の為にここまで準備してきたと思っているんですか?いい加減にしないと流石の俺も怒りますよ?混合武器『雷刀&雷銃』」
弦月姫がそうやったように、俺は2人の周辺に、ナイフを配置する。まずいと思った弦月姫は、先手を取ろうと能力を解除するが。
カルゴ「雷鎧『サンダーアーマー』最大出力」
紙一重で鎧を纏い、ナイフを弾き返す。
惜しかったその攻撃に、弦月姫は下唇を噛む。
カルゴ「行け」
合図を送り、ナイフを発射する。
咲夜さんも弦月姫も、時を止めずに回避。
レミィ「退きなさい、2人とも」
2人「はっ!」
背後の主が復活し、2人はさとりや文など、ほかのメンバーの元へ向かった。
レミィ「よくもやってくれたわねぇ…!」
槍を抜き終えたレミリアは、こちらに敵意を向け膨大な妖力を解放する。目に見える訳では無いが妖気の波のようなものを感じられる。
カルゴ「あの時湖に入らなきゃ、俺の事殺そうとしてたくせによく言うな?ま、本気でぶつかって来てくれなきゃつまらないけど。いいから全力で来いよレミリア。その全力も尽くへし折るがな」
レミィ「っ…お前ぇぇぇっ!!」
プライドを傷付けられたか、キレたレミリアは、さらに速度を増して突撃してくる。
その単調な攻撃に、俺は溜め息をつく。
焦れったくなったり、キレると攻撃が単調になるクセ、直せってずっと前から言ってんのにな。
カルゴ「俺の蹴りは、ちっとばかし効くぞ」
突っ込んでくるレミリアに一言、そして彼女の腹を思い切り蹴り上げる。
レミィ「ゴ、ハァッ…」
突撃の際はやはり前傾姿勢だ。
それが腹を蹴り上げやすくしているというのに、キチンとした防御をしないのは本当に不思議だ。
胴体に穴を開けず、そのまま舞い上がるレミリアの肢体。俺はその先にスキマを作って、目の前へ移動させようとするが、すんでの所で踏みとどまる。そして、地面で呆気に取られている俺へ、キックをお見舞いするが。
レミィ「ぐぁああっ!!」
鎧を纏っているおかげで、逆にレミリアがダメージを受けてしまった。頭に血が上ると、攻撃することしか考えられないのが難点だ。
カルゴ「吸血鬼はどうやったら瀕死になるのか、俺でもわかんないや。天魔レベルの攻撃すると、地上も傷付くし」
足が痺れているレミリアは地面で転がっている。そんな彼女を冷たい目で見下ろし、無慈悲にも、痺れている方の足を掴む。
レミィ「いやっ、離して…離しなさい!!」
ジタバタともがくレミリアだが、その度にジンジンと響くようで、次第に大人しくなった。
カルゴ「イヤだよ?このまま、フランと2人で、俺のスペル受けてもらうからな?」
すると、姉の危機に妹が駆け付けた。
もちろん、手にはレーヴァテインを持っている。
その背後には、服を一部焦がしてしまったさとりが地に伏している。フランの猛攻を受け切れなかったらしい。
フランの相手をしてたのか…。ごめん、さとり…俺、こっちの事で精一杯で……。
フラン「エスカルゴ、もうやめて!あの時の事は謝るから、もう許して!言うことも全部聞くし、いい子になるから!お願い…!」
声を振り絞り、祈るように叫ぶフラン。
カルゴ「…ごめん、フラン。人間の心ってさぁ、肉体よりも脆くて、壊れやすいモンなんだよね。それを、完全に壊れる寸前までボロッボロにしてくれたんだから復讐しないわけにはいかないよ」
フラン「ごめんなさい…ごめんなさい!お願い、もう許して!何でもするから!血に汚れるエスカルゴなんて見たくないよ…!」
カルゴ「それじゃあ俺の事なんか見なきゃいい。何でもするって言って、許される問題でもない。俺が殺される寸前だったんだ、本当ならとっくに皆殺しにしてるぞ」
しないけど。
フラン「見ないなんて出来ないよ…。いくら怒られても、悪い事しても、何人も彼女作っても……やっぱりエスカルゴのことが大好きなの!あなたに嫌われるくらいなら死んだ方がマシよ!」
カルゴ「っ…俺だって…やっぱり好………」
揺らぐな、俺。
決めたんだよ。ケジメつけるって。
何年か前の、子供だからヤるヤらないの話の時とは全然違うんだ。
好きか嫌いかの話は、この戦いの後でいいんだ。
好きじゃなきゃ殺してる。
それほど恨んでる。だから…好きだからこそ弾幕ごっこだけで許そうとしてるんだ。
カルゴ「だから、この本気の戦いだけで全部水に流してやるってんだよ!本当に許して欲しいって思ってんなら、その思いをぶつけてみろよ!それこそ、殺す気で来いよ!人間の俺を殺せたんだ、吸血鬼の俺の事だって殺せんだろうがよォ!!」
俺が叫んだ瞬間、一瞬だが戦場が静まった。その訳を考えていると、フランが口を開いた。
フラン「…わかった。絶対に許してもらうから!本気でいくよ、エスカルゴ…!その後、霊夢達もみんな倒すから!」
カルゴ「姉と一緒に、かかってこい!」
そろそろ痺れも治った頃だろうと思い、フランの方へレミリアを放り投げる。乱暴に、ではなく、下から上へ、フワリと。
レミィ「ったた…。恋人の殺人未遂が本気の勝負だけで許されるんなら、安いものね。いいわよ、本気でいってあげる!!」
魔理沙「(なんだよ、そーゆー事かよ…!つまり、あの手紙で本当に伝えたかったことは…!)」
永琳「(『殺したいと思うほど傷付いたけど、殺し合いに近いレベルの本気で戦ってくれるなら許してやる』……って所ね。何故そんなレベルなのかというと、己の命が危うかったからね。ま、命の等価交換と似たような思考回路ね。それを“ケジメつける”って言ってるだけ。私はわかってたけど、さっきの叫びのおかげで、他のみんなも気付いたようね)」
やっっっと真意に気付いてくれたな。
皆殺し…殺す…そういう物騒な言葉を使ってるのは、それほど傷付いたってのを伝えたいがため。
本気で殺すつもりは、ハナから無い。
けれども、最低限ケジメはつけなきゃいけない。
それは命が危うかったからで、これまでの問題とはその問題のレベルが違っていたから。
だから、それだけで許してやるって言ってんだ。
永琳くらいになりゃ気付くと思うが、多分、鈴仙たちには知らせてないと思う。永琳の性格的に。
カルゴ「そろそろ、新しい力をお目にかけよう。俺の思いの強さ、思い知れ!!!」
あちらこちらで弾幕が飛び交う中、俺はやっと、スカーレット姉妹に対して1枚目のスペルカードを発動させた。
次回はもっとクオリティ上げます…。