その晩、俺達は神社の屋根上で満月を見ていた。少々雲がかかっていて、月の輪郭は朧気だ。だがそれもまた、趣がある。
因みに、霊愛の事は早々に寝かしつけてある。
ここからは、オトナの時間だ。
高鳴る心臓を押さえながら、さり気ない動作で、左隣の霊夢の手の上に、俺の手を置く。ピクリと反応したが、されるがままになっている。
カルゴ「月が綺麗だな」
霊夢「そうね」
月を見上げながら「愛してる」と遠回しに伝えるが、霊夢からの反応は、普通といえば普通のものだった。一般人には、少し難しいかもしれない。
ならば、直接言おう。
深夜テンション…なのかはわからないが、なぜか今は、とにかく霊夢にこの気持ちを伝えたい。
そんな気分なのだ。
カルゴ「霊夢。愛してるよ」
霊夢「なっ、なな…何?急にどうしたの…?」
突然の愛の言葉に、当然ながら霊夢は困惑。
俺もその理由はわからない。何故だか急に、そう言いたくなってしまった。
ムラムラしてるのとは、また違う。
性的なドキドキではなく、2人きりのこの状況にドキドキしている。
カルゴ「わからない。…でも何か、そう言いたくなったんだ。ごめんな、急に…」
霊夢「別に謝る事じゃないでしょ。まぁ、少しは驚いたけどね。…私も、あんたのこと大好き…。愛してるわ」
カルゴ「ありがとう…」
ああ…幻想郷を一望しながら想いを伝え合う…。
すげぇイイなぁ…。
霊夢「私もあんたに言いたいことあるの」
カルゴ「なんだ?」
霊夢「あなたが死んでも離してあげないからね。よーく覚悟しておきなさいね」
ちょっと怖いなぁ…なんて返せばいいんだ?
可愛いからなんでも許せちゃうけど。
カルゴ「そりゃどうも」
霊夢「…でも…あんたが死んだら寂しいかもね。やっぱり、死ぬならあなたとが良いわ」
朗報。霊夢が深夜テンションに突入。
デレデ霊夢になった、これはちょっと楽しみだ。
一度デレると、普段以上に可愛くなるんだよな。
カルゴ「じゃあ…永遠に死なないで、いつまでも一緒に過ごそう。この幸せな時間をさ」
霊夢「うん…♪」
霊夢が俺の肩に寄りかかる。フワリと髪が動き、シャンプーの匂いが鼻をくすぐる。
霊夢「私と、いつでも手を繋げる場所にいてね…エスカルゴ…」
カルゴ「ああ…わかった」
彼女の手を優しく握りながら、俺も寄りかかる。
恒例となった屋根上デートも、かける言葉を変えるだけでとてもロマンチックなものになるのだと初めて理解した。
カルゴ「ちょっと照れるけどさ、こうして想いを伝え合うのって、なんかイイよな♪」
思ったことを素直に発言し、ニシシッと笑う。
すると霊夢は、俺の耳元でこう囁いた。
霊夢「あなたのその笑顔を1番に見るのが、常に私でありたいわ♪」
深夜テンション、バンザイ。
可愛すぎて、今すぐ抱きつきたいし、貪りたい。犯罪級に可愛い。襲いたくなるのも仕方ない。
心臓がうるさい。隣の霊夢にも聞かれそうだ。
ここまで盛り上がってるんだ…今しかないかな。
あーでも…うぐ…えぇい、やってやる!
カルゴ「霊夢に渡したいものがあるんだ」
霊夢「なになに?お煎餅?」
繋いでない方の手でポケットに手を突っ込むと、霊夢が身を乗り出す。こんないい雰囲気なのに、煎餅なんてモノを出すわけないだろうに。
カルゴ「違うよ。お揃いのものだ」
霊夢「?」
俺がポケットから取り出したのは、紅白の箱。
普通は紺色とかだろうが…常識に囚われない方が俺らしい。それに、紅白は霊夢の色だ。
そして箱を開け、中身を見せながら、ずっと言いたかったあの言葉を伝える。
カルゴ「霊夢。俺と結婚してくれ」
霊夢「ッ!?」
あまりに急なプロポーズに、驚いた霊夢は指輪と俺を交互に見る。かなり動揺しているのだろう、顔を隠したり口を覆ったり後ろを向いたり…と、かなり挙動不審だ。
しかし次に俺を見た時には、今までに見た事が無いほどの、可愛らしい笑顔を浮かべていた。
霊夢「はいっ♪」
良かった…人生最大の山場越えたぜ…。
それから霊夢の手を取って、左手の薬指に指輪を嵌める。サイズなどは前もって調べてあるので、ピッタリだった。そしてこの指輪、見た目は普通の指輪だが、色々な意味で普通じゃない。
サンの首輪と同じく、電力で形を作って、妖力でそれを包み込んだ物だ。その上から更に、溶かした金属でコーティングした。
さらに、持っているだけでもちょっとした効果がある。それが何なのかはまだ秘密にしておこう。
霊夢「へー♪ 可愛いじゃない、この指輪♪」
月にかざしたり手のひら側から見たり、様々な見方をする霊夢。
カルゴ「えへへっ…。眠れない夜はいつでも呼べよな。どこにいても、すぐに駆けつけるから」
霊夢「あら、カッコイイ♪ ナイト気取り?」
カルゴ「まぁ、そんなところかな?」
ナイトか…ふふっ、悪くないな。
それにしても…。
カルゴ「…いつ式あげようかね…」
やはり、式を挙げたいと思うのが男だろう。
金がかかる?知らんな、そんなこと。
霊夢「クスッ…子供も大きくなってるのに今更?この指輪とその言葉だけで、もう十分よ♪」
でもそれだとなぁ…何というか…。
カルゴ「…あと1つ、足りないのがあるな」
霊夢「…あ」
少し間を置いて、足りないものに気付いた霊夢は静かに目を閉じる。それを見てホッとした俺は、ゆっくりと唇を重ねた…。
霊夢「ふふっ…ありがと♪」
カルゴ「どういたしまして」
霊夢「でも、結婚に際して、1つ約束してほしい事があるの」
カルゴ「なに?」
霊夢「愛人とか彼女とかを増やすのはいいけど、私との時間を減らさないこと!いい?」
俺の両頬に手を当てる。
彼女の手から、熱い思いを感じる。
カルゴ「これ以上増やすな、じゃないのか」
霊夢「あんたの断れない性格もちゃんと考えてるのよ?でも、私との時間は減らさないで」
霊夢のお願いなら、たとえその人との関係が悪くなろうとも断るのに…。いや…どちらにしても、そろそろ自重しなきゃな。
10人目、とキリがいいし。
カルゴ「もちろんだよ、霊夢。大好き…」
霊夢「私も…」
屋根の上で、少し強めに抱き合う俺たち。
すると霊夢が、耳元で囁く。
霊夢「私は嬉しいけど、私が先でいいの?フランやレミリア…それと、鈴仙は?あなたと付き合い始めた順番的には、この3人が先じゃないの?」
俺も予想していたこの疑問を早速ぶつけてくる。大事な事なので、目を見て答えるために一旦抱擁を解く。
カルゴ「みんなはきっと、ホントに俺のことを好いてくれているんだと思うんだ。だけど…多分、俺の事をちゃんと理解してくれてるのは、きっと霊夢だと思うんだ。だから…初めての嫁は霊夢が良いなって…」
霊夢「ありがと、エスカルゴ…♪」
少女らしい照れ笑いを浮かべ、スルリと俺の背中に手をまわす霊夢。
カルゴ「俺の方こそ…」
再び、屋根の上で熱い抱擁を交わした俺たちは、太陽が登りかけた頃に、ようやく共に布団に潜り込んだ。高ぶる気持ちは終始収まらなかったが、ここまで誰かに愛おしさを感じたのは、生まれて初めての事だった。