幽香さんと別れた俺たちは、変わらずひまわりの咲き乱れる花畑の中を歩いていた。
霊夢「それにしても…本当に幽香に勝つなんて。やっと勝てたのね。私は一発で勝ったけど」
ほらな…俺が何年もかけてやっと勝てた相手に、霊夢は一発で勝ってる。つまり俺は、霊夢よりも弱い。…悔しいなぁ…。
カルゴ「あの人とは相性が悪いんだよ…。今回は力で押せたから勝てただけだし、次に戦っても、勝てるかもわからん」
尤も、霊夢には相性なんてもの関係無さそうだ。
全てを
霊夢「勝てるでしょ。今のが幽香の本気でしょ?だったら、アイツはもうあなたには勝てないわ」
カルゴ「そう上手くいくといいが…。そういや、傘を壊してから比較的俺のペースになったよな」
霊夢「そうね。幽香と戦う時は…」
カルゴ「傘を最優先で攻撃せよ、か」
霊夢「言おうとしてたのに…」
そう言ってぷっくり頬を膨らませる。俺はそれを見て、やはり頬に手を伸ばす。
止められない、止まらない。霊夢の頬いじり。
カルゴ「へへっ。…防御力の高い傘を壊すには、とんでもない攻撃力が必要になる。が、超電磁砲の破壊力の方が圧倒的だから、超電磁砲を放てば傘は壊せるな」
霊夢「もうそこまで対策思いついたのね」
カルゴ「まぁね。直線にしか進まないから避けられない事は無いんだけど、これってスペルカードルールに違反してないか心配なんだよな。霊夢はあれ見てどう思った?旦那とか関係無く中立的な観点からの答えを頼むぜ。もしダメなら使わないようにするからさ」
霊夢「大丈夫でしょ。避けられないなら相殺すればいいし、それすらも出来ないなら自分の力量が足りてないって事だし。なによりあなた、鬼とかそういう相手じゃ無きゃあの技使わないでしょ」
避けられないなら相殺…それ言ったら不可能弾幕だってそうなるような気がするが…言い方の問題だろう。確かに、超電磁砲はまだ避けられる。
俺が金属片を弾いたら動けばいいだけだ。
カルゴ「まぁそうなんだがな。それでもルールはルールだし…うむむ…」
うーん…今度紫さんに聞いてみようかな。
あやふやなままではいけない。
勿論、霊夢の事は信じてはいるが、音速を遥かに超える弾幕って少々マズイと思うんだよね…。
ルールの詳細を尋ねてみてもいいかも?
霊夢に聞いても「違反してないから大丈夫」とかそんな感じだし…。
ぶっちゃけ、スペルカードルールのすべてを把握してる訳じゃないしな。
霊夢「なーに考え込んでるのよ」
カルゴ「特に。いやー、歩くのでやっとだ。早く回復してくれないかなぁ」
霊夢「ふふっ、これから戦うわけでもないのに?ゆっくり回復させればいいわ。疲れた身体にも、休息を与えなきゃ」
カルゴ「うむ…そうだな」
ザァァッと強めの風が吹き、花びらが空に舞う。
小さい太陽のようなひまわりが沢山植わっている広大なひまわり畑も、もうすぐ終わりを告げる。
名残惜しい気持ちもあるが、躊躇わず出口へと足を進める。しかし、その出口には、1つの大きな人影があった。その手には、銀色に鈍く輝いている大鎌が握られている。
??「博麗霊夢…貴様の命、貰い受ける」
霊夢「!!」
カルゴ「なンだァテメェ?急に現れて訳分からんコトを抜かすなクソボケが!」
死神?おかしい、早すぎる。
霊夢が仙人化して、まだ10年も経ってない。
確か死神ってのは、数十年から百年に一度って…言われてるはず。前回、天子からそう聞いた。
…まさか、どこかで運命が狂ったのか?
霊夢「華扇から聞いたわ。コイツが死神ねぇ…。言葉は悪いけど、殺さなきゃダメなんでしょ?」
カルゴ「ああ、そうらしい。俺がやるよ。霊夢が手を汚すことは無い」
霊夢「こんなヤツ相手にあんたの力借りるまでも無いわよ。殺らなきゃ殺られるって言うんなら、罪悪感なんてものは感じないわよ。…そもそも、これまでに沢山妖怪共を滅してきてるしね」
カルゴ「…わかった。頑張って」
仙人・天人の宿命…死神の襲撃。
これを跳ね除ければその分寿命を伸ばせる。
ただ一つ疑問なのは、襲撃が早すぎるという所。
魂を刈り取るために地獄から送られてくるらしい死神だが、いくらなんでも早すぎるのだ。
霊夢はまだ20代。仙人となっていなくても、人間として普通に生活している年齢だ。
仙人になってるとはいえ、その真価を発揮してるという訳でもないのに…なぜ死神の襲撃が?
その理由を考えると、1つの仮説が浮かんだ。
既に仙人の真価を発揮している…という事だ。
もしかしたら、人間のままだったとしても、霊夢の寿命は今日より短かったのかもしれない。事故を初めとする何らかの要因で、若くして亡くなる事自体は、ごく普通だからだ。
そして、仙人になった事でその運命を回避した。
もしこの仮説が正しかったとしたら、霊夢は既に寿命を伸ばしていることになるから、仙人の真価を発揮しているという事になる。
だとしたら、仙人になって正解だった。
仙人になれば、次に襲い来る死…「死神の襲撃」さえキチンと撃退すれば寿命を伸ばせる。つまり死ぬ運命を変えられるからだ。
────押され始めたら助けに入ろう。
遊歩道の端に移動して、己の中に霊力を充満させながらそんな事を考える。しかし、そんな考えは彼女のを信用していないことと同義ではないかと己の考えを恥じ、ただ勝負を見守ることにした。
死神「いくぞ博麗霊夢!」
鎌を振りかぶり、霊夢に接近する死神。
霊夢「来なさい!そんな鎌へし折って、あんたが来た地獄に落としてあげる!」
お祓い棒を構え、御札を投げて死神を牽制する。
死神「くっ…こしゃくな…」
足止めを喰らった死神は、鎌で御札を弾くためにその場で鎌を振り回す。風の刃などが出るか、と思ったが、そんな便利でもないようだ。
霊夢「終わりよ!霊符─────」
風が吹いていないのに、ひまわりが揺れる。
シュッという空を切る音。肉に刃物を突き刺したような、ブスッという鈍い音。
空中に散らばる真っ赤な鮮血。
霊夢「ッ…!?」
俺は目を疑った。
霊夢の腹からは、赤黒く血に濡れた大鎌が、天を刺すように上向きに突き出していたからだ。
いつの間にか、そこにはもう1人の死神がいて、霊夢に一撃を加えていたらしい。
カルゴ「霊夢ぅぅぅぅッッ!!」
俺は霊夢に駆け寄る。
それを見た、霊夢が相対していた死神よりも小柄な死神は慌てて鎌を引き抜き、霊夢の身体を地面に投げる。
カルゴ「霊夢!?おい、しっかりしろ!!」
霊夢からの返事は無い。ただ、僅かに顔を顰めたくらいしか、反応が見られない。
傷口からはおびただしい量の血が流れていた。
急所が外れているとはいえ、このままではじきに出血多量で死んでしまう。
いや、出血多量の前に、臓器が傷つけられた事で死んでしまうかもしれない。
死神2「ほい、任務完了っス。文字通りサクッと終わらせました」
死神1「かなりギリだったがな」
死神2「ナイス陽動っス先輩。今回は死ななくて良かったっスね。…死ねば良かったのに」
死神1「…とりあえず上に報告だ、ズラかるぞ」
死神2「うっス。(…ん?魂回収してなくね?)」
手をかける相手を間違えたなクソヤロウ。
一瞬で終わらせる。
翼を広げ、飛び立った死神に接近。
そして、まずは背の大きい死神の頭を蹴る。
吸血鬼の本気。死神の頭など脆く粉砕される。
パァンと風船が破裂したような音が青空に響き、血の雨が降る。頭を失った胴体も地面に落ちる。
死神2「先輩っ!?」
カルゴ「テメェも死ねッ!!」
フードを目深に被って、見えない顔を真正面から殴り、こちらも血の雨を降らせる。
花畑から出たところで良かった。
もし花畑の上空だったら幽香さんに申し訳ない。
血に濡れた拳を服で拭いながら、霊夢が倒れている場所へ舞い戻る。
カルゴ「待ってろ霊夢、すぐに永遠亭に連れてくからな」
霊夢「…ゴホッ……間に、合う……か…しら…」
カルゴ「喋るな。…チッ、何でこんな時にスキマ作れねぇんだよクソがッ!!」
力が足りずスキマを作成出来ない。それに嫌気がさした俺は地面を殴る。殴られた地面には放射状のヒビが広がる。
カルゴ「痛いだろうが、少しだけ我慢してくれ。2分…いや、1分の辛抱だ」
霊夢を抱きかかえ、広げた翼に霊力を込めてその場から飛び立つ。傷口からはボタボタと血が滴っている。
カルゴ「霊夢、聞こえてるか?あの死神たちは、俺がこの手で滅してきたぜ。今頃、三途の川でも渡ってるんじゃねぇか?両方とも1発だぜ」
俺は霊夢に話しかけ続けた。
意識を失いかけている中で、無言ではダメだ。
気をしっかりもたせる為、一方通行でもいいから話しかけ続けるのが大事なのだ。
霊夢「ね……エス、カ…ルゴ……」
うっすらと目を開け、口を開く霊夢。先程咳き込んだことで、口の中に血は残っていないらしい。
カルゴ「喋んなっての。…遠くに竹林見えてきたから、もう少しだぜ」
霊夢「…聞い…て……」
カルゴ「あぁもう、わかったよ。なんだよ?遺言とかそういうのなら聞かねぇからな」
霊夢「…キス……し、て…」
カルゴ「あぁ?何でこんな時にそんな…」
霊夢「早く……して…」
カルゴ「これが最後とか言うなよな」
そう前置きして、ほんの1秒ほどの時間、飛びながらでキスをした。
霊夢「わた……ぜった……死な…い……から…」
カルゴ「もう喋るなって、いい加減にしろ!俺も怒るかんな!」
霊夢「………」
やっと落ち着いてくれたか全く…。
それにしても、全然血が止まらない…。顔も若干青ざめてきてるのが気になるな。
止まれよ流血…血小板仕事しろ!
カルゴ「ほら、もう20秒もしねぇで永遠亭に到着するんだぜ。気をしっかりもて」
霊夢「………」
念の為に、血に濡れた霊夢の胸に手を置く。
ドクン……ドクン……
弱くではあるが、しっかり脈打っている。
大丈夫、間に合う。
霊夢は言った。「私は絶対死なないから」と。
しかし俺の手は、霊夢の脈拍の変化を明確に感じ取っていた。
トクン…………トクン…………
脈が弱くなり、次の鼓動までに間がある。
俺の顔に、冷たい汗が流れる。
カルゴ「ほら、到着したぞ!降りるぞ!」
トクン…………………
カルゴ「…え?」
霊夢の脈拍が停止したように感じられた。
永遠亭に到着した俺は、上空とは違って風のない地上に降り立ち、彼女の呼吸を確認した。
カルゴ「……嘘だろ…?」
普段なら桜色に染めている頬も、血が足りないせいか白くなっている。そして、若干ではあるが、体温も低下している。
カルゴ「霊夢…?」
彼女の脈拍及び呼吸は、完全に停止していた。