霊夢の脈拍及び呼吸が停止した。
それはつまり、彼女の死を意味していた。
カルゴ「霊夢!?おい、しっかりしろ!反応しろ霊夢!起きろ!今すぐ起きろ!!」
傷が開かない程度に彼女の体を揺さぶるが、ただガクガクと揺れただけであった。それを見て、俺の心にはなにか重いものがのしかかってきた様に感じられた。
カルゴ「永琳先生ぇ!!」
体当たりで乱暴に扉を破壊し、永遠亭の中に駆け込むなり、そこで働く医者の名を呼ぶ。ちょうどそこにいた数名の患者と仕事着の鈴仙は、ギョッとした顔でこちらを見る。
鈴仙「2人共、どうしたのその血!?」
カルゴ「俺の事はいいから!それより霊夢が!!救急だから、すぐ永琳先生を部屋に呼んでくれ!一番手前の部屋借りてるぞ!」
鈴仙「わかったわ!」
鈴仙の返事、患者のざわめきを背中で聞きながら部屋へ向かってひたすら駆ける。
部屋に入り、敷かれている布団に霊夢を寝かせ、永琳の到着を今か今かと待ち受ける。
胸骨圧迫をしたいが、穴が空いているこの状態で胸骨圧迫をしても、いたずらに血を無くすだけ。
そこで俺は、人工呼吸を始めた。
霊夢の唇や、手などの末端部分は、すでに冷たくなりつつある。しかしなりふり構ってられない。
ドタドタと廊下を走る音が聞こえてきた。足音は複数人分聞こえてくる。恐らく永琳と鈴仙の2人だろう。
永琳「エスカルゴ!霊夢はどうしたの!?」
色々な道具を持って、永琳と鈴仙の2人が部屋に到着。それと同時に、人工呼吸を一時中断する。
カルゴ「死神から不意打ち喰らったんです!呼吸も心臓も止まっちまってる!」
鈴仙「そんなっ…」
永琳「確認するわ、少し退いて」
言われた通り少し離れると、永琳は聴診器を取り出して霊夢の胸に当て、心音を確かめる。
驚いたように一瞬目を開き、やがてゆっくり目を閉じ、聴診器を外し、首を横に振った。
永琳「…もう手遅れよ」
カルゴ「嘘だ!霊夢にはまだ助かる余地がある!もう一度確かめて下さい永琳先生ッ!!」
永琳「呼吸も停止、心臓も停止…体温は低下してきている…。どんな病気でも治せるこの私でも、死人ばかりは蘇らせられないわ……」
カルゴ「嘘だ嘘だ嘘だ!霊夢はまだ死んでなんかいない!死人なんて言うなッ!」
永琳「認めたくないのはわかるわ。でも…これが現実なの。受け止めてちょうだい…」
カルゴ「受け止められるかよ、こんなの…!俺は絶対に認めねぇ!」
そうだ…地獄の死神が魂を持っていったのなら、それを返してもらえばいいんだ。……地獄をぶっ壊せばそれで済む話だ。破壊か…。俺がもっとも得意なことじゃないか。
カルゴ「…先生、取り乱してすいませんでした。地獄行って魂取り戻してきますから、霊夢の傷を塞いでおいてくれますか」
永琳「たとえ、傷を塞いで魂を戻しても、霊夢は生き返らないわ。そもそもの話、地獄への行き方分からないでしょう」
カルゴ「スキマを開けば良いだけの話です」
永琳「開けるなら、霊夢をここに運ぶ時に、既に使用してるんじゃないの?」
カルゴ「っ…紫さんに…」
永琳「あのスキマ妖怪は、多分手を貸さないわ。こういう、生と死を弄るようなことは、アイツは好まないでしょう」
確かにそうだ…。
それだったら、大昔、不知火麗葉に殺された巫女達を救ったはずだ。生と死の境界をいじって。
カルゴ「じゃあどうすれば……」
永琳「受け入れて。それだけよ」
カルゴ「────ッ!!」
受け入れる?認める?何を?霊夢の死を?
ふざけるな。何があってもそんなのは認めない。
落ち着け。激情に流されるな。俺なら何か、このクソみたいな状況を打破する方法を思いつく。
永琳「…ウドンゲ、棺桶の準備を」
鈴仙「…はい…」
カルゴ「おい待てよ!!」
畳を叩いて立ち上がる。
霊夢を棺桶に入れるなんて事、認められるか。
絶対に信じない。これだけは信じない。
永琳「霊夢のこの様子を見た所、死後数分だろうから…棺桶はまだ早いかしらね…。葬儀なんて、初めてで良く分からないわ…」
カルゴ「霊夢はまだ蘇生できる!」
永琳「いい加減にしなさい。死斑こそ出ていないけれど、いずれ時間経過に伴って出てくるのよ。もう手遅れなの、受け入れなさい」
カルゴ「…俺は、必ず霊夢を蘇生してみせる…。禁忌に触れようとも構わない…」
永琳「霊夢の遺体を使って実験しようとしてる?やめなさい。遺体を弄ぶ事は許さないわよ」
カルゴ「遺体?第一霊夢はまだ死んじゃいない。弄ぶ?無事に蘇生できれば、ただの医療行為だ」
永琳「…もう勝手にしなさい。ウドンゲ、エスカルゴを見張ってなさい。死姦しないようにね」
鈴仙「はい」
あいにく俺は、死姦なんていう歪みきった性癖は持っていない。考えろ。
そもそも、霊夢はまだ死んでないんだよ。恐らく仮死状態なだけだ。
俺はそう信じる。
なら、そこにまだ希望はあるはずだ。
カルゴ「鈴仙。献血用のチューブを4本、献血用の針を6本…それと、それよりも一回り太い針を2本、持ってきてくれ。頼む」
鈴仙「…なにか考えがあるのね?」
カルゴ「限りなく賭けに近いが…。何もやらないよりはマシだと考えている。早く頼む」
鈴仙「わかったわ」
パタパタと廊下を走る鈴仙。
カルゴ「待ってて霊夢…。道具が揃い次第すぐにでも助けてやるから…」
冷たくなりかけている霊夢の手を握って、鈴仙が早く戻ってくるのをただただ祈った。
霊夢を助けるための、未知の医療法。
それの方法、裏付け、必要な道具、行動…それら全てを、脳内で全て計算しながら。