キィンッ!ガツッ!ガシャッ!ギャリギャリッ…
そんな金属音が、紅魔館の門前に響く。
ナイフ同士が弾かれた時は軽く響き、組み合った時は少し重めの音。そして、組み合ったままで動かした場合は、金属が擦れる耳障りな音だ。
ぶつけている金属は同じであるにもかかわらず、ぶつかり方によって音が変わるのは不思議だ。
美鈴「はァっ!」
カルゴ「グッ…!」
ナイフを組み合わせていると、美鈴の重い蹴りが腹部に飛んでくる。銀のナイフに気を取られていた俺は、その蹴りをモロに喰らい、後方に弾き飛ばされる。
体勢を整える間もなく、美鈴は追撃。
高々と飛び上がって、踵落としの構えを見せる。避けるには体勢を整えたいが、美鈴の足はもう、眼前に迫ってきている。
カルゴ「そぉい!」
迫り来る踵を顔の前で手のひらで受け、そのまま上方に持ち上げる。持ち上げられた美鈴は、頭が下になって地面へと落下する。
カルゴ「もらっ───」
美鈴「フンッ!」
しかしそこは拳法家、受け身からのモーションは完璧で、振り下ろされる俺のナイフを銀のナイフで弾く。負けじと再度ナイフを振るうが、追撃は許してくれなかった。
ナイフ攻撃に集中していた俺は、またもや美鈴の蹴りを喰らい、若干高めに飛ばされる。
カルゴ「混合武器『雷刀&雷銃』!!」
空中で体勢を整えた俺はスペルを発動させる。
大量のナイフが美鈴をドーム状に包み込んだのを確認した俺は、例によってパチンと指を鳴らそうとするが。
美鈴「ムッ…これはちょっとキツいですね。防備『クラッドアーマー』!!」
すると、美鈴と背景との境界が、陽炎の様にぼんやりと揺らめく。まるで透明な鎧でも纏っているかのようだ。
カルゴ「…?」
首を傾げながらも、指を鳴らしてナイフを発射。しかし美鈴は変わらず防御の構えのままで、飛んでくるナイフを避けようともしない。
だが次の瞬間。
カルゴ「んなっ…!?」
なんとナイフは、美鈴の透明な鎧に弾かれてしまって、彼女には一本も届かなかったのだ。
美鈴「ふぅ〜、上手くいきましたか…」
カルゴ「美鈴…鎧か…?」
美鈴「ええ!エスカルゴさんの鎧を参考にさせていただきました!」
カルゴ「どうやって作ってるんだ、それ…」
美鈴「気を纏っているだけです!o(`・ω´・+o) 」
ガッツポーズをとりドヤ顔をする美鈴。気を纏い鎧と成す…やっていることは俺と同じだ。まさかこんなスペルを作っているとは思わなかった。
そういえば美鈴の能力は《気を操る程度の能力》だった様な気がする。
カルゴ「じゃあ…まずはその鎧を壊さなきゃか!『雷神拳』!!」
四肢に雷を纏い、急降下して美鈴へ攻撃。
美鈴「良いんですか?鎧を使わなくて…もっ!」
攻撃を避け、拳を振るう美鈴。
俺の驚いた様子がよっぽど嬉しかったのか、少しばかり調子に乗っているような気がする。まぁ、今だけは調子に乗らせてもいいかもしれない。
何があっても、勝たせはしないが。
カルゴ「はぁ…危なかった」
美鈴「うぅ〜、悔しいです…」
結果は、僅差で俺の勝ちだ。拳、弾幕、ナイフで俺を追い詰めてきた美鈴だったが、戦闘中、俺はあることに気が付いたのだ。
美鈴のナイフは金属なので、能力で弾けばいい。それを実行し、モタついた所を雷刀で気絶させたのだ。
結局俺は、美鈴のナイフを受け止めることにしかナイフを使用しなかった。
ナイフ術の観点で言えば、俺はまだまだ。
咲夜さんや弦月姫はおろか、美鈴よりも下だ。
カルゴ「それじゃあ、中行くね」
美鈴「はい!また勝負しましょう!」
カルゴ「おうよ」
寝るなよ、と念を押して玄関へと向かう。笑っていたので、恐らく寝るだろう。
カルゴ「こんにちはー」
すると、すぐに咲夜さんと弦月姫が現れた。時を止めたのではなく、普通に走って。方向からして厨房に居たのだろう。
弦月姫「お父様ぁっ!」
咲夜「エスカルゴさん…お久しぶりです!」
弦月姫は俺の腰に抱きついて、咲夜さんはお盆を片手に深々と頭を下げる。
カルゴ「弦月姫、咲夜さん。お久しぶりです」
弦月姫の頭を撫でながら笑顔と言葉を返す。昼間から弦月姫が抱きつくほどに寂しい思いをさせていたのだろうか…。
弦月姫「お父様ぁ…お父様ぁ…」
グリグリと頭を押し付け、若干涙声になってくる弦月姫。やはり、彼女らしくない。
カルゴ「俺いなくてそんなに寂しかったか…?」
弦月姫「当たり前じゃないですかっ!4日に1度は会えていたのに、6日ぶりだなんて…!」
カルゴ「会いたくなったら来いといつも言ってるのに…。まぁ、来にくいのはわかるが…」
弦月姫「そうですよ、行きにくいですよ…」
カルゴ「悪かったな、弦月姫。…ところで、レミリアはどこに…?」
咲夜「お嬢様はエスカルゴさんの部屋でお休みになられています。妹様は図書館です」
うーん…どっち先に行くかな…。話の内容的に、レミリアの方を先に行こうか。たまにはレミリア優先しないと、拗ねちゃいそうだしな。
カルゴ「レミリアが俺の部屋に……ですか。了解しました、ありがとうございます」
咲夜「いえ。では、私達は昼食の準備に戻りますので、何かありましたらお呼び下さい」
カルゴ「わかりました。あぁ、あとで重要な話があるので、昼食の時にみんなが揃った時にでも」
咲夜「承知しました」
嬉しそうに手を振る娘に手を振り返し、俺は紅魔館での自室に向かう。いつも出迎えてくれるのはフランとレミリアが先なのだが、来なかった理由がやっとわかった。
なぜ俺の部屋にいるのかはわからないが。
フランが図書館にいる理由は何となく察せるが。
カルゴ「レミリア、居るか?」
扉を叩き、彼女が起きているかを確認する。
直後、ドタッと床に飛び降りた音が聞こえてきたと思ったら、次の瞬間には扉が開いていた。
レミィ「エスカルゴ…!」
ドアノブに手をかけたまま、俺を見上げて目を丸くする。なぜここに居るのがわかったの?とでも言いたげだ。
ふとベッドを見てみると、上で暴れたかのようにシーツや掛け布団が乱れ、枕が足元の方にある。一体何をどうしたらこうなるのだろうか。
カルゴ「久しぶり、レミリア。ごめんな、来るの遅くなっちまって」
彼女の頬に手を置いて、軽く頭を下げる。対するレミリアは俺の手に自分の手を重ねて、愛おしむように優しく包み込む。
レミィ「ホントよ…たまには会いに来てくれてもいいじゃない…」
泣きそうになったのか、目を擦った時のように、目の周りが赤くなっていた。レミリアが泣くなどありえないとは思うが。
カルゴ「それも含めて、ちょっとレミリアに話があってさ。ちょっと時間いいかな?」
レミィ「もちろんよ。さ、入って」
カルゴ「うん」
俺の部屋なんだが、という言葉を飲み込み入室。
そもそも紅魔館はレミリアの物だし、レミリアが入室を許可するのも…あまりおかしい話では無いだろう。
レミィ「それで、話って?」
部屋に設置されている椅子に座り、丸テーブルを挟んで向かい合う俺たち。レミリアにも、やっと普段の威厳が戻った様な気がする。
カルゴ「…レミリアのおかげで、大切な人の命を救えた。本当にありがとう。いくら感謝しても、感謝しきれない」
思ったことをそのまま、頭を下げて話す。無論、これは霊夢のことだが、当然レミリアはその事を知らないので、首を傾げる。
レミィ「どういう意味かしら?」
カルゴ「数年前、咲夜さんが吸血鬼になった時…どうやって人間から吸血鬼に変えたのか、方法を俺に教えてくれたよな。おかげで、瀕死に陥った霊夢を助ける事が出来たんだ…ありがとう…」
レミィ「あの霊夢が瀕死?一体何があったの?」
〜青年説明中〜
レミィ「そう…今の霊夢はあなたの眷属なのね」
カルゴ「ああ。まさか死神があんな汚い手を使うなんて、思っていなかったんだ」
レミィ「そりゃあ…あの天人の時には普通に正面からだったらしいし…そう思うわよね」
頬杖をつきながら、うんうんと頷く。適当なタイミングで相槌も打ってくれるし、案外レミリアは聞き上手…なのかもしれない。
カルゴ「その先入観があったから、霊夢のときも正面からだけだろうと思っていたんだよな。ま、命が助かったから良いんだけどさ…」
レミィ「なるほど。でも、珍しいんじゃない?」
カルゴ「何が?」
レミィ「あなたが頭を下げて礼を言ったことよ。いつもキチンと礼を言うあなただけど、頭を下げるのってあまり無かったもの」
カルゴ「そう、なのか…?」
レミィ「あなたと10年も付き合ってきた私が言うんだから、そうなのよ」
全く無意識だった。何かあったら礼を言うことは心掛けている。しかし、頭を下げるのは………。言われてやっと気付いたが、ほとんどの場合は、頭を下げていない。
俺の身体は、なにか重要な時だけ頭を下げるようプログラミングされているのだろうか?
下げるも下げないも、無意識下でのことなのだ。
カルゴ「多分、それだけレミリアに感謝してるって事なんだと思う。事実、感謝してもしきれないからな…」
レミィ「フフン、やっと私の存在のありがたみがわかったのね」
カルゴ「…まぁ、そうなるな」
腕を組んで大きく頷くレミリア。感謝されたのが嬉しいのか、口角がキュッとつり上がっている。
レミィ「でも変ね…。霊夢が吸血鬼になったってニュース、新聞として流れてこないわよ?」
カルゴ「文に頼んで記事にしてないんだ。霊夢の負担が増えると思ってな」
レミィ「確かに、吸血鬼霊夢を見に色んなやつが神社に押しかけるかもね。でも、お賽銭を貰える可能性も……無いか」
カルゴ「無いだろ。宴会の度に思う事だがな」
レミィ「ふふっ、そうね」
2人きりの時間はゆったりと流れていき、霊夢のこと以外も様々な話をした。レミリアからはここ数日の俺の周囲の状況について色々尋ねられた。それと、1つ予言をもらった。いつの間に能力を行使したのかはわからないが、明日俺の身に何か恐ろしいことが起こるそうだ。
「あの女には気をつけて」というのがレミリアの予言だ。ノストラダムスの大予言より確率は高いと思っていいだろう。
詳細を教えてくれないのがレミリアなので、深く尋ねたりはしない。とりあえず、明日は一日気を付けて過ごそうと思う。
レミィ「あら、もうお昼ね。そろそろ咲夜が来る頃ね」
置き時計を見たレミリアは、ガタンと席を立つ。
それを見た俺も、つられるように席を立ち、彼女を部屋の外へエスコートする。
レミィ「ところで、フランの所には行ったの?」
カルゴ「いや、まだだ。色んな話をしたが、霊夢の件について、最初に礼を言っておきたくてさ。つい話し込んじまった、フランには謝らなきゃ」
レミィ「あと、重要な話っていうのも、聞かせてもらおうじゃない」
カルゴ「ああ」
久しぶりにレミリアと手を繋いで食卓へ向かう。中に入ると、ちょうど咲夜さんがフランを連れて来たところだった。
フラン「エスカルゴっ!?」
俺に気付いたフランは、椅子を後方に放り投げて俺に突進してくる。咲夜さんは時を止めて椅子を元の位置に戻す。
フラン「えぇいっ!」
カルゴ「ぐはぁっ!」
レミィ「きゃっ!」
フランの頭が、上手い具合に俺の鳩尾にヒット。俺は転倒、手を繋いでいたレミリアまでも一緒に倒れてしまった。
フラン「おかえりなさいっ!」
俺に馬乗りになったフランは、天使のような笑みを浮かべておかえりを言う。久しぶり、では無くおかえりだったことに、少し驚いた。
カルゴ「ただいま。ごめんな、遅くなって」
フラン「ううん、大丈夫よ!でも、後でセッk…じゃなくて、弾幕ごっこしよーね!」
カルゴ「お、おう…そうだな!」
全く、咲夜さんやレミリア、弦月姫も居るのに、なんてことを言いそうになってんだこの子は…。
それより、まずはご飯だな。
咲夜「まずはお昼ご飯が先ですよ、妹様?」
フラン「はーい♪…あっ、その前にチューしよ!ねっ!」
言うなり、即座に顔を近付けてくるフラン。
しかし、いまだに手を繋がれたままのレミリアがそれを黙って許すはずもなく…。
レミィ「待ちなさい!あんたねぇ、エスカルゴのファーストキスを奪ったんだから今回だけは私に譲りなさい!」
フラン「そんなの関係無いもーん!したいときにすればいいじゃない!」
俺の首に手を回し、姉が反論しようとした瞬間を見計らって唇を重ねた。相変わらずぷにぷにしていて柔らかい唇。幼女ならではの感触だ。
レミィ「あっ、あんたね!!」
フラン「ふふ〜、またお姉様に勝っちゃった♪」
レミィ「う…うぅぅ………うー☆」
頭を抱えてうずくまってしまった。
俺はそんなレミリアの頭を帽子越しに撫でるが、フランはその間もチュッ、チュッと繰り返し唇を重ねてきている。姉の事は気にしていない様だ。
咲夜(妹様…なんて積極的…)
弦月姫(お父様…相変わらずモテモテですね…)
カルゴ「さて、そろそろ重要な話するか」
食後、片付けを終えた咲夜さんと弦月姫も呼び、皆に伝えておかなければならないことを話す準備を整えた。
レミィ「やっとね。それで、何なのかしら?」
カルゴ「まず1つ目な。詳しい事はまた後で話すとして、まずは聞くだけ聞いてくれ。…霊夢が、仙人を辞めて吸血鬼に…俺の眷属になった」
フラン、咲夜さん、弦月姫は目を見開く。
どういう事?とフランは騒ぐが、詳しい事は後でと念を押すと静まってくれた。
カルゴ「2つ目ね。今までは、紅魔館、紅魔館、永遠亭、博麗神社、仕事場…って順番で行き来をしていた訳なんだが…。霊夢の鶴の一声により、一日おきに博麗神社に行く事になった」
4人「えええええええええええええ!?!?」
博麗神社の頻度の増加に、4人は絶叫する。普段はクールに澄ましている、咲夜さんでさえもだ。もちろん、これは本当だ。ヤリまくったあの夜、霊夢が提案し、深夜テンションだった俺はそれをよく考えず、二つ返事でOKしたのだ。
フラン「なんで博麗神社なの!?」
レミィ「それは横暴だわ!」
弦月姫「酷いですよそれは!」
咲夜(多分、お願いすればまた深夜デート出来ると思うんですが…どうなんでしょうか…?)
精神年齢が子供な者は、頻度の増加によって会う頻度が減ることを危惧するが、大人な咲夜さんはそうなった場合の対策を考え始める。
そこが子供と大人の違いだと思う。
カルゴ「…それから、例によってあの脅し文句もついてきてるから一応伝えとく」
フラン「くっ……!『逆らったら退治してやる』ってやつね…!」
レミィ「実際、私たちじゃ到底歯が立たないからムカつくわねぇ…!」
弦月姫(…あれ?それでも紅魔館へは2回来る訳ですから、巫月お姉様や穹お姉様よりかは多い…ですよね?)
それから散々、説明を強要された挙句、ストレス発散の相手としてメチャクチャな攻撃を受けた。
3時のおやつを食べてから夕飯までの数時間は、小悪魔とフランの初めての3Pを行って、早々に2人の腰を抜かせ、何とか腹上死だけは免れた。
夕飯から就寝までは、吸血鬼5人でスマブラ並みの大乱闘を行い、日付が変わる頃眠りについた。
こうして、紅魔館での騒々しい1日を終えた。