弦月姫「それでは、行ってまいります!」
咲夜「粗相の無いようにね」
弦月姫「もちろんです!行きましょっ♪」
カルゴ「ああ。それじゃ咲夜さん、また後で」
咲夜「はい♪」
今日は紅魔館の日。博麗神社と各地を交互に行き来するというトンデモ生活が始まったワケだが、他の彼女らの事も、忘れてはいない。本来ならば今日は永遠亭の日なのだが、それについては分身を飛ばしたので安心していい。
明後日またしっかり話をすることにしよう。
そして今日、俺と弦月姫は買い出しに出かける。
咲夜さんも来たがっては居たが、レミリアの従者としてあまり動けないので仕方ない。もちろん、咲夜さんはそれも楽しんでいるので、“仕方ない”とは微塵も思っていないだろう。
主と居るにしても俺と居るにしても、咲夜さんにとってはどちらでも楽しめるということだ。
弦月姫「お父様と2人でお買い物だなんて、何年ぶりでしょうか♪」
カルゴ「1年…くらいか?」
弦月姫「1年ほどでしたかね?何だか、遠い昔のように思えます♪」
手を繋いで歩く娘は、ステップも口調もルンルンしている。まず、紅魔館では買い溜めをしているのであまり買い物には行かないし、行くとしても咲夜さんと俺、もしくは咲夜さんのみなので、俺と弦月姫が2人で買い物をするのは、ものすごく久しぶりなのだ。
カルゴ「天気さえ良ければな…最高のデート日和だったんだが」
今日は曇りだ。
もしかしたら、雨が降るかもしれない。
紫さん曰く、台風は今日来るという話なのだが、この調子なら明日だろう。
弦月姫「で、デート!?もう、お父様ったら!」
弦月姫は照れ隠しに俺の腕をバシバシ叩く。実はかなり父親にデレデレだ。2人になると特にだ。巫月も変わらずファザコンなのだろうか。明後日はどういう反応を見せてくれるのか…楽しみだ。
カルゴ「買い物ついでに、甘いもん食べてくか。買ったものはスキマに仕舞ってよ」
弦月姫「いけません、買い食いはダメだとお母様に釘を刺されたばかりで…」
カルゴ「バレなきゃ犯罪じゃないんだから、安心しろ。もし怒られたら俺のせいにすりゃあいい。…ふふっ…」
咲夜さんに怒られる様子を想像し、思わず笑ってしまった。そういえばここ数年、咲夜さんに怒られていないような気がする。偶には怒られたい。カマチョ?M?違う、そんなんでは無い。
怒る咲夜さんも可愛いというだけだ。
弦月姫「お父様に頼るわけにはいきません!」
カルゴ「なら、買い物終わったら俺1人で甘味処行くからな?スキマで一瞬で帰れるしな」
弦月姫「あうぅ…迷います…」
カルゴ「迷ったら、自分の気持ちに素直になれ。アレもしたいがコレもしたい…ダメだとわかっていてもヤリたくなる…。そんなの誰だってある。自分に素直になったら、たとえ怒られても後悔はしないはずだぜ?もし後悔したら、それは自分の気持ちに素直になれてなかったって事だ。…俺はそう考えているぜ、弦月姫」
母の警告と父の誘惑の間で揺れる弦月姫は、その俺の言葉に、首を縦に振った。
弦月姫「わかりましたっ!私、お父様と一緒に、色々食べ歩きしたいです!」
カルゴ「ふっ…。なら、買い物を早く終わらせて食べ歩く時間を作らねぇとな!」
弦月姫「はいっ!」
子育てにおいて、善と悪の区別をつけさせるのは重要だと思う。
でも、親の言うことを何でも聞かされて育って、まともな人間に育っている人間は見た事がない。
そういう人間は、周りに流されてばかりなのだ。
自分の意見を殺して、親の操り人形になるような人間に育ってはいけない。これは妖怪も一緒だ。
咲夜さんが弦月姫に教えていることは正しい。
買い物が目的なのだから、それ以外の余計な事はせず、目的を達成させたらすぐ戻るのが正しい。
そんなことは、俺だってわかっている。
しかし、弦月姫はまだ子供だ。窮屈に育つのは、子供の成長において、あまり良い影響は無い。
咲夜さんやレミリアが束縛という名の鞭を与えるなら、俺は自由という飴を与える。
小学校でいう大休憩が、飴…自由に入ると思う。
学校に通う小学生達は、45分もの間、授業という鞭を与えられ続け、10分という短い時間、自由を謳歌する。しかし所詮は10分、あっという間だ。
それでは鬱憤が溜まるので、2回の授業ごとに、大きな休憩を与えて、授業で溜まった鬱憤を晴らさせるのだ。
最後の6時間目が終われば、放課後という名の、次の日までの休憩が与えられる。
俺は、大休憩と昼休みの存在意義はそこにあるのではないか、と思っている。
つまり、何が言いたいかというと、飴と鞭の使い分けは大事という事だ。
カルゴ「何か食べたいお菓子とかあるのか?」
買い物が終わり、買ったものをスキマ空間に収納した俺は、弦月姫にそう尋ねる。
弦月姫「お団子が食べたいです!」
カルゴ「よしっ、行くか!」
弦月姫「はーいっ!」
和服の人間ばかりの人里内で、半袖短パンの俺とメイド服の弦月姫は大変目立つ。人々からの目線が全身に突き刺さる。
それは、羨望の眼差しであったり、奇異の眼差しであったりと、非常に様々なものだ。
弦月姫「ん〜♪このお団子、美味しいです〜♪」
みたらし団子をパクパクと食べ続ける弦月姫は、頬に手を置き目を細める。普通の団子や三色団子なども食べたが、どうやら弦月姫はみたらし団子が一番好きらしい。
カルゴ「そりゃあ良かっ…」
ゴロゴロゴロ…
弦月姫「お父様?お力が漏れてますよ?」
カルゴ「いや、今のは自然の雷だな」
弦月姫「あら…」
仮に力が漏れてきても、バチバチと音がするだけなのだが…。それより、なぜこんなに早く台風が来たのだろうか。先程までそこまで暗くなかった空は、いつの間にか真っ暗になっている。もしかしたら、台風が加速したのだろうか。
雷の音を聞いた里人たちは、急いで家屋に戻る。
また、雷様が来ると思っているのだろう。
カルゴ「紫さーん?」
紫「はぁ〜い♪」
弦月姫「きゃっ!」
呼んだらすぐ来る…常に監視されてるのか…?
紫「何か用かしら、ダーリン♪」
カルゴ「……」
スキマに頬杖をついてこちらを見る紫さんに、俺は冷たい視線を送る。ダーリンだなんて…一体、何を言っているのだろうか、この人は。
紫「コホン。…それで、何の用かしら?」
カルゴ「この台風、もしかして加速しました?」
紫「そうね、加速したわ。だから言ったでしょ、今日来るって。…あら?まさか、明日来るかも〜とか思ってた?」
カルゴ「そうですね。曇ってただけでしたから。まさか紫さん、加速することも計算して?」
紫「そうよ〜?」
やれやれ、本当にこの人には適わない。まさか、加速することまで計算の内だったとは…。目先のことでしか判断出来ない自分が情けなく思える。
カルゴ「毎年、特大の台風は俺が壊す話ですが、紫さんがスキマでどこかに飛ばす方が楽では?」
紫「台風をどこかに飛ばすって…どんだけ巨大なスキマを作るのかわかってる?というか、そんな大きなスキマ作れないしね」
カルゴ「でも、台風なんという地球規模なものを壊せって依頼してくるとか、紫さんもかなり鬼畜ですよねぇ…」
娘とお揃いのみたらし団子を頬張り、苦笑い。
台風を吹き飛ばすのは、本当の本当に疲れる…。
早苗《私の力で吹き飛ばしますか!》
カルゴ《早苗は、多少の天気と多少の幸運を操るってだけだから台風規模になったら無理くね?》
早苗《うぐぅ…》
早苗は相変わらず多少の天気を操れて、さらには多少の幸運も操れるようになった。天気のやつは現人神の頃と変わらないが、幸運の件については神になってから可能になった。
幸運と言うが、てゐとさほど変わらないと思う。
紫「あなただからこそお願いしてるのよ〜?さ、早くあの台風壊してきてくれるかしら?今回のはヤバい強さだからね」
カルゴ「具体的には…?」
紫「歴代最強の、1961年に発生した台風…通称、第2室戸台風と同等の強さよ。まだ上陸こそしていないけど、グアムにも被害を与えてるのよ」
カルゴ「えっ、グアムにも?」
紫「そうよ〜。中心気圧888hPaでね、最大風速100m/sを観測してるらしいわ。こんなのが幻想郷に来たら…先の地震で脆くなってる家屋はどうなるかしらね?」
カルゴ「うぐ…」
おのれ、比那名居天子ィ…!
カルゴ「…あれ?でも、その1961年のはどう対処したんですか?」
紫「その時の幻想郷は内陸にあったでしょ?今は沖縄にあるの、忘れた?上陸の前後では、台風の威力、速度は変わるのよ?」
カルゴ「あぁ、なるほど。その時の台風は威力が弱まってたから対処出来たんですね」
紫「そういう事よ」
確か台風は、海上の方が威力が高いらしい。
その理由を簡単に説明すると、海上に居る時は、海から水分を吸い込んで己の糧とするが、陸上に来ると水分を吸い込めなくなって、雨として発散してしまう一方だからだそうだ。
だから、大抵は上陸すると加速するらしい。
カルゴ「あ…俺不死身じゃないから壊せない」
紫「ゑっ……ちょ、どうするのよ!?」
スキマから身を乗り出し、俺の肩を掴んでガクガクと強く揺さぶる紫さん。ここまで慌てる紫さんは初めて見たので、思わず頬が緩む。
焦ると、普段の威厳も吹き飛ぶらしい。
こういった、少女らしい一面を見せてくれているというのは、少しは心を開いてくれているという事なのだろうか。
カルゴ「…んー…娘連れてってもいいですかね?娘がいれば多分行けると思うんですよ、これは」
弦月姫「えっ」
紫「壊せるのなら何でもいいわ。上陸する前に、何としてもこれは壊さなきゃ…!」
弦月姫「待って下さい!私にはそんな事、できっこありません!」
カルゴ「弦月姫には安全な場所に居てもらうよ。今言った娘は穹だよ。《加速させる程度の能力》と、《風を操る程度の能力》、この2つの能力があれば、不死身じゃなくともこの台風を壊せると思うんだ。時を止めても、不死身じゃないときの捨て身攻撃なんて、たかが知れてるからな…」
弦月姫「なるほど…」
どこかへ出かけているであろう娘を探すために、小さいスキマを複数展開する。しかし、どこにも見当たらない。全く、どこにいるのやら…。
カルゴ「紫さん、見つかりました?」
紫さん「それが全然よ……。彼女の妖気を辿っているんだけど、速すぎて姿が捉えられないわ」
姿が捕えられなければ、スキマで捕まえることも出来ない。万事休すだ。
カルゴ「こういう時は神様に頼りますかねぇ…」
三柱《ワクワク…ドキドキ…》
紫「守矢神社の?でもあの2人は…」
カルゴ「いえ、その他のです」
三柱《ッ!?》
紫「……?」
俺が頼るもう1人の神様といえば、この方だ。
雷神、さらには剣の神と言われている神様だ。
第三次月面戦争の時や、フランの暴走を止める際などに、よくお世話になった。
建御雷《久しぶりだな。何年ぶりだ?》
建御雷の名を呼び、念じるとすぐに来てくれた。神といえども、割りと寂しがり屋なのか、意外と普通に話せる。男であるのは間違いないのだが…意外と仲良くなれそうな神様ではある。
そして相変わらずの野太い声だ。
カルゴ《およそ2年ぶりかと》
2年前を境に、フランはあまり暴走していない。神の力を借りる時は、相当ヤバくなったときだ。姉妹喧嘩のおかげで暴走する癖、いつかは治してもらいたい。
建御雷《そうか。それで、今回の敵は?》
カルゴ《あー……今回は、台風を吹き飛ばすのに貴方様のお力を借りたいと…》
建御雷《台風ぅ!?》
驚いたように発せられた野太い声が、頭に響く。声だけを聞くに、よほど驚いたらしい。
カルゴ《ええ、そうなのです》
建御雷《ふふ…ふははははっ!台風如きの
建御雷の笑い声が頭に響く。
もしかしたら怒らせてしまったのかもしれない。
そんな焦りを抱きながらも、次の言葉を待つが、彼から帰ってきたのは意外な言葉だった。
建御雷《神をも恐れぬその根性…気に入ったぞ!よし、力を貸そうではないか!》
カルゴ《マジd…本当ですか!?》
建御雷《神は嘘をつかん!》
三柱《(ギクッ!)》
建御雷《それと堅苦しい言葉遣いはもう要らん。堅苦しいのは、奉られる時だけで十分だ》
カルゴ《しかし、その程度の事は…》
建御雷《他の神も常々言っておるだろうが、神の言うことには素直に頷いた方が良いぞ?祟られるかもしれんからな。ふはははは!》
カルゴ《…了解です。それじゃこれからは普通の丁寧語でいきますね》
建御雷《いやいやいやいや…。普通に、友と話す時のような話し方で良いのだが?》
早苗と似たようなこと言うな…。あと、諏訪子様とも。そういえばまだ諏訪子様には敬語だった。タメで良いって言われてるんだが…怖くてな…。
ま、祟らないって約束してるし、タメでいいか。神奈子様には普通に敬語で話すけどさ。
カルゴ《わかった。これでどう?》
建御雷《良い…良いぞ!ふははは!面白くなってきた!さぁ、戦場へ向かえ!台風を吹きとばせ!我のこの力を存分に使うがいいッ!!》
より大きな声が響いたと思った、次の瞬間。俺の身体に、これまでに感じたことのないほど強大な電力が流れ込んできた。
胸は苦しくなり、身体は電気を帯びる。
カルゴ「くおぉっ…いてててて…」
弦月姫「お父さ…きゃっ!」
苦しむ父を助けようと娘は手を出すが、溢れ出る電気に阻まれ、少しばかり感電してしまった。
紫「すごいパワーね。大丈夫なの?」
口元に閉じた扇子をあてがい、眉をひそめる。
大して心配していないように見えるが……事実、心配などしていないだろう。
カルゴ「大丈夫…です…。じゃ、里を守る結界…どうか、頼みます!」
紫「わかったわ」
弦月姫「お気を付けて!」
遥か上空へと繋がるスキマを開いた俺は、それに飛び込む。空気は薄く、ゴゥゴゥととんでもない暴風が吹き荒れている。しかし、台風の目にいるので、雨は降っていない。風速100m/s超の世界はとても厳しく、俺ですらも飛ばされそうになる。
ガカッ…ゴロゴロゴロゴロ……
近くで雷が鳴る。怖くはないがうるさい。耳元で誰かが怒鳴っているような感じだ。
建御雷《さぁ、派手に吹き飛ばせ!!》
カルゴ《ああ!貸すのケチるなよ、建御雷ッ!》
建御雷《ふはははッ!我の力は無限ぞ!!ケチったりなどはせん!》
なら、遠慮無く存分に使わせてもらおう。
最大限に威力を上げた、最強から2番目のスペルでこの台風をぶち壊す。その際、球形にこの力を発散してはいけない。それでは余計な力を使う。水平面状に力を発散するよう仕向けるのだ。発散方向の特訓はしてある。大丈夫、俺には出来る。
カルゴ「雷爆符『ゼタサンダー』!!!」
その日、天気予報に使用される人工衛星は、奇怪な現象を捉えた。超巨大な台風が、中心から爆発したように一瞬で消え失せたのだ。
テレビやネットでも、この謎現象は騒がれ続け、宇宙人侵攻説が濃厚になったが、結局は未解明のまま、ただ時間だけが流れていった。
人工衛星からの映像や画像をいくら解析しても、爆心地である台風の目に、高校生ほどの男の姿が写るなんてことは、絶対に有り得ないのだ。
紫「お疲れ様」
弦月姫「お疲れ様です!」
カルゴ「ああ…」
建御雷との交信を絶った俺は、再度スキマを開き里の団子屋に戻る。建御雷が居る時は、力を圧縮しなくてもスキマを開ける上に、いくら力を使っても減らない。まさに神だ。
カルゴ「紫さん。このご褒美は、お金では無く…博麗神社に……………を、一組お願いしますね」
隣の娘に聞こえぬよう超小声でお願いする。丁度俺には、欲しいものがあったのだ。
紫「良いけど…あなたまさか…」
カルゴ「いえ、ちょっと遊ぶだけですよ。多分」
紫「…わかったわ。霊夢に渡しておくから、明日受け取ってね。それじゃあ、私はその準備をするから、また今度ね」
カルゴ「はい」
軽く手を振りながら、紫さんはスキマに潜って、そそくさと帰って行った。
それと同時に、娘は俺の膝に手を置き、今お願いしたものは何か、尋ねてくる。
カルゴ「外の服だよ。たまには霊夢にもオシャレさせてやりたいから…ね?」
と言って誤魔化す。もちろん嘘ではないが100%本当でもない。全ては明日のお楽しみだ。
納得しきれない弦月姫はもう1つ質問をしようと口を開きかけるが────。
カルゴ「それじゃ、食べ歩きの続きをしようか」
その一言により弦月姫の質問は霧散した。そう、今は食べ歩きの時間なのだ、と。
弦月姫「はいっ!」
台風が吹き飛んだことで里人達が顔を出し初め、活気が戻り始めている里に、俺たち父娘は再び、手を繋いで舞い戻った。
よっしゃー、久しぶりに時間に困ったぜーぃ。
実は最近、ネタに困ってたんですよねー。
日常系ってワリとネタに困る。
でも突然、30話分くらいネタが降ってきました。
その中の1割くらいはエロネタだけど。でもま、これでしばらくネタには困りそうにないですな。
明日と明後日は日雇いのバイトがあるため、更新は厳しそうですが…。
次はエロで。