竹林から飛び立った俺たちは、地上からも見えた奇妙な雲の中に入る。やはり自然の雲ではない。魔力を帯びている雲が、自然物なわけがない。
絶対に何者かが何かをしている。アバウトすぎてよく分からないが。
霊夢「でも、さすが雲の中よね。視界不良もいい所よ。少しでも離れたらはぐれちゃいそう」
離れないように、俺と咲夜さん、霊夢と魔理沙は手を繋いでいる。その2組も離れないよう、常にすぐ近くを飛ぶようにしている。
魔理沙「そん時はマスパ放って晴らすだけだぜ」
霊夢「危なっ!」
咲夜「自然物じゃないのに、そう上手くいくものかしら。というか、さっきの禍々しいのは何?」
魔理沙「あー、それな〜。んじゃあ、直るまではダークスパークって名前にしとこうかな」
咲夜「安直だけど分かりやすくていいわね」
魔理沙「だろだろ〜。…で、これから私たちは、どこに行けばいいんだ?」
霊夢「溢れるような魔力を辿ってるつもり…なんだけど、雲に囲まれてるせいで魔力に囲まれてる感覚がする…。妖精にやられた時みたい。いや、それ以上に感覚を狂わされてる…」
反響定位をすればなんとかなるだろうが、吸血鬼2人がいる中でのそれはあまり良くないだろう。だったら、上空の案内人に頼むほかはあるまい。そう考えた俺は、親指と人差し指で輪を作って、軽く咥え、ピーッと高い音を鳴らす。
霊夢「なに?今の音…」
カルゴ「迷うのなら案内してもらうまでさ。折角だから、俺のペットを呼んだよ」
咲夜「旦那様のペット…比那名居天子ですか?」
カルゴ「違いますよ!?」
魔理沙「違う?…ああ、サンダーバードの方か」
カルゴ「そうだよ!? なんで天子が出るの!?」
咲夜「ペットだと仰ってましたし…。ねぇ?」
魔理沙「だな」
霊夢「そうね」
カルゴ「……」
普通に考えてこのタイミングで天子呼ぶかよ…。やっぱ幻想郷の元人間たちはちょっと違うなぁ。だからこそ、話してておもしれーんだけど。
ボンヤリとそんな事を考えていると、雲の中から巨大なサンダーバードが現れた。洗脳によって、俺の下僕としたペット(性別不明)だ。
サン「クェェェェェェ!!」
くちばしを広げて嘶きながら、俺のそばで何回も旋回する。こうして会うのは、そう久しぶりでは無いのだが。
カルゴ「サン。この雲の周辺に、変な物体があったり、見慣れない誰かとか居たりしない?」
思い当たる節があるのか、すぐに身を翻して飛び始めた。少し飛んでは振り返るので、案内しようとしてくれているらしいのは明白だ。
カルゴ「こっちだとさ。行こう」
霊夢「大丈夫なのかしら?」
カルゴ「普段から雲ん中に住んでるから大丈夫。多分、天人とか天女?くらいここら辺に詳しいと思うよ。とりあえずついて行こう」
霊夢「ま、いっか。迷ったらあんたの責任よ」
カルゴ「へいへい」
サンの扇動により雲の中を進む俺たち。しばらく進むと、空中に浮かぶ城が見えてきた。しかも、その城は逆さまである。意味が分からん。
霊夢「…驚いた。まさか空中にこんなのがあったなんて。なんで浮いてんのよこれ」
カルゴ「原理不明…実に幻想郷らしい」
すると突然近くの雲から1人の少女が出てきた。
手には琵琶のようなものを持っており、首がない代わりにチェーンで繋がれている。一瞬、彼女が誰かわからなかったが、名前はすぐ思いだせた。九十九弁々だ。
弁々「みーつけた。私の相手になってくれそうな人たち。…知らない人もいるけど」
カルゴ「俺の事やな」
弁々「そーそ。ま、同じ付喪神らしいけど」
カルゴ「俺は吸血鬼だ」
弁々が口を開こうとしたその時、もう1人女子が現れた。そして、現れるなり口を開く。
八橋「ちょっと待ってよ。そいつは私が先に見つけたのよ。後から来て横取りだなんて狡いわよ、姉さん」
いや、どう考えても後から来たの八橋だろ。
弁々「良いじゃないの。それに、さっきの戦いをみてたけど、あんたの手ぬるい音楽じゃ無理よ、この付喪神使いたちを倒すのは」
咲夜「付喪神使い……?そうね……。この妖剣、付喪神みたいなもんね」
魔理沙「ミニ八卦炉もかな」
霊夢「このお祓い棒も?」
カルゴ「俺の魔剣も?」
弁々「あなたたち、何を言っているの?みたいなもんじゃなくて……どう見ても付喪神じゃない」
カルゴ「どう見てもただの剣だが」
弁々「……」
八橋「ふーん、まあいいや。こいつらは姉さんに任せるわ。じゃあね〜」
霊夢「逃がすもんですか!」
フラッとどこかへ行こうとする八橋を、逃がすまいと追いかけようとするが、八橋と俺たちの間に弁々が立ち塞がる。
弁々「待ちな!あんたたちの相手はこの私だよ!何もかも逆さまな下克上のこの世界。最強の道具が誰なのか、今ここで決めるわよ!」
言い切るのと同時に、5本の曲がったレーザー、それの軌跡に八分音符型の弾幕が発生し、降ってくる。レーザーは、五線譜をモチーフにしているらしい。元ピアノ奏者としては思わず頬が緩む。だが感傷に浸る暇は無い。慣れない形の弾幕故、どう動けば当たらないのかが、よくわからない。俗に言う、当たり判定だ。
とりあえず当たらなければいいのだが、そこそこ大粒で密度も濃いので、慎重に避けねば。
霊夢「あぁもう鬱陶しい!霊符『夢想妙珠』!」
弁々「おっと!楽符『邪悪な五線譜』!!」
霊夢の弾幕を相殺するようなタイミングでスペルを発動させた弁々。斜めからは5本のレーザーが降ってきて、それから、八分音符型の弾幕と四分休符型の弾幕がバラバラと降ってきた。
弾幕に形を与えるのは俺には出来ないので、少しばかり見とれてしまう。
霊夢「コラ、ボーッとしない!」
カルゴ「お、おうよ、すまん!えーと、じゃあ…雷符『Midnight☆Thunder』!!」
ハッとした俺は、周囲の状況を考えずに、視界を奪うスペルを発動させてしまう。
霊夢「コラァァ!!これだとあんたしか見えないでしょーが!!!」
魔理沙「ちょっ、不意打ちはやめてくれ!」
咲夜「む…」
案の定、霊夢はご立腹である。
言われてからやってしまったと気付いたのだが、時すでに遅し。闇の雷は既に、弁々へと向かっていた。なのでまずは手近な咲夜さんの手を掴み、次に近い霊夢の手を掴んで、魔理沙の方は弾幕を発射して相殺し、効果時間の終了まで耐えきる。おかげで余計な力も使ってしまったが仕方ない。自業自得というやつだ。
霊夢「ふん…手なんて掴んだって許してやんないんだからね…///」
カルゴ「ごめんってば…」
咲夜「赤くなってちゃ説得力無いわね」
霊夢「赤くなってないし!」
魔理沙「ヒュー、何年経ってもお熱いねぇ!」
霊夢「うっさいわね!棒でぶっ叩くわよ!?」
弁々「せ、戦闘中にお喋りなんて……よゆーじゃないの、あなたたち…イタタタ…」
カルゴ「浮かぶのでやっとだろ?無益な戦いは、もうやめようぜ?無理にぶっ飛ばすのは、なんか気が引けるし」
弁々「あら…見た目通りの優男なのね。しょうがないから降参してあげるわ」
本当なら両手を上げたいのだろうが、痺れているおかげで右腕はピクピクと動くだけであった。
魔理沙「おいエスカルゴ?別に手加減しなくてもいいんじゃないのか?」
カルゴ「いや、城の中を案内させた方が良くね」
咲夜「な、なるほど…その後のことを見据えてのご発言でしたか…」
魔理沙「お、おう…流石だな」
やっと気付いた様子の2人を見てドヤろうとしたその時、弁々が驚くべき言葉を口にする。
弁々「え?私、あの城の中知らないけど。私も、あそこに向かおうとしてた方だから」
カルゴ「……………」
はあ…アテが外れちまったか…。
魔理沙「カカッ、残念だったな。…キメるか!」
カルゴ「うん」
魔理カル「絶光『ディアブロ・レーザー』!!」
弁々「ひっ……ぎゃあああああああ!!!」
魔理沙はやはり禍々しい色合いのレーザーを発射して、俺は両手からレーザーを出す。初見では、ほぼ確実に避けられない。それをモロに喰らった弁々は、完全に気絶して地面に落ちそうになったので、空中でなんとかキャッチし、城の中で寝かそうと運ぶことにした。
カルゴ「サン、ありがとうよ。あとは雷食うなりして戻ってくれ。また頼むぜ?」
サン「キェェェェエエ!!」
最後に大きく嘶き、雲の中へと戻っていった。
相変わらず元気そうでなによりだった。
霊夢「雷を食べるの?」
カルゴ「サンダーバードだし。あと、ここ数年、幻想郷に落雷被害無いだろ?それは、俺とサンの暗躍のおかげなんだぜ」
魔理沙「お前来てから数倍に増えたが」
カルゴ「スペルのは無しだよ…」
霊夢「落雷からの山火事とかは厄介だし、一応は助かってるのかしらね」
カルゴ「んだよ〜」
ほのぼのとそんな会話を続け、とうとう俺たちは逆さの城の門前に到着した。見た目は普通の城。だが力はここから流れてきている。
カルゴ「…行くぜ」
霊夢「そうね」
咲夜「はい」
魔理沙「ああ」
今度は俺が先頭に立ち、膨大な力が漏れてくる、城の中へと入っていった────。