城内へ無事侵入できた俺たちは、まず先に弁々を床で寝かせ、城奥へと進み始めた。逆さなので、歩きではなく、飛行である。逆さまになっているというだけで、少し酔いそうになる。新幹線でも船でもバスでも酔ったことのない俺なのに、だ。酒でしか酔わない俺でもこの逆さの景色は気持ち悪いと感じるらしい。
カルゴ「うぷっ…なんか気持ちわり…」
霊夢「ちょっとー?速度落ちてるわよー」
魔理沙「あんま遅いと置いてくぜー」
カルゴ「そんな殺生な…ちょ、ちょっと待っ…」
咲夜「大丈夫ですよ旦那様。あの2人が離れても私だけは残りますから♪」
カルゴ「ありがと…ございます…」
俺の声はだんたん細くなってきているが、反対に咲夜さんは元気になってきている。何故だろう。
霊夢「はあ!?別に、私が先に行くなんて言ってないし!先に行くなら魔理沙だけ行けばいいわ!私も残るから!」
魔理沙「ええ!?」
咲夜「そんなに私と旦那様が2人きりになるのが嫌なのかしら?」
霊夢「そそそそんな事言ってないし!あんたらが2人になると絶対ロクな事になんないでしょ!?だから言ってんのよ!」
真っ赤になってお祓い棒をブンブンと振り回す。
近くの魔理沙は霊夢から少し離れて身を守る。
咲夜「ロクな事にならないのは、私より霊夢の方だと思うけどね。スキあらばすぐイチャつくし」
霊夢「そう言うアンタこそ!どーせ、時を止めてイチャついてんでしょ!?」
咲夜「さぁ?私が時を止めると弦月姫にとっても迷惑になるからねぇ…。真実は闇の中…ううん、時の隙間の中って感じかしらね」
魔理沙「おっ、上手い!座布団1枚!」
咲夜「あら、1枚じゃ2人で座れないわよ。もう1枚下さるかしら?」
霊夢「あんたねぇ〜〜〜…!!」
カルゴ「ゔっ……おぼろろろろろろろ……」
霊夢と咲夜さんが火花を散らし始めたタイミングで、酔いが回った俺は、胃液を戻してしまう。
酸性だからか、口の中が酸っぱい。
霊夢「うわー…戻してるし…」
咲夜「あらら…」
魔理沙「ま、まぁ、極限まで酔った萃香だって…結構吐くしな…うん…仕方ない仕方ない」
カルゴ「ぐふっ……おえっ…………ふぅ。よし、スッキリしたぜ」
胃の中が空っぽになった俺は、今度は強い空腹感に襲われてしまう。だが、異変解決まで我慢するしかあるまい。
カルゴ「さっさと終わらせんべ、腹減った!てかもう夜だよな?吐かなくても腹減る頃だわ…」
魔理沙「そーだなー…。でもここで帰る選択肢は当然、ナシだよな」
カルゴ「もちろんだ。だから早く終わらせよう。娘も待ってる事だしな」
霊夢「そりゃー、さっさと終わらせたいけどね。どこに犯人がいるんだか…」
すると向こうから、黒髪に白と赤のメッシュが混在した頭に小さな二本の角を持つ少女が現れた。瞳の色は赤色だ。服装は矢印がいくつも連なった様な装飾がなされているワンピースを着ている。鬼人正邪…だったような気がする。
正邪「何だお前達は。ここはお前達のような奴らが来る場所ではない。即刻立ち去れい!」
カルゴ「敵か?」
咲夜「恐らく」
魔理沙「敵だろ」
霊夢「でもボスっぽくないわね。大方、紅魔館で言うところの咲夜くらいの立ち位置でしょ」
カルゴ「つまり
正邪「話を聞けい!…道具が勝手に動き始めたと言ったな。そう、紛れもなくそれは我々の仕業!…多分。まさかそんな物にまで影響を及ぼすとは誤算だったが…ククッ、面白くなってきたぞ」
咲夜「はい?どういう事です?」
カルゴ「ちょっと何言ってるか分からない」
正邪「…まあいい。もっと強くありたいのか?」
咲夜「まあ……そうですね」
魔理沙「だな」
カルゴ「まぁな」
霊夢「別にこのままでもいい」
正邪「なら私の仲間になるがいい。我々は
カルゴ「レジスタンス?…勢力図、ねぇ…」
勢力図を塗り替えるほどの力の持ち主なのかな、こいつ…。レミリアと違って、溢れるような力を感じないけど。とりあえず、あまり頭は良くないらしい。頭良かったらこんな事考えないだろ。
いや、知らんけどな。
正邪「どうだ?賛同するか?」
魔理沙「するかよ、ンなもん」
霊夢「つまり敵ね」
カルゴ「俺はフリーランスだが、幻想郷の構図を壊すつもりなら、お前は敵だな」
咲夜「仲間になる選択肢は、元より無いわ。私はお嬢様にしか仕えないし、お嬢様と旦那様にしかついて行かない」
ちぇっ…やっぱレミリア優先か。流石の従者魂…そこは篭絡してないか。するつもりはないけど。レミ咲はマジでイイから…。見てて微笑ましい。俺は傍観者だから、それを崩すのは俺にとっても良くないんだ。その忠誠心には素直に脱帽だ。
正邪「そうか………残念だな。我ら力弱き者達が如何に虐げられていたか、お前達には想像ができないか……。ならば、何もかもひっくり返るこの逆さ城で、弱者の屈辱を味わうがいい!!」
力弱き者って…。そんなんで勢力図を塗り替えるなんて、よく言えたものだな…。俺よりも圧倒的な力を持ってなきゃそんなん無理だろ。
多分、俺でも無理だよ?する気は全く無いけど。
戦闘態勢に入る正邪。それを見た俺達も、警戒し戦闘態勢に入る。先に弾幕を放ったのは正邪だ。しかも最初からスペルカードの詠唱だ。
勝つ気満々である。
正邪「逆符『鏡の国の弾幕』!!」
霊夢「ちょ、最初からスペルって…」
魔理沙「めんどくせーやつだぜ…!」
怪しく光る紫色の弾幕が降ってくる。弾の速度は決して早くはない。余裕で避けられる、と思ったその時。俺達の身に不可解な出来事が起こった。
カルゴ「痛っ!?」
霊夢「ちゃんと避けなさ…っぐぅ…!?」
魔理沙「おいおい、どーゆー事だ!?」
咲夜「逆…?」
俺を筆頭に、霊夢も魔理沙も咲夜さんもそれぞれ1度は、被弾してしまった。右に動こうとすれば左に、左に動こうとすれば右に動くという謎現象が発生した。全く以て意味がわからない現象だ。
正邪「はっはっはー、恐れ入ったか!これが私の能力、《何でもひっくり返す程度の能力》だ!」
霊夢「ちょっとちょっと…なんなのよその能力!聞いてないんだけど!?」
正邪「今言ったからな!!」
霊夢も含め、悪戦苦闘する俺達。だが俺は、既に避ける為の秘策を思いついていた。
カルゴ「じゃあ、動かなきゃ良いだけの話だろ」
正邪「フンッ、動かずしてどうやって避ける!?真っ直ぐに特攻でもするつもりか!」
カルゴ「そんな痛てぇ事はしねぇさ。俺はただ、こうするのみだ」
瞬時に力を圧縮した俺はスキマを開き、目の前の弾幕を正邪の背中へと送った……と思ったが。
カルゴ「うわわわっ!?」
背中側へ開いたと思ったスキマは正邪の正面に、俺達の方を向いて開かれていた。なにもそこまで逆にならなくてもいいと思うのだが。
魔理沙「よ、余計密度が濃くなってるぅ!?」
カルゴ「殲滅『Breath of Thunderstorm』!!」
腕が吹き飛ぶかと思うような勢いで腕を振るい、弾幕を掻き消すついでに本人にもエネルギー波によるダメージを与える。
正邪「くっ、中々痛い…!逆弓『天壌夢弓』!」
次のスペルを発動させた正邪。矢印型の弾幕が、ポツポツと現れ、次第に速度を上げ、密度を濃くしながら、背後から迫ってくる。
カルゴ「はぁ…ふぅ……落ちつけ俺ぇ…。ここで焦っては敵の思うつぼだぜ。…よし喰らえ!雷極『夢想封印・迅雷』!!」
霊力弾と電力弾が混ざった、封印効果のある弾幕が正邪へ向かっていく。このまま被弾して終われと思った俺だったが、狙いが定まらず、本人にはカスリすらしなかった。そのつもりが無くても、無意識のうちに狙ってしまうらしい。
狙いすらも逆転させるとは恐ろしい能力だ。
魔理沙「妖器『ダークスパーク』!!」
正邪「ッ!?」
正邪の正面に移動した魔理沙は、真っ向から正邪に破壊力抜群のレーザーを浴びせる。真ん前なら正邪の能力も効果が無いらしい。
カルゴ「ほほー…なるほどなぁ、正面からの直線攻撃か。直線なら逆も何も無いって訳ね」
魔理沙「へへっ、そーゆーこった!」
俺は正邪から見たら斜めの位置に居た。線対称に空間を折れば反対方向に弾は飛んでいく。恐らく正邪の能力の“ひっくり返す”とは、弾幕ごっこでなら線対称にひっくり返るだけだと思われる。
ならば正面から放てばいいだけだ。
霊夢「ならもうキメるわよ!」
咲夜「そうね。対策がわかれば、問題無いわ」
カルゴ「オッケー」
正邪(あの男…澄ましたツラしてやがるが、多分この4人の中では1、2を争う実力者だな?博麗の巫女はともかく、せめてあの男を崩せば…この戦況、なんとかなるやもしれん…!)
魔理沙「なにニヤニヤしてんだ、この劣勢で!」
正邪「…さぁて、これから劣勢になるのはどちらかな?…理性の反対は本能…今こそその本能を解き放ち、思うがままに暴れろ!!」
4人「………?」
正邪「…あれ?」
能力を発動させたと思われる正邪だったが、特に反応がない俺達を見て苦笑混じりに首を傾げる。
カルゴ「ははははは!そんな能力が俺に効くか!さっさとぶっ倒してやんよォォォォ!!」
霊夢「ん?」
魔理沙「テンション高くね?」
咲夜「まさか…」
正邪「しっ、しまったぁぁぁ!?」
カルゴ「いくぜ!紅眼『吸血鬼の本質』!からの魔剣『妖魔雷霊剣』だァ!!!」
一時的に全ステータスを上げた上で、剣に込めた力すらも全開にする。普段ならここで「風の傷」を放つ。だがしかし、今回は……。
カルゴ「本気の本気、お前にぶつけてやるぜ!!『
正邪「ぎゃああああああああああああ!?!?」
剣から、これまでにないほどの極太光線を発射。焦った正邪は避けることも適わず、そのまま全身をレーザーで撃たれ、城の奥へ吹き飛ばされた。
霊夢「完全にオーバーキルね…」
魔理沙「死んでなきゃいいが…」
咲夜「一体、旦那様の何をひっくり返そうとしたのかはわからないけど…あの者の様子から見るにひっくり返すものを間違えたようね」
霊夢「“テンション”でもひっくり返しちゃったんじゃない?やられる前は落ち着いてたから」
魔理沙「だな。てことはあいつは、概念的なのもひっくり返せるんだな。怖いなー…」
咲夜「能力を過信した結果、自らの墓穴を掘ったのね。私も気を付けないと…」
そんな会話を聞いているうちに、俺の心は段々と冷えてきた。いや、落ち着いてきた。
カルゴ「…なんか気持ち落ち着いたわ」
霊夢「あいつが気絶して、かけられた能力が解除されたのね。早く進みましょ、時間が惜しいわ」
魔理沙「おっそうだな」
咲夜「そうね。お嬢様からの許可を取ってるとはいえど、メイド長が長い時間館を留守にするのは良くないわ」
特に苦戦するわけでもなく正邪を倒した俺達は、城の奥へ吹き飛ばされた正邪の事は探しもせず、別ルートからズンズンと奥を目指し始めた。
霊夢が言うには、次にボスが来るそうだ。