博麗神社。幻想郷の東端、外の世界との境に位置する寂れた神社。相変わらず、参拝客は居ない。
そんな神社の中で、今日も親子4人+針妙丸は、グータラとのんびりした生活を送っていた。
霊夢「は〜…最近暇ねぇ」
カルゴ「俺と居るの暇か?」
霊夢「いやそうじゃなくて…。異変や事件が全く起こらなくてつまらないなーって」
ゴロンと寝返りをうち、ため息をつく。服が乱れ腹が露出しているが、きにしていないらしいので俺も気にしないでおこう。ノーブラ&ノーサラシなので、見えるかもしれないとは思うが…。
カルゴ「平和でいいじゃないか。それとも、異変起こる方が良いの?」
霊夢「だぁって…あんたが来る前とかは、ほんと頻繁に異変が起こってたのよ?なのにここ数年はねぇ…ひっそり静まり返ってるのよね。なんか、うるさ過ぎるのも迷惑だけど静かすぎるのはね…それはそれでつまらない」
カルゴ「ワガママだなぁ。なぁ、針妙丸?」
針妙丸「え?う、うーん…そうだね…あはは…」
霊夢「あ、そうよ。あんた、そろそろ大きくなるんでしょ?また異変起こしてよ、潰すから」
針妙丸「やめてよ!?」
霊夢「ただし今回は道具じゃなくて妖怪の凶暴化だけね?その方が潰し甲斐あるし」
針妙丸「やらないってば。異変起こしてわかったけど、代償が大きいみたいなんだよね、これは。この篭は悪くないけどさ、霊夢さんが最初に私を入れた篭なんて普通の虫篭だったしさー。こんな生活はもうゴメンだしね」
霊夢「あ゙?」
針妙丸「ひぃっ!」
霊夢に凄まれた針妙丸は、食べていた煎餅を脇に抱えて籠に駆け込んだ。
霊夢「私のお祓い棒も、あんたの剣も、大人しくなるにはなったけどこの小人は小さいままだし…よくわからない異変だったわね〜」
カルゴ「ひっくり返すって言ってたけどあいつにそんな力あるとは思えなかったしな」
そういえば、あの異変以降、黒幕である鬼人正邪は行方をくらましているらしかった。まだ幻想郷に居るのか、それとも外へ逃げたのか…特に話も聞かないし興味もないので、全くわからない。
カルゴ「俺が来る前の異変ってさ、一体どんなのあったんだ?紅霧と、緋色の雲と…あと、地底、春雪しか経験してないんだが」
霊夢「あれ、そうだったっけ。…早苗が来た時もちょっとしたトラブルになったわねぇ。そりゃ、叩き潰したけどさ」
カルゴ「それは諏訪子様から聞いたことあるな。凄い形相だったらしいぞ」
霊夢「そうかな…。あと永遠亭の連中が起こした異変もあったわ」
カルゴ「あぁ、それなら鈴仙から聞いたな。月の使者がどーのこーの…だったっけ?」
霊夢「そ。結局、月の奴らみたいな力ある連中は中に入れない仕組みだから、要らない心配だったって感じの結末だったような気がする」
カルゴ「霊夢と紫さん、魔理沙とアリス、妖夢と幽々子さん、咲夜さんとレミリア…が組んだって聞いたけどマジか?」
霊夢「まぁ…そうね。あんたなら誰と組む?私は紫と組んでるとして、ね」
カルゴ「フランだな」
霊夢「言うと思ったわ」
カルゴ「ククッ…まぁ読まれるわな。他には?」
霊夢「んー…色々面倒臭かった都市伝説異変」
カルゴ「どんなの?」
霊夢「説明も面倒臭いから今度紫にでも聞いて。月に関係があった、とだけ言っとく」
カルゴ「んじゃ月壊すか」
霊夢「それが1番だけどお月見が出来なくなる」
カルゴ「あーそーか。それは困るな。ていうか、満月も見れなくなるのは辛いな。伝え聞いただけなんだけど、白蓮が復活した時も軽くひと騒動があったらしいな。神子の時もだっけ?他には?」
霊夢「あとは…完全憑依異変かなぁ」
カルゴ「なんだそのおっかねぇ名前の異変は」
霊夢「名前だけ聞けばね。でも、これは結構面白かったわよ。幻想郷中の色んな奴がこれに乗じてあちこちで戦ってた」
カルゴ「ひぇっ」
すると、ヒョコッと籠から顔を出した針妙丸。
煎餅を食べ終えたのか、口元には煎餅の粉が所々にくっついていた。
針妙丸「あーそれ覚えてる覚えてるー!強い組み合わせ探すために試行錯誤したなぁ…」
霊夢「あんたは面倒臭いやつと組んでたわね」
針妙丸「…面倒臭いってだけで誰の事を言ってるのかわかったよ。私は、組む相手と相性良くて、なおかつ強ければいいかなーって思ってたから、面倒臭いかどうかはどうでも良かったんだよね」
霊夢「まっ、どいつこいつも、私がマスターの時は一度も勝てなかったけどね」
カルゴ「なんだそのマスターってのは」
霊夢「これは面白かったから自慢するって意味で軽く教えてあげるわね」
カルゴ「自慢……」
霊夢の説明を要約すると、
1、憑依される側をマスター(主軸となる)
2、憑依する側をスレイブ(要するにサブ)
3、マスターが油断していれば強制的に憑依する事も可能。瞑想状態でも可能だとか。
4、スイッチのようにカチカチと切り替わる
5、互いの特性を合わせた、複合スペルのようなスペルを使用可能
…との事だ。
カルゴ「めっちゃ面白そうじゃねぇかよそれ」
話を聞いた俺の、完全憑依に対する評価は、180°変わっていた。怖いなんてとんでもない、むしろ興味津々だ。
霊夢「でしょう?魔理沙なんかはもの凄く楽しんでて、あちこちで色んな奴と戦ってたんだから。戦った数だけなら私より多いかもしれないほど」
カルゴ「好戦的な魔理沙らしいな。くそー、俺もその異変に参加したかったわー…」
霊夢「その黒幕とはあんたも面識あるんでしょ?また起こしてもらえば?」
カルゴ「紫苑か…うーん、俺のせいで更に皆から嫌われるのはちょっとアレだからなぁ…」
霊夢「元々でしょ。貧乏神だし」
カルゴ「まぁな…。で、結局はその異変、紫さんがアレいじって解決したってマジか?」
霊夢「そうよ。…あんたまさか…」
カルゴ「紫さんに頼んでまた完全憑依起こすか」
霊夢「色々面倒臭いからやめておきなさいよ」
カルゴ「また出たよ『面倒臭い』…。とりあえず話だけ聞いてみよーぜ」
霊夢「はいはい…」
そして、紫さんを呼び、呼び出したわけ、異変を起こしてもらえ無いだろうかと依頼をし、更にはその理由も全て話した。しかし結果は………。
紫「ダメよ」
霊夢「ほらね」
カルゴ「えー…」
紫「異変って、そう簡単に起こしていいものでもないのよ。ましてや遊び目的なんてねぇ」
カルゴ「紅霧異変は遊び目的で簡単に起こしたんですがそれは…。春雪異変だって花見…つまりは遊びの目的で起こしましたが…。天子のだって、暇だったからですよ?地底のはお空の暴走によるトラブルでしたがね」
紫「う…」
霊夢「ちょ…何論破されてんのよ紫…」
紫「まだされてないわ。…ねぇエスカルゴ、霊夢から完全憑依の副作用について聞いてないの?」
カルゴ「? 聞いてないですよ」
霊夢「げっ…」
完全憑依の副作用とは、夢の世界の住人がこっちの世界…現の世界に来てしまうことらしい。
見た目は全く同じでほぼ見分けがつかないとか。
見分ける方法は、情緒不安定だったり本音を曝け出していたりすることだけらしい。
紫「…つまり、あなたと夢の世界のあなたが入れ替われば…もしかしたら、見分けがつかなくなる可能性があるの。それは大変だわ。夢の世界って精神の世界だから、スキマで帰って来れないの。つまり囚われたままになってしまうの」
カルゴ「常に本音で喋ってる俺にだって、少しは言えないことありますよ…。嘘つかないように、オブラートに包んでるってだけで…」
紫「…それは本当かしら?私にはどうも、そうは思えないんだけど」
カルゴ「マジです。だって、俺ほどの欲望の塊な奴が、こうして普通の生活を送ってること自体が不思議じゃないですか?」
紫「…………確かに」
霊夢(説得力あるわねぇ…)
カルゴ「なのでお願いしますっ!どうか俺にも…いや、俺達にも、完全憑依を体験させて下さい!対処の仕方とか、霊愛にも教えておきたいし…」
話を黙って聞いていた霊愛と霊麗だったが、霊夢や紫さんが話していくにつれて目を輝かせていたので、興味があるのは間違いない。
紫「それじゃ…いくつか条件があるけどいい?」
霊夢「紫っ!?」
カルゴ「どうぞなんなりと!!」
紫「1、夢の世界の住人が現の世界に来た場合はあなただけが責任をもって全員を連れ戻すこと。2、5日限定。3、完全憑依を可能にするのは、普段からあなたと関わりが深い者に限定する」
カルゴ「…深い者、か。それには彼女達や嫁達、娘達は含まれてますよね?」
紫「もちろんよ。ただ、そこそこの付き合いの、魔理沙や妹紅、慧音、にとり…そこら辺のやつをどうしようかってね」
カルゴ「慧音は…寺子屋があるだろうしなぁ…。霊夢の話を聞く限りでは、魔理沙と妹紅は楽しんでたらしいからイイかも。にとりは確か技術会得の為に完全憑依に参加してただけらしいからナシでイイかなぁ…技術は完成したみたいだし……。妹紅と魔理沙はアリでお願いします」
紫「あら、技術は完成してるってわかってるのにどうして私に頼むのかしら?」
カルゴ「面の量産計画が頓挫したからですかね。今から量産することも可能でしょうけど、とんでもないお金が飛んでいきますから…」
紫「それもそうね。それじゃ、決行は明後日から5日間、憑依可能なのは嫁、彼女、娘、魔理沙、妹紅でイイわね?」
カルゴ「明日からじゃないのは連絡のための猶予期間ですね?」
紫「そう。察しがいいわね」
カルゴ「へへっ…。あぁそうだ、紫さんって俺の彼女達の事は把握してますか?」
紫「もちろんよ。嫁達と合わせて15人よね?」
母娘「はぁ!?」
カルゴ「そうです。…連絡は俺に任せて下さい」
紫「もちろんそのつもりだったわ。それじゃあ、また明後日ね♪」
と、妖しげに微笑んで、スキマを開いて消えた。
カルゴ「…それじゃ、俺は連絡でもしてくるよ」
霊夢「待って」
カルゴ「ん?」
スキマを開こうとすると、霊夢が起き上がって、俺の服の裾を掴んで引き止めてきた。どこか縋るような、そんな目をしている。
カルゴ「何?」
霊夢「あっ…あんたの初めての完全憑依は…私とやるんだからね!私があんたに憑依して色々な事教えてあげるんだから…初めての約束だけは絶対してこないで!したら相手の女ぶっ飛ばす!」
カルゴ「ああ、わかった♪」
満足したように再び横たわった霊夢に軽く口付けをし、各地に居る俺の嫁、彼女、さらには友人の元へと、連絡に向かった────。