完全憑依5日目。完全憑依が可能なのは0時までらしいので、俺は少しだけ急いで紅魔館へ遊びに来た。ここでは、フラン、レミリア、咲夜さん、弦月姫、小悪魔の5人と憑依できるので、実質、ここが1番試しがいがあり、忙しくなりそうだ。さて、まずは誰と憑依しようか。
カルゴ「美鈴起こそうかな…」
美鈴「スー……スー……」
相も変わらず、気持ち良さそうに眠っている。
涼しくなってきたとはいえど、風も無く日差しが心地良いので、眠ってしまうのは仕方がない。
だが、ここで起こさなければ咲夜さんか弦月姫に刺されることになるので、やはり起こそう。
カルゴ「起きな、美鈴」
美鈴「ふぇ…あ、おはよーございます…」
カルゴ「見つかると怒られるぞ?多分これから、外でバトるからさ」
美鈴「了解ですっ!」
ビシッと敬礼した彼女を見て目を細めて、真紅の大きな門をくぐる。玄関を開けると、目の前には咲夜さんと弦月姫母娘が並んで立っていた。
咲夜「おかえりなさいませ、旦那様」
弦月姫「おかえりなさいませっ、お父様っ♪」
美人メイドと美少女メイド…もう最高だ。思わず頬がだらしなく緩み、ニヤニヤとしてしまう。
カルゴ「ただいま、2人共。ところで、フランとレミリアは何処に?」
弦月姫の頭をワシャワシャと撫で回しながら、隣の咲夜さんに訊ねる。彼女なら主の所在地を把握しているからだ。
咲夜「お嬢様方は現在、お2人で完全憑依をして戦闘訓練をなさっています。初日からずっとで、もうかなり慣れているかと思われます」
カルゴ「お〜…戦うのが楽しみです。咲夜さんと弦月姫は、完全憑依の体験はもうしました?」
咲夜「ええ、弦月姫と少しだけ。ですが、片方の疲労や感情が流れてくるのが少し苦手ですね…。初日に2、3時間しか憑依していません…」
カルゴ「あー…やっぱ苦手とかありますよね…。それじゃ俺は、図書館で読書してきますね」
咲夜「承知しました。…さ、仕事に戻るわよ」
弦月姫「はいっ!」
確かに、感情の共有が苦手というのはわかる。
一昨日に巫月の感情が流れ込んできてからは少し苦手になった。霊夢と組んだ時は「やる気」で、博麗姉妹と組んだ時は「ワクワク」、魔理沙との時も「やる気」、妹紅とは「やってやるぜ!!」
…のような感じだったが、相方の感情に支配されかけるというあの感覚はどうも苦手である。
ましてや、巫月の時は、同じ感情を共有していた訳では無かったから尚更だ。
ピッタリ合わせるのは無理でも、あの時の巫月と俺のようにバラバラすぎると、そのような弊害も出るという事だ。
そこから察するに、咲夜さんと弦月姫の感情に、なにか大きな差異があったと考えられるだろう。
勘だが、咲夜さんは仕事の事で、弦月姫は憑依に対してワクワクしていたとか…その辺だと思う。
俺が組んだ中で一番相性が良かったのは…妹紅か魔理沙のどちらかで、その次に霊夢だろう。思い返してみても、やはり同じ感情による結びつきが強かった順に思えてならない。
あの感覚を克服したいのなら、片方がもう片方に感情を合わせるしかないのかもしれない。ならばスレイブがマスターに合わせるべき…だろうか。もしあの時、俺が巫月の感情に合わせていたら…恐らく、まずいことになっていただろう。
最終日になってようやくここに考えが至るとは、何とも情けない。
カルゴ「失礼しまーす…」
地下の図書館に到着した俺は、小声で断りを入れながら入室する。はるか彼方から、目を輝かせた小悪魔が翼をパタパタさせながら走ってきた。
走ると怒られるぞと注意しようとするが、彼女は大きくジャンプし、俺の胸に飛び込んできた。
小悪魔「エスカルゴさぁぁぁん!!」
カルゴ「ふぎゃっ」
しかも大声のおまけ付きである。この大図書館の司書的な立ち位置である小悪魔がこんな事をして大丈夫なのだろうか?
カルゴ「おいおい、そんな大きな声で大丈夫か?パチュリー様に怒られるぞ?」
グリグリと頬擦りする小悪魔を諭すように言う。だが、彼女から帰ってきた言葉は、とても意外な言葉だった。
小悪魔「今日はご機嫌らしいのでこれくらいでは怒られません!エスカルゴさんがここに来るのは久しぶりなので、つい興奮して…えへへへ…♪」
カルゴ「そっ、そっか…」
久しぶりってほどでも無いんだけどな…小悪魔の中では久しぶりなのかねぇ…。何日からが久しぶりに入るんだろう。6日かそれくらいか。
小悪魔「ところで…今日もエッチしません?またあの魔法使って♡」
カルゴ「いや、あれはちょっとなぁ…。小悪魔も俺も結構な負担かかるじゃんか。主にそっちが。
…あぁそうだ。機嫌良いならちょっと質問してもいいかな?こんな機会、あんまり無さそうだし」
小悪魔「大丈夫だと思います。行きましょ!」
小悪魔に手を引かれて、紅茶を飲みながら読書をしているパチュリーの元へ行く。言われてみれば確かに、いつもの様な暗い感じがあまりしない。何があったのだろうか。
カルゴ「お久しぶりです」
パチェ「久しぶり。私に何か用かしら?」
カルゴ「えっと…魔法についてなんですけど…」
パチェ「魔法について…ね。ふふっ、もしかして興味出てきたのかしら?」
そう言って、パチュリーは、見た目通りの少女のような柔らかな笑みを浮かべて、俺を見上げる。申し訳ないが、笑うパチュリーなんて初見なのでかなり驚いている。
意外すぎる。というか、思ったより可愛い。
カルゴ「ええ、そんな所です。…己の中に魔力を発見して早10数年…。俺は未だに、たった1つの魔法しか使えません。いや、使えないんですよ。どうにかして属性を増やせないものでしょうか?
…と思ったんです…。折角魔力があるんですし、有効活用したいじゃないですか」
パチェ「まぁ…向上心があるのは良いことだわ。だけどね、これだけは言っておくわね。身の程を知りなさい。属性を増やすというのはね、修行でどうにかなるモンでも無いの。魔法使いだったらその辺の融通は効くけど、あなたは吸血鬼よね?無い物ねだりも良いところだわ」
カルゴ「ダメっすか…」
パチェ「属性魔法はね」
突然の辛辣な言葉に、思わず翼が垂れるのが自分でも感じられた。機嫌悪くなってしまったのか、普段通りのつっけんどんな顔になってしまった。
カルゴ「じゃ…雷関連の魔導書借りますね」
パチェ「待ちなさい」
カルゴ「はい?」
背を向けて歩き出したところで聞こえてきた彼女からの呼び止めの言葉に、俺はまたも振り返り、言葉を待つ。顔色を伺うと、先程のようなどこか明るい顔をしていたのがわかって、機嫌を損ねた訳では無いらしい、と安心した。
パチェ「属性魔法は無理だけど、無属性魔法なら何とかなるんじゃないかしら?」
カルゴ「無属性魔法…?」
聞き慣れない言葉に首を傾げる。その言葉だけを聞くと、属性が無い魔法で、練習次第でなんとかなりそうな感じがする。
パチェ「そう。あなたも何回か見た事はあるはずだけど、覚えていないかしら?」
カルゴ「記憶にございません」
とある議員のような言い訳をするが、俺の場合は本当に記憶に無い。
パチェ「魔理沙の転送魔法。小悪魔の創造魔法。これらは今言った無属性魔法に入るわよ。見た事あるでしょう?」
カルゴ「ありますねぇ!」
今回は聞いて納得するパターンだったらしい。
よく考えてみればあれは…確かに属性は無い様に思える。転送に創造…納得だ。
パチェ「だから、ここら辺なら練習すれば何とかなるはずだと思うわ。今までのあなたは属性魔法に拘りすぎて、そっちの本しか読まなかったから雷のしか使えないと思い込んでただけなの」
カルゴ「なるほど…。小悪魔、ちょっと手伝ってくれるか?」
小悪魔「はいっ!」
まずは創造魔法から模倣する事に決めた。小悪魔の説明によれば、よほどの大魔法使いでなければ人体…生物の錬成などは行えず、机や椅子などの無生物しか作れないらしい。区分としては、一応植物も生物に入るとか。
作れたとしても、命の無い肉人形らしい。
そういえば、毎年貰う小悪魔からのチョコは創造魔法で作っていた。最初の方は無味であったが、今では普通に美味しい。
カルゴ「ふぅ…目が疲れた」
小悪魔「お疲れさまでした!」
創造魔法の魔導書(基本編)を読み終えた俺は、椅子にもたれてから大きく背伸びする。確かに、読めたし理解出来た。
が、使い方がよく分からない。魔力の扱いにまだ慣れていないからなのだろう。ここは、小悪魔の力を借りるしかあるまい。
しかも、今は丁度完全憑依が出来るので、これを利用して、一気に魔法を修得する。小悪魔が俺に憑依すれば、スレイブの特性が流れ込む原理で、魔法の使い方も多少は理解しやすくなると思う。
カルゴ「小悪魔、これの練習したいからちょっと俺に憑依してみて」
小悪魔「わかりました!」
予想通り、小悪魔の“魔法を使う”という特性が、微弱ではあるが、俺に影響を与えている。少しは使い方のコツが掴めた。
カルゴ「えーと…創りたいものを思い浮かべて、魔力の流れを掴み…………錬成っと」
初錬成は、今俺が読んでいた
少し古びた感じも真似できた。タイトルの文様のような文字も、紙の匂いも、手触りも。
カルゴ「できた。どうかな?」
小悪魔「うわ〜!凄いですね、一発成功です!」
カルゴ「まぁ、物が本だし…これくらいは出来てほしいな。これでダメだったら割と悲しいな…」
小悪魔「あはは〜………あれ?」
カルゴ「ん?」
小悪魔「この魔導書…中身白紙なんですけど…」
カルゴ「なぬっ!?…うわぁぁぁぁっ!」
魔導書を開いた小悪魔と入れ替わると、確かに、俺の手には白紙のそれが握られていた。もしや、俺が今創ったのは魔導書タイプの手帳だろうか?否、普通の魔導書…を創ったのだが…。
「魔導書が…驚きの白さッ!!」
何かの歌詞の様なものが一瞬で頭に浮かぶ。
紙は古ぼけているくせに、何も書かれていない。
こんな本、誰得だろうか。俺得ですらない。
カルゴ「大失敗だな…表紙と背表紙と裏表紙しかまともに出来てないじゃんか…」
小悪魔「いやいやー、質感を真似できているのはとても凄い事ですよ?普通は質感がダメですし」
パチェ「それはあんただけ」
小悪魔「はうっ!?」
突然現れたパチュリーに毒を吐かれ、しょぼんとしてしまう小悪魔。可愛い…。
パチェ「いい?中身を全部暗記してちゃんと思い浮かべなきゃ、本の錬成は無理よ」
カルゴ「いやいやいやいや……一冊丸ごと暗記?そんなの、一朝一夕には無理ですよ…」
パチェ「あなたには…ね。小悪魔、創ってみて」
小悪魔「はい!」
と、パチュリーに指示されたので、小悪魔と入れ替わり、それと同時に魔導書を創る小悪魔。
再び俺が表に出てその本を手に取り、中を見るとしっかり中身が書かれていた。内容も同じだ。
カルゴ「暗記してるのかよ…やばいな」
小悪魔「いえ!先程、隣で一緒に読んでいたので内容を覚えていただけです!短時間ならば、全て暗記出来ますから!」
カルゴ「すげっ…」
そういえば、易書を創ってもらった時にも一緒にそれを読んでいた気がする。短時間とはいえど、そのとんでもない記憶力に内心で舌を巻く。
パチェ「…ま、創造魔法はこんな感じよ。大体の流れは掴めたかしら?」
カルゴ「ええ、おかげさまで。しかし、なぜ人体錬成は出来ないんですか?ただの肉人形って…」
パチェ「…それだけ、命というものは神聖で尊いものだからでしょうね。人工的には生み出せないものもあるっていうことよ。命を吹き込めるのはまさに神の所業ってね」
カルゴ「ふむふむ…。先程の本は基本でしたが、応用はどういうものを創れるんです?」
パチェ「高質量の物体よ。読んだところで、特に意味ないわ。慣れれば自然に創れる様になるし」
カルゴ「屋敷とかそういうものですか?」
パチェ「ええ。乱立されちゃ困るから、練習ならどこか他所でやってよね」
カルゴ「わかってますって」
創造魔法……魔力は少ないが、コツコツ練習してゆっくり上達していこう。何せ、俺にはまだまだ寿命という名の時間がある。
魔法の方は、焦らずじっくりにしよう。
カルゴ「小悪魔、これからレミリア達と戦うけどどうする?一緒に戦うか?」
小悪魔「あなたは私を殺したいんですか!?」
カルゴ「はは、冗談冗談。あの2人が組んだとか面白そうだ、戦い甲斐があるね。パチュリー様はどうです?俺と組みません?」
小悪魔との憑依を解除して、再び2人に戻る。
冗談ということが分かったからか、ホッと胸をなでおろしている。そこまでおっかないだろうか。
パチェ「憑依出来るなら組んでもいいけど、憑依出来ないから無理ね」
カルゴ「あぁ、そうだった。…そういえば、なぜ今日はご機嫌なんですか?」
パチェ「なんとなく、喘息の調子がいい様な気がするの。座ったりなんだりして落ち着いてても、たまに苦しくなる事はあるけど…今日はそれすら無いからね。どうして?」
カルゴ「なんだか、笑顔のパチュリー様は初めて見た様な気がしまして。…新鮮でした」
パチェ「一緒に居る時間が短いだけでしょう…。幻想入りした少し後くらいは頻繁に来てたのに、最近はろくに来ないじゃない」
小悪魔(私もほとんど見た事が無いんですが…)
カルゴ「それもそうでしたね。…教えを乞う事ができて嬉しかったです、ありがとうございます。では、また来ますね」
パチェ「ええ。待ってるわ」
カルゴ「!」
待ってる…?まぁ、パチュリーっていつもここで小悪魔やレミリア達としか会わなさそうだから、偶には他の顔も見たいんだろうな。
カルゴ「じゃあな小悪魔、また来るよ」
小悪魔「はい、お待ちしております!」
珍しく2人に見送られながら図書館を出た俺は、スカーレット姉妹が訓練しているという部屋に、たった1人で向かった。
誰と組むのかはわからないが…とても楽しみだ。
少しだけ魔法力がアップしたエスカルゴ。
あるものは最大限に活用したいと考える彼だからこそ、そっちも伸ばしたいと考えるんですな。
小悪魔が言っていた「あの魔法」とは一体…?
その正体は近々!