お昼前の紅魔館上空。そこでは、完全憑依をした俺とレミリアが激戦を繰り広げていた。その音に美鈴まで目を覚ます程、戦いは白熱していた。
レミリアが槍で突いてくれば、身を躱すか、剣で弾いてやり過ごし、俺が剣を振るえばレミリアも槍か剣で受け止める。
レミィ「はぁ…はぁ…中々当たらないわね…!」
カルゴ「こっちのセリフだよ…ったく…。今までなら、もう決着付いてたんだがな…」
向こうもだが、俺も息が切れている。肩で大きく息しながら、どうにかして勝とうと策を講じる。だが、一向に妙案は浮かばない。困ったものだ。俺が下手に能力を使えば、落雷によって、真下の花壇を傷つけてしまうかもしれないからである。ならば、優秀なスレイブに任せることにしよう。
弦月姫「えっ!?」
レミィ「!」
突然に切り替えられた弦月姫は驚き、レミリアもハッとなにかに気付いたような表情になる。
レミィ「へぇ、次はあなたが相手ね?いいわよ、遠慮はいらないから存分にかかってらっしゃい」
弦月姫「っ…わ、分かりました…!皆さん、力を貸して下さい!」
誰かに援護を頼んで、地面に手をかざす弦月姫。すると、真下の花壇に生えている花達が急速に伸びてきた。弦月姫の《植物を操る程度の能力》が発動したのだ。しかしこれは、まだまだ初歩中の初歩。これからが本番である。
レミィ「…中々上手に使いこなしてるじゃない。で、花で私を雁字搦めにでもするつもり?」
弦月姫「いいえ。…ここで、お嬢様に質問です。このお花から発射されるのは、弾幕でしょうか?種でしょうか?」
自分のそばに寄せた花をサラサラと撫でて、主のレミリアに対し、俺が予期せぬ質問をする。何が発射されるのかは…俺にもまだわからない。
レミィ「…種」
弦月姫「正解は────!」
手を下ろして、レミリアに向かって花から弾幕を発射する弦月姫。ボボボボッという軽い爆発音の様な音が連続して発生する。しかし、広範囲から狙われたレミリアだったが、殴り、蹴り、武器で払い飛ばしていく。
弦月姫「くっ…種と弾幕じゃ効きませんか…」
レミィ「しかも種の方は能力で強化してるでしょあなた…。痛いったらありゃしないわ。だけど…そろそろこっちもいくわよ、弦月姫ちゃん!」
弦月姫「ッ!!」
花を再びレミリアへと向ける弦月姫だが、対するレミリアは、自らの胸の前で、レーヴァテインとグングニルを押し合わせる。
弦月姫「ぶ、武器が合体した…!?」
グングニルに、オレンジ色の炎が纏う。槍全体が激しく燃え上がるが、レミリア自身にダメージは無さそうだ。
レミィ「うふふっ…フランじゃなくて私が出したレーヴァテインだからこそ成せる技よ♪」
弦月姫「お父様、お願いします!」
カルゴ「ああ!さぁ来い!」
弦月姫から俺に入れ替わり、背中にかけた双剣を抜き、再びレミリアと向かい合う。先程よりも、ずっと力が高まっているように感じられる。
レミィ「そろそろ決着つけるわよ!今夜は満月、宴の準備もあるんだからね!」
カルゴ「じゃあ、この戦いを前哨戦としようか!どうせ宴の場でも暴れるんだろうからな!」
レミィ「フンッ、余興にはもってこいね!スペルカード発動!豪炎『ファイアトルネード』!!」
まるで隕石のような大きな火球と、炎の竜巻が、炎の槍からドッと発射された。避けるか潰す事に集中するが、そのたびに、猛烈な熱気を浴びる。それに、ここら辺でキメなければ火事になるかもしれない。炎関連の技を使うときには、もう少し場所を考えるべきだろう。
カルゴ「雷武器『雷弓』!!」
避ける事を続けながらも、左手に弓を装備して、右手でキリキリと弦を引き絞る。この弦の強さをキロで表すとしたら軽く100キロは超えている。人間には到底引けない強さだ。吸血鬼ならではの馬鹿力にものを言わせている。
カルゴ「穿て!時光『光陰矢の如し』!!」
二段スペルで更に強化した矢は、その言葉の本来の意味とは違うが、時止めを解除した時のように急加速し、炎の弾を消し、渦を貫き、レミリアも貫き通す。そして、強化してあるのは、矢の速度だけではなく…その電力もである。
レミィ「くぅぅぅぅっ…全身が……痺れた…!」
苦しそうに顔をしかめ、手足をピクピクと僅かに動かしてよろめくレミリア。試しに、スレイブのフランと入れ替わってみるが、痺れも継続されるらしく、フランも上手く動けなかったらしい。
背骨には重要な役割がある。そこが麻痺したら…どんな恐ろしい事になるかが、よくわかった。
レミィ「ちょっと…ニヤけてないで助けてよ…!筋肉が硬直して手足翼が動かせないのよ!」
カルゴ「しかも落ちかけてるし。しゃーないな、部屋まで連れてってやるよ♪」
しゃーないな、とは言ったが、仕方がないなんて微塵も思っていない。どのような言い方であれ、レミリアから頼られるのはとても嬉しい。
レミィ「優しく触ってね…痺れてるから…」
カルゴ「はいはい。よいしょっと」
レミィ「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!ちょっ、痺れてるって言ってるでしょ!?」
構わず抱き抱えると、ビクンと大きく身体を仰け反らせて耳元で喚きまくる。可愛い。
カルゴ「喋るしか出来ないんだもんな♪」
レミィ「わかってんならもっと優しくして!」
カルゴ「嫌ならフランに変わればどうだ?」
レミィ「え…いや〜…それは嫌ね」
カルゴ「何で?」
レミィ「何でって…(もしも今フランに変わったら抱きかかえられてるっていう状況だし…そんなの普通に考えてズルすぎるし…)とにかく、今だけは優しくして!」
カルゴ「謎の間が気になるが…いいや。この後は完全憑依解除してまったり過ごそうな♪」
レミィ「ふふっ…今夜は寝かせないわよ♡」
カルゴ「今夜こそ寝かせてくれ」
レミィ「えー」
やはり俺に休息は無いらしい。
仕方がないので、全てにケリを付けたらしっかり休む事にしよう。いつ過労死してもおかしくないという状況…には遠いかもしれないが、何にせよ身体的にそろそろキツくなってきた。
カルゴ「まだ痺れ治らないの?いつも1、2分ですっかり治るじゃないか」
レミィ「力出しすぎたのよ、あなた。まだまだ、手足は動かせそうにないわ」
「これだから暴走癖ある奴は…」と悪態をつき、大きな大きなため息を漏らした。それを聞いて、少しばかり申し訳ない気持ちが湧いてきた。
カルゴ「…ごめん、加減間違えたな」
レミィ「ホントよ、全く…。これが彼女に対する仕打ちなのかしら?まるで破局前の喧嘩みたい」
カルゴ「縁起でもないことを…。ま、俺は絶対にレミリアたちを離さないけどさ」
レミィ「そんなのは私も同じよ。相手を離さないのは自分だけだと思わない事ね」
カルゴ「…ああ」
レミィ(ホントはとっくに治ってるけどね…もう少しだけ甘えても…良いわよね?どーせいつも、フランがベタベタしてるんだしね、たまには姉の私がワガママ言っても…許される…わよね?)
深夜の紅魔館。満月の宴の最中に、紅魔館にある時計台が、真夜中の幻想郷に午前0時を告げる。
これにて、擬似完全憑依異変は終わりを告げた。今頃紫さんが能力を解除した頃だろう。
カルゴ「弦月姫、ちょっと俺に憑依してみて」
弦月姫「はい!………あれ?」
カルゴ「やっぱ、もうダメか」
憑依出来ずにキョトンとしている弦月姫を見て、憑依出来ないことが確信に変わった。とその時、俺の目の前の空間が横長に切れて、上半身だけの紫さんが現れた。
紫「どうかしら?完全憑依、楽しめた?」
カルゴ「勿論です。ありがとうございました」
紫「良いのよ。たまには刺激も必要だしね。で、明日の予定だけど…」
カルゴ「逃げ出した夢の世界の住人を捕まえて紫さんに引き渡す…ですよね」
紫「その通りよ。野放しは良くないからね、明日だけで全員捕まえてね。人数は13人。誰なのかはお楽しみにしておきなさい」
カルゴ「ははは…了解しました」
せいぜい気をつけてちょうだいね、と最後に言い残し、スキマの中に帰っていった。
13人…そこそこ多いが、何とかなるだろう。
明日が地味に楽しみである。