カルゴ「よぉーし、次はアイシクルフォールだ!俺の分身をぶっ壊してみやがれ!」
チルノ「わかったっ!喰らえ!氷符『アイシクルフォール』!!」
氷の弾幕を発射するチルノ。だが、分身は軽々とそれらを避け、チルノに対し軽口を叩く。
分身「まだまだ遅い。お前なら出来るぞ。ほら、よく狙って俺に当ててみろ」
チルノ「当たれ当たれ当たれぇぇぇ!!」
カルゴ「…ふむ…」
ある日の昼下がり。俺は、霧の湖の上でチルノと2人で、弾幕特訓をしていた。「負けてばっかで悔しい」と、チルノの方から、美鈴と話していた俺に特訓を頼んできたのだ。
巫月から、俺と弾幕特訓をしている旨を聞いたと言っていたので、そこから俺に頼むという結論に至ったのだろう。意外な申し出だとは思ったが、割と真剣な目付きに見えたので、大妖精と美鈴が紅魔館の門前から見守る中、特訓を開始した。
チルノ「当たんないぃぃっ!」
カルゴ「よし、少し休憩しよう」
チルノ「くっ……!」
疲れが溜まってきたのか、精度が落ちてきた様に見えたので休憩を促す。無駄に力を消費しても、それは特訓ではなく、ただの浪費だ。…と思う。
チルノ「はぁ…」
大妖精「お疲れ様、チルノちゃん!」
美鈴「お疲れ様です!」
湖上から湖の端(門近くの方)へ行くと、特訓を見守っていた大妖精と美鈴が駆け寄ってきた。
湖のほとりに体育座りで座り込んで、幾度となく大きな溜め息をつくチルノ。溜め息なんてチルノらしくないが…上手くいっていないことを本人も自覚しているらしい。
大妖精は必死にチルノを励まそうとしているが、それが却って彼女を傷付けてしまっている。
チルノ「ねぇエスカルゴ…。あたいって、本当に今よりも強くなれるのかなぁ…?」
そばに落ちてる石を拾い上げて、湖に投げ込む。
内心、わかさぎ姫に当たっていないことを祈る。
カルゴ「なれるさ。特訓している様子を見ていて感じたが、しっかり真面目にしているからな」
チルノ「でも…上手くいかない…」
カルゴ「数をこなせば出来るようになるよ。今日始めたからって、今日すぐに上手くなるわけじゃないんだから。そこら辺はわかるだろう?」
チルノ「…ん。でも…いつまで経っても、上手くなれる気がしないよ…」
カルゴ「……」
何でだろ…いつもうるさいチルノがしおらしいとこっちまで気が滅入ってくるぜ…。元のうるさいチルノに戻してやりたいが、俺はどうすればいいのかなぁ…。わざと被弾するのはチルノのためにならないしな…。難しいところだぜ。
チルノ「ねぇ。なんであたいの特訓に付き合ってくれるの?そっちが何か得する訳じゃないのに」
カルゴ「いや、お願いを聞いただけなんだが…。それと、損得で考えてないからな、別に。お前が真剣そうだったからノッたってだけだ。…まぁ、普通に考えりゃ俺に得はねぇんだけど………」
チルノ「けど?」
カルゴ「お前を育てる事は、俺にとって得になる事だってあるんだぜ?」
チルノ「え…?」
顔を上げ、素っ頓狂な声を漏らすチルノ。どこが得になるのか、まるで分からないといった風だ。
カルゴ「俺って子沢山だからさ、大きくなったらそれぞれの相手をするわけじゃん?でも、何年も何年も同じ相手と同じ事してちゃ、互いに互いの戦法に慣れるから、もう特訓になってないんだ。普通に楽しむ、ただの弾幕ごっこだ」
チルノ「…つまり?」
カルゴ「チルノを強くすれば、子供たちにとってイイ刺激になるんじゃないかって思ってるんだ。アイツらには…敵が少ない。生まれ持った力でも十分戦えているが、それだと、これ以上の成長は見込めない。成長ってのは、しっかり戦える奴…自分にとって、ライバル的存在が居てこそ出来るものなんじゃないかって思ってるんだよ。子供らには、負けが足りてない」
俺たち吸血鬼は極端に寒かったり暑かったりするのが苦手だ。だから、チルノやレティ…お空…。そして妹紅。
氷や火を使うヤツは、力を高めれば俺たちの天敵になりうる。だからこそ育てたい。己を高める礎として。
チルノ「なんで?子供が相手に余裕で勝った方がエスカルゴは嬉しいんじゃないの?」
カルゴ「そりゃ、勝った方が嬉しいな。そんなの当然だ。けどな?たとえ負けたとしても、子供が成長した方が、ずっとずっと嬉しく思うのさ」
チルノ「えっと…つまり……あたいを強くして、子供とちゃんと戦わせて、子供の方も、ついでに強くしようってこと?」
カルゴ「ま、まぁ…そうなるか?」
チルノ「そうすれば、あたいも子供も強くなってお得になるって事か…」
カルゴ「ああ。一石二鳥ってやつだな」
チルノ「そっかー……」
再び湖に目を落として、しばらく考え込む。俺と大妖精は、何を考えているのだろうと顔を合わせ首を傾げる。しばらくそうして考えていたチルノだが、ようやく口を開いた。
チルノ「でも…やっぱりダメだよ、あたい…」
カルゴ「どうして?」
チルノ「エスカルゴは強いからわかんないんだ。巫月の弾幕は、早くて避けきれない事が多くて…それでいつも痺れるんだ」
カルゴ「俺だって最初から今みたいな力持ってたワケじゃないんだがな…。じゃあ聞くが、巫月はチルノの弾幕、全部避けてるか?」
チルノ「ううん、たまに殴ったり斬ったり」
カルゴ「チルノは避けるだけ?」
チルノ「…うん」
カルゴ「チルノも、避け方を増やしてみればどうだろう?ただ避けるだけじゃなくてな」
チルノ「でも何があるかな…」
カルゴ「巫月みたいに殴ったり斬ったりとかは?あと、氷のバリアを張るっていう手もある。前にお前がバリア張ってるの見かけたぞ?」
チルノ「殴るのは出来ないなー…。バリアは多分冬だけだよ…力が多くなきゃ大技は使えないし。斬るのは出来るかもだけど……」
カルゴ「氷作る時みたいに、剣作れるのか?」
チルノ「出来るよ。でもやっぱり冬だけかも…。脆くて崩れたら意味無いもん」
カルゴ「そう…か…。まぁとりあえず、できないって決めつけるんじゃなくて、やってみる事だ。諦めてちゃ成長はしないぞ」
チルノ「…!あたいやってみる!」
カルゴ「ああ。力をどっちかの手に集めて、剣か何か、作りたい物の形を作るんだぞ」
チルノ「わかった!」
よくバカと言われるチルノだが、それは一重に、素直で純粋ということだ。良い意味でも悪い意味でも、素直な方が伸びやすい。
チルノ「むむ…ねー、ちょっと剣見せて。あたい剣作ってみたい」
カルゴ「おう」
背中の黒剣を抜くと、チルノはそれをまじまじと見つめる。そして自身の右手に視線を落とすと、力を集めて凝縮をし始めた。すると、すぐに刃の長さが70cmほどの剣が完成した。
チルノ「出来たー!!」
大美鈴「おぉーっ!!」
カルゴ「驚いた。1発で武器の生成を成功させるなんてな。巫月ですら最初は苦戦していたよ」
チルノ「あたい天才だもん!」
剣を掲げてドヤる。普段なら苦笑いするのだが、今回ばかりは普通に褒めたいと思う。
カルゴ「やるじゃないか。でも、ちゃんと物とか斬れるか?見た目はスゲー綺麗だけど」
氷で作った剣は透明で、キラキラと日光を反射、または透過しており、とても綺麗だ。だが溶ける様子は無い。すぐに溶けると思っていただけに、それには驚いた。
チルノ「斬れるよ、多分!美鈴、斬らせて!」
美鈴「ええええっ!?」
カルゴ「いや、美鈴じゃなくて俺の腕斬ってみ。どうせすぐに再生するから」
チルノ「うん!…たぁっ!」
カルゴ「つっ…!」
差し出した腕はボトリとその場に落ちて、日光に当たって気化して、消えてしまった。
チルノ「き、斬れた!」
カルゴ「…あれ?切り口が凍ってる…」
チルノ「ふおぉっ!すごっ!あたい天才!」
カルゴ「溶けるまで再生できなさそうだな」
美鈴「いや、なんでそんなに冷静なんですか!?もっと何かアクションあるでしょう!?」
なんでそこで美鈴が慌てるんだか。いや、慌てるんじゃなくて、焦っているんだな。
カルゴ「凍ってるからか、感覚が消えてるんだ。チルノ単体ではこんなに長時間俺を凍らせられなかったはずだが…。その剣を使って、自分の力を凝縮して、腕を凍らせたんだな」
チルノ「わかんない!あははっ!」
まぁ…うん…なんつーか、結構痒い。霜焼けって痒くなるよね…俺だけ先に冬を体験してるよ…。
早く溶けろよ、なんで露1つ流れないんだ?
このままじゃ、腕が壊死するぞ…?
カルゴ「チルノ、ちょっと離れて。これ溶かす。融解『地上の人工太陽』!」
チルノ「うぎゃわわ!熱っ!」
カルゴ「あ^〜いいっすね^〜……。熱くて腕が気持ちイイ…ぎゃああああ溶けてる溶けてる!!アッー!肘まで溶けたぁぁぁ!!加減ミスった!あぢぢぢぢぢっ!!」
火球で切り口の氷を溶かそうとしたのだが、その火加減を間違えてしまい、腕がみるみる溶けて、俺は全身が真っ赤な火炎に包まれてしまう。
美鈴「あわわわ…急いでバケツ持ってきます!」
チルノ「よーしっ、あたいに任せろ!凍符『パーフェクトフリーズ』!!」
冷たい強風が吹き荒れ、高密度な氷の弾幕が炎の中に入っては溶け、入っては溶ける。ついには、炎はバケツを取りに行った美鈴の戻りよりも早く鎮火され、俺は無事救出された。
カルゴ「はぁ…はぁ…死ぬかと思ったぜ…」
チルノ「よっしゃー!エスカルゴの火が消えた!へへんっ、どうだ!あたいに感謝しろ!」
カルゴ「ああ。ありがとう、助かったよ」
再生した腕で、体温が低いチルノの頭を撫でる。手が凍傷になりそうになるがそんなのは無視だ。対するチルノは、えへへ、と顔を綻ばせている。
美鈴「よーし、これで湖の水を…あれ?」
チルノ「やっほー!もうあたいが消したぞー!」
美鈴「ええっ!?」
カルゴ「美鈴もありがとな。だが、チルノの方が一歩早かったようだ」
美鈴「ちぇー…」
頬を膨らませた美鈴は、バケツを片付けに戻る。
が、流石は頭脳明晰な大妖精。ここである疑問を口にする。
大妖精「湖の中に飛び……むっ!?」
カルゴ「
大妖精「…!」
口を塞ぎ「言わないで」と合図すると、気付いた様に目を見開き、小さく頷いた。一方チルノは、まだ腰に手を当てて声高らかに笑っているので、この一連のやりとりは聞いていないはずだ。
カルゴ「チルノ」
チルノ「んー?」
カルゴ「消せたじゃん、俺の火」
チルノ「!」
カルゴ「俺の火は自然の火よりずっと強いんだ。それを消せたんだ、お前の力はもう上がってる」
チルノ「そう…かな?えへへ…。…ほんとに?」
照れたと思うと、疑惑の目を向けてくる。チルノたち妖精は、実に表情が豊かだ。
カルゴ「なぁ大ちゃん、さっきのチルノの弾幕、どうだった?客観的に見ててさ」
大妖精「えっ…と…弾幕が増えてたと思います!少なくとも、休憩前と比べて!」
カルゴ「ほれ。ずっと見守ってた大ちゃんがそう言ってるぜ?大丈夫、お前は強くなったよ」
チルノ「へへっ…あたいったらサイキョーね!」
カルゴ「いやいやぁ、サイキョーを名乗るのは、少なくとも子供達や俺、霊夢を倒してからだぜ?霊夢は妖精相手でも容赦ねぇぞ〜?」
チルノ「ハードル高すぎだろ!」
カルゴ「はははっ、サイキョーへの道は遠いな!でもまぁ、そこらの雑魚妖怪より遥かに強いのは確かだな。妖精の中では…俺が知ってる中だと、クラピの次くらいに強いんじゃないか?」
チルノ「あーそーだ!あいつにも勝ちたい!」
カルゴ「んじゃ、松明の火をさっきので消して、焦ってる所を集中攻撃だ。多分いけんじゃね?」
チルノ「おおおおー!お前がそう言うと、なんかできる気がしてきた!」
カルゴ「できるさ。さっき、俺の火を消したろ?あれが消せたら上出来だぜ」
チルノ「へっへー!待ってろよクラウンピース!今からあたいが退治してやるー!」
カルゴ「あちょ、今すぐは力が足りな…あぁぁ…行っちまいやがったよあのバカタレ…」
打倒クラウンピースに闘志を燃やしたチルノは、言うなり、すぐに飛び立ってしまった。スキマで呼び戻そうとしたが、ああいうバカは、痛い目に遭わなければ理解できないかもしれない、という酷い結論に至り、スキマの使用を諦めた。
大妖精「エスカルゴさん」
カルゴ「ん?」
大妖精「あの…チルノちゃんを特訓してくれて、ありがとうございました」
カルゴ「おうよ。…あれ?チルノのこと追いかけなかったのか?」
大妖精「すぐに遠くに行っちゃったので…」
カルゴ「だな…。ま、少しだけでもあいつの力を高められて良かったよ。あとはあいつ次第さ」
大妖精「そうですね。…さっきの火のやつって…ワザと…ですよね?」
勿論ワザとである。最も、腕の切り口があんなに凍らなければ思い付かなかった策であるが。
それに、下手をすれば紅魔館が火事になったかもしれないのだ。俺がその気になれば、すぐに窒息消化させられるとはいえ、危険な賭けだった。
カルゴ「……さぁ、どっちだろうな。俺はただ、あいつの願いを叶えてやりたかっただけだし……自信を持って欲しかったってだけだ」
大妖精「自信を…?てことは、火は簡単に消えたってことですか?」
カルゴ「そんなワケないぜ。ガチな火だからな、簡単には消えない。てか、もしもそれで偽の火を消させて、自信をつけさせたところで、あいつの為にならないからな。ましてや、クラピをけしかけるとか…するわけないし」
大妖精「それもそうですね。…じゃ、私、チルノちゃんのところに行きますね!また何かあれば、お願いします!」
カルゴ「ははっ、わかったよ」
頭を下げて飛び立った大妖精を、笑顔で手を振りながら見送る。同じ妖精のはずなのだが…子供と大人のような、妙な格差がある。
立派に保護者してるなぁ、大ちゃん…。
美鈴「あれっ、チルノさんたちは?」
バケツを片付けた美鈴は再び門番の仕事に戻る。
しかしそこにチルノらが居なかったので、辺りを見回して俺に訊ねる。
カルゴ「腕試しに向かった。結構頑張ったから、力が足りてないと思うんだけどな…。よし美鈴、次はお前の特訓だぜ!かかってこい!」
美鈴「はい!気を集めて……波ァァァァ!!!」
カルゴ「うわわわわっ、イキナリ大技かよ!」
美鈴「特訓開始のゴングはもう鳴ってますよっ!そぉれもう一丁!波ァァァァッ!!」
カルゴ「はは、面白い!全力で相手してやる!」
…その後、紅魔館の門前には巨大なクレーターがいくつもできて…門が一部崩れて、咲夜さんから数年ぶりに説教されてしまった。
幻想郷は、今日も平和である。
学校終わったら太達行きます。東方コラボは明日からなんだけど…ちょっと、練習にね。