母さんに新しい能力を付与された次の日。俺は、朝からパチュリーと魔法の特訓に勤しんでいた。といっても、俺が魔法を使い、パチュリーはそれを見ているだけなのだが、たまに力の使い方や、無駄の無い使い方を教えてくれる。魔導書より、誰かの口を介した方が遥かにわかりやすい。
もちろん、パチュリーの近くには小悪魔がいる。
カルゴ「もう一丁!獄雷『Deadly Thunder』!」
床に剣を刺すワケには行かないので、床に出した魔法陣から、赤黒い雷を召喚する。パチュリーの魔力吸収結界にその雷を撃ち込み、雷を呼び出す特訓は一段落する。
剣を刺すのは屋外の戦闘の時で、屋内では、床に魔法陣を出す方が手っ取り早く召喚出来る。
簡単な魔法なので、魔法陣は単純で良いらしい。複雑にすれば攻撃力は更に上がるらしいが、今のままでも別に構わない。元々このスペルはかなり殺傷力が高い。(弾幕ごっこ向きじゃない。)
カルゴ「やっぱ魔法陣から出す方がかっこいい?うーむ…これからはそうしようかな」
パチェ「戦闘中にそんな余裕があればいいわね。魔法に不慣れな内は、今までみたいに剣を刺した方が手っ取り早いと思うわ。…まぁあなたのことだし、私には何の関係も無いけどね」
カルゴ「ふむ」
小悪魔「私は、地面から噴出するのもカッコイイと思いますよ〜。大技みたいな感じがして!」
カルゴ「でも、あとで地面を埋めるのがなぁ…。穴を開けっぱなしに出来ないしさ」
小悪魔「あ〜…」
はっきり言って地面を踏み固めるのは面倒臭い。
ボコォッと突き破って噴出してくるから、上から圧力掛けて固めないと、穴が開きっぱになる。
カルゴ「マジで超能力があったら何でもかんでも思い通りにできるのになー。でも、反動が怖くてあんまり力使えなさそうだな…」
パチェ「大きい力ほど、返ってくる反動は大きいものだからね」
カルゴ「暴走後の疲労と、闇落ち時のネガティブ思考。ダメだとわかっていてもそうしちまう…。勝手にそうなるから面倒なんですよね、これ」
パチェ「あなたの本来の能力は雷の力。だから、そっちには大した反動は無い。でもそのおかしな2つの力は反動が大きいのよね」
カルゴ「狂気の方は別におかしくもないような。だって元々俺の中にあるものだし…」
パチェ「操れる事自体がおかしいのよ。それに、
『元々俺の中にあるもの』なんて言ったら闇の力もそうでしょうよ」
カルゴ「あっそっかぁ…」
パチェ「…そうか。あなたの魔力が少ない理由、多分わかったわ」
カルゴ「えっ、何ですか?」
パチェ「紅魔館の吸血鬼には無くて、霊夢と霊麗とあなたにはあるもの。多分それがあるからよ」
カルゴ「…?霊力?」
パチェ「そうよ。きっと、霊力がある代わりに、魔力が少ないんだわ。でもあなた、霊力の量すら霊夢より少ないんだっけ?随分と中途半端ね…」
カルゴ「うっ…。でもその説が正しいなら…」
パチェ「霊夢たちの魔力も少ないと思うわ」
カルゴ「うわー…俺って中途半端だー…」
強さでも適わず、力量でも適わないことに嫌気が差した俺は、ボリボリと頭を掻き毟ってその場にうずくまる。霊夢に勝てる要素が、1つも無い。せめて、1つくらいは何か勝てる要素があっても良いと思うのだが。
だが、そうやってしばらくうずくまっていると、意外なことに、パチュリーが俺に対して励ましの言葉をかけてくれた。
パチェ「いつもみたいに、前向きに考えなさい。両方あるけど両方とも少ないってことは?」
カルゴ「………伸び代がある?」
パチェ「そう。できるかはあなた次第だけどね。せいぜいそんくらい前向きで居なさい」
カルゴ「あざっす!…いつかあの霊夢にも1人で勝ちたいなぁ…。夢想天生使われたら詰むけど」
パチェ「どんな技だっけ?」
カルゴ「あらゆる事象から浮いて、半透明な透明人間みたいになる技です。攻撃は当たらないけど向こうは勝手に発射してくるとかいう、ホントのチート技ですよあれ」
パチェ「あらゆる事象から…ね。でも、最低でも2つの力からは浮いてないはずよ」
カルゴ「ふぇ?」
パチェ「まず、地球の重力。それから浮いたら、多分どこまでも天高く上るんじゃない?」
カルゴ「ほへー……。あぁ、あくまでも浮くだけだから、昨晩パチュリー様が言ってた『絶対的な力』からは逃れられないってことか…」
パチェ「そういうこと。あと1つは地球の自転。
…あ、地球の公転も含まれるから最低で3つか」
カルゴ「???」
パチェ「考えても見なさいよ。自転から浮いたらその体はどうなるのよ?…慣性の法則に則って、自転の速度のままで彼方に吹き飛ばされるわよ?しかも、公転からも浮いたら…多分、宇宙空間に放り出されるわ」
カルゴ「『絶対的な力』ってすげぇ…」
パチェ「力とは違うけど、生物としての理からも逃れられないと思うわ。呼吸とか、ね」
カルゴ「呼吸?……あー、周りの酸素を燃やして窒息させるってことか…。まぁやらないけど…」
パチェ「あら、どうして?どんな手を使ってでも勝ちたいんじゃないの?」
カルゴ「苦しませるやり方は、負けるよりも嫌いなので。下手したら窒息死するかもしれないし。そんな手を使うなら負けた方がマシですよ」
パチェ「ふーん…」
カルゴ「…重力からは逃れられない。だったら、重力操作の魔法を覚えたら、ワンチャン夢想天生突破できる可能性が微レ存…?でもそんな魔力が俺には無い…くそー、八方塞がりかー…」
パチェ「また、意味のわからない言葉を発してるわね。何それ?吸血鬼語?」
カルゴ「? 何の事です?」
パチェ「ワンチャンとか微レ…なんとかっての」
カルゴ「外の世界の言葉ですよ。ワンチャンっていうのは『ワンチャンス』で、微レ存は『微粒子レベルで存在している』です。『限りなく可能性が低いもののゼロではない』的な意味合いです」
ワンチャンって、元々は麻雀用語らしいけどな。
最近の若者は別な意味で使ってるよね。
パチェ「宇宙人の言葉に聞こえるわ…。あなたがたまに漏らす訳分からない言葉は、外のなのね」
カルゴ「そんなに漏らしてます?」
パチェ「性的な意味じゃないけど、興奮してたりするとたまに言ってるわ」
カルゴ「へぇ…知らなかった…。まぁそれより、魔法の練習に戻りますかね」
パチェ「ちょっと待って、私を少し休ませて…。魔力吸収結界って普通のより疲れるのよ…」
カルゴ「わかりました」
読書に戻ろうとする俺だが、唐突に小悪魔が後ろから抱きついて、ルンルン口調で話し始めた。
小悪魔「パチュリー様もエスカルゴさんに魔力を注いでもらえばいかがですか〜?気持ちよくなれますし、一石二鳥ですよ♪」
パチェ「魔力はあるって言ってんでしょーが!今足りてないのは体力だから!というか、私は精液から魔力の吸収なんて出来ないから!」
小悪魔「あぁ〜…。激しく乱れるパチュリー様、見てみたかったんですけどね〜…」
パチェ「全く、なんでこんなに痴女なのかしら」
カルゴ「魔力を増幅させる方法とか無いのかな。とりあえずさ、なんか魔法覚えたい。こう……」
念力を使っているイメージで、机に戻ろうとしているパチュリーの背中に手のひらを向ける。
カルゴ「───こんな風に、ドシャッと」
パチェ「むきゅっ!?」
カルゴ「……え?」
小悪魔「へ?」
パチェ「!!?」
パチュリーに向けていた手を床に向けると、直立していたはずのパチュリーが、床に崩れ込んだ。
あまりに突然の事で、俺も小悪魔も、パチュリー本人もおかしな声を漏らす。
パチェ「むきゅきゅ……立てない!?ちょっと、私に何したの!?」
床に伏せたまま苦しそうな声を漏らす。俺自身、何がどうしてこうなったのか理解出来ていない。
カルゴ「え?いや、何も…」
パチェ「あ、立てた…。はぁ…」
手を向けるのを止めると、普通に立てたらしく、大きな溜め息をついて、机に戻った。
全く、意味がわからない。
カルゴ「────あれ?これってまさか……」
1つ心当たりを思い付いた俺は、とりあえずその人物に話を聞いてみることにした。
さーて、これは偶然?重力操作?それとも念力?