妖夢を巡る俺と妖忌の戦い。傍から見れば、結構短かったように思えるかもしれない。当然だが、この戦闘の時間なんて測っちゃいないので、長いとか短いとかなんて、どちらとも言えない。
だが、戦っていた俺からすれば、その戦闘時間はすごく長いように感じられた。
そして、長く続いた戦いにも、終わりが来た。
勝負は一瞬で…。互いが全力を出し切った、すれ違いざまの一撃で決した─────。
キィィィン……
広い白玉楼の庭に、甲高い金属音が鳴り響いた。
俺も妖忌も、すれ違った際の体勢を崩さない。
カルゴ「………」
妖忌「…っ……不覚………この魂魄妖忌を………よくぞ…っ……」
剣を取り落とし、前のめりに崩れ落ちる妖忌と…同じく剣を手から落とし、膝をついた俺。まさに紙一重…ギリギリだった。
カルゴ「はーっ…はーっ…………あっぶねぇ…」
妖夢「エスカルゴ!大丈夫!?」
剣を置いて、大きく息をしていると、戦いを傍観していた妖夢たち3人がそばに駆け寄ってきた。俺はそんな3人…特に妖夢に対して、震える手でピースサインを向ける。
カルゴ「ギリ…勝ったぜ…♪」
妖夢「うんっ…勝つって信じてた♪」
カルゴ「へへっ……よい、しょ…あたっ」
妖夢「ちょっ、大丈夫?肩貸すから…」
カルゴ「いやー…面目ない…」
足に力が入らずフラつきコケてしまうが、妖夢に肩を貸してもらって、どうにか立ち上がる。剣は妖舞が鞘にしまって、また背中に掛けてくれた。
妖舞「母上はいーよ、俺やる!」
妖夢「妖舞はお爺ちゃんをお願い。エスカルゴは私が支えるから」
妖舞「はーい…お爺ちゃんんんっ!?」
まだ伝えてなかったのかよ…。妖舞にとっては、ちゃんとした種族の半人半霊のお爺さんみたいな感じだったのかな。
幽々子「おめでとう、エスカルゴくん」
カルゴ「どうもです…」
幽々子「…正直、妖忌が勝つと思ってたわ」
カルゴ「俺自身、幾度となく諦めかけましたし…負けそうになりましたからね…。まぁ最後は俺の作戦勝ちですよ…9割は賭けでしたが」
幽々子「作戦?…どんな?」
カルゴ「あの人は弾幕も雷も槍も火球も、斬るか返すかの2択でした。だから斬られて再形成する結界を剣に纏わせ、わざと剣を交え、剣を介して本人に結界を移して、妖力を封じ込めたんです。やはり強さの源は肉体である前に妖力ですから」
幽々子「『俺にも使えるなら技だって盗む』って言ってたけど、あの技も誰かから?」
カルゴ「ええ。己の力で相手の力を封じるのは、天魔の技を参考に。霊力を特殊な事に用いるのは霊夢から使い方を教えてもらってます。今の俺は色んな人物から真似た技で勝ってきてますから…あんまりオリジナルの技使ってないかも…。火球だってお空の技を参考にしたものだし…」
幽々子「それだけ周囲に恵まれてるってことよ。真似したくなるほど良い技ってことでしょう?」
カルゴ「…そうですね」
妖夢「よい…しょっと…」
妖舞「重いぃ…!」
俺は近くの縁側に腰を下ろし、妖忌のことはその近くの部屋に布団を敷いて横にさせる。そして、近くの柱に寄りかかって、妖夢はそんな俺の隣に座る。幽々子さんは妖夢の隣だ。
妖夢「最後、2人ともすっごく速かったね。私、ほとんど見えなかった」
カルゴ「文字通り全力を出したからな…。あれでキメられなかったら確実に負けてた」
妖夢「あれ、剣交えただけに見えたのにどうしてお爺ちゃんは倒れたの?」
カルゴ「それはまぁ、ね…うん…」
妖夢「…?何したのか教えて?参考にしたいの」
言葉を濁したのだが、妖夢は「参考にしたい」と詰め寄る。あまり誤魔化さない方が妖夢のためになる…のだろうか?
カルゴ「…怒るなよ?」
妖夢「なんで怒るのよ…」
あはは、と軽く笑った妖夢を見て、大丈夫だなと内心で決意を固めた。少しダーティな手を使ったものだから、怒られるかもと思ったのだ。
カルゴ「実は……剣を交える瞬間、全ての電力を放出して…気絶させたんだ。腹に剣当てて」
妖夢「腹?でも、腹に当てたら斬れちゃわない?エスカルゴの剣って両刃だし」
カルゴ「右手に持っていた
妖夢「か、片手で両方の攻撃を受けたの?それはそれですごいね…」
カルゴ「あくまでも一瞬だからできたことだよ。踏み込む前に電力を右手に溜めといて、ぶつかる瞬間に放出する。…おかげでこんなフラフラさ」
妖夢「それだけ本気だったって事だよ。今はどれくらい力が残ってるの?」
カルゴ「電力、霊力はゼロ、魔力は半分…かな。自分の技を返され、それを防ぐのに霊力をゼロにするとは、何ともまぁダサい話だ。しかも完全に防ぎきれず呆気なく破られたとかさ…。まだまだ結界の強度は上げとかないとな。霊夢から暴力的説教されちまうぜ」
妖夢「あはは…」
それからしばらくして妖忌は気絶から目覚めて、俺と妖夢、妖忌の3人で話をすることにした。
俺と妖夢が並んで座り、机を挟んで向かい側には妖忌がしかめっ面で座っている。威圧感が凄い。とてもじゃないが、今の今まで気絶していた者の発する威圧感では無い。
少しでもつつけば、今にも噛み付いてきそうだ。
妖夢「………お爺ちゃん。エスカルゴが勝ったんだから、認めてくれるよね?」
張り詰めた重い空気に耐えかねたらしい妖夢は、大きな間を開けながら、ゆっくり話し始めた。
その声は、緊張からか若干震えている。
妖忌「………」
妖夢「お爺ちゃんってば!」
カルゴ「妖夢」
眉間に深いシワを刻んで黙り込む妖忌に対して、机を叩いて声を荒らげる妖夢だが、そんな彼女の肩に手を乗せて落ち着かせ、静かに座らせる。
妖忌はこれだけ妖夢を可愛がっているのだから、悩んだり怒ったりするのは当然のことだ。
妖忌「…おい、馬の骨」
妖夢「エスカルゴだってば!何よその呼び方!」
カルゴ「まぁまぁまぁ…。…何でしょう?」
妖忌「男2人、腹を割って話そう。風呂へ来い。どうせ、浴場の場所は知っておるのだろう?」
カルゴ「え」
妖夢「!?」
なんでこんな展開になったのか…俺も妖夢も首を傾げている。ただ、「腹を割って話そう」という事で、妖忌から俺に話があるのは間違いない。
したがって、俺は妖忌の提案にノッた。妖夢には
「ここで待ってて」とだけ言い残して。
そして、互いに無言のままで身体を洗い終えて、2人で広い浴槽に浸かる。体の芯から温まる様でとても気持ちいい。
妖忌「…時に、エスカルゴよ」
カルゴ「…はい」
妖忌「何故複数の家庭を?やはり普通なら1つに収まるべきだろう」
カルゴ「当初は…俺もそのつもりでした。しかし数多の女性と話し、触れ合っていくうち…全員を幸せにしてやるのが俺の使命なのではないか、と考えるようになり…。現在では、俺はもちろん、他の家庭でもこの現状に満足しています」
妖忌「…解せんな。何故他の者達は満足する?」
カルゴ「彼女達の言う所によると…『絶対一緒に居れる時間を作ってくれるなら』大丈夫と、以前訊ねた時は言っていました」
妖忌「つまりお前は女に甘えているわけだな?」
カルゴ「…はい」
妖忌「フン…甘ったるい今どきの若者らしいわ」
カルゴ「……」
妖忌「その結果、どのような結末を迎えようとも受け入れる覚悟はあるのだな?そして、それらの責任を負う覚悟も」
カルゴ「勿論」
妖忌「そう、か……。ならば儂からは、もう何も言うことは無いな」
カルゴ「ではっ…」
妖忌「だがッ!!」
カルゴ「ヒェッ…」
妖忌「…妖夢は儂の可愛い可愛い孫娘…。是非、温かく幸せな家庭にしてくれ…。この通りだ…」
水面に顔を浸けるほど、深々と頭を下げた妖忌。俺はそんな彼の様子に驚き、目を丸くした。
カルゴ「…絶対に、妖夢も幸せにしてみせます。俺が…自分の手で」
妖忌「…妖夢を頼んだ」
こうして、無事に妖忌とも和解し、妖夢争奪戦は幕を下ろした。風呂を出てから事の顛末を彼女に話すと、俺たちが和解したことに対し安堵のため息を漏らし、ホッと胸をなでおろしていた。
俺としては妖夢の方が妖忌と対立していたように思えてならないが…本人は、そんなつもりは一切無いらしく、これまで通りに話していた。
夕飯は俺と妖夢で作り、幽々子さんも交え5人で食卓を囲み…仲良く食事を楽しんだ。
幽々子さんはそれとなく妖忌のこれからの予定を訊ねたが、「己を鍛え直す旅に出たいが、孫娘と曾孫の育成が先だ」のような事を言い、白玉楼に滞在する旨を表明した。
また、食事中、「命を奪おうとした対象から命を助けられてはむず痒い。儂のことはお前の好きなように呼ぶがいい」…と言われたので、遠慮無く
「妖夢の爺ちゃん」や「妖忌」、「爺ちゃん」とフランクに呼ぶ事に決めた。
妖忌からは相変わらずのお前呼ばわりなのだが、そう遠くない未来にきっと治るだろう、というのは幽々子さんの言だ。
『妖魔封結』
霊力で形成した特殊な結界で相手を包み込んで、その時間に応じて妖力や魔力を封じ込める。破壊可能だが使用者の残り霊力によっては再生可能。今回は1回分の霊力しか無かったので、2度目で完全に破壊されてしまった。
再生可能な原理については普通の結界と同じで、ヒビが入った時は追加の霊力を結界に流し込んでそのヒビを修復するのと何ら変わらない。
破壊された結界の破片が消える前に追加で流した霊力で繋ぎ合わせることで、間接的ではあるが、相手に纏わせることも可能。しかし、再生途中で風などで霊力を払われると霧散してしまい、技は失敗となる。(ここも今回の賭けのうちだった)
今回は、普通に結界を張ったところで破壊されておしまいなので、敢えて至近距離で破壊させて、結界の修復を行いやすくした。それでも、妖忌を結界で包んでいた時間がとても短く、力の制限があまり出来なかったので、ぶつかる瞬間に電力を全て流して気絶させるという暴挙に出た。
バスロマンのCMをモデルにしましたwww