鈴仙「2人でゆっくりするのって久しぶりね♪」
テーブルを挟んだ向こうで、頬杖をついた鈴仙が柔らかな笑みを浮かべる。
カルゴ「そこまで久しぶりな感じしないけどね。いつぶりだっけ?10日くらい?」
鈴仙「多分それくらい」
カルゴ「…確かに久しぶりかもな」
鈴仙「だよね〜」
ある日の昼下がり、巫月を寺子屋へ送った俺は、鈴仙と一緒に薬を売って歩いていた。俺が大声で宣伝をして人を集め、鈴仙が対応する。各家庭を訪問するよりこちらの方が早いので、ノルマ数はすぐに達成した。
もちろん、動けない人やそういった人のために、追加で訪問販売も(分身が)
仕事着は相変わらずのあの服装で、未だに妖怪兎ということは隠している。…妖怪の売っている薬なんて、効くとわかっていても恐ろしいと感じる人が大多数だろう、という永琳の見解は、恐らく当たっていると思う。
俺をはじめとする男なら、鈴仙の美貌でコロリとイキそうだが、俺はそんな販売の仕方は許さん。
カルゴ「おっと、そろそろ授業終わるな。一緒に迎え行かね?」
鈴仙「確か、今日は短縮授業よ。明日から秋休みだから。慧音先生から聞いてない?」
カルゴ「あ、そうだった」
毎年11月には、中旬までの連休…秋休みがある。
外には無い制度で、制度まで幻想入りしたのかと思ったが、慧音が独自に考案したものらしい。
春、夏、冬があるのに秋が無いのはおかしい、と子供側に立って考えた結果、秋休みを導入する、という結論に至ったらしい。
人里で人間の子供相手に教鞭をとっていた頃からそうしていたと聞いている。良い先生だ…。
やり方はどうあれ、子供の目線に立てる先生ほど心強く、良い先生は居ないと思う。
鈴仙「だから今頃、もう永遠亭に到……あ、通信きた。なんかお客さん来てるみたいよ」
カルゴ「へぇ。…まさか綿月姉妹じゃねぇよな?俺、あの2人もちょっと苦手なんだが」
鈴仙「3人だってさ」
カルゴ「3人だと?…綿月姉妹とサグメ様か?」
鈴仙「それだったら清蘭と鈴瑚とサグメ様の方がまだしっくりくるなぁ……。って、なんでそうも依姫様たちを引き合いに出すワケぇ〜?内心では会いたいって思ってたりするぅ?」
カルゴ「無い無い」
ジト目で見てくる鈴仙だが、俺はやんわりと否定する。勿論、そんなことは無い。直接会ったのは第三次月面戦争の時のみだが、その後は、永琳を介して何度か話した。
俺がレイセンに言われて殺した上官9人は、月を腐らせていたアホなヤツらで、レイセンは依姫に言われて、
つまりあの月面戦争も地上側の負けってわけだ。
紫さんも永琳もこの事はわかっていたらしいが…何ともまぁ、ダサい話である。
俺の人生の内で、最大の汚点だ。
よく考えればわかる話だ。裏切りでもないのに、敵に自陣の重要人物を教えるはずがないだろう。
俺はそれが凄く悔しくて綿月姉妹を嫌っている。
思惑通りに動いてくれたということで、綿月姉妹からは少し感謝されているらしいが………あれは完全なる皮肉でしかない。腹立つ。
鈴仙「どしたの?眉間のシワがすごいよ?」
カルゴ「依姫の事思い出したら腹たってきたわ。ケッ、まんまと利用されやがって…俺の馬鹿が」
鈴仙「あぁ、月面戦争の事ね。それが月のやり方だから仕方ないわよ、ドンマイ」
カルゴ「やっぱ俺、月嫌いだわ。観測する分には綺麗だと思うけど中身は嫌い」
鈴仙「私の事は?」
カルゴ「大好きだよ」
鈴仙「ふふっ、私もあなたのこと大好き♪」
嗚呼^~我が心跳ね回りて候ふ^~……。
鈴仙「え?客っていうのはあの人のこと?」
カルゴ「どした?」
鈴仙「あっ、ごめん、巫月との通信ね」
カルゴ「なるほど」
間近で遠隔通信の現場を見るのは初めてである。たまに外で月を見ながら呟くことがあり、あれはかつての仲間との通信だと永琳から聞いてたが、目の前で急に行われると、少しビビってしまう。慣れればどうという事は無いが。
鈴仙「大変!エスカルゴ、すぐ帰らなきゃ!」
焦りの表情を浮かべて、ガタンと勢いよく椅子を飛ばして席を立つ。どうやら、何かまずいことが起こっているとみえる。
カルゴ「マジでどうしたんだ?」
鈴仙「スキマお願い!すぐ帰らなきゃ…!もう、面倒臭い人が来ちゃったよぉ…。なんでこういう時に来るのかなぁ、空気読んでよ…!」
見るからにオロオロしている。こんな焦っている鈴仙は初めて見た。鈴仙をこんな焦らせるとは、只者では無いだろう。
カルゴ「何の事なのかわからんが、とりあえず…お会計お願いしまーす」
店員「はーい!」
鈴仙(二度と会いたくなかったんだけどな〜…。でもここで行かなきゃ余計面倒臭いし、お師匠様からも叱られちゃうよ…)
店員「お団子2本と、お茶2つと────」
カルゴ「お会計はこれで済ませるよ。ちょっと、急いでるのでね。行こう、鈴仙」
店員「万札!??」
カルゴ「お釣りは要らないよ」
店員「ひえぇ…」
今度こそ「お釣りは要らないよ」をキメた俺は、その場にスキマを開き、鈴仙と飛び込む。店員は万札に目を奪われていたので、誰にも見られてはいない…はずである。
スキマから抜けた先は、永遠亭の玄関前だ。
風に吹かれた竹が、サワサワと心が安らぐような音を奏でている。が、今はそれを聞いている暇は無いらしい。その来客の件が終わったら、縁側で親子3人でまったり過ごせたらな、と思う。
鈴仙「ただいま戻りました!」
カルゴ「ただいまでーす。…ったく、靴くらいは揃えて行けよな…」
鈴仙の靴もキチンと揃えて、彼女よりワンテンポ遅れて客間へ入った。そこには、木のテーブルを挟んで永琳と向かい合う3人が居た。そのうちの1人は、一応知り合いの妖精だった。
あとの2人は、頭頂部に赤いボールを乗せて変なユニークな服を着て、青と黄色のボールをそばに浮かばせている人と、黒と赤、黄色を基調とした服を着ている、金髪の綺麗なお姉さんだった。
カルゴ「あ、クラピ」
クラピ「柿ピーみたいに言うな!」
永琳に合図され、俺と鈴仙は永琳と並んで座る。
既に鈴仙の耳は少し萎れている。
???「あらぁピース、彼と知り合いなの?」
クラピ「はい!」
??「蝙蝠の翼…。あなたがうどんちゃんの彼氏さん…エスカルゴさんかしら?」
カルゴ「はい。お初にお目にかかります、吸血鬼のエスカルゴ・スカーレットと申します」
ペコリと頭を下げると、ユニークな服を着ている赤髪の女の人の方が口を開いた。
???「思ったよりもずっと丁寧な人なのねぇ。私は月と地球と異界の三つの身体を持つ、地獄の女神のヘカーティア・ラピスラズリよん」
喋り方に癖がある人だな…。
クラピ「あたいのご主人様だよ!」
カルゴ「クラピが時折口にしてるご主人様って、この神様のことだったのか」
クラピ「そーそー!ってか、クラピゆーな!いい加減、ピースと呼べ!」
ヘカT「神と聞いて驚かないとはねぇ…。珍しい人も居るものね」
4柱(特別な戦闘時はもう1柱)の神から加護を受けてるから神には慣れてる…とは言えないね。やっぱり、神って怒らせると怖いし。
??「仙霊の、純孤と申します。うどんちゃんに彼氏さんが出来たと風の噂で聞いちゃって、2人に会いに来たわ」
カルゴ「そう、ですか…」
純孤「まさか子供まで居たとは思わなかったんだけど…うどんちゃんに似て凄く可愛かったわ♪」
鈴仙「ありがとう…ございます…」
鈴仙の耳がシワシワだ…どんだけ強くストレスに感じてるんだよこの人との会話…。
純孤「…さて、と。そろそろ帰るわよ、ピース、ヘカーティア」
ヘカT「早くない?」
ピース「そうですよ友人様!まだお2人に会ったばかりでは?」
純孤「あくまでも会うことが目的だったからね。もうその目的は達しているわ。それに、せっかく彼氏さんと居るんだから、邪魔するのは野暮よ」
ヘカT「それもそうね♪」
ピース「りょうかーい!」
普通に気が利くじゃんこの人…良い人すぎかよ!
幻想郷でこんなに気が利く人、見たこと無いかもしれないなぁ…。妖夢くらいか?
3人が席を立ったその時。玄関から、ついさっきまで聞いていた娘の声が、2人分聞こえてきた。
霊愛「お姉ちゃーん、遊びに来たよ〜」
霊麗「あーそーぼー!」
そして中に入ってくると、客間の隣の廊下をドタドタと走って通り過ぎようとするが、俺に気付き2人は立ち止まった。
霊愛「あ、お父さん。今日は永遠亭の日だっけ。さっきまで神社に居たのにこうして会うと、何か変な感じするね」
霊麗「こんにちは〜」
カルゴ「そうだな。気を付けて遊べよ?」
2人「わかってるよ〜」
そのまま2人は永遠亭の奥へ行き、巫月を連れて再び外へ出ていった。どこで何をして遊ぶのかが気になるが…もう赤ん坊ではないのだ、それ位は子供の自由にさせてやろうと思う。
純孤「あの子達…博麗の巫女にそっくりね」
ヘカT「っていうか、あの変な巫女服って博麗の巫女のそれよねぇ?ピース、知ってる?」
ピース「あの2人もエスカルゴさんの娘ですよ。大きかった方が次女で小さかった方が…えっと…5女?くらいの娘です。あの見た目でわかる通り母親は博麗霊夢です。…だよね、エスカルゴ?」
カルゴ「おう」
霊麗は下の4兄妹で2番目だから、6番目だな。
4人ずつ数えると数えやすいんだよな、子供達。
純孤「え…えぇ?博麗の巫女が吸血鬼の娘を…?しかも片方は半妖で片方は妖怪って…まさか…」
ピース「霊夢、とうに人間辞めてますよ」
ヘカT「えええええ〜!?あの霊夢が!?とてもじゃないけど信じられないわよん!?」
ピース「それはまぁ、あたいも同じですけど…。でも事実ですし…。だよね、エスカルゴ?」
カルゴ「あぁ、そうだな。霊夢は俺の眷属だ」
純孤「ピースはあの子を5女って言ってたけど…あなたは何人子供が居るのかしら?」
カルゴ「9人です。先日、娘がもう1人生まれたばかりです」
純孤「さっきの2人は霊夢の子…ということは、8人には産ませているわけ?」
カルゴ「そうなりますね」
あと1人生まれたら10人か。結構多いなぁ。
純孤「危ういわね」
カルゴ「はい?」
純孤「憎き嫦娥の夫と似ている…。お前にうどんちゃんは相応しくない」
カルゴ「は…はい?」
ヘカT「どうやら地雷踏んじゃったみたいねぇ。詳しい説明はそこにいる賢者さんに任せるけど、純孤は女にだらしない男が嫌いなのよん」
カルゴ「えええええ…」
待てよ、俺は関係なくねーか?しょうが?の夫に似てるからって…!じょうが?しょうが?まぁ、別にどっちでもいいや。
純孤「表に出なさい。そして、私と勝負なさい。あなたに彼女を幸せに出来るのか…途中で彼女を裏切ったりしないか、見極めさせてもらうわ」
あーわかった!純孤ってその嫦娥の夫?とやらと関係があって、その男に裏切られた感じじゃね?
なんかそんな感じするよこの人の発言からして!
もしそうなら酷いな。女の敵というよりかは男の敵でもあるぞ、それは。確信は無いけどね。
カルゴ「…わかりました」
ヘカT「純孤、私はぁ?」
純孤「手伝ってくれるかしら?へカーティア」
ヘカT「もちのろんよ〜。という訳で、私も純孤と一緒に戦うから、覚悟してねん♪」
鈴仙「そんな!急に酷い言いがかり付けて、何で2人と1人で…!私もエスカルゴと─────」
激昴する鈴仙を手で制止し、言葉を遮る。鈴仙の手を借りるつもりは無い。俺に売られた喧嘩なら俺1人で買う。それが礼儀ってモンだ。
カルゴ「良いでしょう、やりましょうか。絶対に俺が勝ちます。鈴仙を幸せに出来るのはこの世で唯一…この俺だけだ」
ヘカT「ふふふっ…その真っ直ぐな目、ゾクゾクしてきちゃうわ〜。ボロ雑巾の如く甚振られて、私と純孤に命乞いする未来が見えるような気さえしてきちゃった♪」
カルゴ「鈴仙のためなら、俺如きの命…何度でも捨ててやりますよ。文字通り」
純孤「どいつもそう…威勢がいいのは最初だけ。押され始めた途端に、決意も
…そして、そばにある縁側から外に出て…迷いの竹林の上空にて、2対1の弾幕勝負を開始した。