霊夢「ただいまー…あれ?2人共寝てる…」
紅魔館で反霊夢派のメンバーと何やら深刻そうな話をした霊夢は、何食わぬ顔で博麗神社に帰宅。しかしそこでは、居るはずの旦那がおらず、更に娘2人がスゥスゥと寝息を立てていた。屋内は、野外と同じく闇に包まれていて、昼間から屋内の様子が変わらなかったことを何となく思わせる。
霊夢「なら丁度いいわ、風呂沸かす前にさっさと着替えちゃお。砂埃と焦げが酷いわ、全く…」
その服の汚れや傷は先程の戦いによるものであることは、言うまでもない。砂埃は主に体術や拳を受けた時に付き、焦げは主に巫月の雷やフランの炎が原因だ。
娘や旦那にそんな汚れが見つかれば、何かあった事が露見し、彼らの追求は免れない。
霊夢はそれが分かっていたからこそ、娘を起こすより、風呂を沸かすより、部屋の明かりをつけるよりも先に、着替えを優先したのだ。
しかし、霊夢のそんな思惑を嘲笑うかのように、神社の屋内に、強大な妖力が入り込んできた。
カルゴ「お、霊夢じゃん。おかえり」
建御雷と様々な話をした俺は、スキマを使用して神社に帰宅した。そこは真っ暗で、帰宅した直後だと思われる霊夢の姿があった。霊愛と霊麗は、仲良くスヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。多少血の違いはあれどやはり姉妹。そっくりで、他の姉妹の誰よりも息ピッタリで、まさに阿吽の呼吸の言葉を体現しているかのように、寝相までそのまま同じだった。この様を図形で言うなら、相似の関係というのがわかりやすい例えだろう。
霊夢「あっ…お、おかえりなさい…」
カルゴ「服、所々破れてるじゃん。どうした?」
吸血鬼は夜目が効く。ましてや、紅白の巫女服は暗闇の中ではよく見えるのだ。それ故に、霊夢が隠したがっていた服の傷みを即座に見破ることが出来たのだった。
霊夢「…ちょっと転んでね」
カルゴ「そんなわかりやすい嘘を…」
霊夢「…ちょっと妖怪退治してきた」
カルゴ「服が破れるくらい強い妖怪をか?なんか全然考えにくい事だけど。…霊夢さ、何か疚しいことがあるんじゃないか?」
そう追求すると、観念しましたと言わんばかりに首を横に振り、両手を肩の位置まで上げる。
霊夢「しょうがないわ…お風呂で話してあげる」
カルゴ「今すぐじゃないんかい…」
霊夢「お風呂とご飯が先でしょ。ほら、さっさと準備手伝ってよ。私はお風呂沸かしてくるから、あんたは夕飯お願い。メニューは任せるわ」
カルゴ「あいよ」
うまいことはぐらかされてしまった俺は、まずは夕飯を作り、娘2人を起こし、今日は風呂の前に夕飯を食べ始める。食事のリズムは、あまり乱すものではないからだ。
皿洗いまで済ませ、風呂もとうに沸き上がって、霊夢は娘に声をかける。
霊夢「霊愛と霊麗はお風呂に入ってなさい。私とコイツは温泉入ってくるから」
「は!?聞いてないよ!?」と言いたくなるが、特に反発する理由もないので平静を装う。
霊愛「えーずるー」
霊夢「あんたらなら、留守番中にいつでも入りに行けるでしょ」
霊愛「それもそっか」
こうして俺たち家族は2手に分かれ、それぞれ、自分の体を温める。神社で身体を洗っていないのだが…俺は衣玖の自宅で身体を洗ってきたので、大丈夫だろう。霊夢は恐らくまだだろう。まぁ、細かいことは放っておいても良いだろう。
霊夢「はー…あったまるわねー…」
カルゴ「…なぁ。どうしてここに誘ったんだ?」
霊夢「不満?」
カルゴ「うんにゃ、そういう訳じゃなく。普通に理由が知りたいだけさ」
霊夢「…ここなら…あんたと初めて繋がれたここだったら…自分に素直になれるような気がして」
だから温泉に来ると普段よりも早くデレるのか。
そんなふうに思っていたなんて、知らなかった。
カルゴ「…で、どうしてわざわざここに?何か、素直にならなきゃいけないような事でも?」
霊夢「…怒らないで聞いてくれる…?」
カルゴ「場合による、とだけ言っておくよ。俺も怒ることはあるからな」
多分な、と心の中で付け足す。逆に、何があれば霊夢を相手にして怒るのか自分でも分からない。俺のその言葉の意味をしっかりと理解したのか、小さくコクンと頷いて見せた。
そして、意を決したように口を開く。
霊夢「私……あなたのお嫁さんには相応しくないかもしれない…」
カルゴ「………は?」
霊夢「…実は今日ね、レミリアたちと戦ったの」
カルゴ「へ?」
霊夢「あの事件以降、2日に1回神社に寝泊まりするって話になってるでしょ?…でも、やっぱりあなたは皆から好かれてるから…皆のイライラがこの5年くらいで溜まっちゃってたみたいなの」
あの事件ってなんだ?…5年……あっ、あれか。
え、何?あの事件がまだ尾を引いてるわけなの?
うーん…何だかなぁ…因縁は断ち切れぬってか?
カルゴ「…それでどうして相応しくないって…」
霊夢「皆はあなたを好きだけど、他の皆はそれがわかってるから、敢えてあなたを独占せず平等に過ごしてる。でも私…それが分かっててあなたをこうして独占してて……」
カルゴ「……」
霊夢「前に言ったでしょ…?私とあなたの理想は違うって…。それで、独占した結果……本当に、あなたの理想を壊しちゃった…」
カルゴ「…まだ、そうとは決まってないだろう。その…皆とはどうなったんだ…?」
霊夢「戦ったあと、その話をしてきて…。少し、勝手にしすぎたかなって思って…」
カルゴ「それで、霊夢はどうしたいんだ?」
霊夢「……やっぱり、独占はしたいわよ。私も…あなたが好きだから…。でもそれは皆が同じで…私だけがどうこうしていい問題でもないかなって気が付いて…。結局、仲直りが出来たのか出来てないのか、私にもわからなくて…」
やっぱりモテるのはあまり良いことでは無いな。
いや、これは俺の不甲斐なさが招いた事態か…。
カルゴ「何で俺に相談してくれなかったんだ?」
霊夢「今日挑戦状を叩き付けられてすぐ向かったから、相談する間がなくて…」
カルゴ「……そっか……」
霊夢「それでね…この2日に1回っていうのは、もう辞めにして…昔みたいに他の所と同じ流れにすればもう争わずに済むんじゃないかなって…」
カルゴ「うん…。それでも霊夢は俺の嫁だから…それは忘れるなよ」
霊夢「ん…。今まで…ごめんね…」
そう言って、目尻に光る涙を指で拭った。まさか霊夢を泣かせてしまう日が来るなんて思っていなかっただけに、その姿は心に深く突き刺さった。
失恋したワケでも無いのに、まるで失恋したかのような胸の痛みを感じた。これが嫌いだから俺は告白を断るのが苦手なのだ。断られた側はこんな辛い思いをする。その事を知っているからこそ、こういう風にズルズルと関係を続けてきたが…。
それも裏目に出たらしい。やはり、相手に多少の胸の痛みを与えてでも、断るべきところでは断るべきだったらしい。
だが、後悔先に立たず、である。
カルゴ「…心配すんな。まだ取り返しがつかなくなった訳じゃない。まだ…何とかなる。その旨、皆には言ったのか?」
霊夢「ううん、言ってない…」
カルゴ「それなら………寂しいけど、これからはその流れに戻そう。子供らには俺からやんわりと言っておく。言い訳は適当に考えるから、俺に話合わせてくれよ。ストーリーを練る時間もない」
すると両手で顔を覆い、声を上げて泣き始めた。
霊夢「…ごめんなさいっ……ごめん…なさい……許して…エスカルゴ………これからは皆と仲良くするからっ…許して……っ!」
嗚咽を漏らして、喉や目周りの表情筋を震わせ、心からの涙を流す。胸が痛い所の騒ぎじゃない。自分が情けなさ過ぎて、俺まで泣きそうだ。
カルゴ「…前にも言ったよな。俺は、霊夢のそういう所も含めて大好きだって。霊夢のその思い、ちゃんと皆にも通じるよ。あとは…俺に任せろ」
霊夢「うん…っ……お願い……っ!うっ…うう…ごめんなさい…ごめんなさい……」
泣きじゃくる霊夢を、俺は、彼女の涙が落ち着くまで、ただただ優しく抱き締めていた────。
指輪については次回…!