俺の住み方を昔ながらの流れに戻してから数日が経った。月こそまだ霜月…11月だが気温は12月のそれだ。因みに霜はまだ降りていない。
今日は守矢神社の日で、現在俺は、諏訪子と俺と建御雷の3人で、建御雷の分社前で雑談中だ。
境内では、早苗が樹里愛に天気操作の祈祷などを教えているらしい。樹里愛に甘々な早苗なので、大して身になっていないように見える。樹里愛の能力を育てたのは、実質上、兄と姉たち、それと彼女自身の発想力だろう。
早苗は、教え方自体は上手なのだが…娘に対してだけは、甘すぎる指導だ。
どれ程甘いのかというと、「1+1を1日掛けて教えるほど」甘い。そんな時間をかけなくても、樹里愛はとうに理解出来ているというのに…。
諏訪子「建御雷が幻想郷に来るなんて、想像してなかったでしょ♪」
カルゴ「してなかった。でも建御雷はどうやって幻想郷に来たのさ?」
建御雷「お前…。自分で外に行っておきながら、往来の方法を忘れたとは言わんよな?」
カルゴ「…スキマ?」
建御雷「そう、それだ。超高密度にエネルギーを圧縮という発想は、我には無かったからな。その方法を発見し行使しているお前は大したやつだ。どんな頭してやがる」
たまには神らしいこと言うなぁ、と思った直後の最後の一言には思わず笑いそうになってしまう。どんな頭しているのだろう。割と普通だと思う。
カルゴ「宇宙も幻想郷並に何でもありだからな。宇宙関連の本を読み込んでいたら、エネルギーを圧縮すれば何か起きるのか、少しは想像がつく」
建御雷「あの創造神のおかげで重力までも操れるようになったんだ、もっと使ってみればどうだ?宝の持ち腐れ状態になりかけているぞ」
カルゴ「ああ、わかってる。母さんの思いは絶対無駄にはしない。…けど、この前…うっかりアレ作っちまって、永遠亭が消えかけたんだよな…。少し控えなきゃ」
建御雷「何作ったんだお前」
カルゴ「ブラックホール」
建御雷「そんなモン今までも作ってたろうが」
カルゴ「今までのは紛い物だ。プラスマイナスで引き寄せて、空間に闇を纏わせるやり方の…な。だがあの時作ったのは正真正銘のブラックホールだったんだ。重力の能力が暴走しかけたんだよ。改めて、重力の恐ろしさを思い知ったよ」
諏訪子「被害は出たの?」
カルゴ「散歩中だったらしい妹紅が吸い込まれてバラバラになって…竹林が一部だけ消し飛んで…永遠亭の屋根が少し剥がされた」
諏訪子「どうやって沈静化したのさ?」
カルゴ「永琳が封印したっぽい」
諏訪子「凄っ!」
カルゴ「…永琳はかなりチートだし、多少はね?ところで……」
言葉を切り、少年の姿である建御雷を
カルゴ「分社の上に乗っかっててもいいのか?」
建御雷「自分の家の屋根に乗るのに、許可なんて要るのか?」
カルゴ「無いな」
建御雷「なら聞くな」
カルゴ「ういっす」
痛快なまでに論破された。清々しさまで感じる。
だが建御雷の言っていることは間違っていない。
分社は建御雷の家と言っても相違ないのだから。
建御雷「お前、もっと強くなりたいと思うか?」
カルゴ「もちろん」
建御雷「ほぉ…」
カルゴ「………それだけかいっ!」
「ほぉ…」以降、俺の目を真っ直ぐに見たままで口を閉ざす建御雷に、思わずツッコんでしまう。ツッコミたくもなるだろう、これは。
建御雷「いやなに、心持ちを聞いただけだ。別段深い意味は無い。なぁ、諏訪子」
諏訪子「えっ?う、うんうん!別にエスカルゴをどうしようかなんて考えてないよ!」
カルゴ「ぜってー何か企んでんだろ2人共…」
すると「話してやるか」と言わんばかりにニッと口角を上げた建御雷は、十分な間を入れて、その話をし始めた。
建御雷「……数年前からな、ウラで諏訪子とだけ話し合っていた事なんだがな」
諏訪子「ちょ、今言っちゃう!?」
建御雷「ここいらが潮時だろ」
諏訪子「むぅ…」
カルゴ「…?」
建御雷「お前のその雷の能力は、限界が…上限があるだろう?使い勝手では無く、力量にだ」
カルゴ「そりゃそーだ」
建御雷「それを無くさせてやりたいと、諏訪子が我に話を持ちかけてきたのだよ。随分とまぁ男に入れ込むようになったなぁ諏訪子。神代の頃とはまるで別人だ」
諏訪子「うっさいなぁ…///」
カルゴ「諏訪子が…?」
諏訪子「たまには私からも何かしてあげたいし…貰ってばかりじゃ示しつかないもんね」
カルゴ「何かあげたっけ?加護してもらった記憶しかないんだけど」
諏訪子「信仰心とか…エッチとか…///」
そういう意味か。
建御雷「そこで、だ。お前、我の器から八百万の神にならないか?お前なら神にすらなれる。我と共に、更に上を目指そうではないか。ん?」
カルゴ「……ちょっと何言ってるか分からない。俺が神?どういうことだよ?元人間だぞ?」
建御雷「早苗もだろ」
カルゴ「そっか」
建御雷「他にも幾らか元人間の神はいるぞ。特に外国の神話ではそういう例が多いだろうが。ん?お前、常人より神話に精通してるだろう。何か、パッと浮かばんか?」
カルゴ「…ギリシャ神話じゃそんな感じのがよくあったような気がする。星座とか」
建御雷「まぁそんな感じだな。お前が神になれば我と同じように無尽蔵に力を扱えるぞ」
カルゴ「それは良いな。だけど俺…やっぱりこの吸血鬼が気に入ってるんだよね。それに、神って色々と不便じゃないか」
建御雷「…なんだと?」
カルゴ「信仰心が無きゃ、存在を維持出来ない。だから諏訪子と神奈子様は幻想郷に来たんだろ?俺は、そんな危ない橋は渡れないよ。何故って、まだやるべき事がゴマンとあるからだ。そもそも俺の存在を安定させるほどの信仰心は集まらないだろうしな」
諏訪子「そっか…それもそうだよね…。残念…」
カルゴ「でも俺の事を考えてくれたことは素直に嬉しいよ。ありがとう、諏訪子」
諏訪子「てへへ…///」
建御雷「お前は馬鹿か、器」
カルゴ「ん?」
建御雷「信仰心を必要としない神ならば、お前の身近にもおるではないか。あの魔界神だ」
カルゴ「唯一神…か」
神綺《はいはい、魔界神と聞いて!》
建御雷《のう、神綺よ。お主、息子を神へ格上げさせたいと思っとらんか?》
神綺《カルちゃんが神様に!?キャー!もしそうなったら本当の親子じゃない!私は大賛成よ!!カルちゃんはどうなの!?》
カルゴ《俺は神にはなりたくない。だって…色々大変じゃないか。民のこと考えたりしてさ。俺は彼女や嫁、娘のことで手一杯だよ》
神綺《カルちゃんが神になったとして、どこかの土地を治めるわけじゃないわ。民のことはなにも考えず、今まで通り過ごせるのよ》
カルゴ《じゃあ神にならなくても同じじゃんか。吸血能力も便利だし、反響定位も超再生力もこの種族ならではの特殊能力だ。俺は、これを大事にしたいんだよ。力量が増えても…力の代わりに、何か大事なものを失う気がしてならない》
神綺《…私は…強制はしないわ。ただ、私個人は神様になることをオススメしておくわね。全てはカルちゃんの望むままにするから、何かあったらすぐに私に言うのよ?》
カルゴ《…ありがとう、母さん。そうする》
穏やかな声色で母さんへ気持ちを伝えて、通信をプツンと断ち切る。
カルゴ「というわけだ。気持ちは嬉しいけどね、俺は吸血鬼の俺が気に入ってるんだ」
諏訪子「うん、わかったよ。じゃー私からはもう何も言わないことにするね」
カルゴ「ありがと」
建御雷「お前が神になれば、我と互角に戦えそうだと思ったんだがな…はぁ…」
カルゴ「あっ…まさかお前、自分の欲求を満たすために俺のことを神にしようとしてたな!?」
建御雷「逆に、それ以外に何があるんだ?」
カルゴ「戦闘狂め」
建御雷「だからそう言っているだろ。我は戦闘が趣味の戦闘狂だとな」
カルゴ「……はぁ……」
小さく溜息を漏らすと、諏訪子と建御雷も何故か黙り込み、束の間の静寂が訪れる。だが、そんな沈黙は諏訪子が破った。
諏訪子「じゃっ、エッチしよ♪」
カルゴ「建御雷居るのにモロに言うなよ…。勿論ヤるけどさ」
諏訪子「やった♪」
建御雷「やれやれだな。ところで器、この幻想郷のどこに強者がいるんだ?地底と花畑と屋敷か?神社の女とは戦わせたくないらしいが」
カルゴ「勇儀、幽香、天魔かな?うん、とにかく馬鹿強いのはこの3人だ。紫さんはどこにいるかわからないから除外してるけどな」
建御雷「ふむ。…あぁ、そうだ。行く前に一つ、助言してやろう」
カルゴ「おお」
建御雷「『雷』の語源は知っているな?」
カルゴ「『神鳴る』だったか」
建御雷「そう。最高神レベルの神が主に雷を使うのは、神と雷の相性がいいからだ。そして、真に雷の力を扱える者は選ばれし者のみ」
カルゴ「相性…?」
建御雷「言葉に宿る力である『
何やら意味深長な言葉を残した建御雷は、自然が見えるところにスキマを開き、飛び込んだ。
早速、天魔の元へ向かったらしい。
カルゴ「よし、中に行くか」
諏訪子「うんっ♪」
手を取り合って神社に戻る俺の地獄耳に、多くの天狗が泣き叫ぶ声が入ってきた。