ある日、魔理沙は人里で、「魔除けの壺」という胡散臭い道具を売る商売をしていた。彼女曰く、
「ネズミよけにもなる」らしいが……。
魔理沙「ごめんくださーい!魔除けの壺はいかがですか〜?」
女性「あ、ウチはいいです」
魔理沙「まぁまぁそんな事言わずに!今だったらちったぁお安くしときますぜ?」
女性「いえ、いいです」
冷たい目で言い放つと、ピシャンと扉を閉めて、訪問販売に来た魔理沙を外に締め出してしまう。
魔理沙「はぁ〜…最近売れなくなったなぁ……」
彼女は1人暮らしだ。魔法使いは何も食べずとも生きていけるが、嗜好品として楽しんだりする。パチュリーやアリスがその良い例だ。しかし何か買うには金が必要である。故に、そのための金を稼ぎに来たのだ。
だがその商品が全く売れない。魔理沙は溜め息をつき、とぼとぼとまた別な建物へ向かった。が、やはり売れないという結果は同じだった。
「またあの娘は偽物の道具を売って歩いているのかい?」
「ったく、買う奴なんて誰も居ねぇっつーの」
「なんでも、あれを買ったのに蔵の米をネズミに食い荒らされたって奴がいるらしい。そんでその話を広めてるんだとよ」
「へぇ、やっぱニセモンだったか」
「買わなくてよかったよ…」
「しっ、聞こえちゃうよ」
魔理沙「……」
そんな声を聞いた魔理沙は当然良い顔はしない。が、特に嫌な顔もしない。スルーしているのだ。
かなり胡散臭く、詐欺めいているが、一応魔理沙の売る魔除けの品は本物だ。ただし、その範囲が狭いというだけだ。蔵に置けば、蔵の範囲程度はカバーできると魔理沙は踏んでいたが、購入者は別な所に置いたらしい。
大方、購入者達は「家の中にあるなら効果を発揮するだろう」と考え置き物として家の中に飾り、蔵の米を食われただとか、そんな流れだろう。
そもそも、守りたい物のそばに守るための道具を置くのは当然の事なのだ。霊夢だって、神社内の道具を付喪神化させないよう、神社に御札を1枚貼るのではなく、道具全てに、守るための御札を1枚1枚丁寧に貼りつけていたのだから。
そばに無ければ何の効果も無い壺、御札なのだ。
…それ以前に、博麗の巫女の親友たる魔理沙が、人間相手に詐欺行為など働けば、巫女の評判すら落ちかねない。「詐欺師の友人の巫女だ」…と。
そんな中で、彼女は、仲良く喋りながら里の中を歩いているある人物たちを見かけた。
「こうまったり過ごすのもいいもんですねー!」
「そうね〜。やっぱり地獄とは大違いよん」
「ふふっ、今日はとてもいい気分だわ♪」
「そりゃ良かった。誘った甲斐があるよ」
魔理沙「おっ?おぉ、エスカルゴと…え?純孤とへカーティアとクラウンピースか!?ちょっ……ありゃーどういう状況だ!?」
面白そうだからついて行こう、と思った魔理沙の視界に、厳粛そうな老人の姿が入る。それを見た彼女ははたと足を止め、帽子を目深に被り直してUターンしようとするが─────。
老人「そこのお前!」
魔理沙「っ!」
周囲に多少の人は居るものの、それが自分の事を指しているのだと気付いている魔理沙は、ビクリと肩を震わせ立ち止まる。それでなくとも突然の大きな声には驚くものだ。
老人「こちらを見なさい」
尚も厳しそうな声でそう告げて、魔理沙は渋々と振り返る。
魔理沙「…何だよ親父」
そこに居たのは、里の大手道具店、「霧雨店」の店主である魔理沙の父親だった。かつて霖之助はその店で働いていたことがあるらしく、魔理沙と霖之助の出会いは彼女の実家の店だったそう。
親父「……近頃、お前の噂を聞くようになった。何でも里の人間を相手に詐欺を働いているとな。腐ってもお前は私の娘、どうにかして助けたいと思うのが親心。そう思ってお前を探してみれば…一体何なのだ、それはッッ!!!」
目を怒らせ、またもや叫ぶ。周囲にいた人間は、恐れを為してその場から走って逃げていった。
魔理沙「何の話だよ?」
親父「貴様……魔の力に手を染めた挙句、自らが妖怪となりおったな!?」
魔理沙「へぇー。何年も会っていないのに、よくそこに気付いたな。自分で親と言うだけはある。
…いいや、30歳くらいにはなったのに、少女の姿してりゃーバレちまうか」
親父「黙れッ!!お前なんぞ私の娘では無い!!とっとと里から出ていけッ!!!」
魔理沙「お生憎様だな。私にはまだやるべき事があるから、帰るわけにはいかんな。それに、何故長でもない親父に『出ていけ』と言われなくてはいけないんだ?長に言われても出て行かないが」
親父「うぬぅ…!娘の姿をした物の怪が里を闊歩している事が何よりも許せんのだ!!」
そう言うと、クルリと踵を返し、歩き出す。
魔理沙「許さないんじゃなかったのか?」
その問いに、歩みを止めず背中越しに答える。
親父「次、里に来た時が貴様の最期だ」
魔理沙「…やれやれだぜ。……あ」
「親父のせいで見失っちまったじゃないかー!」と、魔理沙は心の中で叫んだ。
それから彼女は、家に戻り魔法の練習を始めた。
しかしその数日後。魔理沙の身に、大きな災難が降りかかる事になる────。
魔理沙「よぉーし!今日こそ売り捌いて、効果を認めさせてあっと言わせてやるぜ!」
里の入口にてフワリと舞い降りた魔理沙は、そう呟きながら意気揚々と里の中を歩き出す。しかしその行く手を、里の人間達が阻む。
魔理沙「ん?」
前を塞がれたと思えば、いつの間にか、後ろにも人間達が集まっている。横にも現れて、とうとう彼女は完全に包囲されてしまった。
その人間達は、包丁やクワ、ツルハシといった、物騒な得物を手にしている。男や女など、性別は関係無く、ただただ憎々しげな目を彼女に向けてくるばかりだ。
魔理沙「お、おいおい、なんの真似だ?」
里人「親父さんから聞いたぜ。お前は、実は妖怪なんだってな」
魔理沙を囲む人間の内の1人が言う。魔理沙は、それに対して肯定も否定もせず答える。いいや、もはや肯定としか受け取れない答え方をした。
魔理沙「妖怪なんてここじゃ珍しくないだろう?いつからここはそんな排他的になったんだ?」
里人「害の無い妖怪には寛容だ。しかし、お前のような害のある妖怪はここに入れん!…あの吸血鬼の男も、俺ら男にとっちゃ害があるがな…」
里人「女房や娘があの男の話をするとホントムカつくぜ…!!」
魔理沙「ご挨拶だな。私が何かしたか?」
小さな呟き声は、地獄耳ではない魔理沙の耳には届かず、魔理沙は「害のある妖怪には」の部分に対してのみ返事をする。
するとまた別な人間が、怒りをあらわにしながら吐き捨てるように叫ぶ。
里人「魔除けだのネズミよけだのって、胡散臭ぇツボやら何やらを売り付けてきただろぉがよ!!こちとら藁にもすがる思いで買ったってぇのに、何の効果もありゃしねぇよ!!貯めておいた米もほとんどネズミに食われちまったよ!!」
それに同調するように周囲の人間も叫び始める。
里人「どうオトシマエつけてくれんだよ!!」
里人「家もネズミに食われて柱がガタガタよ!」
里人「この詐欺師が!」
魔理沙「(…!そうか、範囲の説明してなかった!クソッ、流石にそれくらいの事は承知していると思っていたんだがな…!)おい、待て!少しくらい私の話を聞いてくれても─────…」
里人達「血祭りに上げろ!!血祭りに上げろ!!血祭りに上げろ!!血祭りに上げろ!!」
里人達のその叫びは、魔除け効果の範囲について説明しようとする魔理沙の口を失望によって閉じさせ、彼女はその目に薄らと涙を浮かべる。
その時、魔理沙の背後に居た男が、彼女に分厚い布で目隠しをする。
魔理沙「わっ!な、なんだ!?」
慌てて目隠しを外そうとする魔理沙の箒を奪い、屈強な男達が手を押さえて、後ろに回して縛り、次に足をも縄で縛り付ける。
魔理沙「おいこら!何のつもりだ!?」
里人達「血祭りに上げろ!!血祭りに上げろ!!血祭りに上げろ!!血祭りに上げろ!!」
魔理沙が叫びながら問うも、誰も答えやしない。
帰ってくるのはその叫びのみ。
手足を縛られ目隠しをされた魔理沙は、その男に抱えら上げられて、男は予め用意されていた木の階段を上って、その先に立てられた大木を切っただけの柱に魔理沙を括りつける。
魔理沙「何だこれクソ、足が浮いてる!?おい、何だよこれは!下ろせ!下ろせっての、クソ!」
白蓮のように身体を強化する類の魔法を使えない魔理沙に出来ることは、ただ叫ぶのみ。
里人「お前の大事な大事な箒をよぉ、お前の目の前で折ってぶっ壊してやるぜ!…つっても、今のお前は目隠しされてるんだったな!ざまぁねぇ!もう謝っても許してやんねーかんな!」
里人達「よっしゃ!やれやれー!やっちまえー!目に物見せてやれー!」
魔理沙「やめ────」
里人「フンッ!」
箒を横に持って、膝に叩きつけると、彼女の箒は脆くもバキッと真っ二つに折れてしまった。
魔理沙「あ……あぁぁ……」
里人「へっへへ…」
箒を折った男は、その欠片をポイと投げ捨てる。
目隠しをされていながらも、魔理沙は自分の箒が折られたことを音で確信していた。その箒はこれまで異変解決を共にした思い出深い箒だ。当然、許せるはずもない。それでも、今の魔理沙には、為す術もない。
魔理沙「ほっ…箒を壊したからって何だ!お前ら私に何するつもりだ!」
里人「は?お前、自分の立場が分かんねぇの?」
里人「自由を奪われて道具も壊されて…。答えは1つしか無いだろ?」
里人「拷問なんて甘いこたァしねぇよ。この場でお前を焼いたり刺したりしてぶっ殺すんだよぅ!それしかねぇ!」
そんな声に反応するように、里人達は、雄々しく
「おおおおおおおおおおおッッ!!!」と叫ぶ。
その叫びを聞き、彼女は体の芯から震え上がる。
魔理沙「ひっ…!」
里人「おーおー、可愛らしく怖がっちまってぇ。しかし、ざァんねんだったなァ?こっちは家族の生活が掛かってたんだ。寧ろテメェの命ぐれぇで助けてやるんだ、感謝しろよなァ!!やれ!」
里人「点火!」
1人が、松明を魔理沙のスカートに触れさせる。
それはたちまち燃え広がって、次第に火を大きく燃え上がらせる。
魔理沙「ぎゃああああああっ…熱い…助けて…!私は何も、してない……!!」
里人「何もしてないだと?偽モン売り付けてきたクセにどの口が言ってやがる!」
里人「安心しろ、燃え尽きるまで全員でこうして見守っててやるからよぉ!ひゃははははっ!」
魔理沙「死んで、たまるかよ…!私にはまだ…、やる事があるんだ…!」
健気に抗う魔理沙だが、やはり縄よりも先に服が燃えてしまい、徐々に肌を露わにする。しかし、そんな肌も炎が黒く焦がしていく。
魔理沙(クソ、炎が上半身まで来やがった…!)
里人「火の回り遅くないか?」
里人「燃えてるし問題無いだろ。燃えにくい分、長く楽しめるってもんだ」
里人「ケヘヘッ、そーだな!」
カルゴ「マ〜ルキューゥチルノは美味し〜そぉ〜だーけど〜、神奈子〜のおかーゆーで我ま…ん?何だこの臭い…コゲ臭いな…」
幽々子さんへの土産に団子を買っていこうと思い里に立ち寄った俺は、謎の臭いを嗅ぎ取った。
しかし、「どこかの家で料理ミスったんだな」と結論付けた俺は、団子屋へ向かい、いつも通りに複数の種類をまとめ買いする。
鈴瑚「へへっ、毎度ありがとーね!」
カルゴ「ここのは美味いからな。ところで、何か人通りが少ないな。何か祭事でもあるのか?」
否、少ないどころではない。里人が居ないのだ。
それも、たったの1人として。普段なら道を行き交う子供を多く見かけ、デート中のカップルまで見かけ、買い物中の主婦なども見るが、今日は、それらを見ることが無かった。
真夜中の商店街のように酷く静まり返っている。
鈴瑚「何かねー、魔女狩りだー魔女狩りだーって皆して入口の方に走ってったよ。お陰様で今日のお客はエスカルゴさんだけさ〜」
カルゴ「幻想郷にも魔女狩りなんてあるんだな」
鈴瑚「みたいだね〜」
カルゴ「そんじゃま、俺はこれで失礼するよん。今日も美味い団子ありがとな」
鈴瑚「いえいえ〜!」
ふーん…魔女狩りか。幻想郷の魔女狩りは、一体何やってんだろ。ちっと見に行ってみようかな。
魔女狩りに興味を持った俺は、里の入口へ繋いだスキマを足元に開き、その中に落ちた。その先で俺が目にしたのは、ゴゥゴゥと燃え盛る太い柱。周囲を沢山の大人が囲んでいる。
子供「おとうさ…」
父親「家に閉じ篭ってろと言ったはずだ!」
子供「ひぃっ!」
近くの民家から小さな子供が出てきたと思えば、燃える柱を見つめていた父親らしき男は怒鳴り、子供は驚き、扉を閉めて、家の中に閉じ篭った。
なるほど、親はあの燃える柱を子に見せぬために家に閉じ込めているらしい。道中、子供の往来が見受けられなかったのはそのためだ。
カルゴ「何燃やしてんだありゃあ…」
よーく目を凝らし、人々が見上げている柱に括りつけられた物体を見る。その時、ビュオッと強い風が吹き、その柱に括りつけられていた物から、何か黒い三角錐のような物が分離し、燃えながら風に流されていった。
カルゴ「何だありゃ。……黒い…………帽子?」
三角錐。黒。帽子。そして魔女狩りという言葉。
それに気付いた時、俺の頭に嫌な予感がよぎる。
それらのキーワードを合わせると、とある友人の姿が思い浮かんだ。金髪で、およそ純粋な日本人とは思えないが本人は日本人と言い張って、星が好きで、弾幕ごっこで俺に勝とうとしていた女の友人の姿だ。
カルゴ「まさか……な?」
胸騒ぎがするのだ。有り得ないとは思うが、一応確認のために、俺は人混みに紛れる。魔女狩りの為なのか、群衆の多くは、クワやツルハシ、包丁などの、持ち歩くべきではない物を持っている。
カルゴ「…そっ……そんな…っ!」
最前列まできた俺は、目を疑った。燃え盛る柱に括りつけられていたのは、その友人だったのだ。