柱に括りつけられ、全身を燃やされていたのは、他でもない霧雨魔理沙だった。彼女は項垂れて、何の抵抗もしていない。金髪のロングヘアーは、無残にも半分ほどが燃えてしまっている。
スカートも燃え尽きているが、肌色は見えない。
真っ黒に焦がされてしまっているのだ。しかも、彼女の足を焼いた炎は、へその辺りに来ている。
カルゴ「おい!何だよこれは、どういう事だ!?何で魔理沙が燃やされてるんだよ!?」
近くにいた男の肩を掴み、ガタガタと揺さぶる。
里人「あの女が俺らの生活を壊したからだ」
カルゴ「はぁ?どういう事だよ?」
16年超の付き合いがある俺だが、魔理沙が誰かの生活を壊すとは到底思えないのだ。きっとこれは何かの間違いだ。
里人「あの女ァよ、詐欺を働いたんだ」
カルゴ「詐…欺……?魔理沙が…?」
信じられない。盗むくせはあっても、そんな事はしない奴だ。俺はそう信じている。
里人「そう、詐欺だ。金を騙し取られたんだよ。ここに居る奴は全員、この女に騙された奴だ」
カルゴ「ど…どういう詐欺をしたんだよ…?」
里人「魔除けだのネズミよけだのってよぉ、変なツボや道具を売りつけられたんだよ。買ったのに何の効果もありゃしねぇ。詐欺だろ?」
カルゴ「……」
有り得ない。魔理沙のあの道具の効果は俺もよく知っている。何故なら俺も魔理沙から虫やネズミよけの道具を買い、効果を確認しているからだ。
俺の家…もとい、魔法の森の中にある俺が建てた小屋。あそこにその道具を置いてある。あの小屋には、行為の後に飲ませるアフターピルがある。だが味が桃味のせいか、普通の虫は勿論のこと、魔法の森の中にしか居ない特殊な虫や
半信半疑で購入したものの、効果は絶大。以降はそんな被害になんて遭っていないのだ。つまり、魔理沙の道具は本物だ。
カルゴ「……話を聞かせてもらう。ただし……」
ポケットから文に貰った団扇を取り出す。これは子供用なのでそよ風程度の風しか起こせない。が、霊力で強化すれば、話はまた別である。
カルゴ「───はぁっ!!!」
柱に向かって縦に団扇を振る。すると火は一瞬で消され、下半身が使い物にならなくなった無残な姿の魔理沙が姿を現した。
首まで焦げていて、声すら発せないらしい。
里人「おいコラ!何してんだよ!!」
カルゴ「退け人間」
両脇の人間を強く押すと、吹き飛ぶように倒れ、ドミノ倒しに倒れた。後ろの人間の事は蹴った。
カルゴ「死んで…ないよな?」
魔理沙「……」
瞼も手も、ピクリとも動かない。もしもここに、
《気を使う程度の能力》を有している美鈴が居たなら、直ぐに生死の確認が取れるというのに。
いや、確認なんて必要ない。俺がまずすべき事は治癒である。長ったらしい詠唱無しで使えるようスペル化させてよかったと心から思う。
カルゴ「治癒『
魔理沙に向けて治癒魔法を発動させると、彼女の焦げが消えて、肌色の綺麗な足が露わになる。
治ったということは、生きていたということだ。
死んでいたら、治癒魔法を以てしても救えない。
スペル名は俺が人間の頃プレイしていたゲームの中に出てくる呪文名から取った。この方が俺にはわかりやすくていいのだ。
魔理沙「───!あ、あれ…足の感覚がある…」
目覚めた魔理沙は目をぱちくりとさせて、視線を落として足を見る。靴も何もかも焼けてしまい、彼女は素足だった。
里人「おいお前何してんだよ!こいつは詐欺師の女だぞ!こいつのせいで、どいつも食い物を無くして生活が苦しくなってんだ!!」
カルゴ「魔理沙は詐欺師なんかじゃない。俺は、魔理沙の道具の効果をよく知っているからな」
背中越しに言葉を返しながら階段を登り、まずは足の縄を解こうとしゃがむ。
里人「はっ!テメェも妖怪だからその女の味方をしてるだけだろーがよ!!」
里人「殺っちまえ!!」
次の瞬間、俺の心臓あたりをなにか刃物のような物体が貫き、血を吐く。
カルゴ「────ぐふっ……」
魔理沙「ああっ!!」
里人「オラオラ、メッタ刺しだァァァーッッ!!これまでの恨み、全部テメェにもぶつけてやる!散々女を取っかえ引っ変えして連れ回してよぉ!俺はモテてるってのを見せ付けてるつもりかよ、アァ!?オラ、なんとか言ってみろよ!モテ男の妖怪兄ちゃんよォォ!!!」
翼を切り落とされ、メッタ刺しにされ、ついには内臓まで粗方破壊され尽くした俺はその場に倒れ死に至る。
しかし次の瞬間、その場に巨大な蝙蝠が現れる。
里人「ぎゃあああぁ……あぁ…ぁ……………」
蝙蝠に感電した里人は、真っ黒に焦げ灰となり、風に吹かれてどこへともなく飛ばされていった。
目覚めた俺が周りを見ると、沢山人集まっていた割に、俺の周りには人が居なかった。今ので複数人が吹き飛んだということだろう。
カルゴ「…知ってるか?俺を殺すと、俺を殺した人間は必ず死ぬんだよ」
死んだら蘇生も適わない。永琳すらお手上げだ。
ましてや、微細な灰になってしまったのだから。
里人「あ……あく…ま………」
腰を抜かして倒れている1人の人間が、両の足を震わせながらそう小さな声で呟いた。
カルゴ「悪魔…?少女に手を上げているお前らの方が、よっぽど悪魔らしいぞ」
足首、脛、膝上、太もも、腰と、下から順に縄を解いていく。不思議と、俺に攻撃が降り注ぐ事は無かった。今のカウンターで、懲りたのだろう。
が、しかし……。
魔理沙「がッ………は……」
カルゴ「え…?」
俺の頭に、ビシャッと温かい液体が垂れて、顔に流れてくる。これは血の匂い。そして今の声…。
カルゴ「魔理沙!?」
彼女の背後の人間が、ツルハシを彼女の背中に、繰り返し繰り返し、突き刺していた。極太の柱の正反対だったために、視界に入らなかったのだ。
カルゴ「テメェ何しやがる!!」
里人「あぁ!?殺すに決まってんだろが!!」
カルゴ「死ね!!」
しゃがんでいたその場で左手を殴るように振るい拳圧でその者の頭を粉微塵にすると、辺りには、首から出た生臭く赤黒い血の雨が降る。
里人「きゃああああああ!!」
里人「こ、殺したぞ!」
里人「妖怪を里に入れてはダメだったんだ!!」
カルゴ「治癒『
魔理沙に再度治癒魔法を掛け、傷を癒す。
魔理沙「さ…サンキュ……助かっ……げはっ…」
直後、またも血を吐いて項垂れる。長い棒に括りつけた包丁が、彼女の腹に突き刺さっていた。
カルゴ「魔理沙!?チッ、何なんだテメェらは!全員全部全滅させてやんぞゴルァ!!!」
里人達「うわあああああああッッ!!!」
そう威嚇し、強化した団扇で全方位を扇ぎ、人を全部遠くに飛ばした。
カルゴ「治癒『
怪しい光を見せ、とりあえず人間を落ち着かせ、魔理沙を焦げた柱から救出した。
カルゴ「大丈夫か?」
魔理沙「ああ…でも……」
近くに投げ捨てられていた箒を見て、今にも泣きだしそうな表情になってしまう。
カルゴ「魔理沙の箒…普通のじゃないんだろ?」
魔理沙「少し違う。それでなくても、私にとってこいつは…こいつは………うっ……うぅ……」
カルゴ「…母さんなら修復出来る。今から少し、魔界に行こう、魔理沙。元通りにできるから」
カルゴ《でしょ?》
神綺《私に不可能は無いわよ、カルちゃん!》
カルゴ「大丈夫だとさ」
魔理沙「…行く…ありがと……ひっく…うぅ…」
カルゴ「泣くなって…」
しかし、パンデモニウムへ繋がるスキマを開こうとした、次の瞬間。魔理沙の肢体が、ドシャッと前に崩れ落ちた。背中には、クワが刺さっている。深く、深く…抉るように突き刺さっていた。
カルゴ「なっ……治癒『
傷は癒えない。
カルゴ「おい!?魔理沙!魔理沙!治れよクソ!治れつってんだよッ!!なんで治んねぇ!!力は足りてんだろが!治れよクソォォォッッ!!!」
何度も治癒魔法をかけるが、背中のキズは一向に治る気配を見せない。どんな瀕死の傷でも直せる治癒魔法なのに、だ。
カルゴ「…………………………………」
里人「っしゃああ!!殺ったぞ!俺ァ殺ったぞ!憎き魔女の奴をぶっ殺してやったぞッッ!!!」
クワを刺した里人は、歓喜の声を上げる。それに追従するように、風に吹き飛ばされた者の中からおよそ半数が起き上がり、鬨の声を上げる。
恐らくは、光を見せた時に、飛ばされてきた人に隠れて光を見なかった者だろう。見たと思われる人間達は、未だに惚けた面をしていた。
カルゴ「殺す…」
里人「あぁ〜?もう死んだから恨みはねぇ〜ぜ!ひゃははははははっ!早く逃げないとぉ、お前のことも殺しちゃうかもなぁ〜?」
起き上がっている者達から盛大な笑いが漏れる。
もうこうなったら大切なものを捨てるしかない。
カルゴ《母さん、建御雷、諏訪子!今すぐ俺に、神の力を貸してくれ!!この糞野郎どもを…!!今すぐぶち殺してやる!!!》
神綺《わかったわ!》
建御雷《本当なら貸したくないが…友の為ならば今回は目を瞑ろうではないか。友を大切にせよ。
…お前の考えは、全て読めているからな》
諏訪子《そんな人達に信仰されても嬉しくない!やっつけてやって!!地獄を見せてあげて!!》
カルゴ「はぁぁああああああッ!!」
神の力がドッと流れ込んできて、俺を中心にして巨大な白い光の柱が立ち上る。この感覚は、先日月にて体験したその力……よりかは少し弱いが、それでも十分に溢れる力を感じる。
カルゴ「…我は創造神なり」
そう呟くと、クワを刺したその人間はやれやれといった様子でこちらを振り向く。
里人「おいおいぃ〜。兄ちゃんよぉ、今は茶番に付き合っている暇ァねぇんだ。これから何するかわかっか?焦げた柱だの何だのってよ、片付けをするんだよ。なぁ?わかったらすっこんでろよ、邪魔すんな!」
カルゴ「…神の名において、裁きを下す。愚かな人間に、裁きの光を与えよ」
空に手を翳すと、そこから一筋の雷が飛び出し、その男の身体は丸焦げになり、地面に転がった。それを見た人間はたちまち悲鳴を上げ、逃げる。
カルゴ「脆弱な人間風情が。聖行『神明裁判』」
圧倒的な光を放ち、魔理沙の殺害に関与していた人間を全て、跡形も残さずに消し飛ばした。
ついでに、階段や柱も消した。
神綺《す…すごい…》
建御雷《ははっ、やりおったな!まぁ、この我と神綺の合わせ技なのだがな!》
諏訪子《私は!?》
建御雷《神化するための補助員よ!カカカッ!》
諏訪子《なぬぅ〜!?》
カルゴ《母さん》
神綺《何?》
カルゴ《母さんの創造する力、もう少し頂戴》
神綺《わかったわ》
カルゴ「…魔理沙。起きて」
ふわりと彼女の頭を撫でる。するとすぐに彼女の傷が癒され、目を覚まして跳ね起きた。服や箒、スカートなどは起こす直前に創造してしまった。
魔力の流れやすい、普通とは違う特別な箒だ。
魔理沙「あれ?私、なんで地面に寝てたんだ…?って、お前…何だその姿…?」
頭上の輪と輝く眼に、魔理沙は驚きを隠せない。
軽く説明しておこう。
カルゴ「神様の力を受けた姿さ。他言無用だぜ」
魔理沙「む、わかった」
諏訪子《あれ!?死んだはずの魔理沙が…!》
カルゴ《母さんの創造する力なら、命を吹き込む程度、造作もないよ。でしょ?》
神綺《ええ。流石ね、カルちゃん♪》
カルゴ《伊達に息子やってないからね。でももう少しだけ力借りてもいい?》
神綺《…大変そうね。私が行こうかしら?》
カルゴ《ううん、いいよ。俺がやるから》
神綺《頑張りなさいね》
カルゴ《うん》
魔理沙「じゃ…魔界行こうぜ!」
カルゴ「うん。でも少し待って」
魔理沙「ん?」
今となっては何も無い、皆が逃げ惑った場所に、再び彼等を創造する。人口が減っては良くない。
魔理沙「げっ…。って、あいつら死んでたのか?まさか…な?」
それには答えず、最後の大仕事の準備をする。
そう、概念の書き換えだ。ようは、記憶の改竄をしてしまおうということだ。
カルゴ「『霧雨魔理沙という女は、存在しない。害獣被害は自分の監督不行届のせい』」
魔理沙「存在しないって……」
カルゴ「これで自由の身だぞ」
魔理沙「…あぁ。ありがとな」
人里の範囲内の「程度の能力」を持たない全ての者達にこの記憶の改竄を適用させた。つまりは、阿求と小鈴と、今俺のそばにいる魔理沙本人と、里の中にいる赤蛮奇や小傘といった者には、適用されないように調節したというわけだ。
それから────。
カルゴ「魔理沙、耳貸して」
魔理沙「ん?なんだ?」
カルゴ「『今日は何も無かった』」
魔理沙「何を言って───────うわぁっ!?な、近いぞお前!」
記憶を改竄された魔理沙は、すぐ近くにいた俺に驚き、顔を赤らめる。
カルゴ「ごめん、ゴミがついてたから払ってた」
魔理沙「そ、そうなのか…?///」
カルゴ「うん。驚きすぎ。あと、箒、落ちてたよ」
カルゴ《ありがとう3人共。もう力抜いて》
神綺《はい♪》
諏訪子《神化エスカルゴカッコイー!》
建御雷《うむ、中々のものだった》
魔理沙「おっ、サンキュ♪…ん?」
カルゴ「どうしたの?」
力が抜けた俺はもう輪っかは無いし目も普通だ。
オッドアイは治らないのだが。
魔理沙「いやさ…。今、お前の頭の上に輪っかが浮かんでいたような気がして…。目も光ってた」
カルゴ「ははははっ、何だよそりゃ!魔理沙ってギャグのセンスあったんだな!」
魔理沙「はぁ!?」
カルゴ「ぷっ…輪っか?天使じゃねーか、はは!結構ウケたぞ魔理沙!はははっ!」
魔理沙「み、見間違えたんだ!そんな笑うな!」
カルゴ「へいへい、そりゃ悪かったよー」
魔理沙「ったく…。あれ?今日って何しにここに来たんだっけ?」
カルゴ「さっき自分で言ってたじゃないか。何かネズミ被害を防ぐんだってよ」
魔理沙「そうだそうだ!サンキュな!」
カルゴ「あ、そうだ」
駆け出す魔理沙に、軽く声をかけて引き止める。
魔理沙「どした?」
カルゴ「
魔理沙「おう、わかったぜ!」
ニッと歯を見せて笑った魔理沙は、元気よく里を駆けていった。
概念を操れる神は全てを可能にする─────。