もしかして:通い夫
目の前に現れた霊夢は、明らかに普通ではない。
黒と赤の巫女服、肉体に描かれている謎の文様、髪の色など、その全てが異常さを物語っている。何より俺が戦慄したのは、その禍々しい妖気だ。いや、もはや邪気と呼んでもいいだろう。
その禍々しさといったら、狂気の目覚めたフランよりも遥かに禍々しいもので、これまでの幻想郷生活では感じたことの無いものだった。
そして、境内に着地するなり、殴りかかってくるかの様な勢いで、両手を広げ、抱きついてきた。
カルゴ「わっ……とっとと…」
あまりに急な突進でよろめいたが、すぐに体勢を立て直し、霊夢を抱きとめた。
カルゴ「えっ…と…霊夢か?」
禍霊夢「ソーよ♪」
俺の背中に手を回し、強く強く抱きついてくる。霊麗が見ているにもかかわらずだ。恥ずかしがり屋の霊夢らしくない。いや、それよりも、間近で感じてわかったが、この妖気の質は、狂気を解放した際の俺の妖気に似ている。とすれば、霊夢のこの姿は彼女の「狂気を解放した姿」となる。
どうにかして狂気を沈めなければ、とは思うが、当の霊夢は、俺に抱きついて離れようとしない。
禍霊夢「はぁ…この匂い、この感触…懐かシい…大好きぃ…♡」
頬ずりし、ハァハァと熱い吐息を漏らしている。
デレ霊夢以上にデレている。なかなかどうして、こんなにも可愛らしいのだろうか。
カルゴ「おーい…大丈夫かー…?」
禍霊夢「ハァ、ハァ…匂いだけでイッちゃう♡」
カルゴ「おい!?」
禍霊夢「冗談ヨ♪ んもう、馬鹿ねぇ♡」
そう言って色っぽく微笑んで、唇にキスしてきた禍霊夢。危うく娘の目の前で襲うところだった。それにしても、デレすぎて怖い。どうにかして、普通の霊夢に戻したい…。
いや、別に戻さなくてもいいのだが、この邪気を近くで受け続けるのは些か体に良くないと思う。
禍々しい妖気の霊夢…禍霊夢とでも呼ぶか。何か外の世界で聞いたことあるような無いような…。多分無いな、うん。それにしても……可愛いな。何かムラムラしてきた……なんて、考えてる場合じゃないな。霊夢を襲うのはまた後だな。
カルゴ「あのー…そろそろ落ち着いて…?ね?」
禍霊夢「イヤよーん、大好キナあなタを殺シきるまでは離しテあーげナイ♡」
カルゴ「あはは、照れるなぁ………ん?」
禍霊夢「ドぉしたノ?」
カルゴ「今サラッと俺を殺すって…?」
禍霊夢「あラ、口が滑っチャった♪」
カルゴ「どういうこと?」
禍霊夢「だっテぇ…殺さナいと真ノ2人キリにハ成れないでシょう?」
カルゴ「まぁ…どうせ復活するけど…。この前、その話はしたろ?ちゃんと来るからさ…」
禍霊夢「イヤヨ〜。我慢なんテしたく無イもん。あなタヲ封印しテ、私も死ぬノ♡」
カルゴ「おっと……ちとやべぇ…?」
途端に禍霊夢の邪気が一気に強まる。俺の背中に回していた手に力が入り、皮膚を破り背骨を砕き心の臓を握り潰した。
カルゴ「…お゙っ……がっっ……」
ビチャビチャと血を吐いた俺は、数秒は耐えたが再生は適わず死に至る。その様を間近で見ていた霊麗は、足をガタガタと震わせて母を見る。
霊麗「おか…さ……」
禍霊夢「再生する前ニ…封印しナくチャ♡」
目に見えない魂ごと封印しようと、封印のための準備をする禍霊夢。しかし術の完成よりも先に、間一髪新しい肉体を構築して復活した。
カルゴ「俺、ふっかーt……あれ?」
…だが、そんな事は禍霊夢にはお見通しであり、復活した先にも、封印の術式は準備してあった。この禍々しい邪気には似合わない、純粋な霊力による結界が何重にも張り巡らされているらしい。
俺は、その結界の中で復活してしまったのだ。
カルゴ「あっれェ…何でここにも結界が…」
禍霊夢「捕まエタ…♡」
カルゴ「どうだろうね。QED『葛藤の波紋』!」
紅い弾幕を発射するも、幾重もの結界に阻まれ、突破することが出来ない。そればかりか、弾幕の威力が落ちているような気がする。近くに、娘や禍霊夢が居るから威力を落としたワケではなく、自然と威力が落とされている。
それの示すところ、俺の妖力が、禍霊夢によって制限されてしまっているということだ。
カルゴ「だったら…!凶砲『
禍霊夢「!!」
ポケットから取り出した金属片をローレンツ力で加速させて音速の数倍の速度で発射するが、結界にはキズ1つつかなかった。
禍霊夢「ふ…フフフふ…♡ 逃げらレなイワよ♡」
カルゴ「っ……」
まずいな…レールガンより高威力なスペルなんて持ってないんだぞ……?俺の動ける範囲は、俺を中心にして大体半径3mくらいかな。狭いな…。
妖力、電力がダメなら、闇も…ダメだよな。なら
「目には目を作戦」でいくしかないか。
カルゴ「『霊力遷移』!!……ふっ!!」
妖魔雷霊剣を抜いて、霊力を纏わせ、真一文字に剣を振るう。しかし、ガキィンと金属音なような音を発し、剣すらも弾かれてしまう。
カルゴ「くっ…何なんだこりゃ…」
禍霊夢「大人しクしテテ?もう準備完了よン♪」
自身の霊力と禍霊夢の霊力を同調させて、結界を切り裂こうとしたのだが、同調させることすらも適わないらしい。
が、俺にはまだ、2つの手が残されている。
カルゴ「スキマ…開けない!?」
禍霊夢「ウフフフフ♡」
これがダメならラストの一手に賭けるしかない。
即ち、自爆だ。
カルゴ「仕方ねーな…!霊麗、今すぐ離れろ!」
霊麗「ふぇっ!?何で!?」
カルゴ「自爆して壊す!!」
霊麗「わ、わかった!」
走って逃げようとした霊麗だが、足が震えて使い物にならないのか、翼を広げてフラフラと飛んで行った。十分に離れるのを待つ時間はない。娘の頑丈さとこの結界の強度に賭けるしかない。
カルゴ「雷爆符『ヨタサンダー』!!」
禍霊夢「ッッ!!!」
結界の中で命を投げ打つ凄まじい爆発を起こし、その勢いで何とか彼女の結界を破壊した。お陰で神社の瓦?が一部吹き飛ぶが、予想通り、結界の強度が高かったのでそこまでの被害はなかった。
禍霊夢「アァん、もう…壊れちゃっタ♡」
カルゴ「…ふぅっ…よし、壊せ…んん?」
今度は少し場所を移して復活した。だが禍霊夢は今度は神社ごと結界で囲んで、準備をしていた。
禍霊夢「復活に数秒掛カルのガ、アナタの弱点♡さぁ、神社ごト壊セル?」
カルゴ「きったねーぞ、霊夢…」
禍霊夢「綺麗も汚イも無いワよぉ。私ハあなたヲ封印したイダケだかラ♡」
カルゴ「でも今回は結界を作ったばかり…。ならすぐにやりゃいける…!霊符『夢想封印』!!」
純粋な霊力のみの弾幕を放ちダメージを与える。
読みが当たったのか、作ったばかりの結界はピキピキと卵のカラが割れるような音を立てながら、ヒビが広がっていった。
カルゴ「っしゃ、もう少────」
禍霊夢「無駄ヨ」
カルゴ「…ぁ……」
抵抗虚しく、ついに霊力まで封じられてしまい、弾幕は自然に止んでしまった。剣を抜くが、何の力も感じられない、ただの金属の塊だった。雷の弾幕も発射できず、また、身体強化もできない。
当然だが、狂気を目覚めさせることも出来ない。
結界を殴って壊そうにも、強度が高すぎる。
カルゴ「……為す術無し、か……」
禍霊夢「そーよ♡ うふフフ……アハハハハハッ♡
完全封印マデのカウントダウンよぉ♡ 私への愛を示して消エテ頂戴ねっ♡♡」
カルゴ「せめて…もう1回ヤリたかった…」
禍霊夢「30……」
諏訪子《ちょっとぉ!私を残して何を勝手に封印されようとしてるのさ!》
カルゴ《だって壊せないじゃん…もうダメだよ…霊力が無きゃ複数の神とは対話出来ないし、力も借りれない…なんかごめん…》
諏訪子《だったら、交代で話せばいいだけだよ!一旦だけ加護を切って、また別な神様から加護を受ける!それだけ!》
禍霊夢《25……》
カルゴ《でも誰からの加護を受ければ…》
諏訪子《ハッキリ言って、八百万じゃダメだよ!ムカつくけど、あの唯一神かへカーティアじゃなきゃ……ううん、唯一神じゃなきゃダメ!特別な力でここを突破するの!》
カルゴ《じゃ…諏訪子の加護を切らなきゃか…。何かそれはそれで寂しいな》
諏訪子《生きてりゃまた会えるし話せるよ!早く突破して、元気な声聞かせてねっ!》
禍霊夢「20……」
神綺《カルちゃん!!》
神同士でも会話しているのだろう、諏訪子の声が聞こえなくなった瞬間、母さんの悲痛な声が頭にワンワンと響いてきた。
神綺《もう、力を貸すだけじゃ、この結界は突破出来そうにないわ!》
カルゴ《詰んだ》
神綺《っ…もうぶっちゃけずには居られないわ!カルちゃん、もう吸血鬼は辞めちゃいなさい!》
カルゴ《は…?》
神綺《そこにこだわっていたら抜け出せないわ!切羽詰まってるこの状況で、そんなことは言っていられないの!わかる!?》
カルゴ《わ、わかるけどさ…神の雷でもこの結界壊せる気しないんだよ…》
禍霊夢「15……」
神綺《馬鹿!もっと、柔軟に考えなさい!なにをそんなヤケになってるのよ!!》
カルゴ《霊夢に封印されんなら本望さ。未練は…まぁ、あるけどね》
神綺《残された方の気持ち考えなさい!あなた、霊夢ちゃんを生き返らせるときに、霊愛ちゃんや魔理沙ちゃん、残された子のことを考えてあんな必死に頑張ったんでしょう!?》
カルゴ《……でもどうすりゃいいんだよ…。もう術はほぼ完成してて、破壊なんて不可能だ…》
神綺《…唯一の魔界神たるこの私に出来ない事があるとでも思っているのかしら?》
カルゴ《…?無いでしょ…》
神綺《もう、今度はあなたが拘りを捨てる番よ。真の親子になれるよう、あなたを作り替えるわ。あなたという存在をね》
カルゴ《待て、なんで俺が神なんかにならなきゃいけねぇんだっての!!》
神綺《じゃあ、このまま何人もの子を残して死ぬっていうの!?あなたはそんな無責任な子!?》
カルゴ《っ…ちげーよ…》
神綺《拘りを捨ててって咲夜ちゃんに頼んだのはどこの誰だったかしら?》
カルゴ《……》
神綺《無責任なことは私が許さないわ。さっき、諏訪子ちゃんにも、また元気な声を聞かせてって言われてたわよね?どうするの?》
カルゴ《……わかった。頼む。つまらない意地を張るのはもう止めだ》
禍霊夢「7……」
神綺《あなたの能力、全部消えるけど───…》
カルゴ《死ぬよりかはいい》
神綺《…そう言うと思ってたわ。詳しい事は体を作り替える時に記憶に刻んでおくから、よく思い返してね。でなければ…死ぬわよ》
カルゴ《ああ。これで…本当の親子になれたな。母さん》
神綺《ふふっ…そうね♪》
禍霊夢「3……」
禍霊夢がカウントをそこまで数えた時、俺の体にどこか心地よく感じられる力が流れ込み、瞬時に体が作り替えられて、神の力に耐えられるだけの強度がある体、落ち着いた心を手に入れた。
────俺はまだ、終わるわけにはいかない。
エスカルゴ「せめて…もう1回ヤリたかった…」
それでいいのかエスカルゴよ…(呆)