翌朝、博麗神社の境内に集った俺たちは、妹紅の頼みで、正式なルートで魔界に行くことにした。
つまり山登りから開始である。寒いが、山の中はそんなに風は吹かないので、幾分か楽である。
カルゴ「空気乾燥してんなー…」
妹紅「そうだな…息も真っ白だ…」
しばらく進むと洞穴が見えてくる。洞窟のようなその穴に入り、外よりかはまだ少し暖かい空気に触れながらも足を休ませることなく奥を目指す。
カルゴ「新しいスペル幾つか考えてきたんだぜ。それを披露するのが、今から楽しみでならない」
妹紅「奇遇だな。私もだ」
カルゴ「マジか。あと、魔法も鍛えてきたんだ。魔力がまだ少しだけ足りないかもなんだけどさ」
妹紅「肝心の力量が足りないのか」
カルゴ「対策は考えてあるけどさ」
妹紅「楽しみにしてる」
カルゴ「おうよ」
そんな会話をしながら進むと、壁にもたれているサラの姿が見えてきた。俺たちの気配を察知したのか、眠っていたと思われるサラが目を覚ます。
カルゴ「おはよう。通らせてもらうよ」
サラ「おはよー。いってらっしゃーい」
妹紅(見慣れないやつだな…)
欠伸をするサラの前を通り過ぎてしばらくして、声が反響するのを防ぐためか、妹紅は小声で俺に尋ねてくる。
妹紅「さっきのピンクのやつはなんだ?」
カルゴ「サラ。門番…っていうか、魔界へ通じる扉を守ってるんだ。扉ってのはあれな」
ちょうど見えてきた魔界への入口を指さす。
妹紅「なんだか見慣れない文字があるな。なんて読むかわかるか?ていうか文字なのか?」
カルゴ「さぁな。全くわからない。さ、この扉の向こうが魔界だ。行こうぜ」
妹紅「ああ」
重い扉を押し開け、中に入る。まだ朝だがやはり赤い空をしている。幻想郷に比べると、少しだけ空気が悪いが、都会より遥かに綺麗だ。
妹紅「広っ…山より広いだろ、ここ…」
カルゴ「別世界だからね」
妹紅「こりゃ驚いた…。で、ここに異変の犯人が居るんだな?」
カルゴ「魔界って言っても、奥に行けば氷雪世界だの最奥だのって、かなり広いんだ。とりあえず情報収集といこう」
妹紅「だな。まずは聞き込みから?」
カルゴ「…ここは市街地だから、人も多くて情報得られそうだ。でもここに居る妖怪は少し危ないから、あんまり離れないでくれ。前に襲われた」
妹紅「妖怪退治は得意だが…従うことにしよう。知らない土地での単独行動ほど危ない事は無い」
俺たちはできるだけ離れないようにして街の中を散策し始める。魔界人は「地上人か?」と好奇の視線をぶつけてくる。それに対して妖怪は、以前酷い返り討ちに遭った場を見ていたのか、やけに大人しくしていた。こちらに目を向けてくる事はあっても、おどおどとしている。
カルゴ「あのー…」
魔界人「はい?」
情報収集のために、すぐ近くを通った女性を呼び止める。決して女性を選んだ訳では無い。何故かこの女性だけ、他の人と比べ特異な匂いがした。何の匂いかはわからない。
カルゴ「最近、魔界でお年寄りが次々と亡くなる事件が多発しているそうですね?その事件の調査をしに地上から来た者ですが、それについてお話をお聞かせ願いたいのですが…」
魔界人「えっと…私は一介の火葬屋なのであまり詳しいことはお話できないですけど……」
カルゴ「火葬屋…なるほど」
匂いの正体はそれか。
カルゴ「どのような些細なことでも構いません。規則性や時間帯、場所でも何でも」
魔界人「そうですね……私共がご遺体を見る限りでは、規則性はありませんね。時間帯も場所も、バラバラなんです…。偏りがまるで無くて……。ただ、700歳以上の方ばかりだな、と…」
年齢についてはもう掴んでる。だからそれ以外で偏ってたら何とか分かりそうだったんだがな…。
そう簡単にはいかない、か。
カルゴ「なるほど…。では死因はどうですか?」
魔界人「死因は…不明なんです。何れも安楽死に近い亡くなり方でした。溺れたとか窒息とか他殺などではなく、周囲の者が気付いたら既にお亡くなりになってたみたいな…。眠ったままの姿なんです。語彙力が無くて申しわけありません…」
カルゴ「いえ、ありがとうございます。あなたのお陰で、解決に一歩近付けた気がします」
魔界人「いえ、そんな…///」
失礼します、と頭を下げて、その女性と別れる。
どうもサリエルは、殺す対象を楽に死なせているらしい。眠ったまま死ぬなど、理想中の理想だ。何せ、楽に死ねるのだから。
しかし眠ったままだからこそ周囲の者には対策のしようがない。サリエルなりの優しさだろうか。
妹紅「お前ってやっぱりコミュ力高いんだな…。初めましての相手に、普通に話しかけられるか?ああいうのを、コミュ力が高いって言うんだろ?小鈴から聞いた」
カルゴ「なーに、文の取材の真似事さ」
妹紅「あー、確かにアイツに似てたな」
カルゴ「だろ。でも、寝てる老人を襲ったかも、としかわからなかったな。八方塞がりだ…ぜ?」
民家の窓に不思議なものを見つけた俺は、それに目を凝らし、睨むようにじっと見つめる。
妹紅「どした?」
カルゴ「あの民家の窓さ…なんか、女が家の中を覗いてないか?」
妹紅「え?……あっ」
二階建ての民家の窓に青と白のメイド服で金髪でショートヘアの少女がへばりついていた。なぜ、家の中を覗いているのだろうか。
妹紅「なぁ。アイツ、犯人の手下じゃないか?」
妹紅が小声で囁く。
カルゴ「なんでそう思うのさ?」
妹紅「ターゲットを物色しているように見える。で、年寄りだと判断したらサリエル?とかいう、大天使に報告に行き、そいつが殺す……とか」
カルゴ「…突飛な推理だけど、一理あるかもな」
妹紅「よし、なら早速とっ捕ま──ふげっ!?」
そのメイド?の女へ駆けていく妹紅の首根っこを後ろから引っ掴む。
妹紅「何すんだよ、今がチャンスじゃないか!」
カルゴ「捕まえてどうする?親玉の場所を吐かすのか?人殺しを簡単に行うようなヤツが、そんな正直に吐くと思うか?」
妹紅「む……言われてみれば………。だが、他に何か手があるのか?」
カルゴ「決まってるだろ?………泳がせるのさ。俺と妹紅は遠距離からアイツを追う」
妹紅「でも見られたらおしまいだろ?」
メイドらしき女を横目で見ながらそう訊ねる。
カルゴ「俺は蝙蝠に成るよ。妹紅は俺の光学迷彩スーツを使えばいい」
妹紅「おっ、姿を消せるっていう河童の道具か。ありがたく借りるよ」
カルゴ「ボタンを押せば姿消せるよ。つー訳で、隠密『スカーレットデビル』」
ポンッと俺の姿は消えて、蝙蝠の肉体が現れる。
魔界に蝙蝠は珍しくない。どこにいようと、別段怪しまれることは無いだろう。そして蝙蝠の俺を見た妹紅はボタンを押し、姿を消した。
メイド「うん、あの人は絶対700歳越えてるね!早く帰ってお掃除しなきゃ♪」
ルンルンとした口調でそう言うメイド風の女は、窓から離れ、どこかへ飛び去っていく。
妹紅(間違いない、アイツだ!)
間違いなく犯人だろう。しかも、サリエルの手下である可能性が高い。奴を追えばサリエルの元に行けると思ってまず間違いないだろう。
メイド「ふ〜んふふ〜ん♪」
妹紅(鼻歌なんて歌ってやがる…)
俺と妹紅は、しばらくそのメイド風の女を追って魔界の空を飛んでいる。彼女の軌跡からはどうも禍々しい気配を感じられる。この女、それなりに強い力を持っているに違いない。
そして、人気が殆どない小さな森のような場所にメイドは着地した。当然ながら俺はそれを追う。見えないが、妹紅も近くに居るだろう。それから森の中を少し歩くと、小さな祠に到着した。
メイドは、扉を開けると祠の中に入る。しかし、そのメイドより前を行くと見つかってしまうかもしれないので、後から行こうとしたのだが、扉を閉められ、祠には入れなかった。
カルゴ「チッ、やっちまった」
妹紅「だな…まんまと行かれちまった…」
吸血鬼の姿に戻ってそう愚痴ると、妹紅もそこに姿を現す。妹紅もダメだったのか、と思ったが、蝙蝠すらも入れなかったのだから、妹紅が入れるわけがなかった。素早さでもサイズでも、蝙蝠が潜入には優れているのだから。
妹紅「どうする?この祠の奥にそのサリエルって奴が居ると思うんだが…」
カルゴ「ああ、俺もそう思う。行くか」
静かに扉を開けようとするが、押しても引いても横に動かしても扉が開く気配はない。どうやら、魔力を流し込むなど、そういう系の扉らしい。
カルゴ「…あっれぇ…開かないぞ…?」
妹紅「おいおい…」
その者特有の魔力にしか反応しない造りらしい。
なかなかどうして、面倒なものだ。
カルゴ「仕方ないか…。音は立てたくないから、スキマ使う事にしよう」
妹紅「でもスキマって、行ったことある所にしか繋げないんじゃなかったか?」
カルゴ「行ったことはなくても俺が直接見た場所だったら行ける。今あの女が入った瞬間に、扉の向こうの景色が少し見えた。だからこの扉を突破するのは造作もない」
スキマを開くと、ピラミッドのように上下左右が石で出来た、祠の内部が見えた。俺が見た景色もこんな石だらけの景色だった。
壁には等間隔に松明が掛けられていて、その場をオレンジ色に照らしあげていた。
カルゴ「一応、話す時は小声がいいかな。あと、足音立てないように飛んでいこう」
妹紅「わかってるさ」
どうやら、秘密の通路などが無いとすれば、祠の中は一本道らしい。しかし、松明があるとはいえ暗いので、見逃しているだけかもしれない。
それでも、脇道が無いことだけは確かだ。何かのアニメやマンガでありそうな、石を押して脇道を出現させる仕組みがあればそれこそお手上げだ。
カルゴ「おっ……もしかして奥まで来たか?」
妹紅「かもな。…なんだアイツら」
カルゴ「うーわ…」
狭い通路を抜け、広い部屋のような場所に出た。
しかし向こう側の壁には同じく狭い通路がある。
ここはあくまでも中継地点らしい。さらに、この部屋には、ある知り合いが2人、俺と妹紅を待ち構えていた。
ユキ「あれ?追手ってあなただったの?」
マイ「……」
カルゴ「奥にメイド風の女が行ったよな。悪いが通してもらうぞ」
ユキ「いいよ…なんて、通すわけが無いじゃん?あなたたちには引き返してもらうよ。それとも、ここで死ぬ?」
カルゴ「何で邪魔すんのかなぁ、お前ら…。最近起こってる魔界人が次々と死んでる事件、魔界に住んでるお前らなら知ってるよな?それを解決に行くんだよ」
ユキ「別に、誰が死のうと関係ないよ。私らにはそんな事件無縁だもん。ねぇ?」
マイは小さく頷く。しかし俺の隣にいる妹紅は、
ユキの「誰が死のうと関係ない」の発言に対してあからさまに不機嫌になる。
カルゴ「ああそうかい、魔法使いのお前らには、そんな事は関係無いってことね」
ユキ「まぁそうなるね。だから帰って?」
カルゴ「いんや、俄然やる気が出てきた。ここでお前らを倒させてもらうぜ」
ユキ「仕方ないかー…。できれば、面倒なことは避けたかったんだけど…。やるよ、マイ!」
マイ「わかった…!」
殺意に塗れた、超高密度な弾幕を展開する2人。
俺も妹紅も回避行動に入る。
妹紅「こんな所で力を使う羽目になるとはな…!おい、コイツらは任せて先に行けっ!」
カルゴ「いや!2人を使って、俺の力を蓄える!妹紅は力使わなくていいぞ、すぐに終わる!」
妹紅「すぐに!?コイツらかなりの実力者だぞ!油断はするな!」
カルゴ「ああ!魔空『
魔力の上限をおよそ10倍に拡張し、膨大な魔力を取り込む準備を整える。
カルゴ「大魔術『魔力吸収結界』!!」
広い部屋いっぱいに結界を張る。こうすれば俺と妹紅が避けた弾幕が自然と俺に還元されるという素晴らしい現象が起こるのだ。強度は、魔理沙のマスパを受け止められるほどなので、ユキとマイの弾幕程度なら余裕で受け止められる。
カルゴ「っ……くっ、痛ってぇ…!」
ユキ「魔力を吸収するんだか何だか知らないけどその前にあなたが倒れるよっ!」
妹紅「相殺しないならなんで鎧使わないんだ!?Mなのか!?」
妹紅は炎の弾幕で相殺しながら回避しているが、俺は相殺などしていない。…するべきだろうか。
しかし、やはりここは少しでも魔力を溜めたい。
カルゴ「魔空『
食らった魔力弾を吸収する、魔力回復系の魔法。
吸収するのはあくまでも魔力なので、ダメージは食らってしまう。ある意味で、捨て身の回復だ。
だがそのおかげで魔力がみるみる溜まっていく。
カルゴ「符の弐『黒雷電光』!!!」
手から黒い稲妻を発した俺は、それを2人向けて投げつけるように放った。細いレーザーのように突き進む稲妻は、弾幕を尽く掻き消す。
ユキ「ぎゃっ……!!」
マイ「っっ……!」
被弾した2人は顔を顰めて膝をつく。超高密度な弾幕も止み、俺と妹紅は回避をやめた。
カルゴ「俺たちの勝ちだな、通らせてもらうぜ」
通路に向かいつつ2人に声をかけるが、2人は、終わってないと言わんばかりに立とうとする。
ユキ「行かせるわけ…無い、じゃん…!」
マイ「まだ、終わって─────」
カルゴ「終わりだよ。転移『
目の前から2人の姿が消える。初めて彼女たちと会った氷雪世界へ、強制的に瞬間移動させた。
妹紅「あれ、2人が消えた?どこ行ったんだ?」
カルゴ「魔界の奥の方へ飛ばしといた」
妹紅「なら最初からしてくれよ…」
カルゴ「コレ1回で俺の全魔力使うんだ。だから2人から奪っておく必要があったんだよ」
妹紅「それなら仕方ないか…。だが、急がないといけないな。あの女を見失っちまった」
カルゴ「急がないとな。俺たちの存在は向こうにバレてるらしいし、もう走って追おう」
妹紅「ああ!」
声量も足音も気にせず狭い通路を走っていくと、またもや広い部屋が見えてきた。しかし今回は、少し様子が違っていた。部屋の中心に青白く光る魔法陣があって、それに向かってメイド風の女が歩いて向かっていた。
魔法使いほどではないがある程度は魔法の知識を身につけたので、その魔法陣が何なのか直感的にわかった。
カルゴ「やばい、あいつに行かれちまう!!」
妹紅「はぁ!?」
カルゴ「重符『グラビティ0』!!」
妹紅「うおおおっ!?」
妹紅にかかる重力を0にすると、途端にフワリと浮かび上がって、天井に頭をぶつけそうになる。
カルゴ「わりーな、少し我慢しろ!もしもここで行かれたらお終いだ!神速『スウィフト』!!」
浮いてる妹紅の手を掴み、通路を駆ける。傍から見れば、風船を引っ張る子供のようにも見える。
メイド「ッ!!まずい、もう追ってきた!!」
こちらに気付いたメイドはそう言って急いで魔法陣の上に乗り口を開く。
メイド「転そ─────」
カルゴ「と、ど、けええぇぇぇぇぇっっ!!!」
捕まえようと手を伸ばし、メイド服の端を掴んだその刹那、青白い光が視界を奪い、そのメイドと俺と妹紅は、どこか知らぬ土地へ転送された。
目を開けるとそこは、厳かな雰囲気の漂う、神殿のような建物だった。
悟空の瞬間移動など転送系あるある
転送する人に触っていれば、一緒に転送される。