扉の向こうには、夢月と幻月が待ち構えていた。
俺がここから来るのを分かっていたかのように。
まさか夢幻世界への入口はこの扉しか存在しないのだろうか。俺は、ここしか入口を知らなかったためにこの入口から来たのだ。それなのに2人共この場に居るということは…入口が1つしかないという事ではないだろうか。
カルゴ「…天使の翼?」
幻月「可愛いでしょ。でも残念、私も悪魔よ」
天使のような翼を持っている金の瞳で金髪ロングヘアーの美少女はそう答える。それでいてとても可愛らしく、しかし邪悪な気配を漂わせている。何というか……色々な意味で、非常にまずい。
カルゴ「夢月と双子なんだっけ。…そういえば、なんでサリエルと組んでたんだ?」
幻月「冥土の土産に教えてあげる。まぁ、単なる暇つぶしだったんだけど。でもね、契約の解除を言ってきたからブチのめしちゃった」
カルゴ「サリエルがここに来たのか?」
幻月「昨日の夜にね。あなたに負かされてから、魔界神に謝罪に行って和解したんだって。でも、急にそんなこと言ってこられても私たちとしては困るじゃん?だからブチのめしちゃった。少しは暇潰しになったかな。あいつの力ほとんど戻ってなかったけどね」
カルゴ「ひえぇ……」
幻月「さ、お喋りはお終い。あなた如きに夢月が負けるなんて信じてないからね、すぐに勝負よ。まぁ、殺すつもりだけど♡」
カルゴ「待て。俺、夢月と幻月に何かしたか?」
幻月「悪魔は残虐なのよ?ふふっ♪」
カルゴ「負けない自信あるか?」
幻月「もっちろん♪」
カルゴ「じゃ、1つ賭けをしないか?俺が勝てば幻月に好きな命令を下せる。煮るなり焼くなり、封印するなり、好きにできるってわけだな。で、幻月はまぁ…俺を好きなだけ殺せばいい」
幻月「私が勝つって言ってるのに…。というか、あなたはどうやって私に勝つつもりなの?まぁ、面白そうだからノッといてあげる」
カルゴ「気絶させる。シンプルだろう?」
幻月「へー。私を相手にして、よくそんなことを言えるわね。久しぶりに強気で行くわ♡」
幻月の妖気が高まる。弾幕発射のためか、幻月の方から距離をとった。気付けば夢月もその場から離れ姿を消していた。安全地帯にでも避難したのだろう。避難したくなるほど幻月の妖気は強い。これからどんな攻撃が来るのか予想もつかない。さぞかし激しい攻撃が来るのだろう。
幻月「いくよ!」
元気な掛け声と共に弾幕が発射される。同心円状に広がる、隙間がギリギリな弾幕、それに全方位に拡散するバラツキ弾幕が組み合わさる。しかしそのバラツキ弾幕が途中から減速する。あまりの遅さに見ていてイライラするほどだ。さらにその遅い弾幕が多く残っている中で、スキマがかなりギリギリな弾幕が追加で発射される。
カルゴ「狭っ……マジすぎんだろ幻月っ…!」
幻月「だーかーらー。あなたを殺すって、さっきから言ってるじゃない?」
カルゴ「おっかねー奴だ、お前は……」
幻月「そーれ、次の弾幕だよっ!喰らえっ!」
2本並びのクナイ弾のような弾幕をとんでもない速度でばらまいて発射する幻月。幻想郷だったら不可能弾幕と呼ばれそうな弾速だ。幻想郷内では比較的、全体的な弾速が早い俺でも、ここまでの速度は絶対に出さない。
更に、クナイ弾のような弾幕と共に、幽香と同じような黄色い星の弾幕を、多数ばら撒き始めた。
いずれも弾幕が小さく、密度が濃く、速いので、非常にやりづらい弾幕だ。
カルゴ「っぐがッ…!?」
背中に激痛を感じた俺は、フラつきながらそんな声を漏らしてしまう。前の幻月に警戒しながらも後ろにチラッと目をやると、幻月のばら撒く星の弾幕が壁に当たって、跳ね返ってきていることがわかった。あの星弾幕は2回壁に当たり3回目は消える仕様になっているらしい。
もし消えない仕様だったら部屋の中が文字通りの弾幕地獄になっていたかもしれない。いや、ほぼ間違いなくそうなっていただろう。そうなれば、弾幕を消すしか方法が無かった。
カルゴ「くっそ、こんな酷い弾幕は初めてだぜ…これなら、サリエルの方がまだマシだったな…。
『
妖魔雷霊剣を抜いた俺は、剣先を幻月に向けて、極太のレーザーを放つ。
幻月「へっへーん、届いてないよー♪」
カルゴ「な…にィ…!?」
確かに、幻月にレーザーは届いていない。彼女の前に透明なバリアでもあるかのようだ。それが、彼女への攻撃を防いでしまっていた。
幻月「それさぁ、あなたの中で最高の技でしょ?私たち姉妹の特性で、『その戦いのうちは相手の技を1つ無効化させる』っていうのがあるのね。今私はね、この技をその特性の対象にしたの♡
最高の技がこれで防げるなら、他の攻撃は普通に避けていけば良いだけだもの♡」
カルゴ「なっ…夢月はそんな事してなかったぞ!どーせバリアだろ、サリエルみてーに…!」
幻月「夢月はどの技に設定しようかって迷ってるうちにやられちゃったみたい。その時は、2対1だったらしいし」
カルゴ「う…」
幻月「ほらほら、まだまだいくよ!!」
全方位に高速のクナイ弾、反射弾、追加で黄色く遅めの弾幕を降らせて、更に追加で青白い弾幕が弾けるように全方位に発射される。
まさかの、4種の高速な弾幕が合わさっている。恐らく、不可能弾幕にカウントされるだろう。
カルゴ「ぎゃあああああ………ッ!!」
殺傷力が高い。そんな弾幕が部屋中を飛び交っているだけで恐ろしいのに、それが幾度と無く我が身を打ち、掠り、肉体にダメージを与え精神にもダメージを与えてくる。
カルゴ「ぐ……フっ……」
腹に連続で被弾し、思わず吐血する。この弾幕は内臓にすらダメージを与えてくれるらしい。
カルゴ「不可能弾幕…えげつな………げはっ…」
魔理沙のマシンガンスパーク。あれは、ルールの設定上は不可能弾幕らしい。しかし、密度が濃いだけで避けられないことは無いのだ。
だが、幻月のこの弾幕はそれよりも遥かに密度が濃く、速度だって速い。設定上の不可能弾幕より色々と上なのだから、これが不可能弾幕じゃないワケが無い。
幻月「防戦いっぱいかしらー?」
カルゴ「ンなわけ…!雷牢『雷神の牢獄』!!」
幻月「あっはははは!脆い脆い!!」
幻月を囲むも、一瞬で破壊されてしまう。力量は無尽蔵になっているのだ。つまりは、力量不足で壊れた訳では無い。それの意味するところ、俺がエネルギーを供給するよりも速く牢が破壊されたということだ。
幻月「そぉーれっ♪」
赤白く、幻月の前方に扇状に拡散する弾幕が発射される。とてつもない速度だと思ったが、またもジワジワと減速してくる。しかし同時に、楔型に青白い小さな弾幕を発射してきた。相変わらずの酷い密度である。
カルゴ「殲滅『Breath of………ぐぅっっ…!!」
腕を振るおうとするも、高密度な弾幕の前に手を広げるなど無謀なことで、寧ろダメージを受けてしまった。だが、ここで蝙蝠になっても、小さい体に連続攻撃が与えられれば一溜りもない。
カルゴ「雷爆符『テラサンダー』!!!」
幻月「むぅ…!」
爆風によって、一瞬だけ弾幕が尽く掻き消えた。高密度だっただけに、視界が広まることはとても大きなアドバンテージとなる。
俺は、作戦が成功したことによるガッツポーズをとることも無く、幻月に追撃を加える。
カルゴ「紅武器『
口から出た血を手で拭い、そこに魔力を与えて、赤黒い魔槍となす。そして見晴らしの良くなったタイミングを逃さず、その魔槍を勢いよく投擲。
幻月「おっとぉ♪ 残念、当たらなかったわ♪」
カルゴ「それはどうかな」
幻月「えっ────…」
ヒラリと槍を避けた幻月。しかし次の瞬間には、槍は幻月の左翼を貫いていた。いい具合に骨組みに刺さったらしく、純白だった天使の翼は、赤く染め始まっていた。なんてことは無い。スキマを使い、槍の進行方向を反対向きにさせただけだ。
幻月「いったたた…!抜かなきゃ…」
カルゴ「そんな暇があるのか?」
幻月「ちょ、待って…」
俺は右手に長い雷槍を出している。それを使い、すれ違いざまに今度は右翼を突き刺す。柔らかい肉が裂かれるような、あまり気持ちいいものでは無い感触が手を伝わってくる。
幻月「うっっ……痛、い…!」
両翼を血に染め、幻月は顔を歪める。まずは左の血の魔槍を抜こうと右手を伸ばす。当然ながら、俺がそんな隙をみすみす見逃す訳が無い。
カルゴ「トドメだ!混合武器『雷刀&雷銃』!」
多くのナイフで幻月を囲みトドメを刺そうとしたその瞬間。幻月から溢れる妖気が、変わった。
幻月「こんなのっ…効かないわよぉぉぉっ!!」
カルゴ「っっ!!?」
叫ぶと同時に青白いクナイ弾を大量にバラバラと発射する。ある程度束になり、しかも波打つように超高速で発射されている。
カルゴ「は、速い…!」
幻月「喰らええええええええええええ!!!!」
幻月が天に手をかざすと、白い線が沢山現れる。
するとその線をなぞるように大量の弾幕が降ってきた。しかし弾幕は直列で線も直線なので避けることは実に容易い。が、幻月は青白くそれなりに太いレーザーを追加で発射してきた。
カルゴ「うおっ!?雷壁『雷纏反撃壁』!!」
咄嗟に壁を作るが、無残に破壊され、全身にそのレーザーを受けてしまう。幽香のそれより威力が低かったことが幸いしたか、死にはしなかった。それでも腕は1本もっていかれたが。
カルゴ「くっ…何なんだ、皆してマスパかよ!」
幻月「マスパって何よマスパってぇ!!ダッサイ呼び名、付けないでよね!!」
カルゴ「っせぇ、お前はこれでも喰らえぇっ!!雷爆符『テラサンダー』!!!」
再度爆風を起こして弾とレーザーを風圧で消し、こちらの攻撃を通すための通り道を作る。しかしそれよりも先に、幻月が動き出した。
幻月「その手は通用しないわよぉ!はぁっ!!」
全方位に、二重のクナイ弾を、ばら撒き始めた。
弾速は決して速くはないが、遅くもない。決して油断してはいけない。
カルゴ「余裕あるかな…。よし、キメるぜっ!」
幻月「もう遅いわよ!あなたは、私があの攻撃に移った瞬間にトドメを刺せばよかったのよ!!」
カルゴ「何っ!?」
幻月「畏れ
カルゴ「まずい、なにか来る!!雷鎧『サンダーアーマー』最大出力!!」
幻月の妖気、邪気が急激に高まり、幻月本人は、最終奥義などと言っている。これだけ、警戒する要素があるのに、警戒しないわけが無い。
幻月「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!」
広い部屋中に、幻月の雄叫びが
大小さまざまな弾幕が、規則性も何も無く全方位にバラバラに発射され始まったのだ。
全方位にばら撒き、それならば先程までだって、何度かあった。だが今回は違う。弾速が今までの数倍で…まさに目にも止まらぬ速さで、全方位に発射されている。
俺が体を動かすよりも遥かに早い。これこそが、完全なる不可能弾幕であろう。鎧は脆くも一瞬で砕け散ってしまい、全身に弾幕を浴びて、意識が少しずつ遠のいていってしまう。
痛い、苦しい。感じるのはただただそれだけだ。
考えてもどうにもならない。相殺しようと弾幕を発射しても彼女の速さで発射されては、尽く相殺されてしまい、なんの意味も無い。
カルゴ「雷、爆符……『ペタサンダー』…!!」
1段階威力を上げて爆風を起こす。弾幕の嵐は、一瞬だけ止んだ。しかしすぐに視界は弾幕の嵐で埋まり、また体に次々と傷が刻まれていく。
カルゴ「へへ、へ……やべー…弾幕で死ぬ…?」
拳でも火球でもレーザーでもなく、ただの弾幕で死んだ経験は未だに無い。暴走中のフランでさえそこまでの力は持っていないのだ。なのに幻月は打たれ強い俺でさえ弾幕のみで追い詰めている。思わず苦笑いが漏れてしまうのも、仕方が無い。
カルゴ「ゆー、て…負けねぇ……けどな………!霊符…『四重結界』!!」
目の前に、全霊力による強固な結界を作成した。
それでも─────…。
幻月「あああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!」
幻月が一声叫べば、彼女の弾幕の密度は、視界が塗り固められたかのように青白く染まり、結界は脆く崩れ去ってしまう。魔力弾ではないので魔力吸収結界は何の役にも立たない。故に使う気すら起きやしない。
カルゴ「チッ……こーなったら…奥の手、だ…」
心を決めた俺は、一度だけ深呼吸をして、堂々とスペルの宣言をした。
カルゴ「大暴走『最狂最悪の吸血鬼』!!!」
これは、「暴走『オーバードライブ』」と「堕心
『暗がりへ身を落とす吸血鬼』」の2つの強化系スペルの複合スペルだ。狂気と闇を併用すれば、俺は心を失いし暴徒と化し、妖力か闇、2力の内どちらかの力を使い切るまで暴れる。それこそ、腕が飛ぼうが足が千切れようが関係無くだ。
カルゴ「ガアァアアアァッッ!!!」
床が凹むほど強く床を蹴って幻月に肉薄し、拳を構えて思い切り殴り飛ばす。悪魔の肉体も頑丈なようで、腹パンしても内臓が出る事は無かった。
幻月「痛いじゃないのおおおッ!!」
カルゴ「っっせええぇあああああっ!!!」
幻月が、弾幕を展開しながらも俺を引っ掻こうと猫のような手の形にさせて、右手を振るう。俺の右目は幻月の右手により切り裂かれたが、同時に俺の右手も幻月の腹に深々とめり込んだ。
幻月「ぐはぁぁっ…!!」
後方に吹き飛ぶ幻月。俺はそれを追い肉薄する。
カルゴ「喰ら゙え゙!絶技『天翔雷霆零槍』!!」
右手に太い槍を作り出し、それをそのまま幻月の腹へ、深々と突き刺した。
幻月「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!」
体内に超高電圧の電流が流れ体内を直接焦がす。
いかに頑丈な妖怪といえど、ダメージを受ける。
もちろん、悪魔も例外ではない。幻月はその身に余るダメージを与えられ、堪らず床に膝をつき、顔から床に倒れ伏してしまう。暴走している俺はさらに手を出そうとするが、その直前に、タイムリミットがおとずれた。
幻月「ハー…………ハー…………」
カルゴ「はぁっ……はぁっ…………。勝った……のか………?」
床に倒れ小さく息をする幻月を見て、そんな事を考える。気付けば俺も、床に転がっていた。
もしかしたら、引き分けかもしれない。すると、俺たち2人のそばに、この戦いを見ていた幻月の双子の妹、夢月が現れた。
夢月「おめでとっ…お兄さんの勝ちだよ♪」
俺の顔を覗き込むようにして、笑顔でそう言った夢月を見て、俺は弱々しく拳を握る。
カルゴ「やった…ぜ……。へ、へへへ…」
疲労のために、引き攣った笑いを浮かべた俺は、安心して深い眠りに落ちた。
姉妹の特性として紹介した、「その戦いのうちは相手の技を1つ無効化させる」の元ネタはボムを無効化するバリアを張る事です。
実はこの姉妹、ボムを無効化するバリアを張る為ボムによるダメージを与えられないんですよね。
東方幻想郷の自機のボムは1種類だけでしょう?
なので、「ある技1つだけ無効化」にしました。
「その戦いのうちは」って事にしたのは、後からまた戦うときにその設定を変えられるようにするためですね。戦い毎によって、無効化させる技を変えられるってのは、かなり便利だと思います。
『雷霤撃波』をエスカルゴ最強の技とすぐ見抜く幻月の観察眼よ……。
そして夢月がその特性を使わなかったのは作中で幻月が言った通りです。あの時は妹紅も居たのでどちらのどの技を無効化させるか迷ったんです。つまり「特性を使わなかった」ではなく「特性を使えなかった」んですね。哀れ、夢月………。
そして、次回で夢幻世界編は終わりの予定です。