カルゴ「皆、大変だ!里に妖怪が攻めてきた!」
自警団の建物のとある広間に、脆弱な結界を張り身を寄せあって固まっていた数10人の人間たち。
上記の言葉を発しながらその部屋に飛び込むと、人間たちはホッと安堵の表情を浮かべる。当然、俺の傍には幻月と夢月もいる。
里人「お、おぉエスカルゴ殿…!里は…里は一体どうなってしまったのでしょうか…!?」
カルゴ「わかんねぇ…。とにかくバカ強ぇ妖怪…いや、悪魔が3人で暴れてやがるんだ!この里を完全に破壊するつもりらしい…」
里人「そんなっ…俺らの里が…!」
カルゴ「ヤツらはスゲー素早いが、恐らく一通り暴れたら去るつもりだろう。とりあえず、絶対に誰も通れない結界を張っておく。篭城戦だ」
妖魔雷霊剣を畳に突き刺して、広間を中心として建物全体を覆う強固な結界を張る。これで本当に
里人「これで安心ですな…。ところでその2人は一体…?見た事のない娘たちですが…」
チッ…非常事態なのにそこを気にするのかよ…。
まぁいい、絶望を与えるには最適か。
カルゴ「あぁ、この2人かい?この2人は………悪魔さ」
里人「なっ……!?」
里人「里を破壊して回っているのは確か……?」
一瞬、広間が静まり返った。しかし一呼吸置いて1人が動き出した。
里人「うっ…うわああああああああああっ!!」
カルゴ「あーあ、気付かれちゃった」
里人「と…言いますと…?」
カルゴ「俺が3人目だよ」
里人「っ!?」
里人「逃げろぉ!!逃げるんだあああああ!!」
広間から駆け出し、外に逃げようとする里人達。
しかし俺の張った結界が、敷地からは出られないよう阻んでいる。誰も居なくなった広間で、俺はそっと呟く。
カルゴ「幻月、夢月。『発狂』だ」
幻月「オッケー♪」
夢月「りょーかいっ♪」
パチッと可愛らしくウインクする2人。そして、2人に合わせて俺も弾幕を発射、建物を内側から破壊する。瓦礫が結界内で飛び跳ね降り注いだ。梁や柱に押し潰された者もいるし、弾幕に当たりその身を砕かれた者も居る。
僅かに生き残った者は、むやみに動いては却って危険だと悟り、瓦礫の影で身を潜めている。
幻月「
夢月「ドカンとやっちゃって!」
カルゴ「おう!広がれ、魔法陣ッ!」
地面に稲妻を走らせて、地獄から召喚する系列の技では最強の雷を召喚する準備をする。
里人「ひぃぃああぁぁああぁっ!!嫌だッ!こ、こっちにまで来たぁぁ!!!」
稲妻の通り道は煌々と輝いて、見る者に「何かが出てくる」と予感させる。数秒の後に、魔法陣の準備が完全に整い、堂々と召喚の合図をする。
カルゴ「獄雷『
幻月「あれ…?」
夢月「…?」
里人「……な、なんだぁ…?」
地面から、赤黒い雷は噴出してこなかった。その代わりに、俺の頭にはこんな言葉が響く。
ヘカT《…今のあなたには、地獄の力は貸さないわよん。目を覚ましなさいな》
カルゴ「…………」
幻月「ど、どうしたの?…もしかして…不調?」
里人「おい今だ、逃げろっ!」
里人達「おう!っぐああああぁぁぁっっ!!!」
逃げようと勢いよく駆け出した里人達だったが、先程張った結界に阻まれ、弾かれてしまう。
カルゴ「符の肆『雷光一閃』ッ!!!」
雷を纏わせた剣を振るうと、弾幕ではなく斬撃が飛び出し、隠れていた人間は粗方吹き飛び、更に結界までスッパリと切れてしまった。
幻月「人間共が弾かれた結界を一刀両断♪」
夢月「きっもちい〜♪」
カルゴ「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙胸糞悪ィ…!全域を吹き飛ばしてやる!!!」
里人「いっ、今だ!瓦礫を盾に…」
里人達「おう!」
幻月「あっ、アイツら逃げるわ!」
カルゴ「クソがァッ!!」
地を蹴って殴り掛かるが、壊れた瓦礫などを巧みに盾として活用されて、自警団の敷地内から逃走されてしまう。
カルゴ「待てやカスバ…エど……も……」
人間達を追って崩れた塀の向こうへ行った俺は、ある人物を見つけた。人間…ではない。確かその人物は、自分を仙霊と名乗っていた。
カルゴ「純孤…?」
純孤「もうやめなさい、エスカルゴ君…。こうも里や人を傷つけて、あなたに何が残るの…?」
幻月「何よ、邪魔するならブチのめ…」
カルゴ「やめろ幻月。…俺の相手は人間だけだ。純孤にはなんの恨みもねぇ……」
幻月「けどっ……………もう、わかったわよ…」
真っ直ぐに幻月の目を見て言ってやると、遂には諦めたらしく、大人しく引き下がった。
純孤「あなたは本当に優しい人…。こんな不毛な復讐は望んでいないでしょう?目を覚まして…。今ならまだ何とか間に合うわ。一緒にあの賢者に謝りに行きましょう?」
カルゴ「イヤだね!!ぜってーイヤだ!!!俺ァこの里とは決別したんだ!もう守らねぇ!!俺が守るのは俺の女か家族だけだ!!」
純孤「守りたいのはわかるわ。だけどね、流石にやっていい事と悪い事があるのよ…?」
ヘカT(純孤の溢れる母性で説得…もしもこれで上手く行けば、私も賢者に貸しが作れるわよん♪
エスカルゴ君ならきっとオチてくれるはず!)
カルゴ「うる、さい…!うるさい…よ、純孤…!もう誰にも、俺は止められねぇッ!邪魔すんならタダじゃおかねーぞォッ!ッダルァァァッ!!」
純孤「ッ!!」
彼女を殴り飛ばさんと拳を握って、土煙を上げて肉薄する。そしてついに拳が頬に触れようとしたその時。俺の手は、ピタリと止まる。
カルゴ「何で…避けようとしねーんだよ…?今の当たれば死んでたぞ…?」
圧で頭が吹き飛ばなかったのは、ただ単に純孤の身体が人間より強いからではない。俺が無意識のうちに力を抜いていたからだ。
純孤「あなたは、絶対に私を裏切らないって約束してくれたもの。…あなたは裏切りを一番嫌う人なんだから、約束を
そう言って柔らかく微笑むと、そっと俺の背中に手を回し、優しく抱き締めてくれた純孤。
幻月「ねぇ、ちょっとぉ!?まだ私、ダーリンと抱き合ったことないんだけどぉ!?」
背後で幻月が騒いでいるが、そんな声は純孤と俺の耳には入らない。あまりの包容力に、俺ですら思わず目頭が熱くなる。しかし、ここで折れてはここまでやった意味が無い。
カルゴ「純孤ならよ…俺の気持ちわかんだろ…?分かってくれるだろ…?」
純孤「ええ、守りたい気持ちはわかるけど、大量殺戮を繰り返すのは良くないわ…」
カルゴ「………」
純孤「…ね?もう心を落ち着けて…?」
カルゴ「……ねぇよ…」
純孤「え?」
カルゴ「俺も純孤も変わらねぇよ…何で俺ばかり悪者みたいに言うんだよ…」
純孤「悪者みたいには言ってないわ。ただ少し、やりすぎたってだけで…」
カルゴ「純孤が恨んでるのは嫦娥だろ…?なら、月の都は関係無いだろう……。俺が恨んでるのは人間…そして人里を攻める…。俺と純孤の何処に違いがあるって言うんだよ…?場所の違い以外にあるんなら教えてくれよ………」
純孤「………」
今度は純孤が黙り込む。そして、知らず知らずのうちに、ククククッ、と黒い笑いが漏れてきた。だが、
純孤「そうか…そうであった……!嗚呼、平和に慣れてしまっていて、すっかり忘れていた…!」
笑い始めたのは純孤。俺を抱いていた手を解き、既に暗くなった空に輝く月を見上げてこう叫ぶ。
純孤「不倶戴天の敵、嫦娥よ!見ているか!?」
ヘカT(あちゃー…嫦娥モード入っちゃった…。でも…かなりキレているように見えて、実は冷静なのかしら…エスカルゴ君…)
純孤「私は、愛する彼の持つ憎悪すらも、貴様を殺す為の糧としたぞ!!」
カルゴ「…だから…俺の邪魔をしないでくれ…」
純孤「ええ…。言われてみればそうである……。私とあなたに違いなんてない…。そう、そう…!そうよね…!」
黒い笑みを浮かべたままで何度も頷く純孤。少し壊れた人形のような動きだが、不思議と恐怖することは無かった。
純孤「私にも手伝わせて頂戴。この前あなたは、私の復讐に手を貸してくれた…。ならば今回は、私があなたの復讐に手を貸す番…!」
ヘカT(嘘でしょ純孤ぉおおおおおおおっ!?)
カルゴ「ククッ…クカカカッ…!!イイよ純孤…助かるよォ……。人間を滅ぼす、それだけが俺の望みだからさァ…!!」
純孤「ふふっ…。復讐を終えてまた会いましょ」
カルゴ「ああ…!」
純孤は、先ほど逃げた人間を探す為に、フワリとその場から離れていった。
幻月「えっ…と…?どういう事かしら…。うまく状況が理解できないんだけど…。理解出来た?」
夢月「ううん、よくわからない…」
背後でそう囁きあっている2人に答えを教える。
カルゴ「つまり、誰にも俺を止めることは不可能ってワケだ!行くぞ幻月、夢月!そろそろ完全に仕上げをする時が来た!!」
幻月「よーしっ、殺っちゃうよー!!」
夢月「力を振るうのって楽しーなー♪」
火が里に広まりきった頃、俺は、説得役の純孤を言いくるめて、またも3人で燃え盛る里の中へと飛び込んで行った─────。
この事件は、幻想郷のとある2勢力にもドデカい影響を与えているワケだが、それはまた別の話。