カルゴ「こんにちは〜」
サグメ「…ごめん下さい」
さて。ここからは、スケッチブックを使う時だ。
うっかり喋ってしまってはいけない。彼が変えるのはあくまで自分の運命なので他人の運命までは変えられない。そこにだけ、よく気をつけねば。
鈴仙「はーい……あれっ、サグメ様!?何で手を繋いでるんですか!?」
サグメ「!!」
鈴仙に指摘され、慌てて手を離す。どうやらまだ手を繋いでいたらしい。全く気付かなかった…。それも全て、彼の魅力故なのだろうか。
カルゴ「えっと…ついさっきな、俺とサグメも…そういう関係になった。なっ」
隣の彼に笑いかけられ、小さく頷いた。すると、鈴仙は目も口も大きく開き、永遠亭中に響き渡るかと思うほどの大きな声で絶叫する。
鈴仙「サグメ様も!?えええっ!?嘘でしょ!?なんか信じられない!!」
失礼な。私だって1人の女だ、恋くらい…する…と思う…。きっと…エスカルゴに対してだけ…。
カルゴ「それが、どうやら両想いだったみたいですんなりOKでさ。やっぱ慣れないよ、告白は」
鈴仙「りょ、両想いッ!?…ていうか、すんなりって…まさか、エスカルゴから言ったの!?」
カルゴ「そうなるね。(やけにニヤけてるな…)」
鈴仙「えええええ〜…ますますビックリだなぁ…最近多くない?」
カルゴ「俺から告白成功したのまだ2回目だぞ…フランの時は先に言われちまったから…」
鈴仙「
鈴仙は3番目だったのか…。何だか意外だ。割と奥手だから、もう少し遅めかと思っていた。
カルゴ「やけに興奮してるね。良い意味で」
鈴仙「そりゃー興奮だってするよ!だって、意外だもん!サグメ様が誰かを好きになるなんて!」
モロに言ったなこの兎…!
鈴仙「アイタァッ!!」
純白の翼でバシッと強めにビンタしてみる。割と良い反応を貰えた。
鈴仙「何するんですかぁ〜…」
サグメ『私だって恋くらいする。初恋だけども。逆に、何故私が恋するのが意外?』
鈴仙「そうですねぇ…昔から気難しい方ですし、そういったことに興味無さそうでしたからね〜」
もう1回シバいてやろうか、この兎…!
サグメ『何故あなたは嬉しそうな顔をしている?内心では私に対し嫉妬心を燃やしてるのでは?』
鈴仙「ふぇ、嫉妬心!?無い無い、無いですよ!ただ、少し嬉しいんです!」
サグメ『何が?』
鈴仙「気難しいサグメ様すらも虜にしてしまう、エスカルゴの凄さ…ですかねっ♪///」
ああ、そういう思考なのか、鈴仙は。自分の彼の凄いところが分かったからこうも喜んでいたと。分かれば納得出来なくもないが、少し難しい…。私とは随分と思考回路が異なるらしい。ていうか気難しい気難しいうるさいな。そんなに気難しいだろうか。
鈴仙「それでどうして2人で来たの?もしかして交際中ですよーって挨拶に?」
カルゴ「ちげーよ…。詳しい事は後でサグメから話すけど…実は今、サグメの住む所が無くてね」
鈴仙「えっ…だって月には家…………あっ」
鈴仙は、私が家無しである理由を察したか、少し申し訳なさそうな目を向けてきた。付き合ってると知った時点で、それも察せそうなものだが…。
鈴仙「すみません、サグメ様…事情も知らずに、私1人で浮かれてしまい…。少々、客間でお待ち下さい、すぐにお師匠様と姫様連れてきます!」
そう言うなり、背を向けて奥に駆け出した鈴仙。
相変わらず喜怒哀楽の激しい子だ。しかし、頭は回るらしい。……思考回路が私とは違うだけで。
お師匠様…八意様と姫様のお2人を呼んでくる、というだけで、その部分が垣間見えた気がする。
鈴仙「えっと…私はどうすればいいですか…?」
永琳「好きになさい」
鈴仙「じゃ、じゃあ、部屋に居まーす…」
八意様と姫様のお2人を連れてきた鈴仙は、額に汗を浮かべながら小走りで自室へと戻った。客間には私と彼が並んで座っていて、その向かい側に八意様と姫様が並んで座っている。
お2人とも、やけに真剣な面持ちだ。
サグメ『数日ぶりでございます』
永琳「そうね。でもあなた最近、地上に来る事が多いんじゃないかしら。耐性を持っていても少し危ないと思うけれど?」
サグメ『人生における最大の決断をしました故、月から報告に参りました。是非、聞いて頂きたく存じます』
永琳「ええ、聞かせて」
サグメ『私は本日、月から逃亡して、これからは地上で暮らす事を決意致しました』
永琳「へぇ…。賢者と呼ばれるあなたがねぇ…?理由を教えて?」
サグメ『はい』
それから私は、その決断に至った理由を事細かに話した。八意様のことだから全て見抜かれているような気もしたが、一切端折らずに全て話した。
どうやら姫様は、私が月を脱した理由を会話中に察したらしく、ニヤニヤと彼を見ていた。そんな視線に気付いた彼は、やんわりと微笑む。
サグメ『───という訳で、賢者の身分は捨て、地上にやって来ました。私は、漸く生きる意味を見つけたのです。月に仕えたのはあくまで使命であり、生きる意味では無かった。使命を放棄してでも、自分に真っ直ぐに生きるという生き方に、楽しさ、魅力を見出したのです。そこで、裏切り者に仕立て上げられた事を利用し
カルゴ(脱月…
永琳「…ホンット、あなたは他人の人生を歪めるのが得意よねぇ、エスカルゴ?」
カルゴ「なんか酷い言われようですね…」
永琳「だってそうでしょう?折角まともな賢者が現れたと思ったら…ねぇ?」
サグメ『彼は悪くないです。私が決めた事です』
永琳「その
サグメ『そうですが…』
永琳「大体、彼は不老不死の吸血鬼よ?あなたは穢れたらいずれ寿命がやってくる。その辺の事は全て分かっているのでしょう?」
サグメ『分かっています。出来れば私も、八意様のように不老不死に成りたいと思っていますが、八意様はもう蓬莱の薬を作る事は無いでしょう』
永琳「そうね」
サグメ『一応は、何れ訪れる死も受け入れているつもりです。それまでは、不死となる方法を模索する考えでいますが』
永琳「そう…」
…え?少し待って。今、八意様は何て言った…?
サグメ『彼は不老不死なんですか?』
永琳「そうだけど…あなた言ってなかったの?」
カルゴ「『俺不老不死だよ!』って言います?」
永琳「…言わないわね」
ええええええ…おかしい…八意様が信念を曲げるとは到底思えないけれど…。不老不死となるには蓬莱の薬を服用する他に無いのでは?まさか他に方法があるとでも言うのだろうか?
サグメ『蓬莱の薬ですか?』
永琳「違うわ。彼ね、独自に発見したのよ。不老不死になる方法を」
カルゴ「正しくは『実証した』ですよ。元から、その可能性は文献で示唆されていましたからね」
永琳「あぁ、そうだったわね」
文献?まさか不老不死になる方法が載っている?
そんな…。地上人は皆、不老不死に憧れている。もしそんな事をすれば今頃、地上は不老不死人で溢れかえっているはず。これは一体どういう…?
永琳「…それで、地上に来たは良いけれど、住む家はあるのかしら。彼は家とか持って無いわよ?通い妻ならぬ通い夫だから」
カルゴ「それで…サグメを、永遠亭に住まわせて欲しいなと…」
永琳「何故?」
カルゴ「鈴仙と同じく月から来たから…ですね」
永琳「…まともな理由には聞こえないけど…まぁ言いたい事は分かるわ。でも、もし追手が来たらどう対処するのかしら。私達は手を貸さないわ」
サグメ『私を追っていた者は先程対処しました』
カルゴ「俺が」
永琳「あぁ、それなら少し安心かしらね。輝夜はこれをどう思う?」
輝夜「そぉねぇ〜…もしサグメが住むとなったら永遠亭のメンバーが増えるわけでしょう?」
永琳「ええ」
輝夜「そうなるとゲームのメンバーと差異が…」
永琳「そうじゃなくて…」
輝夜「じゃあ何よ?」
永琳「サグメを住まわせる事に対してでしょっ!あなたは話を聞いているの!?」
輝夜「しーらない」
永琳「あのねぇ…」
輝夜「住む事に対してはOKよ。部屋なんてまだ空きがあるんだから。好きな部屋使っていいわ。これより、あなたもこの永遠亭の住人よ」
永琳「…家主からOKが出ました。もう私からは何も言いません」
あれ…案外すんなりOK…?
カルゴ「おっ、良かったじゃんサグメ」
サグメ『嬉しい』
永琳「ただし、彼であるエスカルゴに、1つだけ条件を付けるわ」
カルゴ「えー…」
永琳「あのねぇ…月からの脱走者を、月が容易く見逃すと思っているの?」
確かに…それには私も同感だ。
永琳「匿うのはこちらにもリスクがあるのよね。だから、家賃を払ってもらおうって事よ」
サグメ『それならば私が払います』
永琳「あら、あなたじゃダメよ。不老不死である彼にしか頼めない事なの」
えぇ…何だか嫌な予感しかしませんよ八意様…。
永琳「それが終わったら、エスカルゴのお願いを1つ叶えてあげてもいいわ」
カルゴ「マジですかッ!?やりますやります!!やらせて下さい!」
永琳「じゃあ、この後すぐ実験室に来て頂戴ね」
カルゴ「はー……い?」
永琳「男に二言は無いわよね?」
そう言ってニッコリと微笑んだ八意様は…なんと言えばいいのか分からないほどのドス黒い笑みを浮かべていた。そしてその後、永遠亭中…いや、竹林中に響き渡るほどの絶叫が聞こえてきた。
何をされているのだろうかと彼を気にする反面、住み始めた直後に何かしらの波乱が起きそうで、ワクワクし始めた。
これからは、地上での生活が私を待っている…。
賢者としての私はもう居ない。