カルゴ「偶には歩くのも良いなぁ〜」
ある日、少しだけ時間が空いた俺は、博麗神社に遊びに行こうとしていた。わざわざ遠回りしての寄り道というよりかは、経路の途中にあるので、羽休めという意味での寄り道だ。
ついでに、たまには階段ダッシュしようと考え、鳥居直下の階段に向かっていた。
カルゴ「腹減った…昼飯食ったハズなんだが…」
妙な空腹感を覚えた俺は、さっさと階段下へ赴き階段ダッシュの体勢に入った。
霊夢「…そろそろよ。準備なさい」
霊愛「もう出来てるよ」
霊麗「今年は私も参加〜♪」
今日は2月8日。事八日とも呼ばれる、ある意味1年の節目の日であり、神の力が弱まってしまうという、私達にとっては弱点となる日でもある。
正直、私やお母さん、霊麗の力は割と強いから、戦う時に神の力はほぼ借りないし、あんまり弱点という感じはしない。ただ、低級の妖怪や幽霊が沢山湧いてくる面倒臭い日という認識だ。
まぁ、数え切れないほど湧いてくる外敵を一気に屠るのは、一種の快感すら覚える。低級すぎて、歯が立たないのがたまにキズかもしれない。
そして私より幼い霊麗は、今年から掃討に参加。お母さんは私達の戦い方を縁側から眺めている。面倒だから…というよりは、巫女を継がせるのに値するかを見ているような気がする。いつもとは違って、目が真剣そのものだから。
因みにこの低級霊や妖怪は殺しても殺さなくてもどちらでもいいらしい。お母さんは、とりあえず倒すだけに留めているけど、私は殺す。あとからあとから湧いてくるのに手加減なんてするほど、私はそんなに甘くはない。
霊愛「…それにしても変な匂いするね。生臭くて思わず『うぷっ』てなりそうな」
霊麗「そう?どんな生臭さ?」
霊愛「いつもは嗅がない匂い。魚じゃないね」
霊麗「何だろ?もしかして、この血の匂いかな?さっきからこの辺に血の匂いが広がってるし」
霊愛「…そうなの?お母さん」
霊夢「ええ。すぐにわかったわ」
霊愛「流石、純粋な吸血鬼だね。お父さんは嗅ぎ分けできるって言ってたけど、お母さんと霊麗は誰の血なのかはわかるの?」
霊夢「…大体の検討はついてるわよ。近くであのバカが戦ってるんでしょ」
霊麗「私はまだ嗅ぎ分けとかできないから何とも言えないかなー。そんな事よりさ、お姉ちゃん。来たよ、敵」
霊愛「そんな事よりって…まぁ気付いてるけど」
血?の話をしていると、いつの間にかその霊達が集まってきていた。気配で一応気付いてはいた。それでも向こうを警戒しなかったのには、理由がある。奴らは、単体では襲ってこない。ある程度数が集まってから、一気に襲ってくるのが奴らの常套手段。群れなければ戦えないなんて雑魚だ。私達はたった2人なのに対して、向こうは数十〜数百。数が違いすぎる。それでも私達との力の差的に考えて、余裕で圧勝できる。
霊愛「よしっ、ある程度集まったから、向こうが動く前に叩いちゃおっか」
霊麗「そーだね!どうせならスペル使っちゃお!その方が早いし!」
本来なら力の温存の為に力は使わないでおきたいけど…どうせコイツら相手に消費する力なんて、たかが知れてる。
姉妹「宝具『超特大陰陽玉』!!」
霊夢「うーわ…デッカ…」
力任せ…という程ではないけど、私と霊麗がほぼ均等に多量の力を注いで、巨大な陰陽玉を作る。お母さんのは大きくて3m前後。私達のこれは、5mは優に超えている。
おかげで、声も発さない低級霊、妖怪達は次々と陰陽玉に触れては消えていった。私達が手加減をしていないからこその攻撃力だ。
霊愛「フーッ……ザッとこんなもんかな?」
霊麗「なーんか、呆気ないなー…別に、弱点の日とかそういう感じしないね」
縁側で座るお母さんの所に向かいながら、そんな話をする。私は、これまでもスペルで一掃した。お母さんみたいに手加減はしないから。霊麗も、私と同じ考えらしく、これからも楽が出来そう。
霊夢「お疲れ様。中々良い出来だったと思うわ。
…呆気ない…か。そりゃあそうね。今来たのは、あくまでも雑魚だから。でも油断はしちゃダメ。襲ってくるのが低級な奴だけとは限らないから」
霊愛「…それもそうだね」
霊麗「分かった、気を付けるね」
霊夢「そろそろおやつ食べよっかな。あと今日の夕飯、何がいい?」
霊愛「何でも良い」
霊麗「私も〜」
霊夢「だから、それが一番困るん…………!!」
溜め息をつきながら、買い置きしておいた煎餅を取りに屋内に戻ろうとするお母さん。しかし次の瞬間、私と霊麗、お母さんは、神社の近くに妙な気配を感じ取り、即戦闘態勢に入る。
霊夢「今の…感じた?」
霊愛「うん。何か、お父さんに似てるけど…嫌な気配が混ざってるような…」
霊麗「異物混入かな?」
霊夢「ご丁寧に正面から来るようね。あのバカが階段から来るかしら?そんなの1年に1回あるか無いかくらいなんだけど」
霊愛「それが…今ってことかな?うーん…?」
霊麗「お父さんなら、スキマか瞬間移動か空から来るはずだけど…。9割以上は、空からだよね」
霊夢「……来るわよ……」
私達は御札を構える。すると同じタイミングで、鳥居の下にユラリと黒い影が現れた。一対の黒く大きな翼、背中に差す二振りの剣。それに加え、地獄の女神から貰ったらしいダサT。間違いなくお父さんだった。
霊麗「ひっ…!?」
けれど、その姿を見た霊麗は小さく声を上げた。お父さんの左腕は半分ほど白い骨が見えていて、血がダラダラと流れ続けていたからだ。そして、口元にも大量の血がついている。
霊夢「何あの姿…酷い…。……特にTシャツが」
霊愛「服はいいでしょ別に…。それより腕の傷が全く治ってないけど…?」
霊夢「ええ、おかしいわね…」
霊麗「お父さんの血の匂いだったんだ…。でも、気配も変だし…何があったの…?」
霊夢「分かったわ、アレ。タチの悪いヤツに取り憑かれてるみたいね」
霊愛「ゲッ…」
霊夢「今度は私が動く番ね。2人は見てなさい」
姉妹「分かった」
ユラユラと身体の軸を揺らして歩くお父さんに、警戒しながら接近するお母さん。右手にはお祓い棒、左手には御札を持っている。
霊夢「どうしたのよアンタ。目を覚ましなさい」
カルゴ「ア…ア゙……飯、食イテェ……」
霊夢「そうか、この気配…ヒダル神だわ!前にも現れたヤツ…!」
霊愛「へバル神?何それ」
霊夢「ヒダル神よ。浮遊霊の一種で、憑かれると手足がダルくなって…とんでもない飢餓感をその取り憑いた対象に与えるの」
霊麗「流石お母さん、詳しいね!」
霊夢「前に、私や魔理沙も取り憑かれたからね…特に記憶に残ってるわ」
霊愛「え…お母さんもあんな風になったの?」
霊夢「いや…私達の時は、ここまで酷くはやられなかったわ。せいぜい、空腹で倒れたくらいよ。コイツが血だらけなのは、自分の腕を食べたからだと思うわ」
霊麗「あはは…お父さんらしいや…」
霊愛「でもさ、どうして傷が治らないの?しかもお父さん、自我失ってる感じすらするけど…」
霊夢「多分だけど…コイツが妖怪、つまり精神的な攻撃に弱い存在だからだと思うわ。
霊愛「お父さんがそう簡単に取り憑かれるかな?そうは思えないけど」
霊夢「ヒダル神は目に見えないからね、仕方ない部分はあるでしょうね…。もしも、今の私が取り憑かれたら…
霊愛「うわー…。ていうかお父さんどうするの?封印なんてしないよね?」
霊夢「ヒダル神だけ封印するから、そんな心配はいらないわ。こんなの楽な作業よ、エスカルゴの魂なんて封印しないわ」
霊愛「なら良いんだけどさ…」
カルゴ「飯ィィ……食イタイ…!!」
血塗れで、手をお母さんに向けながらフラフラと遅く歩くお父さん。話に聞く、ゾンビ?とやらがこんな風にフラフラして襲い掛かると、お父さんから聞いた事がある。
霊夢「…今日は博麗神社じゃないでしょーに…。どうして昼間っから来たんだか………♪」
そう悪態をついたお母さんだけど、その声色から察するに、寧ろ喜んでいることが伝わってきた。しかしそれだけに、ヒダル神に邪魔されて怒りが湧いてきているようにも思える。
霊夢「…潰すわ。神霊『夢想封印 瞬』!!!」
大量の御札を扇状に投げ、一旦空中で静止させると、それらは一気にお父さんへと向かっていく。私達は見た事の無いそのスペルに、ただただ目を奪われていた。お父さんはと言うと、御札の効力によって行動が制限されてしまったようで、その場に固まって小さく唸っていた。
カルゴ「ヴヴヴヴ……!!」
霊夢「トドメよ。消えなさいヒダル神」
一際大量の御札を投げると、それらはお父さんの身体にピタリとくっつき、触れたそばから次々に小さい爆発を起こしていった。
カルゴ「グギャアァァァ…!!ア゙ァ……ァ…」
苦しそうな悲鳴を上げたお父さんは、そのまま、地面に倒れて動かなくなった。肉体は消えてないから、死んではいないことは分かった。
霊夢「ったく…世話の焼ける夫だわ。目覚めたら説教しなくちゃ」
そう言って、腕の傷が治ってきているお父さんを持ち上げて神社の中に運び込むお母さんの顔は、どこか明るく、嬉しそうだった。
アレ読んでる人は何の話か分かったでしょうな。茨歌仙ネタです。6巻27話の事八日、8巻36話のヒダル神。