博麗神社にて、ホワイトデーのお返しなどで盛り上がっていた頃。守矢神社では、とある参拝客が小さなお社に近付いていた。
?「………」
神奈子「おい」
参拝客の背後から、守矢神社で祀られている神・
八坂神奈子が、荘厳な重々しい声で声をかける。
一瞬だけ肩を震わせたその参拝客だったが、一つ小さな溜め息をついて振り返った。
?「…何でしょう?」
神奈子「貴様…今その社に、何をしようとした?仕舞ったものを見せよ」
?「お供え物のお神酒に饅頭ですわ♪」
リボン付きのスキマを開き、酒と饅頭を取り出す参拝客。それを見た神奈子は、あからさまに顔を顰め、不機嫌さを露わにする。
神奈子「フン。…忠告しておくが…余計な真似はやめておくんだな。何が起こったとしても、私は知らないぞ」
?「滅相もございません♪」
神奈子(愚か者め…)
一つ溜め息をついた神奈子は、その参拝客を少し気にしながらも屋内に戻って行った。それを見た参拝客は、再びお社に手を伸ばす。しかし、その手に持っているのはお神酒や饅頭などではない。
ある道具を、社に括りつけようとしているのだ。
建御雷「おい貴様。何故我の社に首輪をつけようとしておる?」
正円のスキマにて彼女の背後に現れたのは、その社で祀られている雷神、武甕槌命だ。現在は幼い子供の姿をとって、幻想郷やその周辺の異世界を放浪している、れっきとした八百万の神である。
そんな神に呼び止められた彼女は、柔らかな微笑を浮かべながらゆっくりと振り向いた。今度は、その道具を隠さずに。
建御雷「クックック……季節の行事で人々の目がそちらに向いているその影で…このように密かに行動を起こしていたとはなァ…」
?「………」
建御雷「貴様は確かアレだな?ごく稀に催し物に顔を出す程度の賢者、八雲紫。…そんな奴が何故我の社に首輪をつける?」
名前までバレているその参拝客…改め八雲紫は、無言を貫いていたがとうとう口を開き、建御雷に道具を見せながら返事をする。
紫「首輪なんてとんでもない。これは、神社には欠かせない注連縄ですわよ♪」
建御雷「注連縄は神の力を抑える為の道具だァ…そんな道具を首輪と呼ばずして、なんと呼ぶ?」
紫「失礼ながら…あなた様のお力はとても強力…注連縄にて抑えねばいずれ世界に悪影響を及ぼしかねないと存じます」
建御雷「『いずれ』?『悪影響』?笑わせるな。我を何者と心得える。神代の頃より日本に君臨し雷神ぞ。今更力の使い方を間違えるとでも?」
紫「念の為、ですわ」
建御雷「まずその胡散臭い喋り方をやめろ。心底イラついて仕方ない」
紫「分かりました。…随分俗っぽいお方ですね」
建御雷「あぁ、そうなのかもしれんな。器に力を貸す度、我は奴に近付き、一方奴は我に近付く。なんと素晴らしいのだろうな、この世界の理は。しかし悲しきかな…憐れむべきかな……。両者が同一化する事は、どう足掻こうと決して叶わぬ」
紫「…?」
建御雷「我の力を抑えたくば、その前に力で我を従えてみせよ。さすらば、大人しく下賎な妖怪の戯言にも付き合ってやらんこともないぞ」
紫「つまり、弾幕ごっこですね?」
建御雷「クハハッ…。こちらのルールに則って、スペルカードも作ってあるぞ?……この我の力を抑えようと画策したのだ……よもや、逃げるとは言わんよなぁ?のう…妖怪?」
紫「ええ…そうですね」
建御雷「ハンデとしてこちらの一般的なルールに合わせてやろう。残機は3で、スペルは5枚位が貴様には妥当か?何なら、我の方は残機0だっていいのだぞ?」
紫「手心は不要です。平等に戦いましょ?そして己の放った弾幕が己に当たっても被弾とする」
建御雷「ハハッ…。その言葉を忘れるな、妖怪。我が敵とみなせば、たとえ女子供でも殺すか気絶させるまで徹底的に甚振るぞ」
紫「…良いでしょう。ではこちらもそのつもりでやらせていただきます」
建御雷「我を相手に、手加減など考えぬ事だな。油断すると……たとえ妖怪でも軽く死ぬぞ」
性格の腐っていそうな黒い笑みを浮かべた彼は、その全身に青白いオーラのようなものを纏った。それはバチバチと耳障りな音を立てながら激しく放電している。
建御雷「いくぞ妖怪」
一言そう声をかけた建御雷は青白い電力弾を発射し始める。速さも威力も、
勿論、紫も弾幕は発射している。密度はほぼほぼ互角、しかし威力の差で少し紫が押されている。
建御雷「ほう、良い判断をするではないか。唯の一度でも被弾すれば、敗北へのカウントダウンが始まる。それを防ぐには、そもそもの原因である被弾を防ぐしかない!それと同時に─────」
青白い弾幕は時間経過と共に密度を増していき、更には直線のみならず、ホーミング弾も少しずつ混ざり始めている。両側から来た場合は、片方を傘で受け止め、もう片方をスキマで呑み込む。
紫「ッッ………くっ…なんて密度なの…!」
建御雷「──我のスペルを一枚消費させられる。貴様はそう考えたのだろう、紫?」
紫「っ…さぁ、どうでしょうか…」
建御雷「クク…知っておるぞ?お前や幽香の持つ傘は、超電磁砲による破壊力には決して抗えぬ。受け止めたが最後、傘は無惨にも散りゆくのみ。だからこそ、敢えて傘を壊させる代わりにスペルという攻撃手段を奪おうと画策した。…警戒する必要の無いほどの、極めて簡単な策であったな」
紫「…私とて、そう簡単にあなた様を欺けるとは思ってはおりませんよ。深読みのし過ぎでは?」
建御雷「ククッ……面白い。ならば、その余裕が本物なのか…いつまで続くのか、見せてもらおうではないか!!傘は壊さんが、スペルを一枚、使わせてもらおう!」
紫(来るッ…!!)
建御雷「狙撃『全自動パルスライフル』!!」
建御雷は、自身の周囲に幾つもの小さいスキマを開いて、そこから細いレーザーを断続的に発射。紫はそれを弾幕で相殺し、スキマで飲み込んで、傘で受け止める。
建御雷「第二波はホーミングのおまけ付きだッ!被弾してしまえ、妖怪!!」
一旦全てのスキマが閉じ、新たに多くのスキマが開かれると、レーザーの弾幕はそのままに追加で黄色く輝くホーミング弾まで発射され始まった。ホーミングを避けた先にはレーザー、レーザーを避けた先にはホーミングがあり、次第に紫の行動範囲が狭まってきた。
建御雷「そぉら、第三波ァ!!」
紫「!?」
今度は、レーザー、ホーミングに加え全方位へのバラマキ弾が発射され始まった。それぞれ単体は大した驚異でも何でもないが、それらが混ざると幾ら紫でも驚異に成り得る。傘でのカバーも少し厳しくなってきた。
が、紫の策はここから始まる。
紫「己の放った弾幕が己に当たっても被弾。その意味が分かるかしら…?」
建御雷「む…?」
次の瞬間、紫に向かっていたホーミング弾は全て建御雷に向かい始めた。放った本人は、その幼い肉体を流麗に操り、スイスイ避けていく。彼より体が大きい紫には、到底真似のできない動きだ。
尤も、バラマキ弾とレーザーはそんなに変わらず無常に発射され続けている。
建御雷「ほぅ…対象を入れ替えたか。以前器にも使った手段だな?」
紫「ホーミングの対象を、私からあなた様へ…。それに加えて私の放つ弾幕。ふふっ…あなた様も避けるのが苦しいでしょう?」
建御雷「フンッ、小賢しい。境界を操る?因果を入れ替える?神の力?ハッ、下らない。神の力がなんだ。神の力を持ったところで、貴様は神には成れないし、神ではないぞ。自惚れるな」
紫「ええ、そうですね。しかしそれは、あなたの器も同じことでは?」
建御雷「いいや違うな。奴は我々神に認められし存在だ。貴様とは境遇も何もかもが違うのだよ。妖怪だからと、器を引き合いに出さないことだ。見苦しいぞ妖怪めが」
紫「紫奥義『弾幕結界』!」
建御雷「ふむ……」
初見ながらも、よく弾幕を見極め、掠りながらも丁寧に避けていく。そうしているうちに建御雷のスペルも終わりを告げ、しつこいホーミングから解放された彼は紫に接近を試みる。
建御雷「どれ…ちと早いが、次も使用するかな」
紫「当たらないっ…何で当たらないの…!?」
建御雷「『体が小さい方が弾幕ごっこには有利』と教えてくれたのは、他でもない器だ。やはり、阿呆と馬鹿にしてはおれん。カカッ…紫、貴様に分かるかな?誰かを弱者だと馬鹿にしていては、其奴から学べるものも、決して学べないのだよ」
紫「っ…!私がいつ彼を馬鹿にしたのかしら?」
建御雷「貴様の態度から伝わってくるのだよ…。痛いほどにな。我ら神族、ひいてはその眷属をも小馬鹿にしておるな。幸い奴は、愚鈍故に貴様のその態度には全く気付いてはおらんがな。我々の目を欺けるとでも思ったのか?」
弾幕結界をくぐり抜けて、ジワジワと接近する。十分に接近できたところで、建御雷は再び青白い電力弾を展開する。
建御雷「この至近距離ならスキマも開けまいて!ただの弾幕に焼かれ、己の罪を悔い………!?」
言葉を切って、自身の周囲を見回す建御雷。彼は弾幕…ではなく、紫の強固な結界によって完全に包囲されていた。弾幕が飛んでこなかったのは、弾幕結界の内側に入ったからではない。その実、ある程度彼が接近した時点で、紫がスペルを中断していたのだ。
スペルそのものを囮に使うなど、流石の建御雷も思い付きはしないだろう。そう考えた彼女だったが、まんまとその通りになった。
数個ずつ纏まった弾幕は、比較的回避が容易だ。
それ故、建御雷は接近した。そこまで読んでの、結界での包囲だ。
それでもこの結界は、あくまでも彼を逃がさない為の、応急処置の結界なのである。本命は次だ。
建御雷「しまっ…」
紫「紫秘奥義『神霊尽滅結界』!!」
建御雷「ぐっ……ぬぁぁぁっ…!?」
建御雷を覆っていた青白いオーラは少しずつ彼の中に戻っていく。つまり、彼の溢れる力が彼女によって押さえつけられているのだ。
紫「ふふ…油断しましたね…?あなたはまんまとおびき寄せられ策に掛かった!このままあなたの力を抑えて…力の封印までもっていきます…!」
建御雷「う…ぐ、おぉぉぉ……き、貴様ァァ…!神をっ…我を愚弄するかッッ…!」
紫「ふふふっ…下賎な…とは、どちらかしら…?あなたのような乱暴な神は、幻想郷には不要よ!大人しく私に従ってもらうわ!!」
建御雷「こンの…っ………神に逆らう痴れ者がァァァァァッッッ!!!!」
紫「なっ………!?」
彼がひとたび叫べば、太陽が地に降ってきたかの様な眩い光を放ちながら凄まじい爆発が起きて、紫の結界を粉微塵に吹き飛ばしてしまう。爆風で守矢神社に叩き付けられそうになる紫だったが、神奈子によって張られていた神社を
紫「…ぁ……う………っ…ぐ、はぁ…」
強く叩きつけられた事で傘は枠組みを崩しかけ、紫本人は頭を押さえながら軽く目を回している。恐らくは重度の脳震盪。強き肉体を持つ妖怪とはいえ、重要器官に影響が及べば速やかな回復とて容易ではない。
建御雷「はぁ……はぁ……。フッ…フハハッ…。我としたことが……つい(五割ほどの)力を解放してしまったか。神奈子の結界が無ければ、一体どうなっていたことやら…」
神奈子《全くだ…。お前は昔からこうだからな、対策はしておいたさ》
建御雷《今回は素直に礼を言う》
神奈子《その言い方が、既に素直ではないような気がするんだがな。まぁいい、トドメでもさしてやったらどうだ?時間を置くと、ダメージも回復してしまうだろ》
建御雷《お前は何を当たり前な事を言っている?
トドメなど、1+1くらい当たり前なことだ》
神奈子《ならさっさとしろ。お前の攻撃に耐える結界を張るのだって容易じゃないんだからな?》
建御雷《…弱くなったな》
神奈子《お前もな》
建御雷「…ったく…世間話が長い幼馴染みよの」
神奈子《あ゙ぁ゙!?》
紫「ま…まだ、よ…!!」
地に膝をつきながらも、曲がった傘を杖にして、フラフラと立ち上がろうとする紫。しかしながらその足は震え、とても戦える状態ではなかった。
建御雷「ほう…圧倒的力の差を見せ付けられても尚、まだ逆らう気力があるか。その無駄な根性としぶとさだけは褒めてやろう。認めてやらんが」
紫「まだ…終わっていないわ…!」
建御雷「いいや、もう終わっている。貴様がまだ終わっていないと言うのならば、我がこの不毛な戦いに終止符を打とう。雷神らしく、少し強めの雷でも落としてやろう」
神奈子《おい!?お前の『少し』は『やりすぎ』
なんだよ!少しは自重というものを覚えろ!!》
建御雷《分かった分かった、少し軽めにしよう》
神奈子《くっ……私が耐えるしかないか…》
建御雷「一閃『Mishap of Thunder』!!!」
紫「あ……あぁぁ…」
青空に広がる白い魔法陣を見やった紫の口元は、ワナワナと小刻みに震え始める。そんな紫を見た建御雷は、その慈悲の心を以て彼女を許す………なんて事は、しなかった。
建御雷「召ォ…喚ッッ!!!」
紫「ッッ………」
テンションは上げても威力は落としたのか、本来ならば殺せるはずの紫を、わざわざ衣服を焦がし全身を痺れさせる…つまり彼と同じような攻撃に留めた建御雷。彼は、地面に伏せる紫の元に歩み寄り、声をかける。
建御雷「フン…残念だったな、紫よ。その程度の力で我を倒せると奢った、己の無力さを恥じるが良い。再戦はいつでも構わんぞ。その悉くを返り討ちにしてくれるがな」
紫「………」
建御雷「……
紫「っ…!?」
建御雷「やれやれ…。我も弱くなったものだな」
気を失った紫を見下ろし、雷で出来た鳥のような翼を広げて、境内から勢いよく飛び立った。彼にとっての好敵手が居る、神の世界へ。
神主、お誕生日おめでとうございます。