エイプリルフール。異国から伝わってきた、嘘に関する文化。本質としては、嘘をついてもいい日というよりは、嘘を言って笑い合う日なのではと思っている。
その起源は「不明」とされたり、「諸説あり」とされていたりと、始まりが分からないほどに説が飛び交い、世界に浸透している文化だ。
……つまり、笑える嘘をついた方が、言った方も言われた方も楽しめるだろうと言いたい。
嘘だからと何でも言っていいという訳じゃない。
因みに俺は、「1564年に、フランス国王シャルル
9世により1月1日を新年とするグレゴリオ暦が
採用され、それに反発した人々が4月1日を嘘の
新年として馬鹿騒ぎするようになり、エイプリルフールの風習になった」という説を推している。
馬鹿騒ぎするようになった。まさに、「笑える」じゃないか。皆で楽しめるなら、それが1番だ。
…とまぁ、紅魔館でパチュリーとこんな話をした俺は、会場である博麗神社にスキマで移動した。
文の仕事場に宿泊した際に、穹に言われたのだ。
今年のエイプリルフールは博麗神社ですね、と。
皆で集まり、色々雑談をしようという図らいだ。事実、俺は今日博麗神社なので、穹はそのことを見越した上で皆に招集をかけたらしい。
個々で嘘を言い合うより、皆で集まった方がより多く嘘を言い合えるし、何より楽しいからだ。
流石、11人の中で最も行動力のある穹だ。きっと他にも色々と暗躍していることだろう。
因みにこれは、主に家族間だけの集まりなので、他の彼女達はそんなに多くは来ない。
俺達にとってのエイプリルフールは、専ら「嘘か本当か分かりにくいことを言って皆で当てる日」のような扱いになっている。たまにされるアホな発言を除けば、非常に楽しめる行事だ。
カルゴ「お〜っす。もう皆集まってんだな、少し早くない?」
穹「いえいえ、父上が遅いだけですね!」
霊愛「穹が夙すぎるだけだと思う。全体的にね」
穹「そうですかね?」
霊愛「朝早く起こされた身にもなってよ…。ま、お陰で修行出来たから、あんま文句無いけどさ」
穹「なら良いじゃないですか?」
霊愛「結果で言えばね」
カルゴ「ほうほう…朝早くって何時?」
霊麗「8時くらいかなぁ?」
カルゴ「そこまで早くねぇじゃん…」
霊愛「そうかな?」
霊麗「割と早いと思うけどなー。それから朝ご飯食べて色々やって今に至るワケだし」
カルゴ「…そういや俺も、ここで起きる日は大抵遅起きだったな…はぁ…」
怠惰紅白淫乱吸血鬼ノーブラ巫女と過ごさせると怠惰に育つのだろうか…。そんな少しアホな事を考えていると、寝間着姿の霊夢が目を擦りながら出てきた。
霊夢「全くよね…皆でドンパチしてるから、全然二度寝出来ないわよ〜……」
霊愛「それは……夜更かししてたお母さん自身のせいだと思うけどね」
カルゴ「そうなの?何で夜更かししてたんだ?」
霊夢「別に何も……。今日はどうやってあんたをからかってやろうかって考えてただけよ」
カルゴ「からかうって…どこの高木さんだよ」
霊夢「は?」
カルゴ「あいや、なんでもない。…さぁ、どんな話でも嘘か本当か見極めてやる、誰でもいいから掛かってきな!!」
ワラワラと沢山集まっている幼…少女達に、そう声を張り上げる。その中で最初に名乗りを上げたのは、俺の自慢の娘、巫月だった。
巫月「はいはーい!トップバッターは私だよ!」
カルゴ「よし来い!」
巫月「私、将来エスカルゴと結婚しまーす!!」
その瞬間、場の空気が完全に凍りついた。写真係である文が写真撮影を中断して目を見開くほど、巫月は堂々とそんな発言をした。
ママ友のように楽しく雑談していた妖夢と鈴仙、咲夜さん、早苗達までもが雑談を止めていた。
カルゴ「そ…それはきっと…流石に嘘っていうか冗談だよな…?は…ははは……嬉しいけどね…」
霊愛「流石のお姉ちゃんも、結婚って言う程好きなわけ無いよね…多分…」
穹「の…ノッケからトバしますねぇ…姉上…」
妖舞「嘘だな!これは分かりやすい!姉上の言う
『好き』って、多分だけど結婚とかそういう意味での『好き』じゃないもんな!」
樹里愛「娘はパパのお嫁さんになれないってママ言ってたよ!」
次の瞬間、白い尾を引くレーザー…いや、弾幕が視界の端を掠めて、妖舞の顔面に当たる。弾幕の勢いは凄まじく、妖舞は後方に吹き飛ばされる。
妖舞「……イタタタ…何が起こったってんだ……って、イッテェェェッ!?鼻血出たぁ!!」
妖夢「ちょっと妖舞!?何やってるのよ、もう!鼻血なんて出して…」
妖舞「いや、なんか吹っ飛ばされて……」
ふと巫月を見てみれば、暗く冷たい顔で、妖舞へ手のひらを向けている姿が目に入った。しかも、その手はパリパリと酷く帯電している。どうやら電力弾を彼に当てたらしい。
巫月「ゴチャゴチャ煩いなぁ。するって言ったらするんだよ。結婚するって意味で大好きだから。そこ、勘違いしないでくれる?」
カルゴ「み……巫月…?ちょっとアレはやりすぎじゃないかなー、と思うんだが…?」
巫月「煩いんだもん。知った風な口利いてさ」
カルゴ「コラ巫月。弟相手に、そういう事を言うもんじゃない」
巫月「そうかな?弟でもストレートに言った方が良いと思うけど。弦月姫もキレる寸前だったし」
見てみれば、弦月姫も巫月のような暗い表情で、数本のナイフをその手に持っていた。何故彼女も巫月と同じようにキレたのか……それはきっと、巫月が言われたあの言葉の数々を、自然と自らと重ねたからだろう。つまり、この反応の違いは…父親にガチ恋勢と普通勢の違いという事だろう。
巫月「言っとくけど本気だから。…ねっ♡」
カルゴ「『ねっ♡』ってオイオイ……」
一同「………」
???「お兄ちゃ〜んっ!!」
カルゴ「おっ…」
気まずくなった空気を壊したのは、巫月の友達のアリスだ。姉ちゃんと同名で、その見た目から、俺は心の中でロリスと呼んでいる。甘えん坊で、愛くるしく…とても可愛い妹だ。ロリスは、手を振りながら裏山上空から舞い降りてきた。
そんな妹の後ろには、母さんこと神綺と、彼女に仕えるメイドの夢子も控えている。相変わらず、こちらに来る時には3人で行動しているらしい。幻想郷は危険な場所だと思ってる兄貴としては、そうしてくれると非常にありがたい。
ロリス「ねぇねぇお兄ちゃん!今日はね、お土産持ってきたんだよ!魔法陣出すから手入れて!」
カルゴ「お、おう…?」
彼女が短く詠唱すると、直径50cm程の大きめの魔法陣が現れ、紫色に怪しく発光し始めた。恐る恐る手を入れてみると何か温かいものに触れた。
ロリス「出してみて!」
カルゴ「つっても、これどこ掴めば…あ、なんか翼っぽいのがある………んん?」
俺が引っ張りあげたのは、左頬に赤い星マークのある大きな蝙蝠だ。俺は確か……見た事がある。こんなマークを左頬につけた、悪魔の少女を。
そう思い至った途端、手の中の蝙蝠が爆ぜ、金髪ロングで手にステッキを持った、翼のある少女に変身した。
驚きのあまり、尻もちをついてしまった。彼女のパンツは、残念ながら見えない。本当に残念だ。
エリス「ばぁ〜っ!!驚いた!?」
カルゴ「…驚くに決まってんだろ、こんなん…。心臓に悪いわマジで…」
霊夢(誰よアイツ…)
レミィ(悪魔?…私と同等か、それ以上の強さ?
…何にせよ、関わるのはやめておこうかしらね)
ロリス「えへへへっ、ゴメンね☆ お土産っていうのは嘘でしたっ☆」
パチンとウインクをして、少し舌を出すロリス。我が妹ながら可愛すぎる。こんな顔をされたら、何でも許してしまうだろう。
エリス「ったくさー、この人驚かす為にわざわざヴィナの廃墟まで来るなんてね〜。まっ、黙って大人しくしてるの暇だからノッたワケだけど♪」
カルゴ「アリス、よくあそこまで行ったなぁ…。怖くはなかったか?」
ロリス「全然っ!だって魔界だもの、お母さんの支配下なら怖くないよ!」
神綺(支配下…でもないような…)
カルゴ「なるほど。じゃあ幻想郷は?」
ロリス「お兄ちゃんが居れば…怖くない、かな♪
……あっ、巫月ちゃんとお母さんと夢子もね!」
巫月(ついでみたいな扱い……。ま、比較対象がエスカルゴだしね、仕方ないか)
神綺「うんうん♪」
夢子「身に余るお言葉です、お嬢様」
エリス(あれ…?あのロリっ子兎、キレない…?おっかしーなー、アリスにキレるようにしたはずなんだけど…。夢幻姉妹にさえ通じるのに、何であの子には通じないワケ…?)
巫月「あっ、そうそう。遅くなったけど、妖舞の鼻血は幻覚だよ。痛みは本物だけどさ」
妖カル「え?」
妖夢のハンカチを鼻に当てていた妖舞は、それを顔から離してみる。確かに赤くなってはいない。どうやら幻というのは本当らしい。そういえば、血の匂いはしてこなかった気がする。
妖夢「ビックリしたぁ〜……」
妖舞「ケッ…」
霊夢(相変わらずリアルね…。ま、血の匂いとかしなかったから、すぐに分かったけどさ。逆に、何でエスカルゴは気付かなかったの?バカねぇ)
妖舞「ほ…ホントだ…」
巫月「妖舞の血の匂いなんて嗅ぎたくないしね、血なんて出すわけないよね〜」
霊愛「同感」
霊麗「うんうん」
弦月姫「確かに…。次からは出血させない程度に抑えますかね」
妖夢(ボロクソ言われてるよぉ〜……。妖舞も、その生意気言う癖直せって何回も言ってんのに、それ直さないからこうなってるんだろうなぁ…)
妖舞「よーし、次は俺だぞー!」
霊愛「よくこの空気で立候補できるね。メンタルヤバすぎでしょ」
妖舞「樹里愛!」
樹里愛「へ?私?」
妖舞「俺っ……お前の事が…っ……す…///」
樹里愛「…?」
妖夢(妖舞ぁぁぁっ!??)
早苗(おおぉ〜っ!異母兄妹で恋愛に発展!?)
妖舞「好き………嫌いだぁぁぁっ!!」
樹里愛「────っ!!」
妖夢(妖舞ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙っっ!!!)
霊愛(……更なる地雷をぶっこむスタイルか…。やれやれ、馬鹿はこれだから…)
妖舞「ったくよ、いっつもお兄ちゃんお兄ちゃんってくっついてきてよー、可愛さ余って憎さ百倍ってやつだ、マジで!」
巫月が爆弾発言をした時より空気が凍りついた。何故か笑顔になっていた早苗は驚愕の表情で硬直しているし、妖夢は頭を抱えている上に、霊愛は妖舞を汚物でも見るような蔑んだ目で見ている。そして、当の樹里愛は……。
樹里愛「う…うぅ〜っ……!」
目に涙を溜めて泣き出してしまった。だが言った本人である妖舞は焦り始め慌てて妹に駆け寄る。
妖舞「お、おい樹里愛?今のは冗だ…」
樹里愛「お兄ちゃんの馬鹿あああああっっ!!!うわああああぁぁぁん!!!お兄ちゃんの上だけ雷雲出来ちゃえばいいんだー!!」
樹里愛が能力を行使すれば、妖舞の頭上にだけ、重そうな暗い雲が立ち込める。それを見た皆は、即座に妖舞から離れ、自分の身を守る。
妖舞「え、ちょ…これはヤバい…」
樹里愛「雹も雷もお兄ちゃんにだけ降り注げー!うわあああぁぁん!!!」
妖舞「ぎゃあああああ!!!イデデ、痛ァッ!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!」
不規則な雷が妖舞に落ち、直径1cmほどの雹が、ゴツゴツと妖舞に当たりまくる。ビー玉のような音を立てて跳ねるので、それを見ている者は、皆一様に身震いした。
早苗「こら樹里愛、そろそろ止めてあげて!」
母親がそう声をかけると、樹里愛は雷雲を消し、俯いていた顔を上げた。樹里愛は泣いておらず、逆に笑顔をのぞかせていた。そして、手を叩いて笑いだし、今度は笑いすぎて泣き始めた。
樹里愛「あはははっ、皆騙された〜!さっきのは嘘泣きだよ〜ん!」
早苗「えええええええぇぇぇっっ!?!??」
妖舞「うぇえっ!?マジで痛かったんだけど!?めっちゃ痛かったんだけど!?!?」
樹里愛「ふふふっ、ごめんね、お兄ちゃん♪」
妖舞「…ちっ…しょうがないな…。でも、これでおあいこだかんな!」
樹里愛「分かってる分かってる♪」
妖夢(…妖舞の甘さはエスカルゴ譲り、かな…?何にせよ樹里愛ちゃんが泣いてなくて良かった…早苗に怒られるかと思った…。うぅ、怖い怖い)
霊愛「だ…騙された……」
茜「女は女優ってのはホントだね。私まで完全に騙されちゃった」
霊愛「何それ、そんな言葉あんの?」
茜「外の世界で言われてるみたい。本当の意味は分かんないけど、言葉的に、女は演技上手いとかそういう意味じゃないかな?」
霊愛「成程。今の樹里愛にピッタリの言葉だね。
…ところで、茜は何か考えてきた?」
茜「もっちろん!みんな〜、次は私だよ〜っ!」
霊愛に話を振られた茜は、可愛らしくぴょこんと跳ねて全員の注意を引く。段々と紫さんのように思考が読みにくくなってきた……が、娘の成長は嬉しいので余計なことは考えないようにしよう。
茜「私はぁ、大きくなったら、外の世界に留学に行っきま〜すっ☆」
一同「おぉ〜…!」
カルゴ「有り得そうだな。紫さんの事だからな、見聞を広めに…とか何とか言って送り出しそう。
…これは嘘かな…マジかな…」
巫月「う〜ん……」
霊愛「わっかりにく…。嘘っぽく聞こえるけど、茜って見た目だけで言えば普通に人間だしなぁ…フツーに有り得そうだよね」
穹「姉上も吸血鬼化さえしなければ普通に人間の見た目ですがね。樹里愛も」
霊愛「私達の中で一番人間っぽいのってさ、まず間違いなく茜か樹里愛だよね。でも髪色的に緑はほぼ居ないから金髪の茜かな」
弦月姫「そうですね。異国だと金髪などは普通に居るらしいですし。緑は貴重ですね、色々と」
早苗(言われてみれば…!)
妖舞「俺は俺はー!?」
霊愛「そばに半霊が浮かんでるから、普通の人間には見えないけど。ていうか翼の事忘れてる?」
霊麗「吸血鬼の翼ある人は勿論、穹お姉ちゃんも鴉天狗の翼があるから人間には見えないもんね」
穹「翼、小さく畳んで人間に変装できますよ?」
巫月「裸になったらバレるじゃない?」
穹「まぁそうですけどね」
裸という単語をなんの躊躇いもなく使うあたり、巫月の性格が窺える。まだ13歳なのにエロエロに育ってしまった。悪くは…無いだろうが、やはり多少は気になってしまう。
控えるように指導するべきだろうか。しかしその場合は俺にエロい意味で絡んでくるという反動が恐ろしい。気を付けるように言うだけでも、また少しは違うのだろうか。
ロリス「外の世界か〜…1回でいいから、行ってみたいかもなぁ〜…」
カルゴ「………何で俺を見るんだ?」
ロリス「んーん、何でもない♪」
カルゴ「言っとくが連れていかねーからな。俺の可愛い妹が外の穢れた連中に見られるなんて絶対耐えられねぇ」
ロリス「え〜?ぶーぶーぶー」
フランとラスベガス行った時に色々言われたのも割と辛かったというのに。まぁ、その時は奴らを消し去ったのでスッキリできたワケだが。
穹「外は一度でも良いので行ってみたいですね。母上の言う、海というものを見てみたいです」
巫月「私は…別にいいや」
霊愛「私も」
霊麗「右に同じ〜」
弦月姫「海水浴場なるものの写真を見ましたが、あんな人混みには行きたくありませんね…」
妖舞「幽々子様行くんなら行きてー!」
樹里愛「ちょっと気になるかな〜」
レーテ「うーみ!うみいってみたいー!」
双子「お父様が行くなら!!」
11人の中でも意見はそれなりに分かれるらしい。因みに、今日あの双子が静かなのは、パチュリーとの契約が強く働いているからだ。というのも、ここに来る前にパチュリーとエイプリルフールの話をしている時に、2人が割って入ってきて俺を襲おうとしたのだ。
それにとうとうブチギレたパチュリーは、2人と強制的に契約を交わし、主…つまりパチュリーが許可するまでは決して襲えなくさせたのだ。
つくづく、パチュリーは恐ろしい。
レミィ「今度は外界旅行でも計画する?行き来はエスカルゴの力で♪」
茜「やめておいたら?そう無闇に外に行っていいものでもないし。お母さんに言って、結界を強くしてもらうよ?」
レミィ「ふふっ、冗談よ茜ちゃん」
茜(目が笑ってないから、バレバレだけどね)
そんな話をしている内に、命蓮寺から昼を告げる鐘の音が薄らと聞こえてきた。残念ながら今年のエイプリルフールは終わりだ。
弦月姫「あっ…雑談してる内に午前が終わっ…」
カルゴ「よし、次は俺な!」
弦月姫「お待ち下さいお父様、もう─────」
カルゴ「鈴仙!」
鈴仙「なぁに?…へ?」
彼女の手を取り、魔力は眼に込めず、あくまでも普通に目を合わせて、静かに深呼吸をする。
カルゴ「…鈴仙。俺と結婚してくれ」
巫月にエリスの力が通じなかったのは、ただ単に
“自分よりエスカルゴが選ばれるのは仕方ないと
思っているから”です。反抗する気すら無いなら、
負の感情も増幅されませんよねっていう。