後戸の国とやらに瞬間移動した俺達は、まず先に周囲を見渡す。上下が分かりにくい暗めの空間、至る所にある空中に浮かぶ扉。読んで字の如く…文字通りの「謎空間」だ。さらに、生物の気配は無く、シンと静まっている。
そもそも今の所は地面すら見当たらないのだが。
霊夢「何よ、来れるじゃないの」
カルゴ「いや、今母さんから能力を貰ってさ…」
霊夢「え……わざわざそんな事……ううん、今はそれしかないわね。ありがとね。だけど今はそれどころじゃないわ、霊愛達を探さないと……!」
カルゴ「そうだな…でも気配が全く…」
霊夢「多分この中のどれかの扉の先にいるのよ…でもキリがないわ!」
見渡す限りの扉、扉、扉。手前にも奥にも大量の扉があり、分身を大量に出しても無理だろう、と諦めてしまうほどに多い。それでもやらないよりマシだと思い、分身を作成しようとすると、息を大きく吸った霊夢が、先程よりも大きな声で敵を呼び始めた。
霊夢「隠岐奈ァァァ!!あんたが犯人なのは分かってんのよ!!さっさとツラ出しなさいッ!!」
カルゴ「隠岐奈?それが犯人の名前?」
霊夢「摩多羅隠岐奈。あんたでも、名前くらいは聞いた事あるんじゃない?」
カルゴ「あ…!紫さんから聞いた事ある…けど、それって賢者なんじゃ…?」
霊夢「そ。犯人は賢者よ。…紫と同じくらいか…紫より強いかも。いや、強いわ」
カルゴ「うえぇっ!?」
すると、俺達の前に大きな扉が出現し、ゆっくりそれが開かれる。向こう側からやってきたのは、椅子に腰を下ろした1人の女性だ。
???「おやおや、博麗の巫女じゃないの。急に現れて私を呼びつけるなんて、一体どういう風の吹き回し?」
金髪のロングヘアに謎の形状をした冠を被って、服装はオレンジ色の狩衣に緑のスカートに加え、ロングブーツという組み合わせだ。幻想郷の賢者特有の前掛けには北斗七星などが描かれている。
俺は初めて見たが…あれが幻想郷の賢者の1人、摩多羅隠岐奈らしい。名前でしか知らなかったが確かにヤバそうである。一口に賢者と言っても、紫さんのような妖怪とは違う力を感じる。
それこそ、まさに神のような力だ。
霊夢「どーもこーも無いわ!霊愛と霊麗を攫ったのはあんたでしょ!?黙って2人を返しなさい、今すぐ!今すぐによ!!しらばっくれたって無駄なんだから!あの2人を解放して、後継者としてあの子達を扱き使うつもりでしょう!?」
隠岐奈「へぇ…よくそこに気が付いたね。ええ、私が2人を誘拐した犯人よ」
霊夢「やっぱり!ほら、2人を返しなさい!!」
隠岐奈「まぁ待ちなさいな。犯人に誘拐の動機や方法とかを聞かなくて良いの?私は、これからもあの子達を狙うかもしれないよ?」
霊夢「知ったこっちゃ無いわよ、そんなの!方法なんてあんただったら幾らでもあるでしょーに!御託はいいから早くしなさい!」
隠岐奈「まぁまぁ。とうに洗脳は済んでるんだ、焦らない焦らない」
霊夢「と…とうに…洗脳して………?」
さりげなく…あまりにもさりげなく、ごく自然な流れでとんでもない発言をする隠岐奈。それを、一瞬流し聞いた俺と霊夢だったが、聞いた言葉を脳内で…いや、口に出して反復する。
カルゴ「今あんた…何つった……?とうに洗脳は済んでる……つったのか…?」
隠岐奈「初対面の男にあんた呼ばわりされたくはないが…そうだよ、洗脳ならもう済んでいるよ。攫うと同時に洗脳、当然だ。なまじ子供のクセに力を持っているからね、少し効きにくかったよ。記憶というのは、短くても消すのに苦労するな」
カルゴ「記憶…だと…!?」
霊夢「嘘…嘘よ…あの子達があんたに…?あんたなんかに……洗脳された…?笑えない冗談ね…」
隠岐奈「やれやれ、現実逃避か?なら2人の姿を見せれば信じるかな?いや、信じるしかないな」
隠岐奈の両脇に扉が1つずつ現れる。それが開き向こう側が見えるようになる。それを見た俺達は目の前が真っ暗になった。向こう側には、里乃と舞と同じ服を着て、あの2人と同じように植物を持って虚ろな目の霊愛と霊麗がいたのだ。
霊愛が笹、霊麗が茗荷の葉を持っている。
隠岐奈「お客様だ、2人共」
霊夢「霊愛っ、霊麗っ!!」
姉妹「…お姉さん達、誰?」
霊夢「なっ………!?」
カルゴ「ハハハ、隙ありだぜガバガバ賢者ァ!!
転移『
霊夢と娘達の会話を聞いてなかった俺は、2人を扉の向こう側からこちらに移動させるべくして、強制的に移動させる魔法を掛けたものの…完全に無効化されてしまって、移動させられなかった。
更に隠岐奈は、開いていた扉を閉じてしまった。
隠岐奈「面会時間は終わりだよ。……ガバガバはどちらかな?思い上がりが過ぎる吸血鬼くん?」
カルゴ「クッソォォ……!!」
すぐ扉を閉めたのは、恐らく俺達が連れ戻すのを危惧してのことだろう。扉を消された後は、見た事のある場所でも異世界扱いされているようで、スキマが開けない。
先程母さんから貰った能力なら行けるだろうが、今はそれどころではない。まずは元凶を潰さねば何も始まらない。
2人の様子を見た霊夢は、ガックリと肩を落とし今にも泣きそうな顔になっている。一方で俺は、悲しみよりも先に強い怒りが込み上げてきた。
霊夢「そんな………なんで…どうしてよ、霊愛…
霊麗…。なんで洗脳なんて………嘘って言ってよ
2人共…お願いだから…戻ってきて……」
カルゴ「………」
隠岐奈「…お前は何も言わないのk─────」
カルゴ「ふざっけんなよクソが…!!洗脳だ…?何俺らの娘に手ェ出してんだよテメェ!!潰す…ぶっ潰してやる…!!」
隠岐奈「ハハッ、娘も守れんヤツが顔を赤くして何を言っているのやらな。多少神々からの加護を受けているとて、イキがるなよ?三下妖怪が」
カルゴ「あ゙ぁ゙!?クソが、殺るぞ霊夢!!」
霊夢「………わよ」
カルゴ「ん…?」
霊夢「おかしいわよ…例え私が目を離してても、あの紫が次期博麗の巫女である霊愛を放っておくはずがない…どうして…どうしてよ霊愛…霊麗…何があったっていうのよ……?」
額に手を当てて顔を俯かせる霊夢を見かねたか、少し優しめの声色、口調で隠岐奈は言う。
隠岐奈「紫とて万能ではないのよ、霊夢。私なら万人の目を盗んで娘を奪うなど造作もないこと」
霊夢「いや……私が結界を緩めようとしても何の手応えも無かった…」
そこまで呟くと、何かに気が付いたようにハッと顔を上げ再び先程のように大声で怒鳴り始めた。あまりのショック故か、少し情緒不安定気味だ。
霊夢「…そうか、もしかして紫とグルね!?それなら、『紫が結界を強化した』で説明がつくわ!そうなんでしょ!?」
隠岐奈「いいや、違う。私が結界を強化し、私が娘を攫った。ただそれだけの事だ」
霊夢「は……?博麗大結界は私と紫、たまに藍が管理しているハズよ…。他の誰かが結界に手出しできるなんて……」
隠岐奈「何か勘違いをしているようだから親切に教えてやろう。結界の管理はお前達に
つまり隠岐奈は、「紫の意識が博麗大結界と娘に向いていない隙に結界を強化し、娘を攫った」と言いたいワケである。里乃達が解放されたというこのタイミングで娘達が消えたと知れば、霊夢は即座に犯人を特定して、移動手段の為に紫を呼び出そうと大結界を緩めようとするのは、彼女には読めていた。もし緩くなれば結界の管理者である紫はそれを感知する。
感知されるのを防ぐ為に、結界を強化して霊夢の干渉を防ぎ、紫の目が無かった隙に娘を攫った。全ては霊夢の行動さえ読んだ完璧な計画の上での誘拐だった。
しかし彼女には誤算があった。俺達が即座にこの後戸の国にやってきてしまったことだ。
霊夢「…なるほど、ね…。勘違いは分かったわ。でもそれとこれは話は別よ、早く2人を返して!さもないとブチのめすわよ!!」
隠岐奈「返したところでブチのめすつもりなのは明白なんだがな。返しても返さなくても戦う事になるのなら、戦って、私がお前達を蹴散らすのが良いか」
霊夢「あんたに選択肢は無い!返すだけよ!!」
隠岐奈「戦う前に前もって言っておこう。季節の力も無しに、お前達に勝ちの目はないぞ。『神はサイコロを振らない』という言葉通りだ。出目が分かっている賽を振った所で、何の意味も無い。賽を振る…つまり、私達は戦う必要は無いのよ。お前達が娘を差し出せば、だけど」
霊夢「ふざけんじゃないわよ!そんな事が許せるわけないでしょ!?よくも…よくも私達の娘を!隠岐奈、あんたは絶対に許さない!!弾幕ごっこじゃなくて弾幕格闘で潰してあげるわ!!!」
隠岐奈「え、それはちょっと…」
カルゴ「半殺しにしゃげたるァァ!!」
隠岐奈「フン…ならば示してみよ!私から部下を奪えるほどの力がお前達にあるのかをなっ!!」
カルゴ「上等じゃボケがァ!三下妖怪だと思って舐めてると死ぬかんな!!」
霊夢「やるわよッ!!2人を元に戻す!!」
カルゴ「ああ!」
隠岐奈「せいぜい私を楽しませてみろ…!」
隠岐奈は立ち上がり、濃い弾幕を展開し始める。
それを合図に、俺と霊夢も行動を開始した。
おっきーなの口調が安定してない。まぁ魔理沙も隠岐奈の口調については苦言を呈してたけどさ。そして久しぶりに登場、暴言エスカルゴ。怒りのあまり空回りしなきゃいいけど。