4月某日、真昼の紅魔館上空。本日、元月の賢者こと稀神サグメは、あることを調べる為に、この紅魔館へとやってきた。本当ならば覗きがいいのだろうが、それよりも潜入捜査の方がより核心に近付けるだろうと私は考えた。
門番は起きている。強引な侵入より、客人として入った方が、事を円滑に進められることだろう。
そう思った私は、まるでたった今来たように振る舞い、紅魔館の門番・紅美鈴の前に降り立つ。
美鈴「こんにちはサグメさん!エスカルゴさん、今日は来ていませんよ?」
無論、知っている。彼は、今日の昼は魔界で妹と特訓すると今朝言っていた。夕方には博麗神社に行くだろうから、それまでに色々済ませなければいけない。
サグメ『家主と妹さんに会いたい』
美鈴「分かりました、少々お待ち下さい!」
トンと軽く門を飛び越え玄関へ駆けていく美鈴。果たして、門番がこれでいいのだろうか。せめてインターホンの類をここに付けておけば、門番が門を離れずに済むというのに…。
そしてその数分後、メイド長の十六夜咲夜と共に美鈴が門に戻ってきた。
咲夜「こんにちは、サグメさん。いつぞやの宴会以来ですわね。どうぞお入り下さい、お嬢様方がお待ちです」
前に立ち私を応接室に案内する咲夜。私が今日、紅魔館に来たのは、
咲夜「ところで、今日は何をしに紅魔館へ?」
サグメ『秘密』
咲夜「あら、つれないですこと」
………答えは、彼の好みを調べる為だ。聞く所によれば、彼の方から女に惚れるのは、割と珍しい例なのだそう。私はその珍しい例に入っている。
何せ私達は…両思いだったのだから。
だから満足している……なんて事は微塵も無く、今よりも更に彼の好みに近付きたい。彼の為……というよりかは、自分の為に近いかもしれない。
彼と一緒に居たいのだ。もっともっと…とっても長い時間を、大好きな彼と過ごしていたい。心を委ねると、彼はそれを拒まず受け止めてくれる。だから彼と居ると、心が安らぐ。
その為には好みを知って自分磨きをしなければ。
美鈴も彼女の1人だ。だから先程よく観察した。
胸は私より数回り大きく、背も大きく、チラリと見えている太ももはムチムチとしていた。確かに彼が好みそうな体型ではあるが…そうではない。
悪くは無い。悪くは無いが、何だかなぁ…というところだ。問題で言うなら、この答えだと△だ。
咲夜も同様だ。気品漂う所作に、服の着こなし、完璧な家事等々…良い点を上げればキリがない。それでも△だ。完璧だから○という訳ではない。
紅魔館唯一の○は……家主レミリアの妹である、フランドール・スカーレットだ。ここには彼女に会うために来た。
咲夜「お嬢様、妹様。お客様をお連れしました」
すると中から「通しなさい」と精一杯大人らしい声を出そうとしている家主の声が聞こえてきた。普段通りに話せばいいものを…無理に大人らしく振る舞おうとするので却って可笑しい。
レミィ「へぇ……本当に元月の賢者がお客に…。珍しい事もあるものね。まぁ、座って頂戴」
小さく頭を下げて、テーブルを挟んでレミリアの前に座る。隣では、妹のフランドールがあくびを噛み殺しているのが目に入る。色々と客に対する態度がなっていないとは思うものの、そういった部分は一先ずは置いといて…だ。折角の機会なのだから、姉の事もしっかりと見ておかねば。
レミィ「あなたの能力の事は彼から聞いてるわ、無理に話さなくても結構よ」
レミリアも運命を操れるので、私の能力は恐らく弱体化されるか通用しないと思うが、用心するに越したことはない。それに、彼女が自分や妹等の運命を弄って修正するとは限らないのだ。いや、それ以前に、私の能力の作用で逆転している、と知る事も無く逆転する事もある。彼無しで容易に喋るのは、できるだけ避けなければならない。
サグメ『有難い』
レミィ「…話には聞いてたけど、本当に速筆ね…驚いたわ」
サグメ『全ては慣れ』
レミィ「慣れでここまで速く書けるのかしら…。まるで文字がそれに映ってくるかのよう。…まぁそろそろ本題に入りましょっか。今日は何をしにここへ?」
サグメ『ここの図書館で調べ物をしたくてまずはご挨拶をと』
レミィ「図書館?勿論、構わないわ。パチェさえ許してくれれば、だけどね。……で、本当は?」
サグメ『「本当は?」とは?』
レミィ「挨拶するだけの用でフランまで呼ぶの?いや、構わないのだけど、どこか不自然だなって思ったのよ。気の所為?」
サグメ『気の所為』
レミィ「ふーん。……念の為に言っておくけど、
サグメ『勿論』
私が不老不死を望んでいる…という事を、彼女は見抜いているのだろうか。彼はそういったことを他言するような人ではないし………謎である。
フラン「ねーねー?挨拶の為だけに呼んだの?」
サグメ『機嫌を損ねてしまったなら申し訳ない』
フラン「そんな事は無いけど…。まぁ、いいや。図書館の行き方分からないでしょ?案内する?」
サグメ『是非』
フラン「はーいっ!お姉様、ちょっとだけ図書館行ってくるねっ!」
レミィ「はいはい。小悪魔達と遊ぶのも、程々にしておきなさいね?」
フラン「えへへっ、バレた?」
レミィ「エスカルゴが百合好きで良かったわね。普通ならダメでしょうよ」
フラン「そうね、気を付けるわ♪」
咲夜はそのまま主の元に残り、私はフランと共に図書館へと向かう。まさか向こうから言ってくるとは…。これぞ僥倖というやつだろう。
この機会に、彼女の事をよく観察しておかねば。
フラン「実は私ねー、小悪魔と色んな事をヤッて遊んでるんだ〜♪」
サグメ『卑猥な事?』
フラン「まーね!エスカルゴが好きなのを小悪魔から教えてもらうのは癪だけど…でも、私がそれ覚えたら、エスカルゴが喜んでくれるからね♪」
妹は姉に負けず劣らずの我儘だと聞いていたが…案外そうでも無さそうだ。いや、考えるのはまだ早計だろうか。それでも、そこまで我儘な印象は受けなかった。
フラン「それにね、エスカルゴって女の子同士でエッチな事をするのも好きなんだよ!だからね、バレても大丈夫だし、逆に喜んでくれるの!」
サグメ『バレても良いのに敢えて言わないのは、やはりどこか後ろめたさを感じているから?』
フラン「ん〜……エスカルゴはありのままが好きらしいけど…もっと気持ち良くなってほしいから頑張りたいの。……それに、頑張ってる事とかは言わない方が良いかなって。不言実行よ!」
サグメ『納得した』
まぁ、「私、あなたの為に○○頑張ってるの!」とはあまり言わないだろうし…そう考えるのは、割と普通かもしれない。聞くのは野暮だったか。
フランドールの話に納得した私は、思考を素早く切り替えて観察に移る。
まず彼の好みの1つである異形の翼。枝のようなものから垂れ下がる、7色の宝石…のような翼。私は片翼なので、一応これに当てはまるだろう。
それから幼い体型。これは私には絶対に無理だ。
まず彼は、性的嗜好…俗に言う「フェチ」というものがかなり多いらしく、彼から惚れた女性は、彼の複数のフェチにドンピシャだと考えられる。
フランドールはそれにかなり当てはまっている。
私も以前何度か会った、あの幻月という悪魔も、彼のフェチにかなり当てはまっているのだそう。私からしてみればとても…とても羨ましい話だ。
私は彼女達のようになりたい。もっと彼に好かれ今より仲を深めて、1分1秒でも彼と共に過ごす時間を伸ばしたい。その為にはもっと彼の好みになれるように努力しなければならないと考える。
なので、幼い体型にはなれずとも、他のフェチに当てはまるように頑張りたい。
そしてサイドテール。これは、私には……何とか出来なくもないが…少し難しそうだ。
フラン「?どしたの、私の顔見て」
サグメ『とても元気で、可愛らしいなと』
フラン「うふふっ、ありがとっ♪」
彼の一番のフェチは…確か、頬だった気がする。成程、フランドールの頬はとても柔らかそうだ。だが頬の柔らかさは私も自信が無い訳では無い。私だって柔らかい。………そういえば、鈴仙ほど触ってもらっていないような気がするが…これは一体…?私の頬はあまり触り心地が良くない…?いや、そんなまさか。
だが、私はどこを触られていただろう。……足?
頬よりも、太ももをよく触られているような…。
ダメだ、フェチが多すぎて把握しきれない。
フラン「このおっきな扉が図書館のよ!パチェの所まで一緒に行ってあげる!」
サグメ『ありがとう』
いつの間にか図書館に着いた私達は、扉を開けて本の香りが濃く漂う図書館に入る。
それからフランドールの案内によりパチュリーに挨拶をし、図書館の利用許可を得た。小悪魔との百合プレイとやらに入る前には、フランドールに頼んで小悪魔とも少しだけ話をさせてもらった。
胸のサイズは勿論のこと、ウエストも丁度良い。お尻の丸みも素晴らしい。…どれも私には無い。それと、小悪魔から彼の好きなプレイを聞いた。なんと、髪で巻いてシゴくというものだ。
髪コキというらしいのだが…このプレイは、髪がそれなりに長くなければできない。今の私では、到底不可能なプレイだ。尻尾コキというのもあるらしいが、これは論外である。私に尻尾は無い。
サグメ『お世話になりました』
レミィ「もう行くの?お昼食べて行けばいいのに
…残念だわ。また何かあったら来てね、次からは門番に言ったら通っていいって話を咲夜に通しておくわ。安心して入ってきて」
サグメ『その時はよろしく。では』
レミィ「ええ、またね」
家主直々に見送られながら、門前から飛び立つ。
館から出たので、調査結果を軽く纏めてみよう。
紅魔館には彼の好みに合う者が多い。しかしその中でもフランドールはストライクもストライク、超ドストライクだ。私が彼女のどこかを見習える部分があるとすれば…サイドテールだろうか。
彼にとって胸のサイズはどうでもいいらしいのでそこは選考対象から除外して考えることにする。
大人っぽいか子供っぽいかで言えば、後者の方がより好かれやすい傾向にあるようだ。
フランドールもそう、幻月もそうだ。だが私は…子供っぽくは無いはず。好かれ「やすい」というだけなので、深い意味は無いのだろうが…。
それから、無邪気な部分も見習うべきだろうか。
私は…彼の前でだけという事になりそうである。
サグメ「ふふ…素晴らしい…!うふふふふっ…」
良い。素晴らしい調査結果だと、自分を褒める。今回は彼女達全員ではなくて、彼から惚れた者を主に調べるつもりなので、次は幻月…と思うが、別世界の住人なのでそう簡単にはいかない。
ならば彼が特にゾッコンなのは……霊夢、鈴仙に加えて、諏訪子という山にいる祟り神…か。
霊夢は止めておこう。近付けば色々大変そうだ。鈴仙のことは身近でよく見ているから、今更だ。ウサ耳とロングヘアという結論に至ったが、耳はどうにもならないし、髪は今すぐには伸びない。
地底とやらにも試しに行きたいが、その行き方がわからない以上は、宴会を待つしか無いだろう。それらを考慮した上で、次の目的地は妖怪の山にある守矢神社に決定した。