※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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全ては神の思惑(シナリオ)通りに…

「は……ははっ…。やった…2人を倒したぞ…!俺の…いや、俺達の勝ちだぁ!ハハハハハッ!」

 

2人を倒したとあり、自然と笑みが零れてくる。何しろ絶対勝てないと思っていたあの建御雷にも勝利できたのだ。これ以上の喜びはあまり無い。

 

「ふぅ〜……案外呆気なかった…ね?」

 

「そだな…仮に勝てたとしても、もっとかかると思ってたんだけど──────…」

 

不意に耳につき刺さる、何かを突き刺したような重たい音。音を聞いた刹那、視界が歪み、堪らず俺は屋根に膝をつく。俺の左の胸からは建御雷の得物、布都御魂剣が半分程突き出ている。そして遅れてやってくる激痛に加えて、口腔から溢れる赤黒い血液。何が起こったか完全に理解するまで少なくとも2秒は要した。そう、背後から心臓を串刺しにされたのだ。

 

「…カハッ………ごぼォッ……ぁ…ぐぅ………」

 

「エスカルゴ!?」

 

俺を串刺しにした剣は酷く帯電している。俺でも吸収するのが難しいほどの電力だ。なので彼女が寄ってくるのを手で制止して、再生に専念する。そんな俺を嘲笑うかのように俺の背を蹴飛ばし、その反動で剣を勢い良く引き抜いた。

 

「ガフッッ…」

 

剣の刺し傷程度なら、例え穴が空いた心臓でも、俺の再生力が上回る。傷と焦げた心臓を十数秒で完治させた俺は、傷が塞がった胸を押さえながら振り向き、真正面から奴を見据える。血流がまだ少し不安定だ。やはり心臓は大事な器官である。

 

「はぁ……はぁ……お前、どーして…?さっきのアイツは……」

 

「クククッ…全く、お前ほど読みやすい奴は中々おらんぞ、器よ…。やはり、お前は甘い。肝心な所で、いつも詰めが甘いのだよ。お前が先程まで相手していた我は偽物…お前の言葉を借りるなら分身だ…。クカカッ…そうとも知らずお前は……クックックッ…空から見ていて滑稽だったぞ?」

 

「─────ッ!!」

 

「あの程度で倒せると思うとは…フン、片腹痛いとはこの事だな。貴様、この我を相手にして力の出し惜しみでもしているのか?」

 

「ッ………」

 

否定出来ない。何故なら、本気だったなら極太のレーザーを放つなり、爆発を起こすなり…もっと激しい攻撃手段が、他にもあったはずだからだ。そこを高密度な弾幕だけで済ませたのだ、あれで本気だったとは口が裂けても言えない。

 

「欲を見せろ。我が見込んだ器はそんな弱々しい男ではなかったはずだが?」

 

「………」

 

「欲に身を任せるのは、決して悪い事ではない。

…さぁ、我に見せてみよ。お前が内に秘めている力への執着、勝利への渇望をッ…!それら全てを解放し、我を打ち負かしてみよ!!」

 

剣を構え直して、改めて向き合う。今度は諏訪子でも武器で戦える戦い…かもしれない。作戦は、一応ある。綺麗なコンビネーションで追い込んでいくしかないだろう。俺と建御雷の一騎打ちでは到底勝てるわけがないのだから。

 

「…言っておくが、我の電撃はもう器とて吸収は不可能だ。その意味は分かるな?」

 

その問いに、黙って頷いて答える。奴が本気かは兎も角、少なくとも電気の威力だけは俺が操れる限界よりも上なのはもはや間違いない。

そうでなければ、俺が吸収できないはずがない。自然の雷ですら子供の肩叩き程度にしか感じない俺が、電気を吸収出来ないほど苦しむ訳が無い。

 

「決戦だ!今こそ神の眷属としての力を発揮し、神と対等に渡り合ってみせよ!神話『神代最凶の暴れん坊』ッッ!!!」

 

「ッ…!チッ…加減ってもんがわかんねーのか、アイツは…マジで不可能弾幕じゃねーか…!?」

 

チラリと諏訪子を見やると、結界を張って何とか耐えているのが見えた。俺の結界より絶対に強いので、諏訪子の方はとりあえず大丈夫だろう。

大丈夫だと信じて、俺は弾幕の回避に専念する。

初見ではあるものの、相殺しながらならば何とか避けられなくもない。帯電する高密度な大玉で、言ってしまえばそれだけだが、実際に目にするとそうも言ってられない。大玉、そして高密度故に避けるための隙間が極めて狭い。

 

「くっっ…腕が焦げた……ッ!」

 

痺れるを通り越して皮膚が焦げてしまった。そのあまりの高電圧に、改めて心の底から戦慄する。試しに、背中に装備した黒翼を伸ばして電力弾を貫こうとするが、触れた部分は全て分解されて、ただの砂鉄に戻ってしまった。

こればかりは、かなりキツイかもしれない。もう普通の手段ではまともにやり合う事すら困難だ。

 

「諏訪子ォォッ!!ここは俺に任せて、諏訪子は早苗達を守ってくれぇぇぇっ!!」

 

再生中の腕を盾にして弾幕を防ぎながら、彼女にそう指示を出す。意図を汲んだらしい諏訪子は、未だ倒れたままの神奈子様を引き摺り下ろして、早苗達と同じ場所へ何とか移動させる。

 

《とりあえず、皆は敷地の外に行かせるよ!》

 

《サンキュー。早くキメねぇとな…!》

 

「ハハハハハハッ!!愚かな!1人では太刀打ち出来ないだろうから2人でやらせたというのに!助っ人を自ら手放すか!」

 

「……神の聖なる力と対になる力は、いつだって魔の…邪な力さ」

 

「…?」

 

「魔の力で…建御雷!お前を倒してみせるッ!!そんでその得物も、この俺が貰い受けるぜ!神の力は…今は使わねぇ!」

 

「面白い…!その気概が本物か、見せてもらおうじゃないかッ!!」

 

諏訪子が戻ってくるまでの辛抱だ。早苗達を避難させ終わったら諏訪子が戻ってくる手筈なので、それまで耐え、彼女が戻ってきたら本気も本気の攻撃をぶちかます。

ただ、その際に神社が壊れる可能性が高いので、前以て避難してもらったのだ。しかし今思えば、頭の中で早苗に直接いえば良かったのだろうが…神奈子様を運ぶという意味もあった事を考えるとやはり諏訪子に行ってもらって正解だった筈だ。早苗をここに呼ぶ訳にはいかない。

 

「月符『ディフクチオ・ルーナエ』!!」

 

このスペルはまず2つの巨大な弾幕が放たれる。1つは妖しく光り輝き、もう1つは漆黒の弾幕。この2つが重なる…否、ぶつかり溶け合った時、月属性のこの魔力弾は、全方位に炸裂する。このスペル名は、ラテン語にて月蝕を意味する言葉をそのまま利用している。

月を蝕むというその文字の通り、闇の弾幕は光を徐々に蝕んでいき、光を完全に消し去った瞬間、超新星爆発の如き爆発を起こし弾幕が飛び出す。

 

「ハハッ…なるほどな。光を消す……つまり我を倒すという宣戦布告かッ!!」

 

掻い潜って回避したり、剣で弾いて、捌きながら接近してくる。剣の間合いに入ったら鋭い一撃を放つつもりなのは明確だ。自分の近くで第2波や第3波が爆ぜようと、お構い無しに突撃してくる様は、やはり攻撃的だ。

 

「そう受け取ってもらっても構わないぜ、今回は俺が勝ってみせる…!」

 

「クククッ…面白い、面白いぞ…!ゾクゾクするこの感覚は、神奈子では到底味わえん……!!」

 

俺と建御雷の間だけではなく、彼の後ろや上など様々な方向で爆発を起こす。しかし彼は、それら全てが見えているかのように回避していく。

体が小さいと弾を避けるのが飛躍的に楽になる。

自分が体験したことそのままだが、敵として対峙して、改めてその脅威を思い知らされた。

こうなったら奴を追い込む方法は1つしかない。

 

《…良いけど、あとで修復してくれるんだよね?修復魔法、この前ちゃんと覚えたんだもんね?》

 

《勿論。けど早く戻ってきてくれないか…?これかなり辛い…アイツの弾幕強すぎるよマジで…。不可能弾幕じゃねーかなってくらいに…》

 

《後ろから奇襲仕掛けるから、そっちはそっちでやっちゃって良いよ!成功しても失敗してもすぐそっち戻るからさ!樹里愛達の避難は完了してるから、そこの心配は要らないよ!それから、私の心配も無用だよ、自分の心配だけしてて!》

 

《了解!》

 

早苗達には買い物と称して里に行かせた。なので今からこの神社で何が起ころうとも(・・・・・・・・)、早苗が頭を覗かない限り知る由もないという訳だ。

 

「…破壊して破壊して、破壊し尽くしてやる…!そんでもって追い込んでやるから、覚悟しろッ!創符『スターダストフォール』!!!」

 

「おい、待て…それは……っ」

 

上空に創造された、多数の巨大な隕石。それを、守矢神社の敷地内に降らせ、振動と爆風、物理的破壊による攻撃が建御雷を襲う。屋根には大穴が空き、ところどころガラガラと崩れ、もうもうと土煙が舞い上がる。

 

「まさか、神社諸共とはなァ…クククッ、これは予想していなかったぞ…っ!流石だ器……少しは見直したかもしれん……ぐあぁぁっ…!!」

 

隕石が幾つか傍に落下し、破片を全身に喰らう。そこかしこから血を流し、あの長剣を持つ手も、若干震えている。

本当なら弾幕でダメージを与えたかった。しかし建御雷への勝利のためなら、もうなりふり構っていられないのだ。少しでも手を抜けば、こちらの首が飛ぶ。

 

「ククッ……フハハハハ!!良いぞ、その勢いで掛かってこい器ァ!我はまだ倒れんぞッッ!!」

 

「『諏訪大戦 ~ 土着神話 vs 中央神話』!!」

 

「ぬぅっ…!?諏訪子お前、いつの間に…っ…」

 

背後…いや、両側からの高密度な弾幕による奇襲攻撃。これによって、一瞬だけ狼狽する建御雷。この瞬間を待っていた。絶え間のなかった弾幕が止み、本人の動きも止まり、尚且つ視線が俺から外れるこの瞬間を。

 

「『影縫い』!」

 

「ッ!?かっ、身体が…!?」

 

影分身を建御雷の影に仕込み、影縫いを施した。これでもう、雲が出て奴の影が広がらない限り、術が解けることは無い。影を地面に縫い付ける技である影縫いは、余程のイレギュラーが無ければ大抵の相手には通用するドチート技だ。

これはあくまで俺の予想でしかない事なのだが、きっと紫さんには決して通用しないと思う。影とそうでない部分には、やはり境界がある。彼女の能力は境界を操れる。なのでこれは無効化されるだろう、と考えている。

 

「なるほど…こんな呪術紛いな術まで心得ているとは、流石だ…。広く浅く…時には深く…様々な技術を会得しているお前らしい…ッ!ぐぁあっ…チッ、手すらも動かせぬ…とは、な…!!」

 

弾幕を放ちながら、ぴょこんと跳ねて漸くそばに戻ってきた諏訪子。1人で戦った時間はそこまで長くなかったはずだが、とても長く感じた。

そして、これで漸く、盾にしていた左腕の再生に専念できる。肉が焼け爛れていい匂いを放って…いや、焦げた匂いがするほどの火傷が、みるみるうちに治っていく。

 

「凄い火傷だねぇ…。けどやっぱ、エスカルゴの思い付きは凄いねぇ。建御雷を捕らえるなんて、神社を犠牲にした甲斐があったってもんだね」

 

「終わったらすぐに直すよ…。ごめん、これしか方法が思いつかなくて…」

 

「良いって良いって!建御雷と知り合ってからのウン十万年…1回もアイツに勝ったことなくて、ず〜っとモヤモヤしてたからね〜!」

 

「………」

 

笑っていいのか、笑ってはいけないのか…。その線引きがよく分からないので、とりあえず真顔で建御雷を見返す。身体を動かせないので降り注ぐ弾幕に身を打たれ、全身にそれなりのダメージを受けているようだ。

 

「まさか動きを封じるとは…、予想外だった…。だがなァ…影がカギならば影を広げるまでよッ!ハァァァァァ…ッ!!」

 

雷雲を発生させ、自分自身の影を覆い尽くさんと悪足掻きを始める建御雷。だが俺だって悪足掻きなら得意だ。追い討ちをかけんと、あるスペルをダメ押しとばかりに発動させる。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!雷雲なんざ一瞬で消し飛ぶぜ!融解『地上の人工太陽』ッ!!!」

 

「っ………なん…だと……?」

 

神が生み出した雲で、尚且つ自然の雲よりも強いとは言っても、原理自体は自然のものと同一だ。この雷雲も所詮は水滴や氷の粒の集まりなので、巨大な火球の前ではあまり意味をなさなかった。雲は水蒸気と化して、空へと立ち上っていった。

 

「ッ………仕方、ないな…。今回の所は…一先ず負けておいてやる…。あぁ、我の無敗記録が…」

 

溜め息をつく建御雷に向かって、俺と諏訪子は、最後のスペルを発動させた。このスペルは、俺と守矢神社組の誰かとの複合スペルの中で最も密度が濃く、自他共に認める回避のしづらさで、且つ弾速も最高だ。

 

「「『ケロちゃん雷雨に負けず』!!」」

 

「…これがオーバーキルというやつか。成程な、神奈子の言っていた事が漸く理解できたぞ……」

 

彼女の「土着神『ケロちゃん風雨に負けず』」と

「雷神『荒れ狂う霹靂神』」の複合スペルだ。

範囲の広い彼女の弾幕に加え、速度がある雷弾、そして雷弾は効かないと分かっているので、今は紅い妖力弾のオマケ付きだ。この高密度さは他の誰にも浴びせられないだろう。

vs建御雷戦ならではの戦法だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、早苗達が帰ってくる前にちゃんと神社も再建できたね!境内もピカピカ!偉いぞ♪」

 

「へへっ…」

 

「そんなの当たり前だ。そうやって、今更改めて褒める事でもない」

 

建御雷の傷も癒して神社も再建した俺は、彼女に頭を撫でてもらって、褒めてもらう。こうやって褒めてもらったのは、久方ぶりのことであった。

 

「うっさいなぁ!褒めたいから褒めるのっ!ただそれだけだよ!」

 

「やれやれ、重度の共依存だな」

 

「え…エスカルゴ、私に依存してる?ホント?」

 

「ま…まぁね…ナハハハ…」

 

「そっかぁ、嬉しいなぁ♪」

 

「嗚呼、何故こうも我の前でイチャつくのだ…?構わんが鬱陶しいぞ」

 

神社の中からは「全くだ」という神奈子様の声が聞こえてきた。やはり何だかんだ仲良しらしい。雰囲気で、何となくそう感じられる。

 

「ほら、建御雷!忘れないうちに、布都御魂剣をエスカルゴに譲渡するんだよ!」

 

「ええいうるさい、言われんでも分かっている!

ったく、器の保護者か諏訪子は!器の保護者なら神綺だけで十分だ…」

 

吐き捨てるようにそう言った彼は手元にスキマを開き、神々しい気配を帯びた霊剣、布都御魂剣を取り出した。気配含め、感じられるものは先程と同じである。模造品のようには見えない。

…尤も、ここで模造品を出したら信用問題に深く関わることになるのだが。

 

「器……いや、エスカルゴよ。諏訪子と協力したとはいえ、よくぞ我を倒したな。先の約束通り、この剣はくれてやる。嘘偽り無い本物だ。さぁ、受け取るがいい。剣も…お前を認めておる」

 

「有難く…頂戴致します」

 

地に膝をついて、縁側に座る建御雷から剣を受け取る。ズシリと重く、よくこれを振り回せたなと改めて感心した。

 

「里には鍛冶屋がおるのだろう?そいつに、鞘を頼め。神の剣の力を使いこなせぬうちは、溢れるその力に呑まれるやもしれんぞ。お前の剣の鞘のように、纏う力を抑えられる鞘を作ってもらえ」

 

「小傘の事か?それなら…直ぐに頼んでくるよ。あと、早苗と樹里愛の迎えにも行ってくるわ」

 

翼を広げた俺は綺麗になった境内から飛び立つ。目的地は小傘の工房だ。そして俺がいなくなった守矢神社では、二柱による雑談が為されていた。

 

「…エスカルゴ、自分が一体何を手に入れたか…分かってるのかねぇ…」

 

「我が…何を失くしたかを知るには、ズイブンと時間が必要だった。アイツが…何を手に入れたか知るのも…ずっと後の事だろーよ…。クククッ…その時が来るのが今から待ち遠しい…」

 

「案外早いかもしれないよ?」

 

「フンッ…。肝心な所で間抜けな器の事だ、そう上手くいかないさ。そして器は……自らの望まぬ道を歩むことになるだろう。周囲の者や環境が、奴にそうさせるさ…。我(が)が強い奴とて、逆らえぬものは必ずあるからな」

 

「建御雷がそうだったように…ってことだね♪」

 

「………さぁ、どうだかな」

 

「それにしても、建御雷がエスカルゴのこと気に入ってくれて良かったな〜。もしダメだったら、私の計画も進まなかったしぃ?」

 

「フン。我が奴を気に入るのを分かった上で我を呼んだクセに、今更その口で何を言う。策士め」

 

「んー?何の事かなぁ?」

 

「…はぁ。かなり手加減したとはいえ負けるのはストレスが溜まる。ストレス発散に、少し異界で暴れてくる。また何か新しい計画を思い付いたら呼んでくれ」

 

「はいはーい」

 

そんな会話をこっそりと聞いていた神奈子様は、何の事かは把握出来ずとも、どこか後暗い何かを感じ取っていた………。




神剣は霊剣とも呼ばれるので本作でも神剣=霊剣という事にします。
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