先日のラジオ……にとりんレイディオの放送は、かなり情報過多だった。新コーナーの開設というイベントも重なったからなのは明確だが、かなり濃い放送だった。
それから、俺に当てられたであろうメッセージが
数件あった。その中の1つの、「無意識ガール」
からのメッセージ。あれはもう間違い無くこいし
からの便りだろう。そして、「好きにしていい」
という言葉。…これにはもう、ノるしかない。
これは俺とこいしの間で繰り広げられるゲーム。探知不能な状態にある彼女を俺が見つけられるかどうかのゲームだ。
鈴仙や巫月には頼らない。俺が1人で向かうのが望ましいスタイルだろう。……とはいえ、見えも聞こえもしない存在をどのように発見すればいいのかなんて、波長の見えない俺には分からない。無論、母さんに頼んで、波長を見えるようにしてもらうなんていう方法も使わない。
彼女を見つけるには、彼女の事をより知らねば。
……という訳で、あの放送の翌朝、俺はこいしを見つける為のヒントを得るために、こいしの姉で俺の彼女でもある、古明地さとりに会いに来た。
姉なら、何かしらのヒントを教えてくれる…かもしれないと踏んだのだ。
「おはよう、さとり。朝から悪いな」
「いえ。あの放送を聞いた時点で、あなたが来ることは既に読めていましたよ。あなただったら、きっとそうするだろう…と。用件も何もかも♡」
「なら、話は早いな。こいしを見つけるヒントを教えてくれないか?」
「勿論構わないですよ。ですがこいしを見つけて一体何を………あぁ、やっぱりそうでしたか…。ええ、あなたらしいので、深く納得いきました。まぁ、気が済むまで触りまくって下さい」
「勿論そのつもりさ。…で、どうすれば見えないこいしを捕まえられるんだ?」
「見えない訳じゃないですよ」
「え?」
「見えているのに『ここに居る』と認知出来ないだけです。何かを意識してると見えないんです」
彼女の言っている意味があまり理解出来ずに首を捻っていると、少し言葉を変えて丁寧に説明してくれる。
「…鈴仙さんや巫月さんは、波長が見えるからとあの子を認知出来るそうですね。あなたに波長は見えずとも、合わせることさえ出来れば見えると思います。つまり、無意識になればいいんです」
「無意識になる…か。なんか難しいな…」
「そうでもありません。あなたは普段、神社ではボーッと過ごしているのでしょう?その時、色々考えますか?」
「うーん……特に何も考えないな。たまに霊夢や娘のこと考える程度で…」
「その時のようにボーッとすればいいんですよ。そうすれば、自然とあの子が目に入るはずです。あの子、きっと今あなたのすぐ近くにいますよ。あなたに見つけてもらうためにね」
「マジか。それなら出来る…かも?」
「ただし、目に入った途端にこいしを意識して、
『見つけた!』と思った時点で再び見えなくなるでしょうね。何かを考えたら、その時点で無意識ではなくなりますから」
「…ハードル上がったな…。てか、ここは地霊殿前で人通りとかは少ないけど、ここより少しでも人通り多い所に行ったら意識せざるを得ないよ。声とかかなり聞こえてくるしさ…」
「全ての声を、『声』として聞くのではなくて、
『自然に発せられる音』として、ごく自然に受け入れるのですよ」
「自然に…発せられる?」
「水の音、風の音、木々の揺れる音、布が擦れる音、小鳥のさえずり……。一例にすぎませんが、これらの自然に発せられる音なんてあなたが特に
『音』と意識せずとも自然とその耳に入ってくるものでしょう?」
「そうだね」
「意識しなければ良いのです。そうすれば必ず、あの子の存在に気付けますよ。その後はあの子も素直に姿を見せてくれるでしょう。これまでも、結構そうだったでしょう?」
「そう……だったかな…?」
「ほら……あなたがこいしの存在に気付く時は、どのようなパターンがほとんどでしたか?」
「んーと……俺の頭に乗ってるこいしを、お空が見付けてた…ような気がする?…………そっか」
「そう。お空が誰よりも先に見つけていた。ま、あまり意識して行動していませんからね、お空。核の力を使う時にこれだと危ない。しかし普段がこうであると、このように思わぬ場面で役に立つこともあるのです。怪我の功名…偶然の産物とも言えるでしょうが、これもあの子を見つける為のヒントになるでしょう」
「なるほどな。声を音として自然体で受け入れ、特に何も考えず何も意識せず行動すれば…自然とこいしを認知出来るってわけか。あとは意識せずどうやってこいしと接触するかだけど…。まぁ、俺に見付かったこいしが素直に降参してくれればそれで良いんだけどな…そう上手くいくかな?」
「大丈夫ですよ。そういう所は素直ですから」
「…だな。ちょっくら探してみる。ありがとな」
「いえ。…それと、お空の…」
「稽古、だろ?分かってるよ、大丈夫だぜ」
「ありがとうございます。……とはいえ、今日はこいしを探しますし、明日はお友達のお買い物に付き合うんでしょうから…明後日あたりにお願いできますか?」
「俺としてもその方が助かるよ、サンキューな。じゃ、行ってくる」
「ええ、くれぐれもお気を付けて」
「…?うん」
◆
「…つっても、どこから探せば良いんだかな…。マジで近くに居る?妖気すら探れないんだが…。無意識ガール、恐るべし……」
さとりと別れて地底の街に繰り出した俺は、声を音と捉えるという難しそうな事はすぐクリアし、1人でブラブラと散歩していた。否、散歩してるように見せながら、こいしを探していた。だが、声を音とは捉えられても、依然として彼女の姿は見えるようにならない。
そう簡単に無意識になれるか。
「ちぇっ、ボーッとする方がずっと難しいぜ…。大将、麦茶一杯ちょーだーい」
「はいよー、空いてる席に座ってくんなー」
「うーい」
朝っぱらから地底の酒屋に入り、大酒豪の鬼達に交じって茶を飲み渇いた喉を潤す。地底は地上に比べて暑い。こまめに水分補給しなければ身体がもたない。それにしても、朝から酒を飲んでいるこの鬼達は大丈夫なのだろうか。俺が言えたことではないが、仕事などはしていないのだろうか。
因みに、俺が地霊殿に通っていることは地底ではかなり有名なので、妖怪の中でも格が高い鬼でも誰も俺に絡もうとはしない。それほど、「古明地さとりの友人」もしくは「古明地さとりの彼氏」というのは敬遠されるものらしい。幻想入りした頃はよく分からなかったが、最近分かってきた。
例え鬼でも、
「おーっ!何だ何だ、朝から珍しい顔が居るな!おいエスカルゴ、私と一戦交えないかい!?」
……………勇儀を除いて。