あまりにも予想通りの彼女の申し出に、俺は内心大きな溜め息をついた。別に分かっていたのだ、勇儀なら俺と会った時は何と言うかくらい。だが朝なら酒屋になんて来ないだろうと思っていた。
…その予想は、ものの見事に外れてしまった。
まさか来るとは思わなかった。何故朝から酒屋に来るのだ、この大酒豪の鬼は。
「いや〜、朝の酒屋からお前の気配がするから、変だなーとは思ってたんだよなぁ!でもまさか、本当に来ているとはなぁ!ハッハッハッ!酒屋でお茶を飲むとは、どこまでもお前らしいなっ!」
いや俺のせいかよ。
「その…悪い、今ちょっと用事があってさ……」
「なぁに、どうせ今日もすぐ私を負かすんだろ?お前の事だ、何があってもそうするはずさ!」
「勇儀相手に『すぐ』なんて無理だろ…。だってこれまでも、めっちゃ時間かかってるじゃんか。だから今日はダメ、お茶飲んだら俺は行くから」
「何だよ、つれないなぁ…」
「っ……」
暗い顔を覗かせる勇儀を見て、少し心が痛んだ。そりゃそうだ、普段から良くしてもらってる上にそれなりに関係も良好なのだ。勇儀のこの誘いを簡単に言えば、「一緒に遊ぼう」になる。それを断られたら……普段から明るく元気な彼女でも、あんな顔になってしまうだろう。俺もそうなる。
「…分かったよ。少しだけ、戦おーぜ」
「よっし!そーやってすぐ折れてくれるあたり、やっぱりお前は優しいな!」
「ヘッ……。俺が優しいなんて、ンな事ねーさ」
「…?甘い、になるのかな?まぁそんな事より、早く飲んで外に行こう!用事があるんだろう?」
「…うん。そだね」
◆
「は〜っ、今日も楽しかったよ、ありがとう!」
今日の戦績も、一応は俺の勝利。しかも今日は、たったの4回しか骨折していない。これは大きな進歩だと言える。毎回、死亡+5回以上の骨折をしていたのだから、4回というのはとんでもない少なさだ。多少、余計な時間はかかってしまったかもしれないが、世辞抜きで良い戦いができた。それに今日は1回も死んでない。これが成長か。1人で成長を実感しながら、破れた服やズボンは修復魔法で直し、勇儀に軽く笑いかける。
「こっちこそありがとうな、俺も楽しかったよ」
「そりゃあ良かった!…ところで、用事ってのは一体何なんだ?今更だが」
「こいしを見つけるのさ。俺1人でね」
「へぇ…!だがあいつを見つけるなんて容易じゃないぞ。ま、エスカルゴなら余裕か!頑張れ!」
「余裕…ではないけどね。今日中に見つけられるように頑張るよ。んじゃ、またね」
「ああ、またな!」
クレーターだらけの空き地から出た俺はもう一度地底の街中に戻る。ポケットに手を入れながら、ゆっくりと周囲を見回して、ただただ街を歩く。このようにリラックスしていれば、いつのまにか意識なんてものは無くなっていって─────…
「あッ……!」
目の前を、あのリボン付きの帽子がチラついた。
……ような気がした。きっと、気のせいだろう。
こんな楽に見つかるなら苦労はしない。こいしを見つけたいばかりに、幻覚でも見たのだろう。
「ちぇッ…なんでい、今のは夢か幻か?夢…幻…夢幻姉妹……フヒヒッ…フフッ…幻月にゃ〜ん♡
………っと、危ねぇ…。変な笑いが漏れるところだったぜ…誰にも聞かれてねぇよな…?」
「フツーに笑い漏れてたよ、お兄ちゃん♡」
「マジでぇ!?……あれ?」
耳元で声が聞こえたような気がしたが、そばには誰も居なかった。あまりにも鮮明に聞こえたので気のせいなのか現実なのか全く判断がつかない。だがこいしではないだろう。何故なら今の俺は、無意識ではなかったからだ。……まさか、こいしからのサービスとして捕まえるチャンスをくれた
…なんて事は無いだろうか。恐らく無いだろう。
それにしても、中々見つからない。姿や形が認識できないだけで、物質的に普通に存在はしているならば、無意識になる以外にも方法はありそうなものだが……。当然、俺の低スペックな脳味噌でそんなミラクルアイディアが浮かぶはずもなく。
今の俺は、彼女を見つける方法を考えながら街を彷徨う、おかしな吸血鬼になってしまっている。
方法が浮かばないなら、無意識になるしかない。
「はぁ…難易度たっけぇなオイ…。霊夢の暴走を抑える方が、ずっと簡単に思えてきたんだが…?
…禍霊夢のヤンデレ、フツーに嫌いじゃねぇな…寧ろフェイバリッ…って、何考えてんだよ俺…。あーもー、マジでこいしどこだよ〜…?少しでもいいから出てきてくれー、頼むからさー!」
「これがラストチャンスだよぉ?」
「────ッ!!ここだッ!!」
一瞬だが、真後ろに気配を感じ、声がはっきりと聞こえたので、身体中の力を振り絞って勢い良く振り返って、強く抱き締めるように腕を動かす。
…が、俺の腕は虚しくも空を切っただけだった。もう、気配も感じないし声も聞こえない。完全にミスってしまった。失敗を気負っているからか、心做しか身体が重い。
「だーっ、クソッ!!難易度高ぇぇぇぇッ!!!無理ゲーだろこんなん!なーこいし!今どこ!?まだそばに居るか!?こ↑こ↓に居るのか!?」
ガシャガシャと頭を掻き毟り1人でそう喚くが、当然ながら、答えなんて返ってくるはずもない。だが、こう喚いたおかげで、解決策が浮かんだ。無意識にならなくていいし、こいしからのヒントすらも要らない。要るのは吸血鬼の肉体、そして技術。たったのこれだけだ。
認識できないだけで存在はしているのなら、この方法が使える。
「ッッッ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
彼女の姿や彼女から発せられる気配、音、その他諸々が認識出来なくても、超音波という俺自らが放ったものなら聞こえる。相変わらず、バカだがヒラメキはある。ここは素直に自分を褒めよう。おかげでこいしの位置を特定出来た。
「見つけたよ、こいし」
頭の上に手をやると、ぷにぷにと柔らかい彼女の足に手が触れた。
◆
「それにしてもお兄ちゃん、よく私の居る場所が分かったね〜。普通頭の上に居るなんて考えないと思うけど。だから、あーもうダメだなーって、観念しちゃった♪」
「まーな。つまり、俺は普通じゃないんだよん」
反響定位で見つけた事は敢えて伏せておく。この特技は、吸血鬼の奥の手として隠しておいた方が良いだろう。有事の際に役立つかもしれない。
「あはははっ、お兄ちゃんが普通じゃないとか、そんなの今に始まった事じゃないでしょ〜♪」
「んなっ…!?」
こいしを発見した俺は、彼女に少し遅めの朝食を奢っている。見つかった彼女が、ご飯食べたいとオネダリしてきたのだ。だから俺は、まだ彼女にヤリたいことをシテいないし、言っていない。
「はいお待ち、雑穀定食普通盛りッ!」
「わぁ〜、きたきた〜!」
地底に住む妖怪は基本的に気性が荒く、全体的にガサツで大雑把なので、そういった地域性も関係しているのか、普通盛りでも人里で言うところの大盛りに見えるほど多い。魔界や人里とは本当にエラい違いである。
「…そんなに食べれるのか?」
「んー…食べれるよ!お腹ペコペコだったしね!見つけてくれなかったら私、餓死してたもん♪」
「良い笑顔で何言ってんだか…」
昼にしては早すぎる、朝にしては遅すぎる。実に微妙な時間帯だ。俺の腹時計は、10時のおやつを欲している。だが今日はきっと要らないだろう。今日はこいしを頂くのだから。
「今お兄ちゃん、ヤラシイこと考えてたなぁ〜?ホント、救いようのないロリコンさんだねっ♪」
「…食べたら地霊殿行こうぜ。そこで…こいしを喰わせてもらうから」
「はーい。ラジオで予告した通り、お兄ちゃんの好きにしちゃっていーよ♡ 遠慮無くどーぞっ♡」
「遠慮なんてしないよ。分かるだろう?」
「うふふふっ、そーだねっ♪」
その後、こいしの手を引いて地霊殿へと蜻蛉返りしてさとりに挨拶した後、こいしの提案で彼女の部屋を使わせてもらうことになった。やはり家が大きければ部屋も広く、ベッドも大きくなる。
紅魔館の1人部屋のように大きな部屋で、今俺はこいしと2人きり。となれば、ヤる事は1つだ。
「…本当に良いんだよな?」
「もー、お兄ちゃんったらビビってるのカナ〜?
…ほーら…おいで♡」
「……っ」
ベッドに横たわり、柔らかい笑みを浮かべて手を広げるこいし。そんな彼女を見て、思わず生唾を飲み込む。ドス黒くて邪な欲望が湧いてくるが、それを抑えながら、彼女に覆い被さるようにして彼女を見下ろす。
「えへへっ…ドキドキしてきちゃった……♡」
「…俺も……」
震える手に力を込めながら、彼女の2つの小さな膨らみに手を伸ばす。ずっとずっと触りたかった場所だ。
「……へ?」
「あぁぁ…柔らかいぃ…」
「ほっ
「あぁぁぁ…あああっ……♡」
(あれぇ〜…?おっかしーなー…お兄ちゃんなら襲ってくると思ったんだけどな〜…ストレートに誘わなきゃダメ?そんな事は無いと思うけど…)
「はぅあああぁぁぁっ♡ ほっぺ柔らかいぃぃ♡」
(……まっ、これはこれでイイかな♪ お楽しみはデザートとして、とっておかなきゃね♡)