※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

605 / 1140
からかい下手のエスカルゴさん

「んーと、店の裏ってのはここで良いんだよな?ふーん、やっぱり店には裏口とかあるんだな…」

 

ラジオ放送で赤蛮奇にお願いされた翌々日、俺は昼前に店の裏に到着して、ドアの前でしっかりとスタンバイする。なんでも、夏野菜の買い出しの手伝いをするだけで1日全品無料にしてくれるとラジオで言っていた。まぁ、そのような見返りが無くとも赤蛮奇の事は手伝うつもりだが、やはり嬉しいものは嬉しい。今日はまだ昼ご飯を食べていないので店で済ませるのもいいかもしれない。

そんな事を考えていると、ドアの向こうから話し声が聞こえてきた。片方は赤蛮奇、もう片方は…あまり聞き慣れない男性の声だ。

 

「それじゃ店長、買い出し行ってきます」

「おうよ、気ィつけてな。ところで、荷物持ち手伝ってもらうとは言ってたが誰と行くんだ?」

「…フツーに…友達に手伝ってもらうだけですよ」

「友達?彼氏とかじゃないのかい」

「違います」

「はぇ〜………幸運を祈ってるぜ!」

「何のですか…」

 

話し相手は店長らしい。普段から厨房に居るからなのかよく通う俺もこの声には聞き覚えがない。それと、妖怪である赤蛮奇が人間の里の飲食店でまともにやっていけてるようで、少々安心した。彼女のような可愛い子だと許されるのだろうか。それとも、温厚でほぼ人畜無害だからだろうか。人畜無害を装っても、俺だと絶対にダメそうだ。女性からはともかく男性からの信頼などは無いに等しいからだ。…自分で考えていて笑えてくる。

少々自虐的に笑っていると、裏口の扉が開いて、中から彼女が出てきた。ウエイトレス姿ではなく普段着だ。後ろには、ガタイのいい男性が居て、覗き込むようにしてこちらを見てくる。

 

「もう来てたんだ」

 

「分かってたくせに」

 

「…まーね。あんた、気配を隠す気無いでしょ」

 

「隠す気が無いんじゃなくて単に下手なだけな」

 

「ヒュ〜、彼のお迎え〜っ!ヒューヒューっ!」

 

「違いますって!」

 

この店長、見た目に反してノリが中学生だ。少々ウザイが、これまでの人間達の陰口に比べれば、この程度はなんて事はない。寧ろ、微笑ましいと感じられるレベルだ。…まぁ尤も、赤蛮奇の方はそうではなさそうだが。

 

「…ゴメン、あんなノリの店長で」

 

店裏から表通りに出ると、開口一番赤蛮奇はそう言った。ちょっぴり視線を落として、申し訳なさそうにしている。

 

「俺らみたいな妖怪を排除しようとする排他的な人ではないし、そう悪くは無いんじゃねーか?」

 

「いや、そうじゃなくて…。私みたいなのを彼女扱いされて…ってこと」

 

「俺は悪い気はしないけどね。逆に、俺が彼扱いされて申し訳ないなぁ…と。俺みたいなタラシがばんきちゃんの彼で良いのかって」

 

「私は別に…っつーか、ばんきちゃんって呼ぶなっての…!ホント人の話聞かない奴…///」

 

「えー?可愛いから良いじゃんかよ?」

 

「殴るぞコノヤロウ……///」

 

「はははっ、そりゃー困る。…で、今日買うのは夏野菜だっけ?てことは、行くのは八百屋か」

 

「うん。それと、そろそろ冷やし中華始めるよ」

 

「良いねぇ。あと笊蕎麦も良いよな」

 

「…今、蕎麦打ちの練習してる」

 

「そなの?それじゃ次は、ばんきちゃんの手打ち蕎麦食べさせてもらおうかな〜…アイタッ」

 

後頭部に、勢いよく殴られたような衝撃が走る。後ろを見てみれば、頭だけの赤蛮奇がフヨフヨと浮かんでいた。頭突きされたらしい。一方本体は頭がある。どうやら頭を1つ出したらしい。

 

「ちぇー、イイじゃんかよぉ…俺達の仲だろ?」

 

「どんな仲よ」

 

「ほっぺ触って指に噛み付く仲」

 

「あぁ、それは言えてる。でも触るのはダメ」

 

「ちぇっ。こんなに柔らかいんだ、触らない方が勿体無いよ。そう思わないか?」

 

「キレるよ?」

 

「キレたらどうする?」

 

「殺す」

 

「優しいばんきちゃんにそれが出来るのかな?」

 

「あんた程は優しくないよ。私はあんたと違って生まれついての妖怪だ。その気になったらあんたなんて…。一応は妖怪のくせに、みんなに優しいあんたは凄いね。私なんて愛想笑いで精一杯…」

 

「優しい、かねぇ…?俺も愛想笑いするけどな」

 

「私から見ればね。…だってさ、今もこうして、あんたにとっては何の得もないこの買い物に付き合ってくれてるじゃん」

 

「ばんきちゃんのほっぺ触れるからお得だよな。少し考えればわかるだろう?」

 

「一遍死ね」

 

「おぉ、怖い怖い」

 

そんな話をしているうちに、八百屋に到着した。頭は出しっぱなしらしい。大方、荷物を持たせる腹積もりだろう。俺が居てもなお、持たせる者が必要になるということは…それなりに大量に買うつもりらしい。

 

「ピーマン、ナス、オクラ、キュウリ、トマト、ニラ、トウモロコシ、カボチャ全部下さい」

 

「はいはい少々お待ちを〜。…ピーマン、ナス、オクラ、キュウリ……っと…何でしたっけ?」

 

「トマト、ニラ、トウモロコシ、カボチャね」

 

「ありがとうございます…」

 

サラサラと伝えていく赤蛮奇を見てその記憶力に内心舌を巻く。俺は馬鹿なので、アレだけ多くのお使い内容は覚えきれなくて、メモするだろう。

 

「…ばんきちゃんって記憶力良いんだな」

 

「店で働いてたら自然と…ね」

 

「あぁ…注文受けるからか」

 

頭だけの赤蛮奇に腕を噛まれるつつ、反対の手で頭を撫でる。血が出ようとお構い無しだ。もう、ルーミアに噛まれ慣れてるので気にも留めない。

 

「いや、料理の仕方を覚えるから」

 

「そこ!?」

 

「だって注文受ける時はメモしてるでしょ」

 

「あ…あぁ〜…そうだったそうだった…。なんかそんな気がしてきたなぁ……ナハハハ…」

 

「…案外、見てるようで見てないんだね」

 

「ほっぺばかり見てるからな」

 

「ドヤ顔で言うな。てか頭撫でるな、一遍死ね」

 

「イテテッ、歯が骨まで達したぞコレ」

 

「そんな細い腕、喰い千切ってやる」

 

「おやまぁ、彼相手にそんな言葉遣いはダメよ?破局しちゃうわ!」

 

袋に野菜を詰めながら、店主の中年女性は彼女を窘める。俺としてはこのままのキツめの口調でも構わないのだが……。俺の性癖を知らない人からすれば確かにキツいだろう。今となっては、あまりよく分からないが。

 

「ちがっ……彼じゃないですっ!ほらっ、あんたからも何か言って…っ」

 

「ですよねー、こんなんじゃあ俺以外がこの子の彼になったらすぐ破局しちゃいますよね〜」

 

「ね〜」

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っっ!!あんたホント何言ってんの!?ていうか彼氏とか要らないから!一生独り身で十分だしッ!!」

 

「ほらほら、そんなに怒っちゃだめよぉ?折角の美人さんが台無しよ?」

 

「そーだそーだー、ソーダ美味しー」

 

「コイツ、誰のせいで…!」

 

「はい、お待ちどお様!5300円になりまぁす♪」

 

「っ……ありがとう…ございます…」

 

「お買い上げありがとうございました〜♪」

 

店主に見送られながら店を離れる。赤蛮奇の顔はまるで、今買ったばかりのトマトのように赤く、羞恥に満ち満ちていた。

 

「落ち着いた?」

 

「……落ち着くか…バカ…。あれで誤解されたらどうするの…///」

 

「さぁ…どうする?ばんきちゃ…赤蛮奇の仰せの通りに」

 

「ばんきちゃんと呼ばなかったのは良い判断だ…もし今そう呼んでいたなら、この子が咥えている買い物袋を地面に落としてでもあんたの頸動脈を噛みちぎって血の噴水を出していたよ」

 

「おぉ、怖い怖い。ていうか重いなぁ……店まで遠く感じるぜ」

 

俺も彼女も買い物袋を持ち、赤蛮奇の頭も買い物袋を咥えてフヨフヨと傍に浮かんでいる。全く、相変わらず便利な能力である。

 

「そりゃあまぁ…結構買ったからね。で、勘違いされたら……私の仰せの通りにって言った?」

 

「言ったね」

 

「ふぅん…。じゃあ、責任とってもらおうかな」

 

「責任?何をどうするのさ」

 

「あんたと付き合ってると勘違いされたら…実際そうするしかないでしょ。…不本意だけど…///」

 

「不本意なら別にいいんだぜ?誤解くらいすぐに解けるだろうし」

 

「………。それもそう…だね。人の噂も七十五日とか言うそうだし…うん…そだね……うん……」

 

「…話は変わるけどさ。ラジオ聞いてるだろ?」

 

「聞いてる。今度デートするんでしょ。友人?も含めて4人で行くんだっけ」

 

「うん…今言いたかったのはそれじゃないけど…まぁいいや。……デートつっても、食べ歩きだけなんだけどな。へカーティアの手前、変なことは出来ないし…。何にせよ、俺の中での“デート”のレパートリーがあまりにも少なすぎるんだよね。それこそ、泣けるくらいに」

 

「そうなの…?なんか意外」

 

フランやレミリアと付き合い始めた頃から、里で甘味は食べていたし、森林浴だってした。何ならあの妖怪の山にさえ登ったことがある。そして、早苗とは甘味処巡り。霊夢とは神社デートが殆どである上、鈴仙とは専らヤッてばかりだ。そしてサグメとは団子屋巡り、夢幻世界の悪魔っ子とは魔界での買い物デート。妹や娘とは弾幕ごっこ。

全員に共通していることといえば「弾幕ごっこ」であるが、果たしてデートの一種と言えるのか。

散歩、家、食べ歩き、買い物。基本的には、この4パターンしかないのだ。飽きはしないのだが、もっとパターンを増やしておいて損は無いはず。しかしロクな事を思いつかない。これだから低脳野郎は使えないのだ。こんなときに、自分の頭の悪さが心底憎たらしくなる。デートのプランすらまともに考えられないのに、モテてはいけない。

 

「なんか良いアイディアあるか?」

 

「あんたで思い付かないなら私なんて絶対に無理なんだけど。…でも…お食事だけでも女性は十分喜ぶと思うよ」

 

「うーん…ちゃんと喜んでくれるのかなぁ…?」

 

「食事でも何でも、その人と一緒に居れるだけで十分嬉しいし、満足するんじゃないか…と思う」

 

「おっ、なんか嬉しい意見だな。俺と一緒に居るだけで満足してくれるなら万々歳だよ。なぁ?」

 

「……少なくとも私は…こんな風に一緒に買い物するだけでも嬉しい…かな…っ♪」

 

「ふぅん…そういうもんなのか…。女心ってのは未だによく分からなくてな…」

 

(『ふぅん』って何よ!!鈍感!?鈍感なの!?何でこんなのでモテるの!?期待して損した…!ていうか期待した私が馬鹿だっ…)

 

「じゃあ、さ。今度、一緒に食事でもどうよ?」

 

「……ふぇっ!?私!?」

 

「そりゃ赤蛮奇以外に今ここに誰が居るんだ…。人手が足りないって言ってもさ、ずっと働いてるワケじゃ無いだろ?だから、その休みの日にさ。どうよ?俺は予定合わせるけど」

 

「な…何が目的で誘うの…?」

 

「目的?そんなん無いよ。でもほら、赤蛮奇ってちょっと友達少なそうだし」

 

「あ゙ぁ゙ん!?」

 

「店で会ってるけど、そーいやー普段の赤蛮奇のことはあんま知らねーなって思って。で、どう?今度一緒に食事しない?」

 

「……………分かったわよっ…。OKしなきゃ、あんたの事だし寂しがるもんね…少しだったら…ノッてあげても良いけど…?///」

 

 

【挿絵表示】

 

 

頬を赤く染めてチラチラと目を逸らしながらそう言う彼女は、どう見ても、照れているようにしか見えなかった。それでも俺は、それ以上赤蛮奇をからかうのをやめて、ただ「ありがとう」と礼を言いながら、彼女の頬を優しく撫で回した。

 

「だから触んなっつーのッ!!!」

 

「うわっ本体に噛まれた!」




赤蛮奇の事はついついイジメたくなるのです…。好きな子にはちょっかいかけたくなるアレです。

今回の挿し絵もまたまた友人のA.Hさんに描いて
頂きました!いつもありがとうございます…!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。