ある日私は、数少ない友人・
流石に、山に迷い込んだ子供を襲おうという話は拒否したが……。それ以外は、絵に描いたような素晴らしい友だと言える。そして、卑猥な誘いでなければ2人で山を散歩したり、人に化けて里で取材の真似事をしてみたり、共に新聞記者の練習などもしている。
今日も今日とて、2人で遊んでいた。久しぶりに飛行訓練をしていたが、やはり彼女が私に勝てる筈もなく、その後はプラプラとあてどもなく空を飛んでいた。
「穹、相変わらず速すぎるよぉ〜…」
「そうですかね?能力は使っていませんが……」
私の能力とは母上譲りの《風を操る程度の能力》に加えて、数年前突如として発現した《加速度を操る程度の能力》だ。お陰で私も、姉上達と肩を並べる…とまではいかないがそれなりにレベルを上げることに成功した。能力頼みなのは悔しいが能力も含めて「私」だ。ここは堂々と開き直り、使えるものはトコトン使っていこうと思う。
「穹は身の回りに速い人が多いからねー、完全に感覚狂ってるよ」
「えー…」
「それとも“山の英雄”の血?」
「いやいや、空を飛ぶのに血は関係無いですよ。朱美だっていつかは他の鴉天狗達のように目にも止まらない速さで飛べるようになりますよ」
「そうなるといいなぁ。…私も穹みたいに英雄の家に生まれたかったな〜…」
「他の家庭とそこまで変わりませんよ。多少優遇措置が施されてるだけで………逆に、ほんの少し生きづらいくらいですし…」
「ふ〜ん…」
朱美は“山の英雄”…つまり私の父上に憧れている天狗の1人。天魔様を打ち負かせるほどの強大な力を持つというのは、それだけでも憧れの対象となってしまうらしい。きっと“山の英雄”が女でも天狗達はこのようになっただろう。
お陰で、父上には男天狗からの嫉妬が向けられる事態になってしまったらしい。河童達は、昔から父上に対して好意的だったそうだが、父上曰く、
「俺の無意識
朱美は父上に会った事は無いので恐らく「無意識魅了」には引っかかっていない…はず。
「ねー穹、次はどこ行く?」
「そうですねぇ…。天狗の里に行きますか?先日母上と買い物に行ったんですけど、もう少し里を見て回りたかったですし」
「買い物…って事は、前に私が入り込んだところよりも手前だね。子供も行っていい所でしょ?」
「ですね。朱美も行ったことあるんでしたよね」
「叱られたけどねー。でも暫く行ってないから道忘れちゃったなぁ…穹は覚えてる?」
「勿論っ!行きましょう!」
「だね!」
木々を揺らす程の風を起こしながら、私と朱美は山の中を超高速で飛行する。一度でも通った道はほぼ確実に記憶できる私だからこそ、里への道はあの時に完璧に記憶していた。
────はずなのだが、先日通ったはずの獣道を抜けても、里には辿り着けず、里を覆う結界すら見えてこない。終いには元いた場所の反対側まで来てしまった。
「あ…あれれれ…?変ですねぇ…。先日は確かにあの道を通ったはずなのですが…」
「どうしたの穹?もしかして迷っちゃったの?」
「うーん………かもしれないですねぇ…。朱美は何か結界のようなものは見ましたか?」
「うん。結界みたいなのは見えたような気がしたけど…穹がスルーしたから違うかと思った」
「ぬわああああ!!きっとそれですよ朱美ぃ!!私としたことが見落としてしまったぁぁぁ!!」
ガシャガシャ頭を掻き毟って悔しがっていると、すぐ近くに、感じ慣れた妖気がフワリと現れた。そちらを見てみると、そこには母上の友人である姫海棠はたてさんが居た。綺麗なツインテールを風に靡かせながら、優しい笑顔を見せている。
「あぁ、やっと見つけた。天魔様からお呼び出しだよ、穹。今から屋敷に来い、話があるってさ」
「えっ…わ、分かりました!…すみません、里に行くのはまた後日ということで…」
「うん、分かった。天魔様のお呼び出しだったら仕方ないね。じゃ、また今度ね!バイバーイ!」
くるりと身を翻し、朱美は宿舎の方へ向かった。私ではない、また別の友人と遊ぶのだろう。そう思うと、少し寂しく感じてしまう。だが、そんな感傷的な気分に浸っている暇は無い。
「ねっ、屋敷まではついて行っていい?」
「良いですよ。…あの、天魔様からのお呼び出しとは急ぎですか?」
「そこまで急ぎって感じでもなかったよ。ただ、大事な話っていう感じはあったね」
「なるほど…ではこのままゆったり行きますか」
「そうだね」
はたてさんは、母上の友人の中でも特に私によく話し掛けてくれるフランクな方だ。そして天魔様からの伝令役もやっているらしい。母上と同じく新聞記者なのに、何だか凄い方だ。天魔様の側近との呼び声も高い。
「さっきのは友達?それとも先輩の記者かな?」
「同期の有明朱美です。私は
「…!あの子が…朱美?」
「そうですよ。先輩や姉に見えますが同期です。
…はたてさん、彼女を知ってるんですか?」
「ううん、知らない。でも、その名前だけは山のどこかで聞いたことがあるような気がしてね」
「…?」
(まさか…ねぇ?だけど、この幻想郷で同姓同名なんてまさに天文学的確率でしょ。ましてや同じ鴉天狗だし…。ふぅん…色々気になることはあるけど…今はこの仕事をこなさなくちゃね)
屋敷に到着すると、はたてさんは「気を付けて」とだけ私に言い残してオレンジ色に染まり始めた空へ飛び去って行った。私は門兵さんに頭を下げ屋敷の中に入る。何度も来ているので勝手は承知している。
「失礼致します。天魔様、お話とは一体、なんでございましょうか?」
「おぅ、早速来たか、穹よ。もっと
「………」
あまりにも凄すぎるお方とは少し距離を取りたいのだが、天魔様はこういう方だ。私1人が彼女に呼ばれるといつもこの流れになる。
「大天狗共は外で控えておれ」
「しかし天魔様の御身を…」
「貴様らに守られるほど儂は落ちぶれておらぬ。口を慎め」
「はっ…出過ぎた真似を致しまして…」
いそいそと退散する大天狗さん達。一応、私からしたら上司の上司の更に上司に当たる方なので、私からは何とも言えない。しかし、そんな上司を部屋から追い出せるのは、唯一天魔様のみ。
こうして私と天魔様の2人きりとなった。
「ふぅ…こうでも言わんと出て行かんからのぅ、大天狗共は。なぁ、穹よ?」
「ですが…何故大天狗様達を部屋から…?」
「決まっておろう…?乙女の会話を聞こうなど、許せる筈が無いからのぅ!ハッハッハッハ!」
「は、はぁ……」
膝を叩いて笑う天魔様。しかし次の瞬間、そんな笑顔は消え失せ、一気に真面目な表情になった。切り替えが早すぎて鳥肌が立ってしまうほどだ。
「前置きは置いといて、そろそろ本題に入ろう。穹。お主、先日天狗の里に入ったそうだな?」
「はい。母上の買い物の付き添いですが…。何か問題でもありましたか?」
「いや、無い。そして今日、お主は里にもう一度行こうとした。違うか?」
「間違いありません。母上曰く、子供でも入れるエリアはあるとの事でしたので」
「あぁ、射命丸は教育をしっかりしておるなぁ。全くその通りだ。…だが、見つけられなかった。違うか?」
「え……ええ…そうです…」
「何故儂がその事を知っとるか気になるじゃろ。つい今しがたの事なのに」
「気になります!」
心を見透かされたかのような発言に、思わず声が大きくなってしまう。しかしそれを咎める事無く話を続ける。
「お主の妖気は特異だ。それ故に探知しやすい。そして里の周辺を彷徨く者があれば、白狼が上に報告するから、より詳しく動向が探れるのだよ。
…朱美と、随分仲良くしてくれているようだな。私からも礼を言う。ありがとう」
「…!?と、とんでもありません…」
「彼奴はお主と同じくらい好奇心旺盛だ。だから気が合うだろうな、とは儂も薄々感じていたよ。
…して、そんな友人と里に入ろうとしたが何故か見つける事すら叶わなかった。何故だと思う?」
「さ…さぁ…私には皆目見当もつかないです…。朱美は見つけられたかもしれないと言ってましたが私は…見過ごしてしまいました…」
「これにはな、山の掟と関わりがあるのじゃよ。さて、何の掟と関係あるか分かるかな?」
掟と一口に言っても、物凄く多く存在している。どれも関わりがありそうだし、逆に無さそうにも思えてくる。そもそも私も掟を全て把握しているワケではない。少し判断が難しい話だ。…というよりも、何故天魔様は朱美の存在を知っているのだろうか。本来ならば、天狗個人を把握するなど考えられない事だと言うのに。
私と母上は特別扱いされているし、はたてさんは伝令役で、叔父上と椛さんは今や天魔様の直属の部下に大抜擢されている。このメンバーなら名を知られていても不思議ではない。しかし朱美は、ごく普通の鴉天狗だ。なのに何故─────?
「…おい、深く考えすぎじゃぞ」
「はっ────!」
どうやらまた思考が逸れてしまっていたらしい。天魔様が思考を現実に引き戻してくれなければ、もっともっと逸れていたかもしれない。そして、見かねた天魔様は、答え合わせをしてくれた。
「我々天狗は、本来なら同族以外と子を成してはいかん。その掟は、お主ならば心得ておるな?」
「はっ。勿論でございます」
母上はこれを破った。それでも尚、山での生活を維持できているのは、ひとえに、父上の力があるからこそだ。そうでなければ懲罰…追放…最悪の場合は処刑すら有り得た。
「ならばその理由は分かるか?」
「えっ……と…」
「…それはな。混血だと里を認知出来なくなる…つまり天狗として認められないからなんじゃよ。悲しい事にな」
「え…?」
「儂らの先祖は何を考えてそんな結界を張り掟を定めたのかまるで理解に苦しむのう。排他的にも程があろうて。時代の違いのせいだろうが、な。
…だからお主は、本来ならば里には入れん上に、見る事も叶わないのだ」
「ですが先日、私は確かに母上と……」
「そんな者でも里を認知し、入れる条件がある。それは『天狗に招かれる』事じゃ。それがあって初めて里を認知し出入りが可能となる。どちらもその時だけらしいがな」
「招かれる………。つまり私は…あの時、母上に招かれたから里に入れた…という事ですか?」
「そうだ。飲み込みが早くて助かるわい。これも射命丸の教育の賜物かの」
今日入れなかったのは天狗に招かれなかったからという事だ。朱美は道程を忘れていたので、この例には当てはまらなかったのだろう。更に今日は私が主導していた。純粋な血を持つ者に主導してもらわないと入れないとは…中々に不便だ。
「…それでは私は…大人になっても…誰かの力を借りなければ里に入れないのですね…」
やはり、“英雄”の家に生まれたから生きづらい。こんな事なら一般家庭に生まれた方が良かった。母上のように自分で行動できないなんて。初めて父上の血を恨んだかもしれない。
自分で行動できないという事は、新聞記者としてかなり致命的だからだ。
「そこで、だ。見れない上に入れもしないんじゃ何の為の特別措置なんだか分からんのでな、儂が特別に里への出入り許可を出してやる」
「許可を出されても…」
「ほれ、受け取るがいい」
「っ!」
無造作に投げられたそれを両手で受け止め、手の中のソレに目を落とす。見た目はただのお守り。それこそ、博麗神社や守矢神社で買えるような。そのお守りには「結界除け」と書いてある。
もしや、これは……。
「天魔様、これは一体…?」
「読んで字の如く…そのままじゃ。それは天狗の結界の効果を無くす。つまり里を覆う結界は特に効果を発揮せん上に、通常の天狗同様に通行可能となる」
「…!」
「…予備知識として頭の片隅にでも入れておいて欲しいのだがな。実は天狗の結界は山の至る所に張られておる。そのお守りはその効果すら消す。結界の強い弱いに関係無くな。だからこの山から出ずともお主の世界がグンと広がるかもしれん」
「な、なんと…!」
天魔様が大天狗さん達を部屋から追い出した訳を察した。更なる優遇がバレたら…そして、隠蔽の効果がある結界すらも完全に無効化させる道具を手に入れたと知れれば…何をするか分からない。大天狗さんというのは、裏でなにをやっているか分からないらしいからだ。
「そしてこれは儂とお主だけの秘密じゃ。文にもエスカルゴにも秘密にすると約束しろ。よいな」
「はいっ!!」
(これで、もしもの事があっても安心じゃな…。はたてや文…それと儂の部下達ですら成せない事でも、この子供ならば可能だ。頼んだぞ…お主に山の未来を託した事、後悔させないでくれ…)
一つ息をついた天魔様は、私に更に釘を刺そうと重々しく口を開く。言葉にまで圧倒的な力が込められているような…そんな妙な威圧感がする。
「それと忘れるな。掟を破っても
「ははーっ!!」
床に頭を擦り付けるほど深く土下座をし、感謝と畏敬の念を全力で示す。
「……。近々、里で新兵器のお披露目会がある。河童と共同開発してようやっと完成したらしい。暇ならば見に来るがいい。事前に告知もあろう。文も取材などに来るだろうから、こっそり来い」
「お……おぉぉっ…!」
それからは暫く2人で雑談して、私は帰宅した。しかしその後、朱美と天魔様の関係について質問しそびれたことに気が付いた。
※穹は朱美と父親が既にヤッてる事を知りません
※新兵器→非想天則での鈴仙vs文の戦闘後セリフ
またオリキャラだらけの話書いても良いですか?原作キャラも勿論数人出ますが出番は少なそうです。
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勿論OK
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出来れば暫く控えてほしい