「ご覧下さい、天魔様!アレこそが、我々天狗が総力を挙げて、更に約20年かけて製作した新たな兵器にございます!!」
「ホォ〜……こりゃまた巨大なモノを……」
その日、天狗の里の中にある広場では、天狗達によるお披露目会が執り行われていた。そこでは、大天狗様の指揮の元で製作されたモノが安置してあり、天魔様をはじめ身分の高い天狗達、更には母上のような新聞記者、それと私のような見習い記者が大勢集っていた。
天魔様と側近の大天狗様は小さな物見櫓の上からその兵器と私達群衆を見下ろしている。
技術の進んでいる月からやってきた鈴仙さんすら
「近代的」と言ったその兵器を、大天狗様はこう呼んだ。
「名付けて、『対敵対勢力野戦砲』!車体の下のキャタピラーによって、険しい道や坂道でも楽に進むことが出来ます!」
言ってしまえば戦車だ。私は父上から外の世界の知識も教えてもらっている。なのでこんなものが存在しているのも、知識として知っていた。だがこれには、外の物にはない機能もあるらしい。
「更に、スイッチを入れれば光学迷彩が発動し、敵の目を欺く事が可能にッ!!」
天魔様の側近の大天狗様がパチンと指を鳴らすとそれを聞いた搭乗員が戦車の中でスイッチを入れ光学迷彩を発動させる。すると戦車は音を立てる事もなく姿を消した。もう一度指を鳴らすと再び姿を現す。時間差はほぼ無い。
「なるほどのぅ…。じゃが、敵対勢力と言っても具体的に誰に使うつもりじゃ?現在は泰平の世…とてもそのような勢力が現れるとは考えにくい。それともアレかの?お得意の『念の為に』か?」
「はっ…その通りにございます」
「ま…用意は必要よな。だがこんな物騒なモノ…コイツを作るのに一体幾ら予算を注ぎ込んだ?」
「山の予算は使っておりませぬ。我々大天狗の、凡そ九割の人数の…財産を殆ど注ぎ込みました。しかしこれも平和の為…惜しくはございませぬ」
「殊勝な心がけじゃ。残りの一割は渋ったか?」
「ええ。己の庭付きの家を守る為でしょうが…」
「ふーむ…まぁ有志なら文句は言うまいて。特に義務という訳でもなし、咎めることは無かろう。財産を出さなかった者を見下すことは許さぬぞ。よいな?」
「はっ」
「しかし…光学迷彩とな?これは確か河童の技術だったはずだが……これはどういう事だ?」
「…少々、協力を要請致しまして…。山の平和の為ならばと河童も喜んで力を貸してくれました」
「ふむ…?」
大天狗様の言葉に頷きつつも、天魔様の表情は、決して明るいものではなかった。腕組みしながら戦車を睨みつけ、あれこれと考えているらしい。
(おかしい。いくら山の為とはいえ、あの河童がそう容易く技術を提供するか…?技術に関してはこの幻想郷のどの種族よりも独善的且つ排他的、商品として以外は決して提供せぬはずだ…。儂が天魔に就任してから数百年…前代未聞だ。河童も成長はするだろうが…根本的なその部分は絶対に変わらんはずだ…。まさか…儂の思考が昔のまま停止しているなんて事はないだろうか…?いかんいかん、このままでは老害になってしまうぞ…。時代は変わったのだから、儂も変わらねばな…)
「して、大天狗。『対敵対勢力野戦砲』とやらはこの一台のみかの?」
「まさか。そんな訳はございませぬ。現在、山の全域をこの野戦砲で囲っております。勿論索道の部分だけは警備も手薄になっておりますが…」
「全域だと?この妖怪の山のか…?」
「そうでございます。そもそもの話、この武器は数年前には完成していたのです。ですが、量産が困難を極め…必要な台数を整えるのに、そこから凡そ15年を要しました」
「なるほどの。20年のうち5年は開発に、15年は量産に費やしたわけか…。随分と長い時が流れたものだな…」
「ですなぁ…。あとは哨戒任務に就く天狗にこの兵器の使用方法及び対処法を教え込めば、全域の警備が容易となりましょうぞ」
「それは良い。守りが楽に、そして堅くなるのは
素晴らしい事だ。“二兎を追う者は一兎をも得ず”
とは言うものの、見事に二兎を得たわけじゃな。ブラック企業呼ばわりはもうゴメンだ…これなら
「いいえ」
「ん?」
「我々が狙っているのは三兎でございます」
「三…?まだ何か成し得たのか?いや、これから成し得るのかの?」
「ええ。たった今から…ね…」
パチンともう一度指を鳴らす大天狗様。すると、重い機械音を鳴り響かせながら、野戦砲の先端が動き…やがて物見櫓の上に居る天魔様を向いた。その瞬間、群衆はざわめき出して、中には悲鳴を上げる者も居た。
「何じゃ、これは。一体何のつもりだ貴様」
「天魔の座を譲れ、という事だ。もし歯向かえば貴殿の血を見ることになる」
「これが、噂に聞くクーデターというヤツかの。よもや儂がクーデターの被害者になるとはのぅ…参った参った…」
「軽口もそこまでだ。譲るか譲らぬかで答えよ。さもなくばあの野戦砲で貴殿を吹き飛ばす。否、譲らなくとも吹き飛ばすぞ。…貴殿の答えるべき言葉は一つだけだ」
「ならば諦めて潔く答えよう。譲らぬわ、阿呆」
「…撃てぇぇぇ!!!」
飛翔して回避しようとした天魔様。しかし、残念ながらそれは叶わなかった。飛ぼうとした瞬間、放たれた弾が天魔様の片翼を吹き飛ばしたのだ。翼のあった所からは血が吹き出して、地面や櫓を赤く濡らしていく。
「がッ…………ぬぅぅ…!おのれ、貴様ァ…!」
「天魔さ…むぐっ!?」
思わず声を上げてしまった。しかし母上から口を塞がれ、声を上げられなくなった。まさか母上もクーデターに加担したのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。これはきっと変に目立ってアイツらに目を付けられることを避けるためだ。だから…見て見ぬふりをするのだと。何となく…あくまで薄らとだが、子供ながらにそう察した。母上の隣でははたてさんも声を押し殺している。ただし、両目から大粒の涙を溢れさせながら…。
「嗚呼、貴殿が動くから殺し損なってしまった。馬鹿な女よの…。下手に動かなければ楽に死ねたものを」
「馬鹿を言うな…。儂は今…真上に動いたのだ…それで左翼が消えたのだから…元から、翼だけを狙っていたのだろう……?儂を吹き飛ばすつもりならば…この足や腹が消えているはずだ……」
木製の物見櫓に寄りかかり、翼のあったところを手で押さえながらも、状況を把握しようと疑問を投げ掛ける天魔様。
「ッ…これだから賢い女は嫌いなんだよ、私は。ああ、貴殿の言う通りだ…。まずは翼を狙った。何せ私は平和思想の持ち主だからな、話し合いで済むならそれに越した事はないだろうと考えた。故に、脅しとして翼を消し飛ばすつもりだった」
「じゃが儂は動いた……確かに動いたのだ……。だから翼という小さき的に弾は当たらぬ……はずだったんじゃが……。何故儂は被弾した…?的が動けば…弾は的に当たらぬはずだ…」
「この野戦砲は、一発で数発撃てるのだよ。こう言えば分かるだろう?自分が被弾した理由が…。それと、ボロくなったこの櫓を見よ」
「なっ…!?」
「散弾銃と同じ理屈さ…。それを巨大化させて、更にホーミング機能を搭載した。その弾速故に、殆どホーミングの意味を成さないがな。それでも多少は弾道が歪むのだ」
「くっ……」
「今一度問おう。天魔の座を譲るか譲らぬか?」
「何度聞かれても譲らぬわ、馬鹿者めが!」
「…撃て!!」
「ぐああぁぁっ!!」
今度は反対の翼が消し飛んだ。そして流石にもう我慢が出来なくなったのか、呆気に取られていた群衆の中から、鴉、白狼、鼻高天狗が飛び出す。
「天魔様を離して下さい、大天狗様!!」
「こんな事やめて下さい!!」
「こんなの、絶対におかしい!!」
飛び上がり、群衆の中心に居るその2人の元へと急行する3人だったが。
「…煩いゴミクズ共が」
「馬鹿っ…来るなお前達ィッ!!」
…次の瞬間、飛び出してきた3人は別の方向から放たれた散弾によって、周囲に肉片を散らした。近くに配置されていた同じ戦車によって、彼らは無惨にも殺されたのだ。群衆は悲鳴を上げるか、もしくはその場に硬直している。あまりの惨状に天魔様は呆気にとられ…ポツリと小さく呟いた。
「な……何故だ……何故アイツらが死なねば…」
「貴殿が天魔の座を譲らぬからだ…。それだけのことが何故分からぬ」
「くっ……なんて事を……っ」
ギリッと奥歯を噛み締め、裏切り者を睨み上げる天魔様。腰に下げた刀に手をかけるも、抜刀する前に、前のめりに倒れ込んでしまった。櫓の壁は散弾により穴だらけになっていて、櫓内の様子が少しだけ見て取れる。天魔様の天狗の装束は血に染まっていて、綺麗な黒髪にも大量の血がこびりついている。
「おい、何を気絶しているのだ!…チッ、やはり女の肉体は弱いな…。おい、誰かこの女を家まで運んで血を止めよ。最後通牒を突きつけるまでは決して死なさぬようにせよ」
「「「はっ、はいっ!」」」
即答だった。答えが遅れたり無視したりすれば、一体どうなっていたか。それを察するのに時間は一切必要無かった。天魔様が気絶した事、3人の無惨な死。これだけの判断材料があれば逆らう気など起きる訳がなかった。
担架で運ばれる天魔様は、明らかに顔色が悪く、血が不足しているのが容易に想像がつく。流石の妖怪とはいえ、血が足りなくなっては活動も鈍くなってしまう。天魔様とて、例外では無い。
私は母上やはたてさんと同じように運ばれていく天魔様を見送っていた。でも私は、幻覚にも似たあるものを見た。
「………」
「……っ!?」
天魔様の目が開き…私と目が合ったのだ。そして小さく目配せをして、再び瞼は閉ざされた。私に合図を送ったのだ。間違いなく。幻想郷最速の、見習い新聞記者の私に。
「…はたて、穹。今すぐ避難しましょう」
天魔様を見送る群衆に紛れ、里の出口へ向かう。飛んだ方が速いが、ここで目立つとどこからあの砲撃が放たれるかわかったものでは無い。なので地に足をつけてただただ走った。
「文、やっぱりあれって…」
「ええ、間違いなく天魔様を殺す気ですよ…あの大天狗…。天魔様がどう答えようとも…」
「誰かに助けを求めた方が良いんじゃないの…?ほら、エスカルゴさんだったら、文の時みたいに山に攻め込んで助けてくれるはず…」
「そんなのダメに決まっているでしょう、これは我々天狗の問題です。誰であろうと、この事態に巻き込む訳にはいきません」
「そんなこと言って、もしも天魔様が殺されたりしたらどうするのよ!?」
「落ち着いて下さいはたて。ここは一旦引いて、策を練るんです。私達はどう動けばいいのか…、そして天魔様を助け出したあとはどうするのか」
「私ははたてさんに賛成します、母上。ここは、父上の力を借りた方が確実ではないかと」
「ダメだと言っているでしょう!山のことは山の者で解決する、当然です!」
走りながら、語気も鋭く言い放つ。こうなったらもう、言うしかない。苦手とか嫌いとか、そんなことは言っていられない。
「……私は、天魔様から任務を命じられました。もしもの時があれば、と。今がその時です」
正確には、任務なんて命じられていない。だが、ここは口八丁手八丁で乗り切らなければ。これは嘘だが、仕方ない。嘘は苦手でも、今日ばかりは
「仕方ない」と乗り切るしかない。
「天魔様直々に…あなたのような子供に?」
「…ええ。なので、私は父上を呼びに行きます。母上とはたてさんは…母上の仕事場はかなり危険だと思いますので、別な場所に避難して下さい」
「言ってませんでしたが…実はあなたは1人では里に入れません。そしてあの人も…」
「知ってます。でも私は大丈夫です。天魔様からある物を貰っているので。それではっ!」
「あちょ、穹!?飛んではいけま……速っ……」
「流石文の娘ね…まるで言うことを聞かない…」
「え、私ってあんな感じでしたかね??」
「文本人の過去を見てるかのようにソックリよ。見た目もソックリなら中身までソックリとはね」
「えぇ〜…」
私は最後、里を出る直前に、未だ櫓の上で青空を仰ぎ見ている大天狗をチラ見した。かなり遠いが父上の目を継いだ私だったら問題無く
(よし…あとは我らが同胞に任せるとするか…。ククク、山の中腹以上に足を踏み入れたが最後…貴様は終わりだ、小賢しい吸血鬼!貴様は永遠に封印され、その後は我らが山を支配する…ッ!!天魔直属の部下は屋敷に軟禁済み…。だから山の英雄が消えれば、邪魔者は居なくなる…。博麗の巫女なら妖怪同士の争いなどには絶対に首を突っ込んでこないから問題は無い…!完璧だッ!!)
「全く、また大天狗による騒動ですか…。母上の時から進歩してませんね。…父上は確か、昨晩は博麗神社で今夜はこちらに来る予定だった筈…。それならまだ向こうに居る頃でしょうか…って、これは…!」
天狗の里から飛び出した私は地面に描かれている青白い光を放つ魔法陣のようなものを発見した。火口を中心に、山の中腹以上に広がっている。
かなり大きな魔法陣だ。
下を見ると、秋姉妹やお披露目会に不参加だった天狗が山を歩いているが、青白く光るそれに何か反応を見せる事は無い。
つまりアレは…私だけに認知出来ているものだと考えることが出来る。となるとアレは天狗による結界…ということに………?
◆
…その頃、山にあるラジオ放送のスタジオでは、チャンネル主の河城にとりが、放送機器の整備やスタジオの掃除等を行っていた。しかし、掃除も終わりかけたその時、荒々しく扉が開け放たれ、派手な着物を纏った大柄な天狗が現れた。
クーデターの共犯の大天狗である。
「おい河童!早く奴を呼び出せ、今すぐだッ!」
「ひ、ひぃぃっ!?急に何を……」
「聞こえないか!?今すぐに、山の英雄とやらを呼べと言っているのだッ!その耳は飾りか!?」
「わっ、わかり、ましたぁ…」
何が何だか分からぬままでトランシーバーを取り出し、急いでダイヤルを016に合わせる。だが大天狗は、そんな彼女の首に腰に差していた刀を押し付け、脅しかける。
「くれぐれも余計な事は言うな。そして、私にも聞こえるように話せ。向こうの声も聞こえるよう音量を上げろ。何か余計な事を言った瞬間貴様の首が飛ぶ。そして河童と
「…わかり…ました……」
「よぅし…良い子だ。誘い文句は今から言うからよく聞くんだ。まずは──────」
◆
『こちら…河城にとり…スタジオから発信中…。山の英雄エスカルゴ、至急応答せよ…応答せよ』
トランシーバーからノイズ混じりに苦しげな声が聞こえてきたのは、妹と一緒に母さんのお使いをこなしている時だった。妹と居るのであちこちに寄り道してしまっているのだが…。
聞こえてきた声に違和感を覚えた俺は、すぐさまトランシーバーを取り出し、にとりの呼び掛けに答える。
「はい、もしもし。こちらエスカルゴ。どうしたにとり、エラく苦しそうだけど何かあったか?」
『いや何でも…。電波が悪いせいじゃない…?』
「声も震えてる」
『電波が震えてるんだ…多分…』
「波として伝わってるんだ、そりゃそうだろう。直線じゃあるまいしさ。それで、用件は?今少し手が離せないんだけども…」
『大至急、妖怪の山に来てほしいんだ…』
「えー…マジか…。今俺魔界に居るんだけど…」
『それでも、すぐに来てほしい…頼む…』
「何で?理由を頼むよ。こっちより重要そうならすぐに向かうからさ」
「えー!?お兄ちゃん、今は私と一緒にお買い物してるんだよー?」
「しっ。今友達と喋ってるから少し待っててな」
「ブーブー…」
優しく撫でると、頬に空気を入れて、可愛らしくブーイングを飛ばすロリス。やはり妹は可愛い。俺の妹がこんなに可愛いわけがある。
「で、どうしてなんだ?」
『……戦争ごっこだ』
「戦争ごっこぉ?どゆこと?誰とやるのさ?」
『妖怪の山及び…その周辺をフィールドに…我々河童と、山童と…だ』
「それで今すぐ来てほしいって?」
『そう…だ。だから…
明らかに、不自然なほどに声が震えている。何かおかしいとは思うが、何しろ魔界と幻想郷という異世界間の通信なのだ、声が震える程度は誤差の範囲だろう。
「マジか…少しだけ待ってもらってもいいかな?もう少しでお使い終わるんだけどさ…」
(ダメだっ!恋愛に疎いエスカルゴじゃあ、私の意図は汲み取れないか…!ったく、頭良いんだか悪いんだか、相変わらず分かんない奴だなぁ…!チクショウ、もうこうなったら…イチかバチか、やるしかないッ!!)
スピーカー越しに、にとりが胸いっぱいに深呼吸するような音が聞こえてきた。そして次の瞬間、鼓膜が破れる程の大声量で叫んだ。
『助けてくれっ!!このままじゃ私達は天狗達に利用されて皆殺─────』
通信が、途切れた。
非想天則の鈴仙vs文の勝利セリフからこのネタを取りました。鈴仙が近代的って言うのって、一体どんなものなんでしょうかね。本作では光学迷彩機能、ホーミング機能、散弾機能が搭載されてる戦車としましたが…。
因みに、普通の弾と散弾の使い分けは可能です。
大量の戦車から大量に散弾をぶっぱなされたら、それってもう弾幕ですよね…文字通りの(笑)
あとスタジオはギリ結界の範囲外です。魔法陣のような結界とかカッコよくないですか?(厨二)
文は娘と友人を守るので精一杯なのです…あまり大勢で動くと目立ちすぎますし…。だから多くの天狗を置いて避難したのは許して…許して…。