「この女、舐めたことしやがって!!」
「ぐっ………くっそぉ…!」
にとりの手からトランシーバーを奪い、床に強く叩きつけた大天狗。当然ながらトランシーバーは砕け散り、もう使用不可能な状態になっている。
彼女の体は彼によって床に押し付けられ、完全に身動きを封じられている。
「傷物にしてからぶっ殺してやる…!俺を舐めたこと、あの世で後悔するんだな!!」
「ッ!?お前、私に何をするつもりだ!?」
「黙れメスガキ!お前は黙ってその幼い体を俺に差し出せば良いんだよ!!」
片手でにとりの首を絞めつつも、もう片方の手で下半身の装束を下ろす大天狗。所々白く汚れて、異臭を放つソレは、にとりを恐怖させるのに十分だった。
「や、やめろっ!そんな事するんなら先に殺せ!生き恥を晒すなんてまっぴらごめんだ!殺せ!」
「ええい、黙れと言っているんだ!!」
大天狗は、人外ならではの怪力でにとりの衣服を引きちぎり、更に幼さが残る下着をも剥ぎ取る。にとりは手足をバタつかせ必死の抵抗をするが、抗いようの無い体格差故に為す術もない。しかし汚物を彼女の秘部に押し付けようとしたその時、大天狗の動きが止まった。
「な…っ、なんで貴様がここに居る…!?」
(エスカルゴ…目が光って…?)
スタジオに、この俺が…山の英雄と呼ばれている男吸血鬼が現れたからだ。通信開始時、にとりが
「スタジオから発信している」と言っていたので場所の特定は容易だった。ここには以前来た事があるので、スキマにて移動してきたに過ぎない。
「無理に犯す事でしカ女を従えられナイなんテ、流石はクソ天狗…三流ダナ。俺よリもクズ男だ」
「よ、余裕だと思っているようだがな!!貴様がそこから少しでも動けばこの女を傷物にするぞ!俺の命と刺し違えたって構わん!!」
「…お前もシカしテ童貞か…?だから、死ヌ前ニ童貞卒業したいッテ…?」
「き、貴様ァァ……!!」
「……死ネ。蘇生はしねぇカラそのまんま地獄に落ちルンだナ」
「やめ──────」
最後に怯えた表情を浮かべた大天狗は、爆発四散して死亡した。《目》を潰されたので問答無用で死亡は確定だ。スタジオやにとりがアイツの血で汚れてしまったのは申し訳ない。せめてもの償いとして、掃除だけは手伝わなければ。
「解除っと…。にとり、大丈夫か?」
「ありがと…助かったよ…。だけど妹さんは?」
「分身に任せたよ。すぐに終わるだろうから…。その…悪いな、スタジオとか汚しちまって……」
「大丈夫だよ、このくらい。掃除ロボ使えばすぐ片付くからさ。……って、ヤバい!」
顔に付着した血液を拭っていたにとりだったが、おもむろに顔を上げ、声を荒らげる。その変わりように、俺は思わず肩を震わせてしまった。
「なぁエスカルゴ、他の皆は!?」
「他?どういう事だよ?」
「皆エスカルゴが来るのを待ち構えて、この山や周辺に散らばってるんだよ!戦争ごっこするってさっき通信で言ったろ!?」
「でもそれって、にとりが俺を呼び出す為の口実とかじゃ…?」
「口実なもんか!皆、天狗に脅されてるんだよ!私を脅したアイツが、『我が同胞が貴様ら河童や山童を脅して利用し奴を始末する』みたいなこと言ってたから、多分間違いない!」
「……。分かった。皆を助ければ良いんだな?」
「頼む…」
「任せろ。敵は天狗だな」
「…うん。だけど私を脅したアイツ…ここらじゃ見掛けないほど、豪華な身なりしてたよね…」
「コイツらは大天狗だからな、身分が違うんだ」
「なんでエスカルゴがそんな事を知っ……あぁ、文の騒動も大天狗によるものだっけ。やれやれ、懲りない連中だな…」
「そうだな。……気休め程度にしかならねーかもしれないけど、一応これ持ってて」
漆黒の折り畳みナイフをにとりに手渡す。小傘に改良してもらったので、性能は妖魔雷霊剣と何ら変わらないアレだ。つまり妖魔雷霊剣と同じく、結界の性能もあるというワケだ。
「これは…?」
「お守り。全部片付いたら、またここに来るよ。だから、それまで持ってて。無闇に出歩くと危険かもしれないから…スタジオ内に身を隠してて」
「分かった…言う通りにするよ。皆を頼んだ…」
「ああ」
山全域とその周辺に散らばっているともなれば、その範囲はとてつもなく広い。スキマでいちいち探すよりも、足で探した方がずっと早いだろう。そう仮説を立てた俺は、まずスタジオから出て、山を下って再度登山することにした。
何故なら、この山の中となれば木々が邪魔で反響定位が使えないからだ。これは大きな痛手だ。
出来たとしても、かなり狭い範囲しかできない。
それなら、とぐろを巻く蛇のように螺旋状に登山すれば…時間は掛かったとしても、この山の中に潜伏する者は確実に発見出来るはずだ。…尤も、彼らが光学迷彩を使用していなければの話だが。
「…おっ?」
下山中、娘の妖気を感知した俺はその場で急停止した。娘は娘でも、この妖怪の山で主に活動している娘、穹の妖気だった。すると穹は強烈な風を纏いながら目の前に現れた。
「やっと見つけました、父上ぇ…!」
「どーした穹、そんなにエラく急いで…」
「どうしたもこうしたも、今山は大変なんです!大天狗達によるクーデターが起きてしまって…」
「騒動ってクーデターだったのかよ!?」
まさかの事実に、つい大きな声が出てしまった。しかし周囲に誰がいるのか分からないので慌てて口を塞ぐ。同じミスは何度もしたくない。
「天魔様を助けて下さい!現在天魔様は、天狗の里の中にあるご自宅に幽閉されています!母上とはたてさんは安全な所に避難してもらいましたが私は天魔様からの合図で父上を呼びに…」
「待て待て待て、ちょっと情報量が多すぎる…。整理させてくれ。まず文は無事なんだな?それは分かった。で、天魔様は自宅に幽閉されてると。クーデターの犯人は大天狗で、クーデターするに当たって邪魔な存在である山の英雄を消す為に、河童や山童を使って俺を殺させようとしてると。大方こんな所かな」
「天魔様のご自宅は天狗の里の中にあるのです。なので父上は、見る事も行く事も叶いません…。しかも山の中腹以上には、大天狗達による結界が張られています…もし父上が足を踏み入れたら、何が起こるのか分かったものではありません…。ですので、あの結界は父上が破壊して、これから2人で天魔様のご自宅に乗り込みましょう!」
「無理だ。俺には見えないけどそんな広範囲って事は、強度もかなりあるはずだ。弱かったら自然消滅しちまうだろうし。手を抜いた状態の霊夢の結界くらいしか破壊出来ない俺なんかには、到底無理だと思う」
「そんな…!じゃあ誰が天魔様を助ければ…」
「俺と………文でやるさ。穹は博麗神社に居ろ。子供は巻き込めない」
「嫌です!私も戦います!!」
「今回ばかりはダメだ。文の避難先は俺が探す、そんで乗り込む。穹は博麗神社に居なさい」
「っ…!」
「こんな事はあんまり言いたくないけどな……。頼むから逃げてくれ。ここから。すぐにだ」
真っ直ぐに目を見つめて誠心誠意想いを伝える。すると溜飲を下げたらしい穹は、最後にこう言い残して東へ飛び去っていった。
「分かりました。すぐに逃げます。しかし父上…大天狗達が河童の技術を利用して製作した、『対敵対勢力野戦砲』にはくれぐれもお気を付けて。この山を包囲する数の戦車があります」
「…………もっと早く言ってよ…………」
新たな情報に困惑した俺は、早くも娘を逃がしたことに軽く後悔してしまった。いや、逃がしたことではない。せめてもう少し詳しく聞き出しておけば良かった、という後悔だ。
《ねーエスカルゴー、私は私はー?逃げなくてもいーのかなー?》
《多分だけど、守矢神社は大丈夫じゃないかな。クーデターって事は天狗社会を乗っ取るのが目的だろうから、天狗社会と協力関係にある守矢神社の事はスルーしてくれる……はずだし?》
《あ、天狗達が攻めてきた》
《はぁ!?》
思わず振り返って守矢神社を確認する。すると、確かに守矢神社の辺りに大量の点が羽虫のように集結しているのが目に留まった。スキマで神社に移動しようとするが、頭の中にあのショタの声が響き、俺を制止する。
《こっちはいい。器は河童共の方を何とかしろ。あんな雑魚、我が一撃で塵に還してやる。童子の姿とはいえ、古の武神の力…甘く見るなよ…!》
《塵に還すなよ!?せめて半殺しに留めて!?》
《神奈子に言われたところだ。チッ、つまらん。久方振りに血を浴びたかったのだがな》
《神奈子様が起きてるなら安心かな。じゃ、皆を頼んだよ諏訪子》
《はいはーい、気を付けてね〜》
現在進行形で襲われている者が「気を付けてね」とは。流石に肝が座っている。というか、それはこちらのセリフなのだが。
凄まじい勢いで雷が一筋落ちたのを見て建御雷の勝利を確信した俺は、手っ取り早くスキマで下山してしまう。すると参道から、数人の山童が迷彩柄の服に身を包み鉄砲を構えながら走ってきた。
中には刀を構えた者もいる。
「や…やぁぁぁっ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ…」
今現在俺に立ち向かってきている彼女達は、見るからに嫌々向かってきている。戦いたくない、と思っている。そうでなければ、謝る必要が無い。
「ごめんなさいっ…!!」
涙を流しながら発砲する1人の山童。弾幕と違い弾丸は目に見えず、そのまま、胸を撃ち抜かれてしまった。とはいえ心臓に穴が空いても再生力が勝っている肉体なので、普通サイズの銃弾に撃ち抜かれた程度ではまだまだ「死」には程遠い。
もっと大きな弾なら、あるいは死んだだろう。
仰向けに地面に倒れて死んだフリをしつつ、傷を癒す。俺が不死身だと知らないのか、それか単に罪悪感に襲われているのか、山童達は座り込んで武器を地面に投げ出し、泣き喚いている。
するとしばらくして、派手な装飾をした大天狗と思しき天狗が、羽扇を片手に空から舞い降りた。
「よくやった山童…貴様らのお陰で憎き吸血鬼を葬り去ることが出来た…。クックックックッ…」
「うっ…うぅぅ…エスカルゴさんがぁぁ…死ん…うぅっ…私が…私が殺しちゃったぁぁぁぁ…」
「その名を口にするなァ!!」
「ひぃっ………で、でもぉ…いつも、元気で……歌とか…歌っててぇ……うわぁぁぁぁんっ!!」
(チッ…使えると思ったらすぐこれだ…喧しくてかなわん…。まぁいい、奴を始末出来たことには変わりない。リーダーに伝えてくるか…)
スペルでアイツを破壊したかったが、残念ながら範囲外だ。10mは思ったよりずっと短いらしい。光線の方を使ってもいいが、近くにいる山童達が危険に晒されてしまう。下手な手段は使えない。確実且つ安全な方法……やはり弾幕しかない。
ただし、最高に殺傷能力を高めた不可能弾幕だ。
「禁弾『降り注ぐ厄雷』」
「なっ─────!?」
山童から離れたのを見て、大天狗の頭上に大量の槍を設置し、一気に降らす。あまりに突然の事に回避することも叶わず、そのままボロ雑巾の様に全身を打たれ、貫かれて、血を撒き散らしながら絶命した。
「これで良し、と。……いけね、殺しちゃった…全然良くねーよって…建御雷のこと言えねぇや。
……まぁいいか、肉体が脆いアイツが悪いんだ。うん、そう思うことにしよう」
「いき…生きてたぁ……生きてたぁぁぁぁっ!!うえぇぇぇん…」
「ダメですエスカルゴさん!伏せてぇ!!」
山童の叫び声が聞こえてきたその直後、上半身に物凄い衝撃を受け、意識を失った。