驚いた。まさか、吸血鬼の肉体が弾け飛ぶとは。魂のままで上空から地面を見下ろすと、先程まで自分が居た場所に出来たクレーターを発見した。そこには、穹の言っていた“対敵対勢力野戦砲”が放った弾が、地面に深くめり込んでいた。そして今度こそ俺が死んだと思ったらしい山童は、また泣き出してしまった。
「うわぁぁぁぁん、消えちゃったぁぁぁ!もっと早く言えばよかったぁぁ……ああああぁぁ!!」
「死んでない。死んでないから安心して…」
「ふえぇっ!?」
「でもさっき確かに頭が…」
ここで不死身だとバラすと、どこで天狗が聞いているか分からない。だとすると、あまり不用意に発言するべきではないかもしれない。彼女達には悪いが、ここは軽く嘘をつかせてもらおう。
というか先程「歌とか」と言っていたが、それは鳥獣鬼楽のことだろうか。つまり山童達にとって俺は、外の世界でいうアイドルのような扱い…?
………いや、そんなのは後回しだ。今はこちらを何とかしなければ。
「あれは分身だから大丈夫。…単刀直入に聞く。対敵対勢力野戦砲ってのどこにあるか分かるか?それと、山童と河童を脅した天狗達が山のどこに居るのかも」
「は、はいっ!」
腰に提げたポーチから地形図を取り出した1人の山童。残りは周囲を警戒している。
「私達山童は大体山裾に固まってます。背後にはあの野戦砲が控えているからです。天狗がどこに居るのかはよく分かりません…。あと、野戦砲は光学迷彩を使用しているはずですので、どこから狙ってくるのかまるで読めな──────」
「っ…!!」
音も無く、山の中から何かが放たれた。山童達は山を背にしていて気付けなかったが、山を正面にしていた俺は何とか気付くことが出来た。
発射の瞬間の光だ。それを見た俺は妖魔雷霊剣を抜いて結界を発動させて、榴弾を弾いて防いだ。まさに間一髪。今の防御をミスしていれば山童達諸共、俺はもう一度消し飛んでいた。
そして一瞬遅れて花火のような音がやってくる。
音速より速い榴弾…これは厄介だ。だが、これで野戦砲のうち1つは位置が掴めた。
「破壊符『
木々の間を縫ってこちらを狙えたということは、こちらからも向こうを狙えるということ。なので真っ直ぐ突き進む破壊効果のある光線を放った。弾道をなぞるように光線を放てばいいのだから、特に難しくも何ともない。すると戦車は、物凄い勢いで爆発してくれた。
「す…すご……」
「サンキュ、大体把握した。あとは光学迷彩とか使ってアジトまで逃げて隠れてな。出来れば仲間引き連れて帰ってくれると有難いんだけど…天狗とかに見つかると危ないしな…」
「天狗に見つからないように、仲間達をこっそり山から撤退させる、ですね…?」
「…やってくれるか?」
「「やってみせます!!」」
力強く頷く迷彩服の少女達。光学迷彩さえ使えば可能なはずだ。流石の俺も、山童と河童と天魔の救助、大天狗の制圧をこなすなんて、少し時間がかかってしまう。事態は一刻を争う。こんな状況なら、彼女達に手伝ってもらうのもアリだろう。
「「では、ご武運を!!」」
「そっちこそな」
彼女達は光学迷彩を使用し、自然に溶け込んだ。もう姿は見えない。そしてそれは戦車も同じだ。弾を発射しなければ発見は困難を極めるだろう。というか不可能に近い。山の中だったら、やはり反響定位は無意味だ。とすれば、戦車を発見する方法は主に5つに絞れる。
1、金属探知機。2、匂い。3、囮。4、山諸共破壊。5、雷を大量に落としてその行方を見る。
1はまず論外だろう。こんな方法では時間が幾らあっても足りない。4もダメだ。山を破壊しても騒動の解決には至らないだろう。5は結構良いと思うのだが、何せ木々がある。金属に誘導されず木々に誘導されてしまうだろう。
とすれば、匂いか囮の2択となる。
戦車ということは少なからずオイルを使っているはずだ。なら自然で溢れるこの山の中では特異な匂いに分類されるだろう。自然物ではないなら、匂いでの特定はそう難しくない。
そして機械音。発射の音は聞こえずとも、射角の調整や戦車の移動の際には音が発生するはずだ。これも重要な手掛かりになると思われる。
仮説に仮説を重ねた推論だが、今はこうするより他に無い。そして穹曰く「山の中腹以上には天狗による結界」がある。だから、
俺も光学迷彩スーツはにとりから買ってあるのでそれを使えばいいのだが、そうすると戦車に弾を使わせる事が出来ない。ならば、囮ついでに姿を見せた方が得策と言える。
……つまり、俺がこれから山で成すべきことは。
山の中を足をつけずに飛びながら、オイルらしき匂いがした所を攻撃し戦車を破壊しつつ、天狗を潰して、掃討を終えたら文と里に乗り込み天魔の救出をする。
やる事は多くて難易度も高いが、完璧な計画だ。
「傷翼『
地面から大量の砂鉄を吸い上げ巨大な翼とする。こいつを伸ばせば、例え金属でも火花を散らして一刀両断が可能だ。肉体でもスパッと綺麗に斬り飛ばせる。形のイメージは母さんの黒い翼。神を真似ると、謎の全能感を覚える。実際そんな事は無いから、ただの気の所為でしか無いのだが…。
「よーし…戦車ぶっ壊しますか!」
戦車は凡そ1時間で破壊し尽くした。山童の図の通り、この山全体に潜伏していた。俺自身を囮にすると、位置を教えようとしてるのかと思うほどバカスカ発射してくれた。その一発目の奇襲さえ回避してしまえば、あとは俺のターン。つまり、戦車に光学迷彩を搭載したところで「有効なのは最初の一発だけ」というわけだ。
位置がバレてしまえば、光学迷彩もクソもない。
散弾には驚かされたがこの翼が破壊してくれた。
最初の散弾で片目が潰されたのは永遠に秘密だ。
「おかしいな…」
…と、
見たところ山童も河童も避難は完了しているし、次は文と里に乗り込む段階に来ているのだが…。どうも胸騒ぎがする。
戦車に大天狗自ら乗っていた?そんな事も考えたがそれは無い。己の手は汚さず格下にやらせる。それが大天狗のスタンスなのだから。
「…まぁいっか。文んトコ行こ」
文が現在居る場所は不明だ。だから、その場所を別世界だと定義し、母さんから貰った方の能力を発動させる。一瞬、エレベーターが上がるような感覚に包まれるが、次の瞬間には無事に文の隣に瞬間移動出来ていた。
「あややややっ!?どうしたんですかエスカルゴさん!?ここ女子部屋なんですけど!?」
「ごめん、そうとは知らず」
女性の鴉天狗が大勢居る大部屋に来てしまった。
見たところ鴉天狗の宿舎だ。何となくこの造りに見覚えがある。安全なのかは甚だ疑問だが……。
すると俺に気付いた者達が甲高い悲鳴を上げる。急いで耳を塞ぐも鼓膜はビリビリと震えている。
「やばっ……はたて!」
「うげっ!?」
すると何を思ったのか、文は近くにいたはたてを引き倒し、自分とはたての二人がかりで俺を押し倒した。その場で俺を隠してくれるらしい。
だが、いくらなんでも無理があるように思える。
「エスカルゴさんどこ!?どこなの!?」
「英雄様が来たんだから助けてもらいましょ!」
「ね、私、こんな時だけど握手してほしーぃ!」
「バカ、握手よりも助けてもらう方が先でしょ!どーせ男達なんて役に立たないんだし!」
「いや、それより天魔様じゃ…」
どっちみち
「あー、エスカルゴさんならもう瞬間移動で外に行っちゃいました〜。あーあ、私も連れて行ってほしかったですね〜…」
「あなたは妻だからいつも一緒に居れるから別にいいでしょーが!」
「ていうか文の下に誰か居る!」
やはりバレた。というよりも当たり前だ。倒れたままそういう事を言うから目を付けられるのだ。機転を利かせたはずが、裏目に出た。しかし文はこんな状況でも俺に策を授けてくれた。
「変身魔法で鴉天狗に変身して下さい、今すぐ!!!」
流石は文。頭の回転がとんでもなく早い。俺では思い付かなかった策もすんなり捻出してくれた。
そして鴉天狗の女子達が文とはたてを退かすと、そこには、黒髪ロングの貧乳女子が居るわけだ。皆の興味が薄れたのは、言うまでもないだろう。
「なーんだ、見間違いかー…」
「ていうか、何で2人で女子押し倒してんの?」
「いやぁ〜、あなた達が急に大声を出すもので、驚きのあまり足が絡んでスッテンコロリンしちゃいましてねぇ。しかもはたてまで巻き込んでの大事故ですよ、トホホ…」
「ま、全く、文ってば…仕方ないんだから……」
鴉天狗に扮した俺は、2人の即興劇をポカーンとアヒル座りしながら眺めている。女子になるのも案外悪くな……いや、俺にそんな趣味は無い。
ブンブンと頭を振っていると、文が俺の腕を掴み強制的に立たせてきた。
「さて、こんな『英雄コール』がうるさい部屋は退出しちゃいますかね〜。あ、そうだ。あなたも来てくれませんか?ここで転んだのも、何かの縁でしょうからね。それとこれは先輩命令なので、あなたに拒否権はありませんよ。さぁ行きましょ行きましょ〜!」
有無を言わさぬ勢いに何も言えず、引っ張られて一緒に部屋から出る。他の部屋からも多くの声が漏れてくるところ、この宿舎に避難している者はかなり多いらしい。
そして宿舎の裏手にまわると、漸く腕を解いた。それを合図に、俺は変身を解いた。少しでも早く解除すれば、その分魔力の消費は抑えられる。
「ふぅ…。すみませんね、面倒な事に巻き込んでしまって…」
「いや、俺こそごめん。急に来たらああなるよ」
「そうですね、あなたが悪いですね」
「はは…。なぁ、ここに居るのって…」
「ええ、全員では無いです。半分程度でしょう。詳しい説明は省きますが、今日は里にて集まりがありまして、そこに向かった者の大半はまだ里に居ます。ここに居るのは、参加しなかった者や、私やはたての様に大天狗の目を盗んで逃げてきた者達なんです。…穹には会いましたか?」
「勿論。穹は博麗神社に行かせたよ」
「成程、それは名案ですね。安心しました。で、どうしますか?これから」
「どうって…決まってるだろ?これから───」
「ですね…!乗り込みましょう、天狗の里に!」
何も言わなくても完璧に察してくれた文に対し、やはり凄いなと感嘆しつつも、少しばかり永琳と話している時のような、薄ら寒い恐怖感を覚えた俺であった─────。
ぶっちゃけ、本当に意味無いと思うんですよね。
一発放てば場所はバレるでしょ。もし移動したらキャタピラー跡が残るだろうし。
なので、ただ「見えなければいい」と考えていた大天狗はやはり馬鹿なんです。
その点、山童達だったら空飛べるでしょうから、安全に撤退出来るんですね。
必ずしも「強い×強い=超強い」とは限らないんです。全ては、使い方次第なんです。
追記
(08/11 09:47)現在、一応元気にやっております。
…が、Twitterではまだあの粘着野郎共がウジウジグチグチ言ってるそうなので、暫くこんな感じでやっていきたいと思います。感想頂けると精神的に回復しますので、もし良ければお願いします。
できれば下がってしまった評価をもう一度上げて欲しいです…なんて思ってたり。(正直)