度重なる砲撃で脆くなった結界の中で、声高々にスペルの宣言をする。
「大魔法『
一筋の稲妻を自身に落とした俺は、巨人の肉体を身に纏う。モチーフは自分自身だ。性器は無い。
そして「巨
翼のある巨人なんて、11巻の嘘予告のヒストリア巨人を想起してしまい、笑いが込み上げてくる。
あっちは天使の翼だが、俺は悪魔。…正反対だ。
だが、それでいい。俺は悪魔で、そして悪役だ。
正義の味方ヅラする気はサラサラ無い上に、全員助けようなんて漫画の主人公が考えそうなことも一切考えない。
絶対に後悔しない、やり方で。
◆
「うぅ………ぐっ……」
「お目覚めかな、天魔殿?」
巨人が現れる少し前、天魔は自宅の寝室にて漸く目を覚ました。傍には、裏切りの大天狗が1人。他の者は別室で酒を酌み交わしているのだろう、宴会顔負けの喧騒が寝室にも届いていた。秘蔵の酒も飲まれてしまっただろうな、と天魔は内心で大きな溜め息をついた。
奴らが酒を飲んでいる理由は明白。クーデターが成功したと確信しているからだ。
そんな中、何故この大天狗だけは傍にいるのか。
自分に術が施された訳でも、拘束器具を取り付けられた訳でもないのは本人がよくわかっていた。見張りなら他の者でもいいはずだ。
それ故に、天魔は何故彼がこの部屋に居るのかが気になっていた。
「貴様…何のつもりだ…?」
「嗚呼、介抱されたなどと勘違いしないように。死なさぬように翼のあった所を止血しただけで、他には何もしていない。今の貴殿は重度の貧血…なんて、いちいち言われなくとも自分自身がよく分かっているだろう?」
「ああ最悪だ。気分も悪いしのぅ…。じゃが何故止血した?放っておけば儂は死んだだろうに」
「言ったはずだぞ。私は平和主義だと。貴殿から言い渡されてこそ、このクーデターは真の意味で成功する。そして、貴殿はもう逃げられないし、とっくに拷問の用意も整っている以上は、貴殿が言うべき言葉は決まっているのだ。素直に従え。妖怪とて無闇に肉体に傷をつけたくはあるまい」
「そりゃあそうじゃな。痛いのはゴメンだ。だがそれ以上に、貴様らのような下衆に天魔の地位をやる方がゴメンだ」
「口に気を付けろよ紗那。次そんな口を聞けば、貴殿の首が飛ぶ」
腰の刀に手を掛け、額に青筋を浮かべる大天狗。
どこが平和主義なんだ、とこれまた大きな大きな溜め息をついた天魔こと紗那。彼女とて、理解はしている。そして、自分を責めている。自分に、彼らを纏める力が無かったからだと。もっと強い力があれば、こんな事は未然に防げたのではと。
しかし、「実力主義」な所があるのがこの山だ。長である天魔が、天魔の地位を狙う者に負けた。ならば大人しく地位を譲るのが道理というもの。
部屋に差し込む日差しに目を細めながら、そんなことを考える天魔。その場合に訪れる未来は……彼女には何となく想像出来た。そしてこの想像はまず間違いなく実現することになるだろう。
譲りたくはない。自分の為ではなく部下の為に。そして未来の為に。だが掟に従えば譲るしかないのも事実だ。長である天魔ともあろう者が、山の掟に逆らっていいワケが無い。
この大天狗は、そこまで読んでいる。
逆らって殺されても、従って譲っても……いずれ訪れることになる未来は、全く同じ。
さればこそ、彼女はこう答えるしかなかった。
「………わかった」
「ほう…!何がわかったと言うんだ?」
「天魔の位を譲──────」
譲渡する、と言おうとしたその時。先程まで日が差し込んで眩しかった外が、唐突に暗くなった。雲が現れた時のようにジワジワと暗くなったわけではない。あくまでも
「なっ……ななななっ、なんだッ、コイツは!?こっ、これが噂のダイダラボッチか…ッ!?」
窓の外を見ると、そこには悪魔のような翼を背に生やした巨大な化物が目の前に居た。それを見た大天狗は、天魔の次の言葉を急かすのも忘れて、着物を踏んで転びそうになりながらも後退る。
しかし、部下達の報告によってその化物の正体を知っていた天魔は、布団の中で小さく呟いた。
「巨人だ…!」
「クッ、何でこんな時に現れるのだ、怪物め…」
悪魔の巨人は、天魔の寝室を覗き込むなり口角を釣り上げてニッと笑う。そしてガラスや壁を突き破って、逃げられずにいた天魔を鷲掴みにした。
「っ!?がっ…離せ、この…!ぐっ、背中が…」
じんわりと血が滲む天魔の装束。斬れ味のいい刀などで切り落とされたわけでもなく、中途半端に翼を吹き飛ばされたので、痛みはより酷いものとなってしまっている。翼の付け根だけが、包帯に巻かれて残っているのは、本人にとっては極めて耐え難い苦痛にしかならなかった。
「アァァ……」
(もはやこれまでか…何ともまぁ酷い最期よの。裏切られたまま死ぬのは嫌だが…これも天命だ、受け入れるしかないだろう…。すまない紫…またお前と酒を飲みたかった…)
顎の肉がちぎれるほどに大きく口を開け、自分の手ごと天魔を口に入れる悪魔の巨人。抵抗などは当然のように封じられ、生還を諦めた天魔は目を閉じて巨人に身を任せた。
「天魔のヤツ逃げもしないで喰われやがった…。だがまぁ、醜い化け物のおかげでスムーズに事が進むようになったとも言えるか。これは事故だ、我らは何も関与していない。クックックック……ハーッハッハッハッハッ…は?」
畳にヘタリ込んだまま高笑いをする大天狗。だが次の瞬間、身体が謎の浮遊感に襲われて、下卑た高笑いを中断させた。自分の身体も、その巨人につまみ上げられていたのだ。
◆
自分は助かると思っていたらしい天狗をつまみ、俺は目の前でぶら下げる。離せ離せと煩く喚き、腰に提げた刀で俺の手を斬りつける。しかし結果なんてものは火を見るより明らかだ。普通の刀で巨人の肉体は斬れない。
「ひっ…!?な、何をするつもりだ!?」
胴体から右足に持ち替え、ぶらりん状態にする。頭に血が上っているからか、奴の顔はトマトより真っ赤になっている。妖怪なのだ、多少は手荒に扱ったところでそう簡単に壊れはしないだろう。
「!?待て貴様、待てと言っているんだ!待て、これでは身体が──────」
タオルを振り回すかのように大天狗を振り回す。似たようなシチュエーションだからか、立体機動装置のワイヤーを掴んで振り回しているシーンの女型の巨人になったような気分になった。
右足は付け根から捻れていて今にも千切れそうになっている。しかし振り回される速度が遅い上、装束ごと掴まれているお陰で、ちぎれかけの足が装束によって締め付けられてもいる。
もっと速く回していたら、装束も捻じ切れてこの男は彼方へ吹き飛んでいた事だろう。白目を剥き血の混じった泡を吹いているこの男を、無造作に地面に落とす。死にはしていないはずだ。妖怪はこれだけで死ぬほど脆くはない。
壊した天魔の自宅から、天狗達の下卑た笑い声が聞こえてきた。そして酒の匂いまで溢れてくる。天魔が寝ていた中、大天狗は天魔の自宅で飲み会とは。どうやら相当イイご身分らしい。
「くそったれめ……!天魔様が……大天狗様が!クソォッ、撃て、撃てぇぇぇっ!!」
どこからか、戦車を指揮する声が聞こえてくる。だが声が若く、しかも震えているので、恐らくは大天狗に仕方なく従っている者だろう。ならば、あとは放っておけばいい。どうせあの戦車では、うなじの肉を捉えるだけで精一杯なのだから。
…天魔には申し訳ないが、彼女を口の中に入れておいて正解だった。でなければ流れ弾を喰らったかもしれない。
巨人化すると感覚が鈍くなる。なので今の俺には
「何かチクチクする」程度にしか感じない。
そして、もうひとつ「天魔に申し訳ない」ことがある。それは、俺は今からこの辺りを吹き飛ばしあの戦車を一掃するつもりなので、彼女の自宅も完全に壊されてしまうということだ。
本当は、弾が尽きるまで撃たせ、巨人化を解いて彼女を回復させる予定だったのだが、やはり俺の魔力が足りず、巨人の体をこれ以上維持するのが
難しいからだ。静かに目を瞑って、覚悟を決めた
俺は心の中で「一閃『Mishap of Thunder』」と
詠唱し、空中に超巨大な魔法陣を広げて、極太の落雷で周囲の建物を吹き飛ばした。
中心部にある住宅街や店などには届かない威力に調整したので、一般の天狗達には何の被害も出ていないはずだ。
戦車が破壊され、大天狗含む周囲の天狗達が沈黙したのを確認し、天魔を手の上に吐き出す。少々巨人の唾液で濡れてしまった。流石に唾液の分泌までは操作できないので、これも許してほしい。これは生理現象だ。
「…何だお前、儂を喰わんのか…?」
妖気で俺だと分かるはずだが…今は混乱しているのか、何故か静かな笑みを浮かべて俺を見上げる天魔。逃げるつもりは無いらしい。
改めて周囲の安全を確認した俺は、崩れないよう巨人の体を座らせ、そのうなじから脱出する。
「助けに来ましたぜ、天魔様?」
「…お前だったのか…この巨人は…。クククッ、中々驚いたぞ、これは…。にしても何故口の中に儂を入れた?」
「お許しを。砲撃から天魔様を守るには、手では少し心許なかったもので」
「ったく…儂は死を覚悟したんじゃぞ?なのに、こんな風に生き残ったら……今度は死ぬのが怖くなってしまったじゃないか…」
「普通はそうです。…潜伏していた大天狗は俺の巨人達が、ここに居た大天狗は俺が半殺し程度に抑えたので、あとは天魔様が罰を与えて下さい。治癒『
「……世話になった。恩に着るよ、英雄よ」
散弾で中途半端に消し飛ばされた翼が再生して、元の美しい黒い翼をふぁさりと揺らす天魔。
「天魔様まで英雄呼びはやめて下さい、俺なんてただの吸血鬼なんですから」
「ただの吸血鬼に助けれてしまった山社会の長が言っているのだ、素直に受け入れよ」
「…まさかの公認ですか…。英雄なんて、俺にはまるで相応しくないのに」
「ハッハハ…そう言うな。じゃあ公認ついでに、ひとつ頼みたいことがあるのだが、良いか?」
「なんなりと」
「裏切った大天狗全員、ここに連れて来てくれ。半殺しのままで構わん。儂自ら
「御意」
その後、足を捻られた天狗の周辺に、鎧によって玉を潰され気絶、もしくは悶絶していた大天狗を集めた。そしてどうやら天魔直属の部下……椛やヒビキの方にもクーデターの同志が出向いていたらしく、それなりに時間はかかったものの何とか多数対多数の戦いを制したそうだ。ヒビキが全員縄に括りつけぶら下げて飛んできたので、2人で天魔へ献上した。
それからは…言うまでもないだろう。信賞必罰を信条とする天魔は、今回も奴らを厳罰に処した。
役目を終えた鎧の巨人達をスキマに落として消去してから、文と合流し彼女をいつもの場所へ送り届けた。
◆
スキマで穹を山に呼び戻し、天魔に頼んで対俺用結界を破壊してもらったあと、何となくにとりのスタジオへと立ち寄ってみた。何かを忘れているような気がしないでもないが、少し彼女の様子が気になったのだ。
大体の流れと結末を話すと、彼女は何度も頷いて感心していた。
「そっかー、やっぱりアイツらは消されたか〜。流石天魔様だね。エスカルゴもお疲れ様!」
「にとりこそな。ストレートに助けを求めるの、アレ結構な賭けだったろ」
「まぁね…死ぬの覚悟してたよ。何せ私の首には刀が押し付けられてたんだからね」
刀が当てられていた箇所を手で押さえ、溜め息をついたにとり。あのとき、俺がもう少し早く来ていれば、あんな汚い目に遭うことはなかったかもしれない。たらればの話になってしまうが、俺はそう考えざるを得なかった。
「なのに呼ぶとかすげぇよ。俺がもし不死身じゃ無かったら、そんな事できねー自信あるもん」
「けど、実際にアイツが私にしようとしたのは、殺害じゃなくてレイプってやつ。所詮、男はその程度さ。やれやれだよね。…あっ、エスカルゴは違うからね!エスカルゴは特別だもん!」
「脅迫してレイプとか普通にサイテーだよな…」
俺はそんな事をした試しは無いハズだ。初めての妖夢の時のように相手を押し切る事はあっても、脅迫はしたことは無い……ハズだ。何故か、言い切れるほどの自信がなくなってきてしまった。
「そだね。それと
「あぁそうだ、ナイフ貸してたんだった」
「忘れてたのかいっ!」
「キレイサッパリね」
「君ってばたまに酷い物忘れの仕方するよな…。
……そういえば目の下の跡、それなんなの?線が目から出てるように見えるけど」
「魔法の後遺症さ」
「ふーん…?」
巨人の力を使った後のエレンのような跡が、今の俺の目の下に刻み込まれている。言うまでもなく巨人化魔法の後遺症だ。
魔法の開発中に、手や目の周辺等を繋ぐといったあの描写は正しいのかと思い知った経験がある。
その周辺の神経を巨人体と繋げなければ、巨人化したとしても視界が真っ暗だったのだ。なので、最低でも手足と目、首は繋がなければならない。
初期の頃のエレンが何か持っていかれていたのはそこら辺の操作がまだ苦手だったからだろう。
「にしても、まさか皆が大天狗に脅されて兵器の開発を手伝わされてたなんてな…。河童の代表を名乗っておいて、どうして私は、そんな事にすら気付けなかったんだろう…。口に出せなくとも、何かサインとかはあっただろうに…」
「………仕方ない、としか言えないよ。でももう解決したんだ、大丈夫だよ。今回のクーデターに参加しなかった大天狗はまともだからもうこんなアホな事態にはならない。安心していいと思う」
「どれくらい残ってるんだろう…?」
「十数人かな。処刑されたの100人近く居たし」
天魔曰く、クーデターに参加及び戦車開発の資金援助をしたのは全大天狗の9割ほどだそう。山の重鎮がほぽ一斉に裏切り、そしてほぼ一斉に命を絶たれたワケだが、案外これで良かったのかもと俺は思っている。権力を持つ者が多ければ多い程纏めるのは難しくなる。だから、独裁にならない程度で軽い圧政を敷くのがいいのでは…と思う。そもそも天魔は独裁気質ではない。
「それなら大丈夫か。数も少ないし何かあってもすぐに鎮圧されるだろうね」
「ね。でも俺が心配してるのはにとりの方だよ」
「へ?なんで私?」
「なんて言うか…トラウマとか大丈夫かなと少し心配に…なったっつーか…?もし忘れたいなら、母さんとかに頼み込めば記憶消去できるけど…。母さん優しいから」
「あー、アレね。別に気にしなくていいよ、軽くスルーしとくさ。何なら私が作ったバイブの方が長くて太くて強そうだったしな〜」
「そ、そっか…そんならいいんだけど…」
「そーだ!あれって結局どうやって使うんだ!?今日こそ答えてもらうからな!いっつもいっつも誤魔化して逃げてはぐらかしてぇ!それが英雄のやることかぁ!?」
「あ、妹を待たせてるんだった。やばいやばい、それじゃーまた今度な」
「あっ、コラ!逃げるなー!!」
俺を掴もうとする彼女の手をすり抜け、瞬間移動してしまう。やっと騒動が鎮圧されたのだから、紅魔館でご褒美デザートを食べたってバチなんて当たらないだろう。
今回出たスペル名の伏線(?)として、前回最後に
「狩り」と言ってもらいました。進撃好きな人は多分知ってると思いますが「イェーガー」は狩人という意味なので、「狩人に変身」という意味で
「メタモルフォーゼ・イェーガー」としました。
(文法?そんなん今更言われても)
進撃って、主な登場人物の名前には大抵ちゃんと意味がある…というか、意味のある単語を名前に設定してるんですからね…諫山先生は本当凄いと思います。伏線の張り方もヤバいし。
日本語、英語、ラテン語ときて次はドイツ語か。
超大型も出そうかなとは思ったんですが、体温で大火事不可避なので、出演見送りとなりました。
「東方二次創作」と言いつつ「クロスオーバー」タグ付けてるので、文句は言わないで下さいね。すんごく今更なんだけど。
あくまでも本作は「東方を主な原作としたクロスオーバー要素のある作品」だからね???
俺と同じハーメルン作家の人は分かるでしょう?
「クロスオーバーのときは
あと、明日からは蓮メリの方を更新します。
5話書き終わってます。